異世界アイドル道 ~アイドルのいない世界に転生した大公爵令息、歌と笑顔で世界を救います!~   作:ちーばば

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第23話 世界が知る日

今日はいよいよ教会での魔力測定の日だ。

 

この世界では六歳になると、身分に関係なく全ての子供が教会へ集められ、魔力と属性の測定を受ける。

 

人生で初めて、自分の才能が公になる日でもある。

 

先日の誕生日は本当に賑やかだった。

 

前世でも、あんなに大勢から祝われたことはない。

 

思い返すだけで自然と頬が緩んでしまう。

 

前ルミナス大公爵であるガイウスお祖父様と、エリシアお祖母様から届いた大量のプレゼントにも驚かされた。

 

世界中を旅している二人らしく。

 

各地の珍しい鉱石。

 

見たこともない言語の本。

 

不思議な装飾品。

 

見たこともない果物まで送られてきた。

 

眺めているだけでも楽しかった。

 

……六歳児への贈り物としてどうなのかはさておき。

 

「アルト」

 

「準備はいいか?」

 

「はい、お父様」

 

「アルトちゃん」

 

「今日も可愛いわよ」

 

「ありがとうございます、お母様」

 

少し照れ臭い。

 

「それでは行ってらっしゃいませ」

 

「お気を付けて」

 

メイド達に見送られながら。

 

俺達は馬車へ乗り込み、近くの街の教会へ向かった。

 

◇

 

しばらくして。

 

教会へ到着する。

 

「わぁ……」

 

思わず声が漏れた。

 

教会の広場には、既に四、五十人ほどの子供達が集まっていた。

 

親と一緒に順番を待っている者。

 

緊張している者。

 

友達とはしゃいでいる者。

 

まだまだ人は増えていくだろう。

 

「凄い人数ですね」

 

「毎年こんなものよ」

 

母様が微笑んだ。

 

馬車から降りたその時だった。

 

周囲の視線が一斉にこちらへ向く。

 

「あっ……」

 

「すごく可愛い……」

 

小さな女の子が思わず声を漏らした。

 

「あのお嬢様、誰?」

 

「違うわよ」

 

「ルミナス大公爵家のご子息らしいわ」

 

「えっ!?」

 

「男の子なの!?」

 

周囲が小さくどよめく。

 

子供達だけではない。

 

付き添いの大人達まで、思わず俺を目で追っていた。

 

ここ最近は慣れてきた。

 

それでも少し照れ臭い。

 

「アルト」

 

父様が小さく笑う。

 

「今日も人気者だな」

 

「やめてください父様……」

 

「ふふっ」

 

母様まで笑っている。

 

そのまま列へ向かおうとした時だった。

 

「これはこれは!」

 

「ルミナス大公爵様!」

 

一人の神父が慌てた様子で駆け寄って来た。

 

「本日はお越しいただきありがとうございます!」

 

「こちらがアルトお坊ちゃまでございますか!」

 

「なんと可愛らしく、聡明そうなお子様で!」

 

そう言いながら。

 

神父の視線は父様の身なりや装飾品へ何度も向いていた。

 

笑顔ではある。

 

だが。

 

何となく目だけが笑っていない気がする。

 

「ありがとう」

 

父様は穏やかに返す。

 

「君は?」

 

「申し遅れました!」

 

「私、本日の魔力測定を担当するため教会本部より派遣されました、アモンと申します」

 

アモン神父。

 

だが。

 

俺が想像していた清廉潔白な神父とは随分違っていた。

 

ふくよかな体。

 

指には高そうな指輪。

 

胸元から覗く装飾品も、どれも高価そうな物ばかりだった。

 

(……何だろう)

 

(ちょっと胡散臭い)

 

「ルミナス大公爵様方にお時間を取らせるわけにはいきません!」

 

「ささ!」

 

「アルトお坊ちゃま!」

 

「こちらへどうぞ!」

 

そう言って。

 

俺を列から外そうとする。

 

父様が何か言おうとした。

 

だが。

 

俺の方が早かった。

 

「ありがとうございます」

 

「でも」

 

「皆さん順番に並んでいます」

 

「僕だけ先に行くのは違うと思います」

 

元日本人として。

 

列への割り込みは言語道断だ。

 

ましてや。

 

この魔力測定は身分に関係なく、全ての六歳児が平等に受ける国の決まりである。

 

大公爵家だからといって。

 

その決まりを曲げる理由にはならない。

 

父様と母様を見る。

 

二人とも満足そうに頷いていた。

 

「そ……そうですか」

 

アモン神父が引きつった笑みを浮かべる。

 

「ご聡明なお子様で……」

 

父様が静かに口を開く。

 

「私も息子と同じ考えだ」

 

「順番は守ろう」

 

「すまんな、アモン神父」

 

「は、はい……」

 

アモン神父はまだ何か言いたそうだったが。

 

軽く頭を下げると、その場を離れていった。

 

こうして俺達は列へ並び。

 

自分達の順番を待つことになった。

 

担当はアモン神父と言っていたが。

 

当の本人は少し離れた席へ腰掛け、腕を組んでふんぞり返っているだけだった。

 

列の整理。

 

子供達への説明。

 

水晶の準備。

 

実際に動いているのは、他の神父やシスター達である。

 

「次の方どうぞ」

 

「こちらへお願いします」

 

「ゆっくりで大丈夫ですよ」

 

優しく子供達へ声を掛ける若いシスター。

 

水晶を丁寧に磨く年配の神父。

 

泣き出した子をあやす教会職員。

 

皆が忙しく働いている中。

 

アモン神父だけは椅子へ深く腰掛け、偉そうに周囲を眺めているだけだった。

 

(やっぱりあの人、苦手だな……)

 

「やった!」

 

「火属性だ!」

 

「水と風の複合だって!」

 

「よくやったぞ!」

 

「すごいじゃない!」

 

あちこちから歓声が聞こえてくる。

 

子供達よりも。

 

親達の方が盛り上がっている気がした。

 

(俺はもう自分の属性を知ってるんだけどな)

 

それでも。

 

何故か胸が高鳴る。

 

そして。

 

ついに俺の番がやってきた。

 

若いシスターが優しく微笑む。

 

「アルト様ですね」

 

「心の準備が出来ましたら、この水晶へ手を置いてくださいね」

 

「はい」

 

深呼吸を一つ。

 

そして。

 

ゆっくりと水晶へ手を置いた。

 

次の瞬間――

 

ぶわぁぁぁぁっ!!

 

教会中を照らすほどの眩い光が溢れ出した。

 

「なっ……!?」

 

「こ、これは……!」

 

周囲の神父やシスター達が一斉に息を呑む。

 

水晶は黄金色の光を放ち続けていた。

 

「おおっ!!」

 

それまで椅子に座っていたアモン神父が勢いよく立ち上がる。

 

「光属性だ!」

 

「希少属性とは実にめでたい!」

 

興奮した様子で水晶へ駆け寄る。

 

だが。

 

次の瞬間だった。

 

「い、いえ!」

 

水晶を確認していた年配の神父が震える声を上げた。

 

「アモン神父!」

 

「それだけではありません!」

 

「何?」

 

水晶の中心部。

 

そこには。

 

雪の結晶のように美しい氷の紋様が静かに浮かび上がっていた。

 

「こ……これは!」

 

「氷属性まで……!」

 

「希少属性の複合です!!」

 

「な、なんだと!?」

 

教会内が一瞬で騒然となる。

 

「希少属性の複合だって!?」

 

「聞いたことがないぞ!」

 

「光属性だけでも希少なのに……!」

 

「しかも氷属性まで!?」

 

ざわざわ。

 

ざわざわ。

 

騒ぎは瞬く間に広がっていく。

 

その様子を。

 

父様と母様だけは少し離れた場所から静かに見守っていた。

 

「やっぱり……大きくなったな」

 

父様がぽつりと呟く。

 

「ええ、本当に」

 

母様も優しく目を細めた。

 

騒ぎ立てる周囲とは対照的に。

 

二人の視線はただ一人、息子へと向けられている。

 

「もう六歳か……ついこの前まで抱いていた気がするのに」

 

「ふふ、あなたが抱きすぎて泣かれていた頃ですね」

 

「それは言うな」

 

くすり、と母様が笑う。

 

その穏やかな空気は、まるで別世界のようだった。

 

一方で。

 

「すぐ本部へ報告だ!」

 

「王都へも知らせろ!」

 

「これは大手柄だ!」

 

「もちろん!」

 

「私の名で報告するのだぞ!!」

 

アモン神父だけは興奮を隠せず叫んでいた。

 

周囲の神父やシスター達は互いに顔を見合わせ、小さくため息をつく。

 

(いや……)

 

(そこなんだ)

 

こうして。

 

アルト・フォン・ルミナスが持つ二つの希少属性は、公のものとなった。

 

この報告は瞬く間に王都へ届き。

 

王家。

 

大貴族。

 

宮廷魔術師団。

 

そして教会。

 

王国中のあらゆる勢力を大きくざわつかせることになる。

 

そして、この日を境に。

 

アルト・フォン・ルミナスという一人の少年の名は、王国中へと広がり始めるのだった。

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