異世界アイドル道   作:ちーばば

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第17話 魔法は想像力

父様は騎士達との訓練へ戻り、

 

母様もお祖父様へ俺を預けて屋敷へ戻ることになった。

 

「お父様」

 

「くれぐれもアルトをよろしくお願いしますね?」

 

「危ない事は駄目ですからね?」

 

母様は念を押す。

 

「分かっとる分かっとる」

 

グランお祖父様は豪快に笑った。

 

全然信用されていない。

 

俺も少し不安だった。

 

そして。

 

俺とグランお祖父様の魔法訓練が再開された。

 

「ではアルト」

 

「次はこれじゃ」

 

お祖父様が杖を掲げる。

 

「――凍てつく壁よ」

 

次の瞬間。

 

ごごごごごっ!!

 

地面から巨大な氷壁が出現した。

 

分厚く。

 

高く。

 

まるで城壁のような氷の壁。

 

圧倒的な存在感だ。

 

「おお……」

 

思わず見上げてしまう。

 

「よし」

 

「やってみるがよい」

 

「はい!」

 

今度こそ失敗しない。

 

俺はしっかりと壁だけを意識した。

 

氷の壁。

 

壁だ。

 

余計な物は考えるな。

 

東京タワー禁止。

 

絶対禁止である。

 

「――凍てつく壁よ!」

 

魔力を放つ。

 

すると。

 

目の前に小ぶりな氷壁が現れた。

 

「できた!」

 

思わず声が弾む。

 

今度こそ成功だ。

 

ちゃんと壁になっている。

 

だが。

 

何故か。

 

お祖父様の反応は微妙だった。

 

「うむ……」

 

「アルトよ」

 

「壁は出来たな」

 

「はい!」

 

「お祖父様に比べれば小さいですが、ちゃんと出来ました!」

 

「どこかおかしいですか?」

 

すると。

 

お祖父様は小さな氷塊を作り出した。

 

「どれ」

 

「見ておりなさい」

 

杖が軽く振られる。

 

氷塊はゆっくりと壁へ向かって飛んでいく。

 

なんだろう。

 

そう思った次の瞬間。

 

カラン。

 

氷塊が壁へ触れた。

 

そして――

 

ガラガラガラッ!!

 

氷壁が一瞬で崩れ落ちた。

 

「ええっ!?」

 

思わず叫ぶ。

 

「どうして!?」

 

お祖父様は楽しそうに笑った。

 

「儂の壁を真似ようとしたのじゃろう」

 

「はい」

 

「その結果じゃ」

 

「形だけを真似てしまった」

 

「中身の無いハリボテじゃな」

 

なるほど。

 

確かに。

 

俺はお祖父様の壁を再現しようと必死だった。

 

形ばかり意識していた気がする。

 

「魔法はイメージじゃ」

 

お祖父様が指を立てる。

 

「イメージがしっかりしておれば、先程のような立派な柱が出来る」

 

「逆に」

 

「イメージが伴わねば、この通りじゃ」

 

崩れた壁を指差した。

 

「見た目だけのハリボテになる」

 

「わっはっはっは!」

 

「面白いじゃろう?」

 

「確かに……」

 

俺は納得した。

 

東京タワーの時もそうだ。

 

ただ思い浮かべただけのつもりだった。

 

だが実際は。

 

鉄骨。

 

展望台。

 

骨組み。

 

構造。

 

無意識に様々な情報を想像していたのだろう。

 

だからあれほど精巧な物が出来上がった。

 

「魔法って奥が深いですね」

 

「うむ!」

 

「実に面白いぞ!」

 

その後も訓練は続いた。

 

「次は氷球じゃ」

 

お祖父様が手のひらほどの氷球を作る。

 

「単純な魔法ほど難しいぞ」

 

「はい!」

 

今度こそ大丈夫だ。

 

丸い氷。

 

それだけを想像する。

 

「――氷球!」

 

魔力を放つ。

 

すると。

 

現れたのは見事な丸氷だった。

 

透き通るように美しい。

 

表面に曇り一つ無い。

 

ウイスキーグラスに入っていたら間違いなく高級品だ。

 

「おおお!」

 

お祖父様が目を輝かせた。

 

「なんと美しい!」

 

「完璧な球体ではないか!」

 

前世で散々飲んだ酒の記憶が役に立ってしまった。

 

複雑な気分である。

 

「次は氷槍じゃ!」

 

「はい!」

 

結果。

 

出来上がったのは氷の槍。

 

なのだが。

 

何故か全部竹槍だった。

 

「おお!」

 

「節まで再現されておる!」

 

「芸が細かいのう!」

 

違う。

 

本当に違う。

 

俺もなぜ竹槍になったのか分からない。

 

「では氷の椅子じゃ」

 

「はい!」

 

今度こそ普通の椅子を作る。

 

そのはずだった。

 

結果。

 

出来上がったのは豪華な椅子だった。

 

いや。

 

椅子というより。

 

社長室に置いてありそうな高級オフィスチェアである。

 

背もたれ付き。

 

肘掛け付き。

 

無駄に座り心地が良さそうだった。

 

「おお!」

 

「随分と座りやすそうじゃのう!」

 

「素晴らしいですわ!」

 

いつの間にか戻って来ていた母様まで大絶賛だった。

 

違う。

 

俺は普通の椅子を作りたかっただけなんだ。

 

だが。

 

どれもこれも。

 

魔法としては成功しているらしい。

 

「アルトよ」

 

お祖父様が笑う。

 

「お前さん」

 

「魔力操作の才能は間違いなくある」

 

「本当ですか?」

 

「うむ」

 

お祖父様は力強く頷いた。

 

「なんならセレスティアの幼少期など遥かに超えておる」

 

「アルトちゃんなら当然です」

 

何故か母様が胸を張って自慢げだ。

 

「普通の子供なら魔法を発動させるだけで一苦労じゃ」

 

「じゃがアルトは違う」

 

「問題は――」

 

そこで。

 

目の前のオフィスチェアを見る。

 

「想像力が豊か過ぎることじゃな」

 

俺もそう思う。

 

非常にそう思う。

 

「わっはっはっは!」

 

「実に面白い!」

 

お祖父様は楽しそうだった。

 

結局。

 

俺の魔力が尽きるまで訓練は続いた。

 

成功もした。

 

失敗もした。

 

ハリボテも量産した。

 

そして。

 

訓練場には。

 

丸氷。

 

氷柱。

 

豪華な椅子。

 

東京タワー。

 

よく分からない氷像。

 

様々な作品が並ぶことになった。

 

どう見ても魔法訓練の跡地ではない。

 

芸術祭の会場だった。

 

「わっはっはっは!」

 

「面白かったのう!」

 

「俺は恥ずかしかったです……」

 

「何を言う!」

 

「立派な成果じゃ!」

 

お祖父様は満足そうだった。

 

その後も。

 

細かな調整や魔力操作の練習を繰り返し――

 

やがて。

 

「よし!」

 

「今日はここまでじゃな!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

その場へ座り込む。

 

五歳児の体にはなかなか堪える。

 

「よく頑張ったのう」

 

わしゃわしゃ。

 

お祖父様が頭を撫でてくれた。

 

そのタイミングで。

 

メイドさんがやって来る。

 

「お風呂の準備が整いました」

 

「おお!」

 

お祖父様が立ち上がった。

 

「アルトよ!」

 

「久しぶりに一緒に入るか!」

 

「え?」

 

返事をする前に抱き上げられた。

 

そして。

 

気付けば風呂場だった。

 

あれよあれよという間に服を脱がされ。

 

二人揃って浴室へ。

 

そこで。

 

俺は思わず目を見張った。

 

(凄い……)

 

グランお祖父様は六十を超えている。

 

だが。

 

その体は信じられないほど引き締まっていた。

 

盛り上がった筋肉。

 

太い腕。

 

そして。

 

全身に刻まれた無数の傷跡。

 

戦場を生き抜いてきた証だった。

 

氷魔法の研究者。

 

宮廷魔術師長。

 

そんな肩書ばかり聞いていた。

 

だが違う。

 

この人もまた。

 

父様と同じく戦場を駆け抜けてきた英雄なのだ。

 

普段は孫バカ全開だが。

 

やはりこの人は凄い人だった。

 

体を流した後。

 

二人で湯船へ浸かる。

 

「ふぅ~」

 

「気持ち良いのう」

 

「はい」

 

今日一日の出来事を思い返しながら。

 

俺は改めて口を開いた。

 

「お祖父様」

 

「ん?」

 

「今日はありがとうございました」

 

「これからもよろしくお願いします」

 

お祖父様が固まった。

 

目をぱちぱちさせている。

 

そして。

 

次の瞬間。

 

ぎゅううううっ!

 

「おおおお!」

 

「アルトは偉いのう!」

 

「礼儀正しいのう!」

 

わしゃわしゃわしゃ!

 

頭が大変なことになった。

 

「儂が必ず立派な魔術師にしてやるからな!」

 

「は、はい!」

 

魔法は面白い。

 

きっとアイドル活動にも活かせるはずだ。

 

しっかり学ばせてもらおう。

 

その後ものぼせる寸前まで。

 

お祖父様と様々な話をしながら長湯を楽しんだ。

 

夕食も賑やかだった。

 

お祖父様がいるだけで食卓が明るくなる。

 

笑い声が絶えない。

 

そして。

 

部屋へ戻り。

 

布団へ潜り込む。

 

今日は本当に色々な事があった。

 

光属性。

 

氷属性。

 

東京タワー。

 

魔法訓練。

 

そして。

 

グランお祖父様との再会。

 

(明日からも頑張ろう)

 

氷魔法。

 

そして。

 

お祖父様との修行。

 

楽しみは尽きそうになかった。

 

そう思いながら。

 

俺は深い眠りへ落ちていった。

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