異世界アイドル道 ~アイドルのいない世界に転生した大公爵令息、歌と笑顔で世界を救います!~   作:ちーばば

40 / 42
第40話 始まりの朝

王立学園で迎える、最初の朝。

 

楽しみで仕方なかったせいだろう。

 

いつもより随分と早く目が覚めてしまった。

 

「……まだこんな時間か。」

 

窓の外は、朝日が昇り始めたばかり。

 

澄んだ空気が部屋へ流れ込んでくる。

 

(久しぶりの学生生活だもんな。)

 

自然と頬が緩む。

 

身支度を整え、居間へ向かうと。

 

「坊ちゃま、おはようございます。」

 

「おはようございます!」

 

「エマ、リナおはよう。朝早くからありがとう。」

 

エマとリナは既に起きており、朝食の準備や部屋の整理を進めていた。

 

俺より早い。

 

流石プロだ。

 

「今日は随分とお早いですね。」

 

エマが微笑む。

 

「楽しみで、つい目が覚めちゃった。」

 

そう答えると。

 

「ですよね!」

 

リナが勢いよく頷いた。

 

「私もです!」

 

「今日から学園生活ですもん!」

 

「わくわくして昨日あんまり眠れませんでした!」

 

「リナ。」

 

「はい?」

 

「今日から坊ちゃまのお世話をするのは貴女です。」

 

「寝不足で失敗しました、では困りますよ。」

 

「うっ……。」

 

「すみません……。」

 

肩を落とすリナ。

 

その姿が可笑しくて思わず笑ってしまう。

 

「朝食まではまだ時間があるし。」

 

「少し素振りをして、そのあと学園の周りを散歩してくるよ。」

 

「かしこまりました。」

 

エマが一礼する。

 

「お気を付けて。」

 

すると。

 

「坊ちゃま!」

 

リナが勢いよく手を挙げた。

 

「私もご一緒します!」

 

しかし。

 

「リナ。」

 

エマが即座に止める。

 

「朝食の準備が残っています。」

 

「うぅ……。」

 

「そんなぁ……。」

 

「帰ってきたらご一緒できます。」

 

「……はい。」

 

しょんぼりするリナ。

 

(元気だなぁ。)

 

そんな二人へ手を振り、俺は部屋を後にした。

 

 

中庭でいつもの素振りを行う。

 

父様から教わった剣筋を、一振り一振り丁寧に確認する。

 

シュッ。

 

シュッ。

 

足運び。

 

呼吸。

 

力みがないか。

 

基本を何度も繰り返す。

 

朝の静寂へ剣を振る音だけが響く。

 

一汗流したところで木剣を収めた。

 

「よし。」

 

気持ちいい。

 

朝の空気はやっぱり最高だ。

 

そのまま学園内をゆっくり歩いてみる。

 

昨日は荷解きで終わってしまったから、こうして周囲を見るのは初めてだった。

 

広い中庭。

 

整えられた庭園。

 

噴水。

 

石畳の道。

 

そして。

 

少し歩いた先で、大きな教会が姿を現した。

 

「こんな所に教会もあるんだ。」

 

学園の敷地内に建てられた、美しい白亜の教会。

 

まだ朝早いというのに。

 

中では一人の少女が祭壇へ向かって静かに祈りを捧げていた。

 

腰まで届く金色の髪。

 

朝日を受けて輝くその姿は、まるで一枚の絵画のようだった。

 

思わず見惚れてしまうほど美しく。

 

どこか神々しさすら感じさせる。

 

(熱心な子なんだな。)

 

少しだけ気になり、近付こうとした、その時だった。

 

「あら、アルトじゃない。」

 

聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

 

「あ、リリィ!」

 

振り返ると。

 

燃えるような深紅の長髪を揺らしながら、リリィが微笑んでいた。

 

その後ろには、いつもの王家のメイドも控えている。

 

「貴方も随分早いのね。」

 

「楽しみで、つい目が覚めちゃってさ。」

 

「あら。」

 

リリィはくすりと笑う。

 

「貴方らしいわ。」

 

「リリィこそ。」

 

「こんな時間から?」

 

「私はいつもこのくらいの時間に起きて散歩をしているの。」

 

そう言って振り返る。

 

「ね?」

 

「はい。」

 

控えていたメイドが優雅に一礼した。

 

「アルト様、おはようございます。」

 

「リリアーナお嬢様は、毎朝お散歩を楽しまれた後、お部屋で紅茶を召し上がるのが日課でございます。」

 

「へぇ。」

 

思わず笑みがこぼれる。

 

何だかリリィらしい。

 

「良ければ貴方も一緒にどうかしら?」

 

リリィが柔らかく微笑む。

 

「そうだね。」

 

「僕も紅茶をいただこうかな。」

 

「決まりね。」

 

歩き出そうとしたところで。

 

リリィがふと尋ねた。

 

「そういえば。」

 

「さっき何を見ていたの?」

 

「ああ。」

 

俺は教会を指差す。

 

「朝早くから熱心にお祈りしている女の子がいてさ。」

 

「すごく綺麗な金髪の子だったんだ。」

 

二人で教会の中を見る。

 

だが。

 

そこにはもう誰の姿もなかった。

 

「あれ?」

 

「もう帰っちゃったのかな。」

 

リリィも静かに教会を見つめる。

 

「そうなの。」

 

「それじゃあ私達も行きましょう。」

 

「もうすぐ朝食の時間になってしまうわ。」

 

「うん。」

 

俺はもう一度だけ教会へ目を向ける。

 

そこには、静寂だけが広がっていた。

 

そして俺達は並んで歩き出す。

 

まだ知らない。

 

ほんの数分前まで、あの教会で祈りを捧げていた少女が。

 

やがて勇者と共に世界を巡る”聖女”であることを。

 

そして。

 

その少女と、深く関わる日が必ず訪れることを――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。