異世界アイドル道   作:ちーばば

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第23話 世界が知る日

今日はいよいよ教会での魔力測定の日だ。

 

この世界では六歳になると、身分に関係なく全ての子供が教会へ集められ、魔力と属性の測定を受ける。

 

人生で初めて、自分の才能が公になる日でもある。

 

先日の誕生日は本当に賑やかだった。

 

前世でも、あんなに大勢から祝われたことはない。

 

思い返すだけで自然と頬が緩んでしまう。

 

前ルミナス大公爵であるガイウスお祖父様と、エリシアお祖母様から届いた大量のプレゼントにも驚かされた。

 

世界中を旅している二人らしく。

 

各地の珍しい鉱石。

 

見たこともない言語の本。

 

不思議な装飾品。

 

見たこともない果物まで送られてきた。

 

眺めているだけでも楽しかった。

 

……六歳児への贈り物としてどうなのかはさておき。

 

「アルト」

 

「準備はいいか?」

 

「はい、お父様」

 

「アルトちゃん」

 

「今日も可愛いわよ」

 

「ありがとうございます、お母様」

 

少し照れ臭い。

 

「それでは行ってらっしゃいませ」

 

「お気を付けて」

 

メイド達に見送られながら。

 

俺達は馬車へ乗り込み、近くの街の教会へ向かった。

 

 

しばらくして。

 

教会へ到着する。

 

「わぁ……」

 

思わず声が漏れた。

 

教会の広場には、既に四、五十人ほどの子供達が集まっていた。

 

親と一緒に順番を待っている者。

 

緊張している者。

 

友達とはしゃいでいる者。

 

まだまだ人は増えていくだろう。

 

「凄い人数ですね」

 

「毎年こんなものよ」

 

母様が微笑んだ。

 

馬車から降りたその時だった。

 

周囲の視線が一斉にこちらへ向く。

 

「あっ……」

 

「すごく可愛い……」

 

小さな女の子が思わず声を漏らした。

 

「あのお嬢様、誰?」

 

「違うわよ」

 

「ルミナス大公爵家のご子息らしいわ」

 

「えっ!?」

 

「男の子なの!?」

 

周囲が小さくどよめく。

 

子供達だけではない。

 

付き添いの大人達まで、思わず俺を目で追っていた。

 

ここ最近は慣れてきた。

 

それでも少し照れ臭い。

 

「アルト」

 

父様が小さく笑う。

 

「今日も人気者だな」

 

「やめてください父様……」

 

「ふふっ」

 

母様まで笑っている。

 

そのまま列へ向かおうとした時だった。

 

「これはこれは!」

 

「ルミナス大公爵様!」

 

一人の神父が慌てた様子で駆け寄って来た。

 

「本日はお越しいただきありがとうございます!」

 

「こちらがアルトお坊ちゃまでございますか!」

 

「なんと可愛らしく、聡明そうなお子様で!」

 

そう言いながら。

 

神父の視線は父様の身なりや装飾品へ何度も向いていた。

 

笑顔ではある。

 

だが。

 

何となく目だけが笑っていない気がする。

 

「ありがとう」

 

父様は穏やかに返す。

 

「君は?」

 

「申し遅れました!」

 

「私、本日の魔力測定を担当するため教会本部より派遣されました、アモンと申します」

 

アモン神父。

 

だが。

 

俺が想像していた清廉潔白な神父とは随分違っていた。

 

ふくよかな体。

 

指には高そうな指輪。

 

胸元から覗く装飾品も、どれも高価そうな物ばかりだった。

 

(……何だろう)

 

(ちょっと胡散臭い)

 

「ルミナス大公爵様方にお時間を取らせるわけにはいきません!」

 

「ささ!」

 

「アルトお坊ちゃま!」

 

「こちらへどうぞ!」

 

そう言って。

 

俺を列から外そうとする。

 

父様が何か言おうとした。

 

だが。

 

俺の方が早かった。

 

「ありがとうございます」

 

「でも」

 

「皆さん順番に並んでいます」

 

「僕だけ先に行くのは違うと思います」

 

元日本人として。

 

列への割り込みは言語道断だ。

 

ましてや。

 

この魔力測定は身分に関係なく、全ての六歳児が平等に受ける国の決まりである。

 

大公爵家だからといって。

 

その決まりを曲げる理由にはならない。

 

父様と母様を見る。

 

二人とも満足そうに頷いていた。

 

「そ……そうですか」

 

アモン神父が引きつった笑みを浮かべる。

 

「ご聡明なお子様で……」

 

父様が静かに口を開く。

 

「私も息子と同じ考えだ」

 

「順番は守ろう」

 

「すまんな、アモン神父」

 

「は、はい……」

 

アモン神父はまだ何か言いたそうだったが。

 

軽く頭を下げると、その場を離れていった。

 

こうして俺達は列へ並び。

 

自分達の順番を待つことになった。

 

担当はアモン神父と言っていたが。

 

当の本人は少し離れた席へ腰掛け、腕を組んでふんぞり返っているだけだった。

 

列の整理。

 

子供達への説明。

 

水晶の準備。

 

実際に動いているのは、他の神父やシスター達である。

 

「次の方どうぞ」

 

「こちらへお願いします」

 

「ゆっくりで大丈夫ですよ」

 

優しく子供達へ声を掛ける若いシスター。

 

水晶を丁寧に磨く年配の神父。

 

泣き出した子をあやす教会職員。

 

皆が忙しく働いている中。

 

アモン神父だけは椅子へ深く腰掛け、偉そうに周囲を眺めているだけだった。

 

(やっぱりあの人、苦手だな……)

 

「やった!」

 

「火属性だ!」

 

「水と風の複合だって!」

 

「よくやったぞ!」

 

「すごいじゃない!」

 

あちこちから歓声が聞こえてくる。

 

子供達よりも。

 

親達の方が盛り上がっている気がした。

 

(俺はもう自分の属性を知ってるんだけどな)

 

それでも。

 

何故か胸が高鳴る。

 

そして。

 

ついに俺の番がやってきた。

 

若いシスターが優しく微笑む。

 

「アルト様ですね」

 

「心の準備が出来ましたら、この水晶へ手を置いてくださいね」

 

「はい」

 

深呼吸を一つ。

 

そして。

 

ゆっくりと水晶へ手を置いた。

 

次の瞬間――

 

ぶわぁぁぁぁっ!!

 

教会中を照らすほどの眩い光が溢れ出した。

 

「なっ……!?」

 

「こ、これは……!」

 

周囲の神父やシスター達が一斉に息を呑む。

 

水晶は黄金色の光を放ち続けていた。

 

「おおっ!!」

 

それまで椅子に座っていたアモン神父が勢いよく立ち上がる。

 

「光属性だ!」

 

「希少属性とは実にめでたい!」

 

興奮した様子で水晶へ駆け寄る。

 

だが。

 

次の瞬間だった。

 

「い、いえ!」

 

水晶を確認していた年配の神父が震える声を上げた。

 

「アモン神父!」

 

「それだけではありません!」

 

「何?」

 

水晶の中心部。

 

そこには。

 

雪の結晶のように美しい氷の紋様が静かに浮かび上がっていた。

 

「こ……これは!」

 

「氷属性まで……!」

 

「希少属性の複合です!!」

 

「な、なんだと!?」

 

教会内が一瞬で騒然となる。

 

「希少属性の複合だって!?」

 

「聞いたことがないぞ!」

 

「光属性だけでも希少なのに……!」

 

「しかも氷属性まで!?」

 

ざわざわ。

 

ざわざわ。

 

騒ぎは瞬く間に広がっていく。

 

その様子を。

 

父様と母様だけは少し離れた場所から静かに見守っていた。

 

「やっぱり……大きくなったな」

 

父様がぽつりと呟く。

 

「ええ、本当に」

 

母様も優しく目を細めた。

 

騒ぎ立てる周囲とは対照的に。

 

二人の視線はただ一人、息子へと向けられている。

 

「もう六歳か……ついこの前まで抱いていた気がするのに」

 

「ふふ、あなたが抱きすぎて泣かれていた頃ですね」

 

「それは言うな」

 

くすり、と母様が笑う。

 

その穏やかな空気は、まるで別世界のようだった。

 

一方で。

 

「すぐ本部へ報告だ!」

 

「王都へも知らせろ!」

 

「これは大手柄だ!」

 

「もちろん!」

 

「私の名で報告するのだぞ!!」

 

アモン神父だけは興奮を隠せず叫んでいた。

 

周囲の神父やシスター達は互いに顔を見合わせ、小さくため息をつく。

 

(いや……)

 

(そこなんだ)

 

こうして。

 

アルト・フォン・ルミナスが持つ二つの希少属性は、公のものとなった。

 

この報告は瞬く間に王都へ届き。

 

王家。

 

大貴族。

 

宮廷魔術師団。

 

そして教会。

 

王国中のあらゆる勢力を大きくざわつかせることになる。

 

そして、この日を境に。

 

アルト・フォン・ルミナスという一人の少年の名は、王国中へと広がり始めるのだった。

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