酔生の世界より   作:ウマイアマイ

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第五話

 

「むにゃ……むにゃ…… ハッ!!」

レニはカーテン越しに差し込む太陽の光に気付き、勢いよく目蓋を開ける。瓶底メガネを付けたまま寝るいつもの癖があるが、彼はふと横に眠るアヤの存在に気付き、そしてそのメガネを外して自身の状況に困惑する。何度か目を擦り、メガネをかけ直した後にやがて「ぎゃあああああ!?」と悲鳴を上げたのだった。

 

「え!? な、なんですか!?」

彼女はレニの悲鳴によって当然の如く起こされ、敵襲でもあったのかとポッチャマをボールから出した。

「ぎゃあ!? ここはどこ!? この不届者は誰です!?

……ああ、ここはミノリタウンですし、あなたは私が呼び寄せた異世界人でしたね……」

と、一人ではしゃいで落ち着き納得した様子のレニに、ポッチャマと顔を合わせてため息をつくアヤ。

「……失礼、取り乱しました。なにせ長いこと研究所で暮らしていたものですから……なんですかその目は? 私のかわいらしい凡ミスですよ? 笑いたければ笑いなさい」

ドン! という隣の部屋から拳で壁を殴った音が聞こえ、アヤはここを早く立ち去らなければと気が気ではなかったのだった。

 

▼▽▼▽▼▽

 

「ポッチャマ、つつく攻撃!」

「ああっ! トランセル! ……ぼくの負けだあ」

「良い勝負でした。ありがとうございました!」

ミノリタウンを出たアヤは道中勝負を挑んでくるトレーナー……たんぱんこぞうやミニスカートたちとバトルをし、ポッチャマと共に徐々に戦いの経験値を積んでいく。

レニといえばバトルの様子を自らのポケモンを鍛えるということもせずにチラリと見つめるだけであった。アヤもバトルが苦手だと言っていたレニに無理強いはせず、しかしポッチャマが傷ついた際には彼から強かに回復薬を貰っていたのだが。

 

第五話 ゴースト・ハウスの迷い罠

 

「ゼェ、ハア…………そろそろ休憩にしましょう」

言っている側から疲れてしまった大荷物のレニに、アヤは溜息をつく。

「休憩って言っても、この辺りにポケモンセンターはなさそうですし……次の町まで頑張りましょう?」

と、歳が上そうなレニに対して子どもに言って聞かせるような口調になってしまうアヤである。

それからしばらく歩いていたらアヤとレニだったが、

「……ああ! あの家で休憩なんてどうです?」

と、突発的にレニが指を指した先にあるのは、一棟の薄暗い洋館。辺りは蔦で囲まれており、いかにも曰く付きの建物……シンオウ地方におけるもりのようかんのようだとアヤは一見して悪寒が走る。

「人のいる気配、ぜんぜんないですよね……!? それに不法侵入ですよ、不法侵入!」

「少し休むくらいなら大丈夫でしょう……もう足が限界です、椅子に座って一息つきたい……」

「ただでさえ本を盗んでるのに、これ以上罪を重ねないでください!」

「ぬ、ぬ、ぬ、盗んだのではありませーん!! 借りたまま返していないだけです!」

ぎゃあぎゃあと平行線を辿る二人だったが、レニはランプラーをくりだし、入り口に絡みついた蔦を「ねっぷう!」と焼き払ってしまう。

 

「ああもう! 私は止めましたからね……!? 絶対にゴーストタイプのポケモンが……っ!」

ランプラーが自分の方をじっと見て訴えるような表情を浮かべているのを見て、途中で黙りこくるアヤ。

「いやその、ランプラーは違くて……! レニ博士のポケモンだって分かってるから、あなたは大丈夫だから……!」

「何を焦っているのですか? 入らないのなら一人で外で待っていなさい」

「いっ、行きますってば……!」

周囲さえも薄暗い気持ちにさせる洋館の前で一人だなんて耐えられない!と、彼女はレニの後を渋々追うのだった。

 

「やはり……誰もいないようですね」

「でしょうね……いるのはゴーストタイプのポケモンばっかりじゃないです……か!?」

バア!!と、アヤの目の前に黒い影がいきなり現れる。反射的に「きゃあ!!」と驚き悲鳴をあげたアヤは、目の前にあったレニの腕にしがみつく。

その様子を見て満足そうな影……ムウマは、壁をすり抜けてどこかへ消えてしまった。

「ははーん。分かりました。あなた、お化けが怖いのですね? バカバカしい……そんな非科学的なもの、ゴーストタイプのポケモンの仕業で全て話が付くではありませんか」

「私は、ジャンプスケアが苦手なだけですから!」

「はいはい。苦手な方は皆そう言うんですよ。

ほら、カゲボウズにゴースがいますねえ」

「ッ! いや、ポケモンだって分かっているなら大丈夫なんですってば……!」

と言いつつも腕にしがみついたまま少し怯えるアヤの姿を見ているのかいないのか、レニは遠くを見つめてあることを思い出す。

「懐かしいですねえ。私が幼い頃にはじめてのポケモン……ヒトモシを捕まえた時にも、こんなふうにゴーストタイプのポケモンに囲まれていました」

「……レニ博士は、博士からポケモンをもらったりはしなかったのですか?」

素朴な疑問としてアヤが尋ねると、レニは苦笑いを浮かべて過去を語る。

「その時の両親が厳しい人でね。自らのポケモンは自らの手で捕まえろと言う教育方針だったのです」

「あ……変な事聞いて、ごめんなさい」

その時の両親とはどういう意味なのかアヤは気になったが、触れてはいけないことなのではないかと思い好奇心を押し隠す。

「そう……あれらは優秀な私の出来を理解しようとしなかった。一番マシだった肉親でさえ、この私の輝ける才能を見抜くことは出来なかったのだから、当然と言えば当然ですけれども」

言われてもいないのに己のことを喋りだすレニに、アヤはゴーストタイプのポケモンに囲まれているだけではなくいたたまれない気持ちになってしまう。まったく気にしていないのはレニだけで、歩きながらもクドクドと文句を連ねる。

 

休むと言いつつも好奇心が抑えられないのか、洋館の捜索を続けるレニの後を恐る恐る追うアヤだったが、良い反応をする奴が来たと最初のムウマが館内のゴーストポケモンに知らせたのか、道中彼女に向かって飛びかかってくるのだった。

その度にビクッと驚いていたアヤは、呆れたレニに「近いですよ! 離れなさーい!」と言われてもその腕を離すことができず、ゼェハァと荒い呼吸を繰り返すのだった。

「あなたの方が逆に疲れているではないですか」と、ランプラーでそのゴーストポケモンたちを追い払うレニはため息を吐く。「そもそも、レニ博士がここに入るなんて言わなければ……!」とアヤは言い返すが、「おや? 少し待ってください」とレニはその足を止めた。

 

「先ほどから、似たような景色の廊下をグルグルと回っているような気がします」

「え、そうなんですか……?」

いままで景色を見る余裕のなく俯いていたアヤに「ええ、そうです。間違いありません! あの絵画、ずっとあそこにあって変わりがありませんから」と非常事態に気付くレニ。

レニから淡々と告げられる恐ろしい事態にアヤは青ざめ、「先に進もうとするからいけないのでは……? 戻りましょう……!?」とレニへ提案をする。

「おやおや……?」「えっ!?」と、後ろを振り向いた彼と彼女は驚愕の声を上げる。そこには、レニの姿をした誰かが、ポツンと立っていたのだった。

「え? ええ……っ!?」

アヤは泣きそうになりながら自らが着いてきたレニの顔を本物だと信じて見上げるが、瓶底メガネの向こうの瞳からは表情がわからない。

当の本人はというと、「精巧なへんしんですねえ……メタモンでしょうか」とまったく動じずに話すので、やはりこっちが本物で良かったのだと束の間の安堵をするアヤ。

彼女を驚かせて満足したのか、ニヤリと口角を上げて笑うレニの姿から『イリュージョン』を解くそのポケモンは……

 

「おや、メタモンではなかったようですね」

「あっ……ゾロアだわ……!」

その姿からあくタイプのゾロアだと指を指すアヤに、「あなた、本当にポケモンに詳しいのですねえ」とこんな時にも関わらず感心するレニ。

「あなたが幻覚を見せていたのね……!? さんざん驚かせてくれたじゃない……! ポッチャマ!」

怒りから、アヤがレニの腕からようやく手を離し、一歩前に出てポッチャマをくりだす。

だが、ゾロアは後退りその場から逃げ出すのだった。

「待ちなさい!!」

「ああっ! 置いていかないでくださーい!」

ゾロアの後を追いかけるアヤにレニが続いていく。

すると、今まで彼女たちが迷っていた、同じ廊下ではない大広間へと出たのだった。

「ここは……最初に入った部屋ですねえ」とレニが分析し、奥の、入り口の扉を指差す。

「えっ!? よかった、抜けられたのね……!」

アヤは心底ホッとした様子でレニに語りかけるが、「あなたどこを見ているのですか!?」とあとから現れたもう一人のレニにそう指摘される。

「ああ!! もう! どっちが本物のレニ博士なの!?」

と、慌てふためくが、冷静なレニたちはお互いを見渡せて鏡合わせのように動いていた。

「素晴らしい!! 常日頃から、私がもう一人いればと思ってはいましたが……これはなかなかに良いものですね。これで私同様の頭脳を持っていたなら……世界がその才能に羨んでしまいますよ!」

「そっちがレニ博士ね!? ポッチャマ、みずでつぽう!」

アヤの指摘する方のレニへみずでっぽうを送るポッチャマだったが、食らったレニは「ぎゃあああああ!?」と悲鳴をあげたのだった。

「え!? 違う!? ご、ごめんなさいレニ博士!!」

「ごめんで済んだら騎士団はいりませーん!! ああ、ですが、水も滴るいい男……!」

水を浴びて恍惚に浸るレニに、ランプラーがボールの中から現れてねっぷうを送る。

「助かります。よく乾きましたねえ」

とランプラーを目の前に従えたレニは、「これならあなたも区別がつくでしょう」と仕方がなさそうに彼女に言った。

「ありがとうございます……! 戻って、ポッチャマ」

ボールにポッチャマを戻し、レニにバトルを任せるアヤ。

「ふう……仕方ないですね。ランプラー、たたりめ」

「……えっ!?」

あくタイプのゾロアに、ゴーストタイプの技は効果が薄い。それに、状態異常になっていないポケモンに対しての『たたりめ』はさほど効果がないと目を丸くするアヤと、それを身軽に避けたレニの姿のままのゾロアは首を傾げる。

「な……なんです、その目は……?」

「このゾロアはあくタイプです!」

「え、効果がイマイチですって……? ご、ごほん……ならば、ねっぷう!」

ランプラーが熱気を放ち、レニ姿のゾロアを攻撃する。上へと跳躍するゾロアだったが広範囲の攻撃であるねっぷうを避けきれず、地に落ちる。その際にイリュージョンが解け、その姿を再度現した。

 

「追撃なさいランプラー、スモッグ!」

アヤは口を出したくなるが、黙って戦いの行方を見つめていた。

「あっ! でもどく状態にしたみたいですね……!?」

スモッグのあとで苦しみ出すゾロアを見、アヤはそう分析する。すると、ゾロアの瞳から大粒の涙が溢れ、レニの手が止まる。

「あなた……泣いているのですか!? この私の素晴らしい戦法に感涙したのですね、分かりますとも!」

戦いの最中だというのに油断しておしゃべりになるレニに対し、アヤはランプラーの動揺するその様子を見、「違います!! 『うそなき』です!」と指摘する。

その様子にゾロアはニヤリと笑い、自身から黒い衝撃波を放つ……!

「あれは……『バークアウト』! 避けて!」

ゲームの中でゾロアークが放っていたバークアウトの覚えがあったアヤは叫ぶが、レニのランプラーへの反応が遅れ、うそなきによってぐんと下がったとくぼうで攻撃を受けてしまう。

「ランプラー、しっかりなさい! よくもやってくれましたね……!」

「それに、バークアウトはとくこうを下げます! このゾロア、賢い……!」

「……賢さはヒトの専売特許ですよ!」と、独自の理論を展開するレニ。

「ええい、バトルでは埒が開きませーん! そうです、これならどうですか!?」

と、ヤケになったレニが自身のプレミアボールを一つ取り出してゾロアに向かって投擲する。その突発的な行動に驚いた様子のゾロアは、避ける間もなく赤い光に包まれた。

 

ボールはゆさりと一度大きく揺れ、シン……と静まり返ったのだった。

「すごい、クリティカルヒットですね……!?」と初めてポケモンの捕獲を見たアヤは感動し、ゾロアの入ったプレミアボールを手にしたレニへと近付く。

「はあ……? これが凄いのですか? あなたの感動ポイントがよく分かりませんね。もっとこう、私の他の凄いところ……つまりはこの頭の良さと顔の良さですが……を挙げてくださっても構わないのですよ? そう、思っていたのですがあなたは少々私のことを……」

「それより、もう外に出ませんか?」

長くなりそうなレニの話をアヤは遮り、ゾロアに遮られていた出入り口へと指を指す。

「そうですねえ……ハァ、どっと疲れました。こんなオンボロ屋敷はさっさと出て、次の町のポケモンセンターへと急ぎましょう」

と、捜索はもう飽きたというように進むレニに、アヤも慌てて走り出すのだった。

 

▼▽▼▽▼▽

 

「……あんたら、あのお化け屋敷から出てきたよな? なんでも一番奥の部屋を覗いた者は、この世に戻って来られないとか……

その噂にみんなビビっちまって、近所の俺たちだって近寄らねえんだ。子どもには『悪さをしたらあの屋敷に連れて行くぞ』なんつって脅かしたりするんだがな。

まあ、なんにせよ無事に戻って来られてよかったな!」

 

次の町、『ベースタウン』に立ち寄ったアヤとレニは、その入り口で自分たちが洋館から出てきた様子を見ていたであろう住民に声をかけられる。

一方的に話しかける男が立ち去った後で、アヤは血の気が一気に引いたようで、その興奮冷めやらぬままレニの両肩に手をかける。

「ちょっと……! 聞きましたレニさん……!?やっぱり危険な洋館だったんじゃないですか……!」

「はあ……あなたはまだそんなことを」

「……あっ、でも……もしかしてゾロアは、私たちが奥の部屋へと行かないように警告していたのでしょうか?」

「まさか」

アヤのそんな想像をレニは一蹴する。そして、ゲットしたばかりのゾロアのボールを見つめ、もう一度「……まさか」と呟いたのだった。

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