異世界アイドル道   作:ちーばば

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4話

その後。

 

俺は違う意味でふらふらになりながら部屋へ戻っていた。

 

隣を歩くメイドが心配そうに声を掛けてくる。

 

「坊ちゃま、大丈夫でございますか?」

 

「だ、大丈夫です……」

 

大丈夫ではない。

 

足元がおぼつかないのは怪我のせいではなく、精神的ダメージのせいだ。

 

(なんなんだあの顔……)

 

思い出す。

 

さっき覗き込んだ鏡。

 

磨き上げられた鏡面の向こうには、見慣れた自分などどこにもいなかった。

 

そこに映っていたのは、銀糸を束ねたような髪を肩口で揺らし、澄み切った湖のような碧眼でこちらを見返す少年。

 

いや。

 

あれはもう美少年というか、ほぼ美少女だった。

 

(いやいやいや)

 

(反則だろ……)

 

前世の俺はごく普通の会社員だった。

 

朝の洗面台で見慣れた顔は、特徴らしい特徴もない平凡そのもの。

 

イケメンでもなければモデルでもない。

 

街ですれ違っても誰の記憶にも残らない、どこにでもいる普通の男だった。

 

それが今や。

 

鏡の前に立った瞬間、思わず息を呑んでしまうような顔面である。

 

意味が分からない。

 

(ミリリンは別格だぞ?)

 

それだけは強調しておく。

 

ミリリンは神だ。

 

世界最高だ。

 

宇宙一可愛い。

 

だが。

 

それを差し引いても、客観的に見て今の俺の顔面はやばい。

 

(もし前世でこの顔だったら人生変わってたぞ……)

 

学生時代。

 

彼女いない歴=年齢。

 

会社では空気。

 

休日は推し活。

 

そんな人生だった。

 

それが今は。

 

少女漫画の表紙から飛び出してきた王子様そのものだ。

 

神様。

 

ステータス配分おかしくないですか?

 

極振りしすぎでは?

 

しかもだ。

 

ただ整っているだけではない。

 

あの顔には妙な破壊力があった。

 

鏡越しに目が合った瞬間、本気で思考が停止した。

 

銀色の髪は窓から差し込む光を受けるたびに淡く煌めき、まるで月光を編み込んだようだった。

 

長い睫毛は影を落とし、その奥の碧眼は宝石どころか磨き抜かれたサファイアそのもの。

 

透き通るように白い肌は陶器めいていて、頬から顎にかけての線は驚くほど繊細だった。

 

鏡の中の少年は現実感がなく、絵画かゲームの立ち絵でも見ているようだった。

 

前世の俺なら確実に二度見している。

 

いや。

 

振り返って確認するレベルだ。

 

実際、さっき鏡を見た時も心の中では大絶叫だった。

 

転生ものの主人公って。

 

もっとこう。

 

最初から順応しているイメージがあった。

 

だが現実は違う。

 

急に別人の顔になったら混乱するに決まっている。

 

しかも超絶美形だ。

 

慣れるわけがない。

 

「坊ちゃま?」

 

「はっ!?」

 

気付くとメイドが不思議そうにこちらを見ていた。

 

どうやら無意識に立ち止まっていたらしい。

 

「お疲れなのでしょう。お部屋へ戻りましょう」

 

「そ、そうですね……」

 

歩き出す。

 

だが。

 

頭の中は別のことでいっぱいだった。

 

(この顔でアイドルやったら無双できるんじゃ……)

 

そこまで考えて。

 

俺は首を振った。

 

何を考えているんだ俺は。

 

異世界転生したばかりだぞ。

 

普通は魔法とか。

 

貴族生活とか。

 

そういうことを考えるべきだろう。

 

なのに。

 

真っ先に思い浮かんだのはライブ会場だった。

 

ステージ。

 

歓声。

 

ペンライト。

 

そして。

 

キラキラと輝くアイドル。

 

「……重症だな、俺」

 

転生しても治らなかったらしい。

 

そんなことを考えながら。

 

俺は部屋への扉を開いた。

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