今日はいよいよ教会での魔力測定の日だ。
この世界では六歳になると、身分に関係なく全ての子供が教会へ集められ、魔力と属性の測定を受ける。
人生で初めて、自分の才能が公になる日でもある。
先日の誕生日は本当に賑やかだった。
前世でも、あんなに大勢から祝われたことはない。
思い返すだけで自然と頬が緩んでしまう。
前ルミナス大公爵であるガイウスお祖父様と、エリシアお祖母様から届いた大量のプレゼントにも驚かされた。
世界中を旅している二人らしく。
各地の珍しい鉱石。
見たこともない言語の本。
不思議な装飾品。
見たこともない果物まで送られてきた。
眺めているだけでも楽しかった。
……六歳児への贈り物としてどうなのかはさておき。
「アルト」
「準備はいいか?」
「はい、お父様」
「アルトちゃん」
「今日も可愛いわよ」
「ありがとうございます、お母様」
少し照れ臭い。
「それでは行ってらっしゃいませ」
「お気を付けて」
メイド達に見送られながら。
俺達は馬車へ乗り込み、近くの街の教会へ向かった。
◇
しばらくして。
教会へ到着する。
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
教会の広場には、既に四、五十人ほどの子供達が集まっていた。
親と一緒に順番を待っている者。
緊張している者。
友達とはしゃいでいる者。
まだまだ人は増えていくだろう。
「凄い人数ですね」
「毎年こんなものよ」
母様が微笑んだ。
馬車から降りたその時だった。
周囲の視線が一斉にこちらへ向く。
「あっ……」
「すごく可愛い……」
小さな女の子が思わず声を漏らした。
「あのお嬢様、誰?」
「違うわよ」
「ルミナス大公爵家のご子息らしいわ」
「えっ!?」
「男の子なの!?」
周囲が小さくどよめく。
子供達だけではない。
付き添いの大人達まで、思わず俺を目で追っていた。
ここ最近は慣れてきた。
それでも少し照れ臭い。
「アルト」
父様が小さく笑う。
「今日も人気者だな」
「やめてください父様……」
「ふふっ」
母様まで笑っている。
そのまま列へ向かおうとした時だった。
「これはこれは!」
「ルミナス大公爵様!」
一人の神父が慌てた様子で駆け寄って来た。
「本日はお越しいただきありがとうございます!」
「こちらがアルトお坊ちゃまでございますか!」
「なんと可愛らしく、聡明そうなお子様で!」
そう言いながら。
神父の視線は父様の身なりや装飾品へ何度も向いていた。
笑顔ではある。
だが。
何となく目だけが笑っていない気がする。
「ありがとう」
父様は穏やかに返す。
「君は?」
「申し遅れました!」
「私、本日の魔力測定を担当するため教会本部より派遣されました、アモンと申します」
アモン神父。
だが。
俺が想像していた清廉潔白な神父とは随分違っていた。
ふくよかな体。
指には高そうな指輪。
胸元から覗く装飾品も、どれも高価そうな物ばかりだった。
(……何だろう)
(ちょっと胡散臭い)
「ルミナス大公爵様方にお時間を取らせるわけにはいきません!」
「ささ!」
「アルトお坊ちゃま!」
「こちらへどうぞ!」
そう言って。
俺を列から外そうとする。
父様が何か言おうとした。
だが。
俺の方が早かった。
「ありがとうございます」
「でも」
「皆さん順番に並んでいます」
「僕だけ先に行くのは違うと思います」
元日本人として。
列への割り込みは言語道断だ。
ましてや。
この魔力測定は身分に関係なく、全ての六歳児が平等に受ける国の決まりである。
大公爵家だからといって。
その決まりを曲げる理由にはならない。
父様と母様を見る。
二人とも満足そうに頷いていた。
「そ……そうですか」
アモン神父が引きつった笑みを浮かべる。
「ご聡明なお子様で……」
父様が静かに口を開く。
「私も息子と同じ考えだ」
「順番は守ろう」
「すまんな、アモン神父」
「は、はい……」
アモン神父はまだ何か言いたそうだったが。
軽く頭を下げると、その場を離れていった。
こうして俺達は列へ並び。
自分達の順番を待つことになった。
担当はアモン神父と言っていたが。
当の本人は少し離れた席へ腰掛け、腕を組んでふんぞり返っているだけだった。
列の整理。
子供達への説明。
水晶の準備。
実際に動いているのは、他の神父やシスター達である。
「次の方どうぞ」
「こちらへお願いします」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
優しく子供達へ声を掛ける若いシスター。
水晶を丁寧に磨く年配の神父。
泣き出した子をあやす教会職員。
皆が忙しく働いている中。
アモン神父だけは椅子へ深く腰掛け、偉そうに周囲を眺めているだけだった。
(やっぱりあの人、苦手だな……)
「やった!」
「火属性だ!」
「水と風の複合だって!」
「よくやったぞ!」
「すごいじゃない!」
あちこちから歓声が聞こえてくる。
子供達よりも。
親達の方が盛り上がっている気がした。
(俺はもう自分の属性を知ってるんだけどな)
それでも。
何故か胸が高鳴る。
そして。
ついに俺の番がやってきた。
若いシスターが優しく微笑む。
「アルト様ですね」
「心の準備が出来ましたら、この水晶へ手を置いてくださいね」
「はい」
深呼吸を一つ。
そして。
ゆっくりと水晶へ手を置いた。
次の瞬間――
ぶわぁぁぁぁっ!!
教会中を照らすほどの眩い光が溢れ出した。
「なっ……!?」
「こ、これは……!」
周囲の神父やシスター達が一斉に息を呑む。
水晶は黄金色の光を放ち続けていた。
「おおっ!!」
それまで椅子に座っていたアモン神父が勢いよく立ち上がる。
「光属性だ!」
「希少属性とは実にめでたい!」
興奮した様子で水晶へ駆け寄る。
だが。
次の瞬間だった。
「い、いえ!」
水晶を確認していた年配の神父が震える声を上げた。
「アモン神父!」
「それだけではありません!」
「何?」
水晶の中心部。
そこには。
雪の結晶のように美しい氷の紋様が静かに浮かび上がっていた。
「こ……これは!」
「氷属性まで……!」
「希少属性の複合です!!」
「な、なんだと!?」
教会内が一瞬で騒然となる。
「希少属性の複合だって!?」
「聞いたことがないぞ!」
「光属性だけでも希少なのに……!」
「しかも氷属性まで!?」
ざわざわ。
ざわざわ。
騒ぎは瞬く間に広がっていく。
その様子を。
父様と母様だけは少し離れた場所から静かに見守っていた。
「やっぱり……大きくなったな」
父様がぽつりと呟く。
「ええ、本当に」
母様も優しく目を細めた。
騒ぎ立てる周囲とは対照的に。
二人の視線はただ一人、息子へと向けられている。
「もう六歳か……ついこの前まで抱いていた気がするのに」
「ふふ、あなたが抱きすぎて泣かれていた頃ですね」
「それは言うな」
くすり、と母様が笑う。
その穏やかな空気は、まるで別世界のようだった。
一方で。
「すぐ本部へ報告だ!」
「王都へも知らせろ!」
「これは大手柄だ!」
「もちろん!」
「私の名で報告するのだぞ!!」
アモン神父だけは興奮を隠せず叫んでいた。
周囲の神父やシスター達は互いに顔を見合わせ、小さくため息をつく。
(いや……)
(そこなんだ)
こうして。
アルト・フォン・ルミナスが持つ二つの希少属性は、公のものとなった。
この報告は瞬く間に王都へ届き。
王家。
大貴族。
宮廷魔術師団。
そして教会。
王国中のあらゆる勢力を大きくざわつかせることになる。
そして、この日を境に。
アルト・フォン・ルミナスという一人の少年の名は、王国中へと広がり始めるのだった。