異世界アイドル道 ~アイドルのいない世界に転生した大公爵令息、歌と笑顔で世界を救います!~   作:ちーばば

37 / 51
第37話 幕間 非公式から公式へ

Side レオンハルト

 

最近。

 

騎士団の様子が少しおかしい。

 

もちろん。

 

士気が下がっている訳ではない。

 

むしろ、その逆だった。

 

「それでは団長!失礼します!」

 

「お、おい。今日は皆やけに帰るのが早いな。」

 

「申し訳ありません!少々用事が!」

 

そう言って足早に去っていく。

 

それも一人ではない。

 

毎日のように違う団員が、決まった時間になるとそわそわし始め、そそくさと帰っていくのだ。

 

一方で。

 

その日残った団員達は。

 

「今日はハインツか……。」

 

「羨ましいな。」

 

「俺なんてもう三回連続外れだぞ……。」

 

何やら小声で話している。

 

外れ?

 

何の話だ?

 

「……。」

 

団長である私だけ知らない何かがあるらしい。

 

それだけは分かった。

 

◇

 

そんな日が数日続いた。

 

仕事を終えた帰り道。

 

ふと普段は通らない屋敷の裏庭側へ足を向ける。

 

その時だった。

 

♪――

 

微かに歌声が聞こえた。

 

(歌……?)

 

続いて。

 

「きゃーーー!!」

 

「坊ちゃまーー!!」

 

「最高でしたーー!!」

 

歓声。

 

拍手。

 

騎士団の訓練では聞くことのない熱気。

 

私は思わず足を止めた。

 

(何が起きている。)

 

声のする方へ静かに歩いていく。

 

そして。

 

裏庭へ足を踏み入れた瞬間。

 

思わず息を呑んだ。

 

◇

 

そこには。

 

透き通る氷で出来た美しい舞台。

 

その中央で。

 

煌びやかな衣装を纏い、歌い踊るアルトがいた。

 

舞台の前には。

 

大勢のメイド達。

 

そして。

 

騎士団員達。

 

皆が目を輝かせながら、アルトへ声援を送っている。

 

「坊ちゃまーー!!」

 

「最高です!!」

 

「もう一曲お願いします!」

 

その光景だけでも十分驚きだった。

 

だが。

 

私が本当に驚いたのは。

 

最前列だった。

 

「アルトちゃーーん!!」

 

「今日も素敵よーー!!」

 

誰よりも大きな声で応援している。

 

セレスティアの姿があった。

 

「…………。」

 

私は言葉を失う。

 

(セレスティア……。)

 

(何をしている。)

 

さらに周囲を見渡す。

 

最近。

 

決まった時間になると帰っていた団員達。

 

今日は彼らが最前列で夢中になっていた。

 

(……そういうことだったのか。)

 

ようやく全てが繋がった。

 

最近の団員達の様子。

 

抽選。

 

外れ。

 

毎日違う顔ぶれ。

 

全て。

 

アルトの舞台だったのだ。

 

◇

 

歌は終盤へ差しかかる。

 

アルトは笑顔で歌い。

 

笑顔で踊る。

 

その姿を見ていると。

 

不思議だった。

 

自然と口元が緩む。

 

心が軽くなる。

 

理由は分からない。

 

だが。

 

目が離せなかった。

 

やがて。

 

最後の一節を歌い終え。

 

アルトが深く頭を下げる。

 

「ありがとうございました!」

 

その瞬間だった。

 

「「「わぁぁぁぁーーー!!」」」

 

盛大な拍手と歓声が響き渡る。

 

その熱気に飲まれ。

 

気付けば。

 

私も叫んでいた。

 

「アルト!!」

 

「最高だーーー!!」

 

…………。

 

しまった。

 

辺りが静まり返る。

 

アルト。

 

メイド達。

 

騎士団員達。

 

そしてセレスティアまで。

 

全員が一斉にこちらを振り返った。

 

「父様!?」

 

「あなた!?」

 

「旦那様!?」

 

「団長!?」

 

皆の視線が集まる。

 

私は軽く咳払いをした。

 

「……すまない。」

 

「最近、団員達の様子が気になってな。」

 

「後をついて来てみれば……。」

 

私は会場を見回す。

 

歌い終えたアルト。

 

笑顔のメイド達。

 

楽しそうな騎士達。

 

そして。

 

誰よりも夢中になっていた妻。

 

思わず苦笑しそうになる。

 

「こんなに楽しいことを。」

 

「皆で私だけ隠していたとは。」

 

「父は少し悲しいぞ。」

 

その一言で。

 

会場に笑いが広がった。

 

◇

 

アルトが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「父様。」

 

「すみません。」

 

「何だか恥ずかしくて……言い出せなくて。」

 

「そうか。」

 

私は優しく頷く。

 

「ですが。」

 

アルトは真っ直ぐ私を見上げた。

 

「あの。」

 

「僕。」

 

「皆を笑顔にしたいんです。」

 

静かな声だった。

 

「歌って。」

 

「踊って。」

 

「辛いことがあっても。」

 

「嫌なことがあっても。」

 

「また笑おうって思えるように。」

 

「そんな存在になりたいんです。」

 

「だから。」

 

「皆には秘密で練習へ付き合ってもらっていました。」

 

その言葉を聞いて。

 

私は静かに目を閉じた。

 

なるほど。

 

これが。

 

アルトの夢。

 

剣でも。

 

魔法でもない。

 

人の心を笑顔にする力。

 

私は再びアルトを見る。

 

「アルト。」

 

「はい。」

 

「これからは。」

 

「私にも、お前の夢を応援させてほしい。」

 

アルトの表情がぱっと明るくなる。

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。」

 

「ルミナス大公爵家は。」

 

「家族の夢を応援する家だ。」

 

「父様……!」

 

「ありがとうございます!」

 

満面の笑みだった。

 

その笑顔を見て。

 

私も自然と笑みがこぼれた。

 

◇

 

その日を境に。

 

裏庭で行われていた秘密のライブは。

 

正式にルミナス大公爵家公認となった。

 

観客も増えたため。

 

会場は裏庭から、より広い中庭へ変更。

 

氷の舞台もさらに大きくなった。

 

それでも。

 

ライブの抽選倍率は以前よりさらに高くなった。

 

そしてライブ当日。

 

最前列には必ず。

 

「アルトちゃーーん!!」

 

「今日も最高よーー!!」

 

「頑張れ、アルト!」

 

レオンハルトとセレスティア。

 

ルミナス大公爵夫妻の姿がある。

 

その声に負けじと。

 

「坊ちゃまーー!!」

 

「最高でしたーー!!」

 

「アルト様ーー!!」

 

「団長には負けませんよ!!」

 

メイド達も。

 

騎士達も。

 

屋敷中が一つになって歓声を送る。

 

その光景を見渡しながら。

 

アルトは今日も満面の笑みで歌う。

 

世界初のアイドル。

 

その最初のファンは。

 

誰よりもアルトを愛する。

 

ルミナス大公爵家の人々だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。