第八話 熱闘の果てに
大量発生したコダックたちは、時間経過とともにその頭痛を治したようで、どこかへと去っていった。
アヤとレニは道路を越え、無事にカヨイタウンへと到達することができた。
「わあ……! かわいい町ですね!?」
「そうですか? あまりはしゃがないでくださいよ。恥ずかしい……」
まるでドールハウスのような外観のその町を、アヤは即座に気に入ったようでレニへと興奮気味に話しかける。
「こんな素敵な町で暮らせたら、すごく幸せですよね……!」
「はいはい」
と、反応の薄いレニに気にすることなく、アヤはキョロキョロと町を見渡す。明らかに観光客丸出しと言った様子の彼女の前へ立ちはだかるように、一つの影が遮った。
「……ようやく見つけたぜ! てめえがレニ博士だな?」
「あなたどちらさまですか? 人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗ったらいかがです」
黒く豊かな長い髪をかき上げ、そう言い放つ目の前の男を警戒をするレニに、町にはしゃいでいたアヤにも緊張が走る。
「めんどくせえ奴だな……オレ様の名はヴァーリカ。てめえらに倒された、ガーディ使いの騎士たちの長ってところだよ」
レニの研究所と森で退けた、騎士団たちの親玉であると告げる男に、アヤの目が見開く。
(あの騎士たちの長ってことは……レニ博士を逮捕しにきたって事よね……!?)
「この匂い……そこのてめえは、研究所で漂ってた女の匂いに違いねえな。てめえは何者なんだ?」
いきなり名指しされたことに、戸惑いを隠せないアヤ。
「彼女は私の助手ですよ」
流石に自分が呼び出した異世界人とは言わず、助手だと偽りの称号を話すレニ。
「助手ねえ……まあいいや。オレ様の部下をまとめてやっちまったのもてめえだろ? バトルの腕はそこそこなんだろうけど、このオレ様は一筋縄じゃいかねえからな」
と自信満々に言ってボールを取り出すヴァーリカに、アヤも戦闘体制に入る。
「ヴァーリカ様! 我々も援護いたします!!」
と、遅れて到着した部下の一人がガーディを向かわせようとするが、
「あ? オレ様の真剣勝負を邪魔するんじゃねえよ。引っ込んでろッ!!」と、凄まじい剣幕で怒鳴りつけるヴァーリカ。
「ヒィッ! も、申し訳ありません……ッ!」
「ったく……。ああ、てめえらはまとめてかかってきてもいいぜ」
と、余裕の表情のヴァーリカである。しかしアヤはレニの前に立ち、
「……ポッチャマ、お願い!!」
とボールを投げたのだった。
「行けッ! ウインディ!」
ヴァーリカが繰り出したのは、部下たちのガーディの進化系であるウインディ。
(ヒスイのすがたでは、ないようね……)
ほのおといわタイプのヒスイのすがたであれば、もっとみずタイプのポッチャマで優位に立てると踏んだアヤは少々悲観する。
(このバトル、絶対に負けられない……! 弱気じゃ駄目だ!)
レニの逮捕が掛かったこのバトルに、アヤは高鳴る胸を拳で抑える。
ウインディの咆哮……『いかく』を受けるが、ポッチャマの『かちき』によりとくこうが上がる。
「まあこれくらいのハンデがなきゃあ、カワイソウだからな。いいぜ」
「馬鹿にして! ポッチャマ、バブルこうせん!」
「ウインディ! すてみタックル!」
「えっ!?」
泡を浴びながらも果敢に向かってくるウインディに、ポッチャマは避けきれず飛ばされてしまう。
「くっ……ポッチャマ!」
反動を受けたウインディは己のダメージを気にしている様子を見せるが、ポッチャマが戻ってくるまでの時間を有効活用した「とおぼえ!」というヴァーリカの命に従って勇ましく鳴いたのだった。
「(まずい、攻撃が上がった……! それなら……!)ポッチャマ、フェザーダンス!」
と、ウインディの上がった攻撃を下げるため、羽根を舞わせるポッチャマ。
「チッ、ちょこまかと……鬱陶しい羽だな! ワイルドボルト!」
ジリジリと音を立てて、ウインディの纏った雷で宙に舞っていた羽が焼かれていく。そしてウインディは、ポッチャマへと突撃する!「避けて!」とアヤは叫ぶが、凄まじい速度で駆けてくるウインディに叶うことはなく、またも遠くへ飛ばされるポッチャマ。
「ポッチャマ! はねやすめ!」
ウインディがワイルドボルトの反動で傷付いている最中に、ポッチャマはその翼を休めてしばしの休息を得る。
「なんだァ? ぜんぜん手応えないじゃねえか。オレ様の部下をやったのはまぐれだったか?」
ヴァーリカは余裕の表情でアヤの戦法を分析し、そう罵る。
「油断してる場合!? ポッチャマ、まだやれるわよね!」
とアヤは強がりポッチャマもふんすと鼻で息を強く吐く。
「ポッチャマ、うたう!」
「かみくだく攻撃だ!」
旋律を避けながらも、大きく口を開けたウインディは、ポッチャマの体をいとも容易く咥えてゆっくりとキバを立てる。
「そうやって……近付いてくるのを待ってたわ! 『じたばた』して!」
と、噛みついたままのウインディを相手に手足を大きく揺さぶらせて口の中から攻撃するポッチャマ。ウインディはまさかそんな攻撃を受けるとは思っておらず、ポッチャマを離して後退りする。
「これは、ヤベェな…… ハハッ、滾る、滾るぜ!!」
ヴァーリカの雄叫びと共に、ウインディが持っていたなにかを咀嚼し、ゴクリと飲み込む。
「あれは! ああっ、『カムラのみ』……!?」
「よく分かったなァ! だがもう遅い! ウインディ、きしかいせい!!」
「ッ! ポッチャマ! フェザーダンス!!」
戦法に気付いたアヤが最後の賭けだと命を下すが、ウインディが飛びかかるのが早く、ポッチャマは羽とともに一気に遠くへと飛ばされる。
「ポッチャマ!!」
(この戦法はわかっていたのに、対処できなかった……!!)
かつていつかのゲームの中で、対戦したことのあるウインディ。カムラのみですばやさを上げ、その圧倒的なスピードで高火力のきしかいせいを放つ……分かっていたはずなのに、とアヤは倒れ伏したポッチャマを抱きかかえ、自身の下唇を噛み締める。
ヴァーリカは、戦闘不能になったポッチャマを抱きかかえるアヤを見下ろし、
「てめえの負けだな。レニ博士は渡してもらう」と無情にも告げたのだった。
「あ……ごめんなさい、レニ博士……」
「……仕方ありません。正々堂々あなたと戦った彼女に、私が背くわけには行かないですからね」
と、レニも深いため息をついて、やがて覚悟を決めたようにヴァーリカへ両腕を前に差し出す。
「まッ……待って! それなら私も捕まえて!!」
アヤからの申告に、心底訳が分からないといった表情のレニとヴァーリカ。
「ア、アヤ……あなた何を言っているのです!?」
「……ハァ? 義理堅ぇのか、ひっつき虫なのか分かんねえな」
「あなたたちだって、私を逮捕した方がいいんじゃない!?
だって……私は『禁書を読んでいる』!!」
アヤの悲痛な叫びに、ヴァーリカはどうしたものかと片手で頭をわしわしと掻く。
「……ああ、そうかよ。なら同罪か? ふん縛って陛下の元へ連れて行かなきゃならねえか」
「逃げる気力ももうねえだろ? 着いてきな」
と、いつのまにか周囲に集結していたヴァーリカ隊に囲まれたアヤとレニは拘束もなく、到着したギャロップの馬車に乗せられ、彼らに連行されていくのだった……