教会での魔力測定を終えてから一年。
七歳になった俺の毎日は、相変わらず充実していた。
朝は父様との剣術。
午後は母様との魔法の勉強。
時折やって来るグランお祖父様からの特別講義。
毎日がとても充実している。
魔法の腕は自分でも驚くほど上達していた。
イメージ出来るものも増え。
魔力操作も以前より遥かに滑らかになった。
……だが。
剣術だけは中々思うようにはいかない。
「むぅ……」
木剣を振り終え、肩で息をする。
父様は苦笑しながら言った。
「焦る必要はない。」
「剣は積み重ねだ。」
「はい。」
そんなある日のこと。
珍しく。
グランお祖父様と、旅から戻ってきたガイウスお祖父様が鉢合わせした。
「がっはっはっは!」
グランお祖父様が胸を張る。
「やはりアルトは儂の血を色濃く受け継いでおる!」
「魔法の才能はまさに天才じゃ!」
すると。
ガイウスお祖父様が鼻で笑った。
「言わせておけば!」
「アルトは大器晩成じゃい!」
「今にお前のへなちょこ魔法など追い抜くほどの剣豪になるわ!」
グランお祖父様の眉がぴくりと動く。
「ほう?」
「誰の魔法がへなちょこじゃと?」
「聞こえんかったのか?」
「へ・な・ちょ・こ・じゃ!」
「なんじゃとぉ!!」
しかし。
ガイウスお祖父様はすぐに豪快に笑った。
「まぁ!」
「剣の達人にならんでも構わん!」
「ルミナス家の……」
「いや!」
「儂の孫!」
「アルト・フォン・ルミナスという事実は変わらんからな!」
「ふぉっふぉっふぉっ!」
「勝手に自分だけの孫にするでない!」
気付けば。
二人は俺を巡って本気の口論になっていた。
そして。
口論は次第に肉体言語へと発展する。
元宮廷魔術師長、『氷結の大賢人』グラン・アークライト。
元王国軍総司令官、『豪剣』ガイウス・フォン・ルミナス。
王国最強格同士の衝突。
誰にも止められない。
……そう思われた。
その瞬間だった。
「あなた達。」
穏やかな声が響く。
ただ、それだけで。
張り詰めていた空気が一瞬で凍り付いた。
二人の動きがぴたりと止まる。
そこに立っていたのは。
エリシアお祖母様だった。
柔らかな笑み。
優しそうな微笑み。
だが。
俺ですら背筋が凍る。
「あらあら。」
「二人とも元気ね。」
「だけれど、アルトちゃんが怖がってるじゃない?」
「おやめなさい。」
その一言だけだった。
「……はい。」
「……すまん。」
さっきまでの勢いはどこへやら。
二人とも肩を落としてしょんぼりしている。
(お祖母様……強い。)
やはり。
ルミナス家最強はお祖母様なのかもしれない。
そんな穏やかな日々の中。
俺は用事があって母様の部屋を訪れた。
コンコン。
「お母様。」
「入ってもいいですか?」
「アルトちゃん?」
「どうぞ。」
部屋へ入ると。
母様は机へ向かい、何やら針を動かしていた。
「それは?」
「これ?」
母様は嬉しそうに微笑む。
「もうすぐリリアのお誕生日でしょう?」
リリア。
アークライト侯爵家に住む、俺より七歳年上の従姉である。
「プレゼントに手作りのドレスをお願いされちゃって。」
机の上には、美しいドレスが広げられていた。
細かな刺繍。
丁寧なレース。
まるで職人が仕立てたような出来栄えだ。
「お母様……凄く綺麗です。」
「ありがとう。」
「こういうのを作るの、大好きなの。」
少し照れながら笑う。
「ドレスしか作れないんだけどね。」
そう言えば。
母様は何かを思い出したように笑った。
「アルトちゃんが小さい頃にも作ってあげたでしょう?」
「あ……。」
何となく覚えている。
「恥ずかしがって一回しか着てくれなかったけど。」
「はは……。」
「まだ沢山あるのよ?」
母様がクローゼットを開ける。
「わぁ……。」
中には。
子供用のドレスがずらりと並んでいた。
色とりどり。
どれも可愛らしい。
(これ……。)
(少し手を加えればライブ衣装になるぞ。)
そんなことを考えていると。
「アルトちゃん。」
「着てみる?」
「え?」
「着てみたいです。」
「ほんと!?」
母様の目が輝いた。
「じゃあこれ!」
「いや、こっちも似合いそう!」
そこから先は。
完全に着せ替え人形だった。
「わぁ!」
「可愛い!」
「こっちも似合う!」
鏡の前に立つ。
……どう見ても。
美少女だった。
「お母様。」
「この辺にもう少しフリルを付けたらどうですか?」
「きゃあ!」
「それ素敵!」
「あと腰のリボンを少し大きくして……。」
「なるほど!」
「その発想はなかったわ!」
いつの間にか。
ドレス作りはファッションショー兼、衣装企画会議へと変わっていた。
そして。
「アルト坊ちゃま。」
「奥様。」
「夕食のご用意が整いました。」
メイドに夕食を告げられるまで。
俺と母様のファッションショー兼衣装企画会議は終わることがなかった。