砂漠の星。
乾いた風と焼けるような熱気、そして二つの太陽。
決して生命に優しい星ではない。
だからこそ、そこに生きる人々は強かった。
「できた!」
煤けた空気が粉塵を纏う、古い整備工場で少年の声が響く。
スクラップの山だ、盗難されて流れ着いた部品に工具。
足元で始まりと終わりが見えないくらい絡みついた配線。
その中心で、アナキン・スカイウォーカーが声を上げて笑っていた。
まだ10歳にも満たない幼い少年。
それがもっと、他の清潔で清浄な場所であれば、微笑ましく見れたであろうが。
彼は、いま、そのような場所には、まだいなかった。
だが、その瞳は輝いていた、夜空に光る星々のように。
自らの手で組み上げられたそれを見て、彼は本当に楽しそうだった。
「また何か作ってるの?」
母の優しい声。
シミ・スカイウォーカーが、部屋の入口に肩を預けながらに微笑みかける。
アナキンは振り返る。
「見てよ母さん!」
手の中の小さなドロイド。
未完成だが、確かに動いていた。
母は笑う。
何度見ても驚く、この子は特別だ。
銀河のどこに、一からドローンを組める、こんなに幼い子供がいるだろう。
子煩悩だからではない、母親だからこそ分かる特別さもある。
特別なのはこの才能や眠っている力だけじゃない。
優しさだ。
困っている人を見ると放っておけない、優しい子。
それは誰よりも知っていた。
「アナキン、それはすごいけれど、ワトーに頼まれた仕事があるって言ってなかった?」
「…!
そうだ、そうだった!
お昼を食べたらすぐ行くよ!」
「はいはい、ほら、じゃあこっちへいらっしゃい」
ー
その日の午後。
アナキンは市場へ向かう、部品探し、いつものことだった。
そして、運命はそんな変わらない日常の中で、いつも突然にやってくる。
市場の外れ。
人だかりに目が止まる。
歓声だ、幼心に好奇心は拍車をかける。
人々の足元をかき分けながら、人だかりの前を目指す。
アナキンが先頭に近付く。
太い脚の間の景色に、荒野と砂煙が見えた。
「何だろう?」
何かが飛んでいる?スピーダーだろうか。
いや。
誰かだった。
「うわぁ…!」
少女だった。
橙色の髪が流れるようにたなびく。
風にくすぐられているような、そんな笑顔。
そして。
速い。
とにかく速い。
スピーダーなら、余裕だろう。
だが自分が荒れ地をこの足で走ったとして、彼女に追いつけるだろうか。
いや、きっと誰も捕まえられない。
楽しそうな様子、まるで幸せそのものが走っているようだった。
「すごいや…」
アナキンは呟く。
少女は走る、自由に、楽しそうに。
そして、立止まった。
視線の群れに気づいたらしい、土煙を上げながら、こちらに向かってくる。
とんでもない勢いだ。
「お、おい」
「ありゃ、ウマ娘だ、ぶつかったらひとたまりもねえぞ!」
あまりの異様さに住民たちは蟻が散る様に逃げ出していく。
そこには油まみれの少年だけが残った。
ちょうどアナキンの目の前で、少女は足を止め、困ったような顔をアナキンに向けた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
アナキンは少し緊張した。
知らない人だったからじゃない。
こんな人を見たことがなかったからだ。
見た目は人間だ、だけど耳が上に生えている。
どんな種族の人なんだろうと目を輝かせる。
少女は笑う。
「君、速いね」
アナキンが言った。
少女は目をぱちぱちさせる。
「そんなに本気で走ってないわ」
「嘘!?すっごく速かったよ!」
少女は少し考えるそぶりを見せる。
そして、少女は笑った。
「あなたも、速そうだわ」
「え?」
「だって勇気があるもの」
アナキンは吹き出した。
変な人だ、でも嫌じゃない。
少女は手袋を脱いで、手を差し出す。
「サイレンススズカ、旅をしているの」
彼女は銀河中を旅しているウマ娘だった。
アナキンもそれに応え、周囲を見回したのち再びスズカに視線を向ける。
「僕はアナキン、よろしく!乗ってきた船は?」
「あるわ」
「速い?」
「すごく」
少しだけ誇らしそうにする少女を見て、アナキンも頬が緩む。
すごくと聞いて、アナキンの目が輝いた。
「見たい!」
スズカは心底面白そうに笑った。
「好きなの?」
「大好き!」
それはもう全力の返答だった。
スピーダー、ドロイド、宇宙船、機械全部。
アナキンはそういうものが好きだった。
しばらく二人は話した。
船のこと、レースのこと、空のこと。
…そして自由のこと。
奴隷の少年と旅人の少女。
それは不思議な時間だった。
やがて、双子の太陽が沈み始めたころ。
スズカは立ち上がる。
「行くの?」
アナキンが聞く。
「うん」
「また来る?」
スズカは少し考える。
そして、スズカは空を見た。
双子の太陽が色づかせる空。
それに照らされる少年のどこか寂し気な笑顔。
「分からない」
スズカは正直だった。
「でも」
「またどこかで会うかもしれないわ」
その言葉にアナキンは頷く。
なぜか、本当にそうなる気がした。
そして、別れ。
時間にすれば、数時間の邂逅だった。
それだけの出会いといえばそれまでだ。
だがスズカはきっと思い出す気がした。
双子太陽の下で出会った奴隷の少年を。
好きなものにまっすぐだった少年を。
そして、アナキンもまた、風のように走る少女を忘れないだろうなと、思った。
ー
その頃。
宇宙空間、共和国巡洋艦。
一人のジェダイマスターが目を開いた。
クワイ=ガン・ジン。
隣には若き日のオビ=ワン・ケノービがいた。
ナブーに危機が迫っている。
通商連合。
共和国の闇が滲んでいる。
未だ姿のつかめない脅威。
運命が、静かに動き始めていた。
そしてそのさらに遠く。
コルサント、ジェダイ聖堂では。
名もなきジェダイマスターが、フォースのささやきに耳を傾けていた。
何かが始まる、何か大きなものが。
隣に、まだ若きジェダイであるステイゴールドがいる。
彼女もまた空を眺め、陽の光で隠れた星々に、思いをはせていた。