あれからというもの。
「坊ちゃま。」
「今日も歌っていただけませんか?」
ライブ魔法を見ていたメイドさん達から、そんなお願いをされるようになった。
最初は少し恥ずかしかった。
だが。
歌えば歌うほど。
踊れば踊るほど。
ライブ魔法は確実に上達していく。
光の演出。
音の伝わり方。
魔力操作。
全てが少しずつ洗練されていくのが分かった。
(ライブ魔法は……実際にライブをするのが一番の修行だな。)
それに。
歌い終えた後のメイドさん達の笑顔を見るのは、不思議と嫌ではなかった。
「坊ちゃま!」
「今日も最高でした!」
「元気をいただきました!」
「ありがとうございます!」
皆、本当に嬉しそうに笑ってくれる。
その笑顔を見るたびに。
俺まで嬉しくなってしまうのだった。
◇
しかし。
当然ながら問題も起こる。
ライブを始めると。
「あっ、坊ちゃまが歌われる!」
「急いで!」
「私も!」
次々とメイド達が集まり始めるのである。
これでは屋敷の仕事に支障が出てしまう。
そこで立ち上がったのが。
メイド長のリズさんだった。
「皆さん。」
「落ち着いてください。」
リズさんが一度手を叩く。
その一声だけで、その場は静まり返った。
「坊ちゃまのライブは大変素晴らしいものです。」
「ですが。」
「皆さんが一度に集まってしまっては、お屋敷の仕事が回りません。」
確かにその通りだ。
するとリズさんはにこりと微笑んだ。
「そこで、本日より観覧は抽選制とします。」
「「「えぇぇぇぇぇっ!?」」」
メイド達の悲鳴が屋敷へ響く。
「公平を期すため、毎日抽選を行います。」
「当選された方のみ観覧してください。」
「外れた方は次回以降も平等に機会を設けます。」
さすがメイド長。
対応が早い。
「それでは抽選を始めます。」
その日から。
仕事終わりの休憩時間になると、小さな抽選会が開かれるようになった。
「やった!」
「今日は当たりです!」
「外れましたぁ……。」
「次こそは!」
一喜一憂するメイド達。
ライブ開始前になると。
「こちらへお並びください。」
「通路は空けてください。」
「演奏中はお静かにお願いいたします。」
誰に指示された訳でもない。
メイド達が自主的に列を整え、観覧場所を譲り合うようになっていた。
(何だろう……。)
(だんだん本当のライブっぽくなってきたな。)
俺は少し照れながら頭を下げた。
「あの……。」
「皆さん。」
「父様には、まだ内緒でお願いします。」
ライブなんてしていると知られたら。
何だか凄く恥ずかしい。
すると。
リズさんが胸へ手を当て、優雅に一礼した。
「承知いたしました。」
「このライブは、私達だけの秘密でございます。」
「「「はい!」」」
その日から。
屋敷の小さなライブは。
メイド達だけが知る、秘密の楽しみとなった。
◇
そんなある日のこと。
屋敷で過ごす時間の長いセレスティアは、ふと違和感を覚え始めていた。
決まった時間になると。
何故か仕事を終えたメイド達が、どこかそわそわしている。
「少し交代をお願いします!」
「私、今日は先に失礼します!」
「急がないと始まっちゃう!」
どこか浮き足立った様子で廊下を駆けていく姿まで見掛けるようになった。
「あら?」
「最近みんな、何だか忙しそうね……?」
さらに。
裏庭の方から微かに聞こえてくる歌声。
そして。
楽しそうな拍手。
セレスティアは首を傾げる。
「……これは。」
「アルトちゃん?」
興味を抱いたセレスティアは、その歌声のする方へと歩き出した。