遥か彼方の銀河系で
共和国が、欺瞞のようでそれでも確かな、春のような平和な時代に包まれていたころ
ー
コルサント。
銀河共和国の首都、その惑星全体を覆う都市は朝日に照らされていた。
無数の飛行艇が空を横切り、議員達が行き交い、高級商人達が店を開く。
眠らない都市、今日も動き続ける銀河のように。
その中心、ジェダイ聖堂。
巨大な尖塔群と聖堂の名にふさわしい荘厳な佇まいのそれは朝霧の中に浮かび、今日も静かに銀河を見守っていた。
コルサント、ジェダイの聖堂内の教練場ではヤングリング達がセイバーを振るい、訓練用のドロイドを相手に汗を流している。
教導担当のジェダイナイトがその脇をするすると抜けながら、教鞭を用いて足元を軽く叩きつつ姿勢を正させる。
ヤングリングの一人が転ぶ。
周囲の子たちがその勢いに驚き笑う。
それをナイトに叱られる。
平和だった。
後になって誰もが懐かしむことになるほどに。
その頃。
聖堂の裏庭。
巨大な樹木の枝で、一人の少女が寝ていた。
艶のある黒い髪を短く、やや雑に切りそろえたそれが、風になびく。
無造作な姿勢、いつでも木から落ちそうだ。
ローブは泥だらけ、しかも周囲には怪我をした鳥を保護したのか、鳥かごが枝に吊るされ、迷子らしい小動物と壊れた訓練ドロイドが乱闘している。
規律正しい聖堂の中で、そこにはある種の異物だけが集まっている。
「やっぱりここか」
ため息混じりの声。
少女が片目を開ける。
そこに立っていたのは彼女の師匠だった。
彼に、名はない。
しかし、少女はそれでも良かった。
彼女にとって、彼はただの師であった。
評議会議員でもない。
戦争の英雄でもない。
ただのジェダイ・マスター。
道を照らす光。
明かさないのか、存在しないのか…名がないというのは、個人を晒さないということ。
嘘か誠か、フォースで相手は自分に意識を向けているかどうかを判断できるらしい。
だが、それでもジェダイの評議会に呼ばれることもある熟練のジェダイで、周りの信用も得ている。
そんな不思議な存在だった。
「おはよう、マスター」
少女がいう。
師匠は空を見上げた。
「もう昼だ」
「じゃあ…こんにちは?」
「挨拶を指摘したんじゃない」
即応答。
どこか、子弟というよりも、友人のような関係を彼らは築いていた。
師匠は周囲を見回すと、ふっと息を吐き、目元まで下りたローブの奥で口を緩ませた。
鳥。
動物。
ドロイド。
「またいろんなことに頭を突っ込んだね?」
「困ってたから」
パダワンはふっと前髪を息でふきあげた。
「訓練は?」
「途中」
「昨日出した課題は?」
「途中だね」
「訓練用ドロイドを改造した件についての報告書は?」
「……途中」
師匠は頭に手を当てる。
セイバーの才もある。
人柄も良い。
フォースも良く扱う。
だが、この少女はどうしようもなく、根が放浪者だった。
しかし、このマスターもまた…。
「君は本当にジェダイ向きだ」
根は放浪者であった。
パダワンは首を傾げる。
「マスター、このタイミングでそれは…褒めてるんだよね?」
「半分は」
「もう半分は?」
「困ってる」
少女は笑った。
その時だった。
遠くから走ってくる足音。
若いパダワンが息を切らしている。
「た、大変ですマスター!」
師匠が振り返る。
「どうした?」
「訓練場でまたオルフェーヴルとキングヘイローが!」
沈黙。
師匠は目を閉じた。
「何をした?」
「模擬戦をしていたんですが…」
「うん」
「どちらが強いかで喧嘩になって…」
「ああ」
「訓練場の壁に大穴が…その、マスタープロ・クーンが対応してくれていますが…。
と、とにかく来てください!」
少女が笑いながら、木から降りてくる。
「元気だね」
「君は笑うな。
全く、キングは最近、ナイトの称号を授かったばかりだというのに。
オルフェーヴルの挑発にまた乗ったな…」
師匠はそう言いながら歩き出した。
「オルフェーヴルも、パダワンにしておくのはもったいない存在だが。
マスタームンディも手を焼いていそうだ」
少女も後を追う。
聖堂の廊下。
窓の外にはコルサントの空。
共和国、そしてジェダイ。
ジェダイがまだジェダイらしい、そんな平和な日々。
誰も知らない。
この数年後、銀河が戦争に飲み込まれることを。
そして、共和国の終焉も。
今はまだ、コルサントを照らしたのはただの朝日だった。
「ほら行くぞ、君もたまには先輩らしいことをするべきだ」
少女はローブの襟元を正して、師匠に向き直る。
「ステイゴールド」
そしてその同じ頃。
遥か彼方。
砂漠の惑星タトゥイーンで。
一人の幼い少年が、
スクラップの山に潜り込んでいた。
その名は、
アナキン・スカイウォーカー。
銀河の運命を変える少年だった。