共和国医科学研究所。
ジェダイ聖堂からもそう遠くない施設に最新鋭の医療設備が並ぶ。
生体分析機、神経反応測定器、ミディクロリアン計測装置。
共和国最高峰の医療研究機関。
その中央に回転椅子に座る少年がいた。
落ち着かないのか足を揺らしながら、周囲をきょろきょろと見ている。
触ってはいけないと医療ドロイドに注意を受けながらも、機械に興味津々の様子だ。
名前は、アナキン・スカイウォーカー。
九歳、タトゥイーン出身の元奴隷。
そして、すでにジェダイ評議会を困惑させている少年。
その前に立つのは。
「…やれやれ、評議会は少し敏感になりすぎてやいないかい」
アグネスタキオン。
共和国科学技術局所属、医科学研究部門主席研究員。
年齢不詳で、自他ともに認める研究馬鹿。
そして、彼の今日の診察担当である。
タキオンは端末を見ながら言った。
「ふぅん」
アナキンを見やり、端末を見る。
そしてまたアナキンを見る、端末を見る。
さらに端末を凝視する。
「なるほどねぇ、提出された前情報のミディクロリアン値は確かに驚愕に値する」
医療ドロイドが横で報告する。
「被検体A-113、身長は本年齢の人間族では平均よりやや下」
タキオンはポンポンとアナキンの頭を叩いて「ちゃんと食事をとってるのかい」とにやけ顔のままつぶやいて鬱陶しがられている。
「筋肉量は平均以上、骨密度極めて良好」
そのまま腕周りを揉みしだき、足回りを確認して手を止める。
「外傷歴多数」
アナキンに乱暴に振りほどかれながらも、我関せずと、タキオンは体をまさぐる。
「栄養状態やや不足」
アナキンがタキオンを手で押しやりつつも手を挙げた。
「被検体って僕のこと?」
「そうだねぇ」
「なんだか、ひどいいわれようじゃない?」
「研究者は大体、君みたいな立場の者をそう呼ぶからねぇ」
「そうなの…?
なんだか、嫌な感じだなぁ。
先生、患者さんの受け良くないんじゃない」
タキオンは興味深そうに少年を見る。
予想よりよく喋る、表情が豊かだ。
そして予想より、警戒心が薄い。
奴隷出身にしては不自然なくらい、人当たりがいい。
いや、それは偏見か、とタキオンは再び端末に目をやる。
採血のため、医療ドロイドが近付く。
採血器具、鈍く輝く金属張りが医療ドロイドの手元でアナキンに迫る。
アナキンが身構えるのをみて、タキオンはそれを止めた。
「待ちたまえ」
ドロイドが停止する。
「何でしょう」
「その前に質問だねぇ」
タキオンは椅子へ腰掛ける。
アナキンと目線を合わせる。
「痛いのは嫌いかい?」
「好きな人いる?」
即答だった、タキオンが笑う。
「確かに、常人ならそれが正論だ」
タキオンが手ぶりをすると医療ドロイドが再び動き出す。
「採血開始します」
「止めてくれるんじゃないの!?」
針が刺さる。
一瞬、ほんの一瞬だけアナキンの肩が強張った。
その瞬間、タキオンの目が細くなる。
見ていた、恐怖反応だ、この年齢なら不思議ではない。
「…なに見てるのさ」
「いやなに、年齢相応だなと」
ミディクロリアン検査
数分後、医療ドロイドの挙動が若干慌ただしくなる。
恐らく、処理が追い付いていない。
何度も再計測している。
そして、おそらく四回目。
「エラーの可能性があります」
「理由は?」
「数値が理論上限を超過しています」
静寂が部屋を包む。
アナキンだけが困惑に顔をゆがめる。
「何?」
タキオンは画面を見る。
長く言葉が発せられることは無かった。
医療ドロイドが恐る恐るといった様子で言う。
「再測定しますか主任」
「いや、その必要はないねぇ」
「しかし」
「正しい数値だよ」
さらに沈黙が続く。
タキオンは画面を見続ける。
研究者として、生涯で初めて理解不能なデータに目を輝かせた。
「なるほど、マスターヨーダが私を指名するわけだ。
実に興味深いねぇ、提出された資料を上回っているじゃないか」
アナキンが首を傾げる。
「僕、病気なの?」
「違う。」
一秒も迷わず、タキオンは答えた。
「君は特別なんだよ」
それだけは確信していた。
最後、診察終了後、アナキンは駆けて出ていく途中、部屋の出口で振り返った。
「ねぇ」
タキオンを見る。
「また検査されるときは貴方なの…?」
何気ない質問、子供らしい質問、どうやら嫌われたらしい。
タキオンは少し考え、そして肩を竦める。
「さぁ、私の研究対象は多岐にわたる。
自分でも予測不能だからねぇ」
アナキンが笑う。
「変なの」
そして走っていった。
静かな部屋だ、残されたのはタキオンと医療ドロイド。
ドロイドが尋ねる。
「主任、評価は」
長い沈黙、タキオンは窓の外を見る。
コルサントの空、果てしない都市。
そして、小さく呟いた。
「才能は…」
端末を見る、アナキン・スカイウォーカー、その名前をなぞる。
「未知数、恐らく記録に残っている中でも最高峰」
「評議会にはいかに報告を?」
タキオンは少し考える。
「さてね、なんと報告したらいいか…ただ」
静かな声、後にヨーダへ提出することになる報告書の原型。
「この子は、川を流れる小舟だよ」
ジェダイ達は感じ始めていた。
遠くで雷が鳴っていることを。
ジェダイ聖堂。
訓練場。
広い石床、窓からは心地よい風が吹いている。
しかし、それはすぐにプラズマで熱く煮えたものになる。
二本のライトセーバーが激しく交差した。
火花、空気を裂く大気の燃える音。
青い刃同士が弾けて混ざる。
衝撃、床へ響く振動。
「キングヘイロー、まだ踏み込みが甘い!
それでは己のセイバーで、自らの額を焼くことになるぞ!」
師の言葉を受けてキングヘイローがさらに深く踏み込む。
速い、そして重い。
若きジェダイナイト、その剣筋はその高い理想を反映したかのように鋭い。
攻撃的で力強い。
だが、まだ荒い、対する相手に余裕は見せられない。
「オルフェーヴル、王を自称するのは結構。
だがそれではとてもじゃないが、理想には程遠いのではないか?
相手は勝ちに来ておる。
ぶつけられる感情に、もっと!柔軟に!対応するのだ!」
オルフェーヴル。
数日前に騎士へ昇格したばかり。
新米ジェダイナイト。
だが、異常だった。
才能が同世代の比ではない。
青い光刃がうなりを上げる。
キングの真一文字の攻撃を流す。
下から打ち上げる、キングもそれをまた身を翻しながらに打ち返す。
返す、受ける、返す。
まるで舞踏、それはまさしくジェダイの戦闘。
そして突然、オルフェが圧を増す、フォースを織り交ぜ、一撃一撃の重さに緩急が付く。
キングの目が見開かれる。
読めい、防ぐので手いっぱいだ、打ち込む隙が潰されていく。
「っ!」
体勢を整えようと、キングが後退を図る。
次の瞬間オルフェの刃が、キングの首元で止まる。
首に伝う汗を通して感じる熱、背中をひやりと風がなでる。
止まった息を吐きだし、同時にセイバーを収める、訓練終了だった。
悔しい、それを隠すことなく、口元の汗をぬぐってキングは妹弟子を睨めつける。
「もう一回よ」
即座に言葉が発せられる。
「構わん」
反射の様に返事がキングに向かって余裕交じりに走る。
「だが」
オルフェが少し笑みをうかべてセイバーを手の中で弄びながらゆっくりと訓練場を回る。
まさにその場の王、場の掌握をひけらかすように。
「結果は変わらぬがな」
静寂、キングの額に青筋が浮かぶ。
「言ったわね…」
再戦寸前、その時だった。
キ=アディ=ムンディの通る声が訓練場に響く。
「そこまで」
穏やかな、だが有無を言わせない声。
二人が視線を送る。
長身で特徴的な頭部、長く蓄えられた髭に落ち着いた表情。
ジェダイマスター、キ=アディ=ムンディ
彼は威厳ある足取りで二人の前に歩みを進める。
その様子に二人とも自然に姿勢を正した。
評議会の重鎮たる彼の纏うそれは、厳格な空気がある。
訓練場中央に立ち、二人をそれぞれ見る。
まずキング、次にオルフェ。
そして、静かに言った。
「幾年重ねた修練」
重々しい言葉、しかしそれは二人にはどこか柔らかく聞こえる。
思わずキングの目が少しだけ輝く。
オルフェも手を前に組み、真面目に聞いている。
ムンディは続ける。
「よくぞ練り上げた」
ムンディが満足げなのをみて、キングの立つ姿が少し軟化する。
「しかしだ」
今度は二人で身を固くする。
「双方、戦いにのめりこみすぎる」
完全な沈黙。
キングがしかめる。
しかしオルフェはそれでも平然としている。
平然としているが、内心では図星であった。
それを示すかのように、オルフェは長く息を吐く。
「たしかに…そうです。
ですが相手に勝つには集中しなくては…」
少し不服そう。
ムンディが頷く。
「いざ戦いとなれば、それに念を置くは間違いではない」
キングに向き直り、諭すように肩に手を置く。
「だが、相手しか見えておらん」
静寂。
「それでは、搦手には勝てん。
視野をもっと広く持て、キングヘイロー。
お前にまだ足りないのはもっと俯瞰する力だ、己の状況を誰よりも把握できるようになれ
」
キングは背を丸め始める。
「オルフェーヴル」
オルフェは声をかけられても微動だにせず、ムンディを見据えている。
「其方の筋には熱がある、相手を打ち倒す熱、屈服させ、平伏させようとする熱が」
ムンディはオルフェに視線をやりつつ、オルフェの頭に張り付いた訓練着の切れ端を取り去る。
「だがそれではより冷たく、静かに迫る刃には負ける。
熱を持つのは構わん、だが奥底には清水のような冷静さを持て」
ムンディは続ける。
「先月、模擬戦三十二回。
その前の月は二十九回。
さらに前、三十四回。
訓練場の清掃を行う者の気持ちも考えろ」
キングは絶句する、隠れた試合も含め、全部記録されていたのか。
ムンディは事実を述べているだけだ。
だから余計に逃げ場がない。
オルフェは少し笑う。
ムンディが視線を向ける。
「オルフェーヴル」
「…あぁ」
ほんの少し、声が上ずっている。
「私に何度同じ指摘をさせる気だ、言葉遣いと態度は外交上とても大きな武器だ。
セイバーを振るう前に、争いを回避する努力をせねばならぬこと、またみっちり講義してほしいのか?」
「…余は、王である故…その様な場には相応しいものが」
「わかった、この後教練場に来い」
その瞬間、王の背中が少し煤けて見えた。
「勝つことを当然と思う、その余裕が相手にはつけ入る隙になる。
忘れぬことだ」
オルが初めて悔し気な表情を浮かべる。
キングも同じように肩を落とす。
師の言葉にはオルフェーヴルへの期待が滲んでいるように聞こえる。
姉弟子として、ふがいない自分の姿に、すこし気が滅入る。
「キングヘイロー」
「はいっ!!」
「お前の先達としての意気込みは買う。
だがセイバーだけがジェダイの全てではない、お前はこやつにその意思の強さ。
フォースの扱いを、自信をもって示してやりなさい」
夕陽が差す。
長い影。
三人の影。
ムンディは都市を見下ろす、そして言った。
「ジェダイは勝つために戦わん」
静かな声だ、しかし、本当によくとおる。
「守るために戦うのだ」
風が吹く。
二人とも、心静かに黙って聞きいる。
ムンディは続ける。
「勝利は結果だ、決して目的ではない」
その言葉は、後のクローン戦争で。
この二人だけでなく、多くのジェダイが何度も試されることになる。
そして、多くのジェダイが、共和国が…忘れていく言葉でもあった。
夕陽が沈む。
訓練は終了、ムンディは黙ってその場を後にする。
キングが歩き出す、少しだけ考え込みながら。
その後ろをオルも続く。
「…今日は私の5戦4敗、あなたはどんどん先に行ってしまうわね」
そうつぶやくキングの背中をみて、オルフェは隣に並ぶ。
「…だが私から、一勝もぎ取ったではないか。
誇るべきことだ、流石は私の姉弟子…今度も期待している」
「…ッ!!
貴方の、そういうところが生意気なのよ!
もっと、妹弟子らしくしなさいよ、この!この!」
「余は甘味を欲する、共にどうだ姉弟子」
「行くわよ!行くけど!…嗜好品におぼれちゃダメなんだからね!」
ー
そして。
二人が十分離れた後。
ムンディは小さく息を吐いた。
本当に小さく、誰にも聞こえないほどに。
空を見る、コルサントの夕暮れ。
フォースの導きは、時に才能ある者ほど、危うい場所へ連れていく。
ムンディはまだ知らない。
しばらくしたのち、クローン戦争という嵐が、自らを含め全員を飲み込むことを。
まだ。
誰も知らなかった。
ー
「おーい、お二人さん」
未だ騒ぎ続けながら、歩くキングとオルフェの後ろから声が上がる。
「ほどほどにね、隣の棟からも二人の訓練の音が聞こえたよ」
二人が止まり、振り返る。
そこにはステイゴールドがいた。
約十年、彼女も変わった。
背は伸び、顔立ちも少し大人になった。
背はあまり伸びなかったが。
だが、雰囲気は変わらない。
相変わらずどこか流浪の旅人のような雰囲気を纏っていた。
実際、纏っているローブも少し土埃っぽい。
おそらく昨日まで辺境にいたのだろう。
「ステイさん!」
キングが嬉しそうに頭を下げ、近寄る、オルフェも口角を上げ笑う。
「帰っていたか」
「昨日ね」
「此度はどこへ?」
「農業惑星、辺境宇宙域の」
「…かような場所で何をしていた」
ステイは少し考える。
そして答えた。
「井戸掘りだよ」
沈黙。
三人の間の空気が静まる。
オルフェが聞き返す。
「井戸だと?」
「うん」
「それは、任務か?」
「あー、えっと、その星へは任務で行ったけど…井戸掘りは、違うね」
「違うのね」
「いや、困ってたからさぁ」
キングが額を押さえる。
オルフェが吹き出す。
変わっていない、本当にこの人だけは。
…
その頃、ジェダイ聖堂の上層階。
談話室の窓辺、そこに一人、ステイゴールドの師匠がいた。
依然とて変わることのない、少し古びたローブ。
だが、少し疲れた顔。
しかし、その目だけは穏やかだった。
彼は窓の外を見ていた。
コルサント、銀河の中心、そこで育まれる数兆の命、無数の光。
フォース。
「思案中か」
後ろからの声に振り返る。
そこにいたのは
キ=アディ=ムンディ
珍しい訪問だった。
師匠は微笑む。
「少し」
ムンディは隣に立つ。
しばらく無言、しばらくしてステゴの師匠が口を開く。
「分離主義運動が広がっています」
「ああ、あの一件以来、まるで堰を切ったかのようにな」
「評議会も対応に追われています」
「そうだな」
「戦争ですか」
ムンディは一拍おいて、息を吐いた。
「いずれ、我々も…彼らもその矢面に立つ」
師匠は何も言葉を発さない。
「お前ならどうする」
師匠は考える。
長く、本当に長く。
そして、ぽつりと口を開いた。
「私は全ての誰かの故郷を守りたい」
ムンディが笑う。
「お前はそこまで、夢想家だったか?」
「確かに、ですが」
師匠はムンディに向き直り、
「全てが終わった後のことを、もう考えてしまうんです」
ムンディは何も言わなかった。
ー
その頃、別の場所、別の運命。
ナブー、緑の惑星と美しい湖と森。
そして一人の女性、共和国議員パドメ・アミダラ。
彼女は知らない。
一人の青年と再会することを、双子太陽の下で夢を語った少年と。
そして、銀河の未来を変える恋が始まることを。
同じ頃、銀河のどこかを。
一隻の銀色の船が駆け抜けていた。
速い、異常なほど速い。
サイレンススズカは操縦席の窓の外を眺めている。
ふと、思い出す。
十年前、砂漠の星。
空を見上げていた少年。
「全部見に行くんだ」
スズカは少し笑った。
「もう、冒険を始めたかしら」
その少年は。
想像以上の場所まで行こうとしていた。
良くも…悪くも。
そして銀河の歯車は、静かに回り始める。