Side レオンハルト
最近。
騎士団の様子が少しおかしい。
もちろん。
士気が下がっている訳ではない。
むしろ、その逆だった。
「それでは団長!失礼します!」
「お、おい。今日は皆やけに帰るのが早いな。」
「申し訳ありません!少々用事が!」
そう言って足早に去っていく。
それも一人ではない。
毎日のように違う団員が、決まった時間になるとそわそわし始め、そそくさと帰っていくのだ。
一方で。
その日残った団員達は。
「今日はハインツか……。」
「羨ましいな。」
「俺なんてもう三回連続外れだぞ……。」
何やら小声で話している。
外れ?
何の話だ?
「……。」
団長である私だけ知らない何かがあるらしい。
それだけは分かった。
◇
そんな日が数日続いた。
仕事を終えた帰り道。
ふと普段は通らない屋敷の裏庭側へ足を向ける。
その時だった。
♪――
微かに歌声が聞こえた。
(歌……?)
続いて。
「きゃーーー!!」
「坊ちゃまーー!!」
「最高でしたーー!!」
歓声。
拍手。
騎士団の訓練では聞くことのない熱気。
私は思わず足を止めた。
(何が起きている。)
声のする方へ静かに歩いていく。
そして。
裏庭へ足を踏み入れた瞬間。
思わず息を呑んだ。
◇
そこには。
透き通る氷で出来た美しい舞台。
その中央で。
煌びやかな衣装を纏い、歌い踊るアルトがいた。
舞台の前には。
大勢のメイド達。
そして。
騎士団員達。
皆が目を輝かせながら、アルトへ声援を送っている。
「坊ちゃまーー!!」
「最高です!!」
「もう一曲お願いします!」
その光景だけでも十分驚きだった。
だが。
私が本当に驚いたのは。
最前列だった。
「アルトちゃーーん!!」
「今日も素敵よーー!!」
誰よりも大きな声で応援している。
セレスティアの姿があった。
「…………。」
私は言葉を失う。
(セレスティア……。)
(何をしている。)
さらに周囲を見渡す。
最近。
決まった時間になると帰っていた団員達。
今日は彼らが最前列で夢中になっていた。
(……そういうことだったのか。)
ようやく全てが繋がった。
最近の団員達の様子。
抽選。
外れ。
毎日違う顔ぶれ。
全て。
アルトの舞台だったのだ。
◇
歌は終盤へ差しかかる。
アルトは笑顔で歌い。
笑顔で踊る。
その姿を見ていると。
不思議だった。
自然と口元が緩む。
心が軽くなる。
理由は分からない。
だが。
目が離せなかった。
やがて。
最後の一節を歌い終え。
アルトが深く頭を下げる。
「ありがとうございました!」
その瞬間だった。
「「「わぁぁぁぁーーー!!」」」
盛大な拍手と歓声が響き渡る。
その熱気に飲まれ。
気付けば。
私も叫んでいた。
「アルト!!」
「最高だーーー!!」
…………。
しまった。
辺りが静まり返る。
アルト。
メイド達。
騎士団員達。
そしてセレスティアまで。
全員が一斉にこちらを振り返った。
「父様!?」
「あなた!?」
「旦那様!?」
「団長!?」
皆の視線が集まる。
私は軽く咳払いをした。
「……すまない。」
「最近、団員達の様子が気になってな。」
「後をついて来てみれば……。」
私は会場を見回す。
歌い終えたアルト。
笑顔のメイド達。
楽しそうな騎士達。
そして。
誰よりも夢中になっていた妻。
思わず苦笑しそうになる。
「こんなに楽しいことを。」
「皆で私だけ隠していたとは。」
「父は少し悲しいぞ。」
その一言で。
会場に笑いが広がった。
◇
アルトが申し訳なさそうに頭を下げる。
「父様。」
「すみません。」
「何だか恥ずかしくて……言い出せなくて。」
「そうか。」
私は優しく頷く。
「ですが。」
アルトは真っ直ぐ私を見上げた。
「あの。」
「僕。」
「皆を笑顔にしたいんです。」
静かな声だった。
「歌って。」
「踊って。」
「辛いことがあっても。」
「嫌なことがあっても。」
「また笑おうって思えるように。」
「そんな存在になりたいんです。」
「だから。」
「皆には秘密で練習へ付き合ってもらっていました。」
その言葉を聞いて。
私は静かに目を閉じた。
なるほど。
これが。
アルトの夢。
剣でも。
魔法でもない。
人の心を笑顔にする力。
私は再びアルトを見る。
「アルト。」
「はい。」
「これからは。」
「私にも、お前の夢を応援させてほしい。」
アルトの表情がぱっと明るくなる。
「本当ですか!?」
「ああ。」
「ルミナス大公爵家は。」
「家族の夢を応援する家だ。」
「父様……!」
「ありがとうございます!」
満面の笑みだった。
その笑顔を見て。
私も自然と笑みがこぼれた。
◇
その日を境に。
裏庭で行われていた秘密のライブは。
正式にルミナス大公爵家公認となった。
観客も増えたため。
会場は裏庭から、より広い中庭へ変更。
氷の舞台もさらに大きくなった。
それでも。
ライブの抽選倍率は以前よりさらに高くなった。
そしてライブ当日。
最前列には必ず。
「アルトちゃーーん!!」
「今日も最高よーー!!」
「頑張れ、アルト!」
レオンハルトとセレスティア。
ルミナス大公爵夫妻の姿がある。
その声に負けじと。
「坊ちゃまーー!!」
「最高でしたーー!!」
「アルト様ーー!!」
「団長には負けませんよ!!」
メイド達も。
騎士達も。
屋敷中が一つになって歓声を送る。
その光景を見渡しながら。
アルトは今日も満面の笑みで歌う。
世界初のアイドル。
その最初のファンは。
誰よりもアルトを愛する。
ルミナス大公爵家の人々だった。