ブーンタ・イヴ・クラシック。
ポッドレースの日、タトゥイーン中の人々、ならず者たちが集まっている。
歓声に怒号、命を天秤に乗せた賭け。
会場を取り巻く、砂煙。
その様相は、まさしく祭りだった。
そして、アナキン・スカイウォーカーははやる胸の鼓動を抱えながら、運命の門の前に立つ。
レース前、アナキンは整備区画で愛機を前に配線を丁寧にチェックする。
工具を握る手が少し震えているのを自覚しながらも、頬は微かに緩んでいる。
「怖い?」
声がした、すぐ後ろから、そして振り返る。
スズカだった。
唐突な訪問に驚きつつも、それを見せぬよう、アナキンはゴーグルを額に掛けなおして笑顔を作る。
「少し」
正直だった、怖さもあるだろう、だがそれ以上に興奮が胸の鼓動を早くしている。
スズカは分かっていた、だからそれ以上聞かない。
代わりに、ポッドレーサーを見た。
そして…。
「速そうね」
アナキンが、胸を張り答える。
「でしょ!」
その瞬間だけ緊張が消えた気がした。
ポッドの整備クルーの待機所から、クワイ=ガンは少年を見る。
フォースが彼を取り巻くように流れている。
大きく、力強く…そしてどこか危うい。
オビワンとの無線での会話を思い出す。
『では、その子だと?』
クワイ=ガンの表情からは普段の優し気な表情が消え、どこか遠くを見るような真剣なまなざしを、長髪からのぞかせる。
「分からない、だが」
視線は、階下で空を眺めるアナキンへ向く。
「私は、このフォースの囁きを信じる」
ー
レースが始まる。
命が砂煙の中で塵の様に舞う、狂気のレースに、10にも満たない少年が挑もうとしている。
エンジンが咆哮する。
プラズマが空気を焼く音が、歓声を切り裂く。
ー
そして、アナキンは駆け抜けた。
アクシデントもあった、だが、運命が彼を選んだ。
速い。
誰よりも、危険を恐れず、取り巻く風を追い越すように。
遠く、ただ先頭へ。
ー
スズカは目を輝かせていた。
目を離せない。
世界の全てを見たいといった少年は、荒れ地を駆けている時、本当に自由だった。
少年は全てのラップを駆け抜け、両の手を振ってただ一人ゴールラインの風を切った。
勝利、歓声。
奇跡、その言葉がよく似合う光景だった。
「…あなただったら、きっといけるわ」
ー
今日まで奴隷だった少年が、不可能を成し遂げた。
クワイ=ガンは静かに微笑む。
やはり、間違いない。
ー
運命は再び、次の門を力強く叩いた。
ナブーで戦争が始まる。
ドロイド軍が空を埋め尽くしている。
王宮が揺れる、未来の女王は、胸に不安を抱えながらも、今は遠い空の下。
全てが示し合わせの中の様に、同時に動く。
ー
暗闇で力強く威の復活を示す、暗黒面。
長き時を経て、再び重なるセイバー、意思の激突。
そして、運命の門は開かれる。
師の胸を貫く、赤い刃。
隔壁の向こうの静寂。
師の体が力なく崩れる。
弟子は生涯忘れぬ喪失を眼に焼き付け、しかしてジェダイの責務を全うした。
ー
遠きコルサントの地、ジェダイ聖堂。
ヨーダが瞼を重々しく閉じた。
この瞬間、一人の偉大なジェダイが、宿敵によって失われたのだ。
聖堂の裏庭。
ステイゴールドの師も立ち止まる。
風が止んだ気がした。
フォースが揺れる。
喪失、悲しみ、そして…今後、若い命が背負うことになる宿痾。
師匠は空を見上げた。
「友よ」
溜まらず漏れ出たような、静かな声音だった。
その時、後ろから弟子の声が上がる。
「どうした」
師は少しだけ、迷い、そして答える。
「古くからの友が、今」
弟子の顔を見つめる。
「フォースの流れと、ともにある」
ステイゴールドは唇を引き結ぶ。
悲しさが伝わってくる。
若きパダワンは胸に手を当て、己の感情を見つめる。
どう悲しめばいいか分からない。
師匠はそんな弟子を見て、肩に手を置き諭す。
「覚えておきなさい」
ステイゴールドは再び、師の顔に目をやる。
「去るのではない、想いもまた残り、巡るんだ」
師は再び、空を見やり、つぶやいた。
「彼の弟子は、本当に良き師に恵まれた」
ステイゴールドは、ゆっくりと頷いた。
ー
遠くナブーでは、オビ=ワンが立ち上がる、師の意志を継ぐために。
自由となった運命の子を導く指標になるために。
運命の子は出会いと、そして別れを抱えながらも、ジェダイへの道を歩き始める。
そして銀河はあまねくを飲み込み、回り巡る。
闇は消えていない、今はただ笑っているのだ。
共和国の中心で静かに、誰に聞かれることもなく。
ー
ジェダイ聖堂の夜。
ステイゴールドは眠れなかった。
訓練所のバルコニーから、空を見上げる。
眠らぬ都市、コルサントの夜景に負けない夜空、無数の光。
その隣に師が立つ。
師が持参した、ポットから注がれた茶を二人で飲む。
しばらく沈黙が続いた。
そして、ステイが聞く。
「ねぇ、ジェダイってなんなんだろう」
師は腕を組み、微笑む。
「難しいね」
本当に難しい、その本質を知ろうと、今までどれだけの年月が流れてきただろう。
「でも」
師は弟子に視線をやりつつ、口ずさむようにつづける。
「困っている人を見たら助ける、君はまずはそれでいい」
ステイゴールドは少し笑った。
その答えは好きだった。
そして、その言葉は、ジェダイ、ステイゴールドの…
長き旅路の指標となるものであった。
少し時が流れて、コルサント。
無数の飛行艇が空を埋める。
ジェダイ聖堂は今もそこにあった。
変わらずに堂々と、銀河を見下ろすように。
だが、確実に何かが変わっていた。
共和国は少しづつ、国家として疲れていった。