異世界アイドル道   作:ちーばば

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第37話 幕間 非公式から公式へ

Side レオンハルト

 

最近。

 

騎士団の様子が少しおかしい。

 

もちろん。

 

士気が下がっている訳ではない。

 

むしろ、その逆だった。

 

「それでは団長!失礼します!」

 

「お、おい。今日は皆やけに帰るのが早いな。」

 

「申し訳ありません!少々用事が!」

 

そう言って足早に去っていく。

 

それも一人ではない。

 

毎日のように違う団員が、決まった時間になるとそわそわし始め、そそくさと帰っていくのだ。

 

一方で。

 

その日残った団員達は。

 

「今日はハインツか……。」

 

「羨ましいな。」

 

「俺なんてもう三回連続外れだぞ……。」

 

何やら小声で話している。

 

外れ?

 

何の話だ?

 

「……。」

 

団長である私だけ知らない何かがあるらしい。

 

それだけは分かった。

 

 

そんな日が数日続いた。

 

仕事を終えた帰り道。

 

ふと普段は通らない屋敷の裏庭側へ足を向ける。

 

その時だった。

 

♪――

 

微かに歌声が聞こえた。

 

(歌……?)

 

続いて。

 

「きゃーーー!!」

 

「坊ちゃまーー!!」

 

「最高でしたーー!!」

 

歓声。

 

拍手。

 

騎士団の訓練では聞くことのない熱気。

 

私は思わず足を止めた。

 

(何が起きている。)

 

声のする方へ静かに歩いていく。

 

そして。

 

裏庭へ足を踏み入れた瞬間。

 

思わず息を呑んだ。

 

 

そこには。

 

透き通る氷で出来た美しい舞台。

 

その中央で。

 

煌びやかな衣装を纏い、歌い踊るアルトがいた。

 

舞台の前には。

 

大勢のメイド達。

 

そして。

 

騎士団員達。

 

皆が目を輝かせながら、アルトへ声援を送っている。

 

「坊ちゃまーー!!」

 

「最高です!!」

 

「もう一曲お願いします!」

 

その光景だけでも十分驚きだった。

 

だが。

 

私が本当に驚いたのは。

 

最前列だった。

 

「アルトちゃーーん!!」

 

「今日も素敵よーー!!」

 

誰よりも大きな声で応援している。

 

セレスティアの姿があった。

 

「…………。」

 

私は言葉を失う。

 

(セレスティア……。)

 

(何をしている。)

 

さらに周囲を見渡す。

 

最近。

 

決まった時間になると帰っていた団員達。

 

今日は彼らが最前列で夢中になっていた。

 

(……そういうことだったのか。)

 

ようやく全てが繋がった。

 

最近の団員達の様子。

 

抽選。

 

外れ。

 

毎日違う顔ぶれ。

 

全て。

 

アルトの舞台だったのだ。

 

 

歌は終盤へ差しかかる。

 

アルトは笑顔で歌い。

 

笑顔で踊る。

 

その姿を見ていると。

 

不思議だった。

 

自然と口元が緩む。

 

心が軽くなる。

 

理由は分からない。

 

だが。

 

目が離せなかった。

 

やがて。

 

最後の一節を歌い終え。

 

アルトが深く頭を下げる。

 

「ありがとうございました!」

 

その瞬間だった。

 

「「「わぁぁぁぁーーー!!」」」

 

盛大な拍手と歓声が響き渡る。

 

その熱気に飲まれ。

 

気付けば。

 

私も叫んでいた。

 

「アルト!!」

 

「最高だーーー!!」

 

…………。

 

しまった。

 

辺りが静まり返る。

 

アルト。

 

メイド達。

 

騎士団員達。

 

そしてセレスティアまで。

 

全員が一斉にこちらを振り返った。

 

「父様!?」

 

「あなた!?」

 

「旦那様!?」

 

「団長!?」

 

皆の視線が集まる。

 

私は軽く咳払いをした。

 

「……すまない。」

 

「最近、団員達の様子が気になってな。」

 

「後をついて来てみれば……。」

 

私は会場を見回す。

 

歌い終えたアルト。

 

笑顔のメイド達。

 

楽しそうな騎士達。

 

そして。

 

誰よりも夢中になっていた妻。

 

思わず苦笑しそうになる。

 

「こんなに楽しいことを。」

 

「皆で私だけ隠していたとは。」

 

「父は少し悲しいぞ。」

 

その一言で。

 

会場に笑いが広がった。

 

 

アルトが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「父様。」

 

「すみません。」

 

「何だか恥ずかしくて……言い出せなくて。」

 

「そうか。」

 

私は優しく頷く。

 

「ですが。」

 

アルトは真っ直ぐ私を見上げた。

 

「あの。」

 

「僕。」

 

「皆を笑顔にしたいんです。」

 

静かな声だった。

 

「歌って。」

 

「踊って。」

 

「辛いことがあっても。」

 

「嫌なことがあっても。」

 

「また笑おうって思えるように。」

 

「そんな存在になりたいんです。」

 

「だから。」

 

「皆には秘密で練習へ付き合ってもらっていました。」

 

その言葉を聞いて。

 

私は静かに目を閉じた。

 

なるほど。

 

これが。

 

アルトの夢。

 

剣でも。

 

魔法でもない。

 

人の心を笑顔にする力。

 

私は再びアルトを見る。

 

「アルト。」

 

「はい。」

 

「これからは。」

 

「私にも、お前の夢を応援させてほしい。」

 

アルトの表情がぱっと明るくなる。

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。」

 

「ルミナス大公爵家は。」

 

「家族の夢を応援する家だ。」

 

「父様……!」

 

「ありがとうございます!」

 

満面の笑みだった。

 

その笑顔を見て。

 

私も自然と笑みがこぼれた。

 

 

その日を境に。

 

裏庭で行われていた秘密のライブは。

 

正式にルミナス大公爵家公認となった。

 

観客も増えたため。

 

会場は裏庭から、より広い中庭へ変更。

 

氷の舞台もさらに大きくなった。

 

それでも。

 

ライブの抽選倍率は以前よりさらに高くなった。

 

そしてライブ当日。

 

最前列には必ず。

 

「アルトちゃーーん!!」

 

「今日も最高よーー!!」

 

「頑張れ、アルト!」

 

レオンハルトとセレスティア。

 

ルミナス大公爵夫妻の姿がある。

 

その声に負けじと。

 

「坊ちゃまーー!!」

 

「最高でしたーー!!」

 

「アルト様ーー!!」

 

「団長には負けませんよ!!」

 

メイド達も。

 

騎士達も。

 

屋敷中が一つになって歓声を送る。

 

その光景を見渡しながら。

 

アルトは今日も満面の笑みで歌う。

 

世界初のアイドル。

 

その最初のファンは。

 

誰よりもアルトを愛する。

 

ルミナス大公爵家の人々だった。

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