「は……?」
目が覚める。
見知らぬ天井だった。
白い。
いや、白いというより豪華だ。
彫刻が施された天井。
シャンデリア。
どう見ても俺の六畳アパートじゃない。
「アルト様!?」
慌てた声が響く。
視線を向けると、そこには綺麗なメイド服を着た女性が立っていた。
二十代くらいだろうか。
美人だ。
いや、そんなことより。
誰?
「アルト様がお目覚めになられました!!」
女性は叫ぶように言うと、勢いよく部屋を飛び出していった。
その後ろに控えていたメイド達も一斉に動く。
「公爵様を!」
「奥様をお呼びして!」
「アルト様がお目覚めになられました!!」
パタパタと足音が遠ざかっていく。
そして部屋には静寂だけが残った。
「……夢か?」
ぽつりと呟く。
いや、でも妙にリアルだ。
俺は確か――。
ライブ帰りだった。
ミリリン最高だった。
推し仲間の女の子がいて。
信号無視して。
トラックが来て。
俺が飛び出して。
その後は――。
「……あ」
思い出した。
轢かれた。
俺、トラックに轢かれた。
頭がぐわんぐわんする。
考えがまとまらない。
夢なのか。
死後の世界なのか。
それとも。
「いやいやいや、そんな訳……」
そこまで言いかけて。
俺は違和感に気付いた。
声が高い。
そして。
視界に入った自分の手が。
やけに白くて小さかった。
「へ……?」
混乱がさらに加速する。
アルト?
今、俺のことか?
いや、それより。
なんか小さくなってないか、俺?
いやいやいや。
まず情報を整理しよう。
俺は確かトラックに――
そこまで考えた瞬間だった。
バン!!
勢いよく扉が開いた。
「アルト!!」
「アルトちゃん!!」
二つの声が重なる。
そして部屋へ飛び込んできたのは――
絶世の美男美女だった。
「……ほわー」
思わず見惚れる。
何だこの人達。
顔面偏差値が高すぎる。
映画俳優?
モデル?
いや、そんなレベルじゃない。
美形という言葉が服を着て歩いているような二人だった。
男性は金髪碧眼の威厳ある貴族。
女性は息を呑むほど美しい銀髪の美女。
二人とも現実離れしている。
「アルト! 大丈夫か!?」
「アルトちゃん! 心配したのよ!」
ものすごい勢いで駆け寄ってくる。
距離感が近い。
近すぎる。
完全に我が子を見る親のそれだった。
「えっ?」
俺は思わず声を漏らす。
誰?
いや本当に誰?
混乱する俺をよそに、美男美女は安心したように顔を見合わせた。
その時。
隣にいたメイドが咳払いをする。
「旦那様、奥様」
穏やかな声だった。
「アルト坊ちゃまも目覚めたばかりでございます」
「まずは落ち着いて差し上げてくださいませ」
「む……それもそうだな」
「そうね……ごめんなさいアルトちゃん」
二人は少し距離を取る。
だが視線だけはずっとこちらを見ていた。
まるで宝物でも見るような目で。
その視線を受けながら。
俺はようやく一つの可能性へ辿り着く。
……待て。
まさか。
これ。
異世界転生ってやつじゃないよな?