異世界アイドル道 ~アイドルのいない世界に転生した大公爵令息、歌と笑顔で世界を救います!~   作:ちーばば

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第44話 sideリリアーナ・エル・アストリア

王立学園への入学を数週間後に控えた、ある日のこと。

 

私はお父様に呼ばれ、王城の執務室を訪れていた。

 

「失礼いたします、お父様」

 

「ああ、来たか、リリィ」

 

机へ向かっていたお父様――アストリア王国国王アルフレッド・エル・アストリアが、顔を上げる。

 

その表情には、いつもの穏やかさがなかった。

 

眉間には深い皺が刻まれ、机の上には王立学園や教会から届いたと思われる報告書が、うず高く積み上げられている。

 

室内にいたのは、お父様だけではない。

 

長椅子には、エドガーお兄様が座っていた。

 

その向かいには、一人の少年がいる。

 

ユリウス・ベルン。

 

幼い頃より王国の麒麟児と呼ばれ、現在はお父様から正式に賢者の称号を授けられている人物だ。

 

年齢だけを見れば、まだ十六歳。

 

けれど、その知識と実績を侮る者は王城内にはいない。

 

政治。

 

経済。

 

軍事。

 

外交。

 

内政。

 

どの分野においても、大人の文官達が彼の意見を求めるほどだった。

 

「お父様」

 

私は空いている席へ腰を下ろしながら、机の上の報告書へ視線を向ける。

 

「何か問題でもございましたか?」

 

「少々、頭の痛い問題があってな」

 

お父様が、深く息を吐く。

 

「勇者ルークと、聖女マリアンヌについてだ」

 

その名なら、私も当然知っている。

 

聖剣に選ばれた勇者と、強力な神聖属性を持つ聖女。

 

いずれ魔王討伐の旅へ出る、人類の希望。

 

少なくとも、世間ではそのように呼ばれている二人だった。

 

「二人が、何か?」

 

「学園から、連日のように報告が届いている」

 

お父様が机上の書類を一枚取り上げる。

 

「授業への無断欠席」

 

一つ。

 

「教師の指示への反抗」

 

二つ。

 

「訓練場の無断使用」

 

三つ。

 

「他の生徒との私闘」

 

読み上げるたびに、お父様の眉間の皺が深くなっていく。

 

「先日は、ルークが上級生三人を相手に決闘を行い、二人が治療院へ運び込まれたそうだ」

 

「決闘の許可は?」

 

「出ていない」

 

「では、決闘ではなく、ただの私闘ではありませんか」

 

「そうなるな」

 

お父様が苦々しげに頷く。

 

「本人は、相手が先に挑発したと主張している。もっとも、相手側もルークを侮辱したこと自体は認めているようだが」

 

「原因がどちらにあるかと、学園の規則を破ったかどうかは別の問題です」

 

それまで報告書へ目を通していたユリウス様が、淡々と告げた。

 

「挑発を受けたのであれば、教師へ申し出るべきでした。決闘を行う場合にも、学園側の許可と監督者が必要です」

 

「分かっている」

 

「であれば、規則に従って処分すべきでしょう」

 

「それが簡単にできれば、苦労はせん」

 

お父様が額へ手を当てる。

 

勇者は、ただの一生徒ではない。

 

聖剣に選ばれた、人類の切り札。

 

その背後には、ルークを神に選ばれた者として積極的に支援している教会が存在する。

 

学園がルークへ処分を下そうとすれば、教会は必ず反発するだろう。

 

それだけではない。

 

聖剣に選ばれたルークの戦闘能力は、既に並の教師を大きく上回っているという。

 

規則に従わせようにも。

 

本人が従う気を見せなければ、力ずくで止められる者が学園内にはほとんどいない。

 

教師達が及び腰になるのも、理解できなくはなかった。

 

「マリアンヌについては?」

 

私が尋ねると、お父様は別の報告書を手に取った。

 

「彼女自身が暴力を振るったという報告はない」

 

「では、問題はないのですか?」

 

「いや。ルークの行動を、全て正しいものとして擁護している」

 

「全て、ですか?」

 

「全てだ」

 

お父様の声が、さらに重くなる。

 

「教師がルークを注意した際には、『勇者様を妨げることは、神の御意思に背くことです』と言ったらしい」

 

思わず言葉を失う。

 

「それは……注意ではなく、脅迫に近いのではなくて?」

 

「本人にそのつもりはないのでしょう」

 

答えたのは、ユリウス様だった。

 

「だからこそ厄介なのです」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「悪意のある人間は、自らの利益に反すると理解すれば、行動を改める可能性があります」

 

ユリウス様は、感情の見えない顔で説明を続ける。

 

「しかし彼女は、自分の行いが絶対的に正しいと信じている。自身の言葉が相手への圧力になっていることすら、理解していない可能性が高い」

 

「説得が通じない、ということですか?」

 

「正確には、自らが信じる教えに反する言葉を、説得として認識しません」

 

ユリウス様は何でもないことのように言った。

 

けれど、その内容には薄ら寒いものを感じた。

 

自分の行いが間違っていると知りながら、悪事を働く者。

 

それも、もちろん恐ろしい。

 

けれど。

 

自分は絶対に正しいと信じ。

 

笑顔のまま他人を追い詰める者は。

 

もしかすると、それ以上に恐ろしいのかもしれない。

 

「エドガー」

 

お父様が、お兄様へ目を向ける。

 

「実際の学園での様子はどうだった?」

 

「そうですね……」

 

エドガーお兄様が腕を組む。

 

普段の快活な表情とは違い、今日は真剣な顔をしていた。

 

「俺も、勇者になる前のルークについては、ほとんど知りません」

 

「同じ時期に在学していたのでしょう?」

 

「あの頃の俺は上級生で、あいつは入学したばかりでしたから。それに、当時のルークは目立つ生徒ではありませんでした」

 

お兄様は、少し言いづらそうに続ける。

 

「正直に言えば、平民の下級生一人一人まで気に掛けてはいませんでした。ルークの名前を知ったのも、聖剣に選ばれてからです」

 

それは恐らく、エドガーお兄様だけではない。

 

当時の多くの生徒がそうだったのだろう。

 

何者でもなかった、平民の少年。

 

その存在を、誰も気に留めなかった。

 

そして聖剣に選ばれた瞬間。

 

今まで彼を知らなかった者までが、その名を口にし始めた。

 

「勇者になったばかりの頃は、まだ大人しかったと思います」

 

お兄様は、当時を思い返すように視線を伏せる。

 

「突然周囲から持ち上げられて、本人も戸惑っているように見えました。ただ、俺が卒業する頃には……かなり変わっていました」

 

「具体的には?」

 

「訓練場を使っている生徒を、邪魔だからという理由で追い出す。授業中に気に入らないことがあれば、教師を無視して出ていく。自分を侮った生徒を、訓練と称して一方的に叩きのめす」

 

お兄様の表情が険しくなる。

 

「止めようとした教師に、聖剣を見せつけたこともあります。抜きはしませんでしたが……あれは明らかな威圧でした」

 

「教師へ、聖剣を……」

 

聖剣は、人類を守るためのもの。

 

教師を黙らせるために使われるようなものではない。

 

「お兄様は、注意しなかったのですか?」

 

「したさ」

 

エドガーお兄様は即答した。

 

「俺だけじゃない。生徒会や、何人かの上級生も注意した。だが、あいつは言った」

 

お兄様の口調が低くなる。

 

「『俺より弱い奴の言うことを、どうして聞かなければならない』とな」

 

部屋の中が静まり返った。

 

お父様が額へ手を当てる。

 

「学園長からの報告とも一致しているな」

 

「はい。俺が卒業した後、さらに酷くなったのだと思います」

 

「ルークを虐げていた生徒や、それを見て見ぬふりしていた教師にも責任はあるのでしょう」

 

私は静かに口を開く。

 

「けれど、それは今の振る舞いを許してよい理由にはなりません」

 

「その通りだ」

 

お父様も頷いた。

 

「だが、まだ十三歳の子供でもある」

 

その言葉には、僅かな迷いが滲んでいた。

 

国王ではなく。

 

一人の父親としての感情が。

 

「陛下」

 

それまで黙って話を聞いていたユリウス様が、報告書を机へ置いた。

 

「現状、ルークは学園へ真面目に通っていません」

 

「……そうだな」

 

「通常の授業にはほとんど参加せず、参加しても教師の指示に従わない。既に一般生徒と同じ教育課程へ在籍させる意義は失われています」

 

「何が言いたい?」

 

「いっそのこと、飛び級で卒業させてはいかがでしょう」

 

あまりにも淡々とした提案だった。

 

「卒業、ですか?」

 

「はい」

 

ユリウス様が私を見る。

 

「必要な卒業試験だけを受けさせ、基準に達していることを確認したうえで、学園から切り離します。その後は、勇者としての訓練を本格化させるべきです」

 

「しかし――」

 

「学園へ籍だけを置き、授業へ出席せず、問題を起こし続けるよりも効率的です」

 

ユリウス様は表情一つ変えない。

 

「ルークには一般教養よりも、戦闘訓練、魔物に関する知識、野外行動、部隊指揮を優先して学ばせる必要があります」

 

「待て、ユリウス」

 

お父様が、低い声で遮る。

 

「ルークは確かに勇者だ。だが、その前に一人の子供でもある」

 

「事実です」

 

「学園は、知識だけを得る場所ではない」

 

お父様は積み上げられた報告書へ視線を落とした。

 

「同年代の友人を作り、共に学び、失敗を重ねる場所でもある。こちらの都合だけで、子供から学ぶ機会や、友と過ごす時間を奪うのは……」

 

「陛下。お言葉ですが」

 

ユリウス様は、国王を前にしても少しも怯まなかった。

 

「聖剣に選ばれた時点で、ルークは単なる一個人ではありません」

 

その声に冷たさはない。

 

同情も。

 

怒りも。

 

ただ事実だけを並べている。

 

「彼は、王国の剣です」

 

お父様の眉が、僅かに動く。

 

「ならば剣は、必要な時に振るえるよう、鋭く研いでおかねばなりません」

 

「まだ十三歳の子供を、王国の剣として扱えと言うのか?」

 

「聖剣に選ばれた以上、それが勇者の責務です」

 

ユリウス様は、迷うことなく答えた。

 

「既に王国も教会も、彼を勇者として扱っています。勇者という名誉と特権を与え、莫大な費用を投じている。それでいて、都合のよい時だけ一人の子供として扱うのは矛盾しています」

 

「…………」

 

「友人との生活が本人の成長に寄与しているのであれば、残す価値はあります。しかし現状では、ルークは他の生徒と友好関係を築くどころか、恐怖によって従わせている」

 

残酷なほど、正しい指摘だった。

 

「感情ではなく、実利でお考えください」

 

ユリウス様は、真っ直ぐにお父様を見る。

 

「学園にとっても、他の生徒にとっても、そして勇者本人にとっても。早期卒業と専門教育への移行が、最も損失の少ない選択です」

 

お父様は、すぐには答えなかった。

 

長い沈黙が流れる。

 

やがて。

 

お父様が深く、重いため息をついた。

 

「……卒業試験を受けさせよう」

 

「お父様」

 

「ただし、形だけの卒業は認めん。必要な学力を備えているか、厳正に判断させる」

 

「合理的な判断です」

 

「お前に褒められても、少しも嬉しくないな」

 

「そうですか」

 

本当に理由が分かっていないような顔で、ユリウス様は首を傾げた。

 

その様子に、エドガーお兄様が苦笑する。

 

けれど。

 

お父様の表情が晴れることはなかった。

 

恐らく。

 

正しい判断であることと。

 

心から納得できることは、同じではないのだろう。

 

その時の私はまだ。

 

お父様が抱える迷いを、完全には理解できていなかった。

 

 

そして。

 

王立学園へ入学した、その日の夜。

 

自室へ戻った私は、窓辺の椅子へ腰を下ろしていた。

 

昼間の入学式で起きた出来事を思い返す。

 

在校生代表の挨拶へ勝手に割り込み。

 

当然のように壇上を奪った勇者ルーク。

 

学園の制度を表面だけで批判し。

 

貴族と平民の平等を語りながら。

 

平民のために王国が負担している学費や生活費には、一切触れなかった。

 

そして最後には。

 

『力こそが、全てだ』

 

そう、大講堂中へ言い放った。

 

その主張を、無条件に称賛した聖女マリアンヌ。

 

『勇者様は正しい』

 

『勇者様は素晴らしい』

 

まるで。

 

ルークが口にした言葉ならば、どんな内容であっても、神の教えになると信じているようだった。

 

「はあ……」

 

思わず、ため息が漏れる。

 

「確かにこれは、お父様も頭を悩ませるわね」

 

あの場で教師達が動けなかった理由も、今ならよく分かる。

 

ルーク個人の力。

 

聖剣に選ばれた勇者という立場。

 

そして、教会の後ろ盾。

 

一人の生徒を注意するだけで。

 

学園と教会。

 

場合によっては、王国と教会の対立にまで発展しかねない。

 

卒業試験を受けさせ。

 

必要な成績を収めたなら、飛び級で卒業させる。

 

あの時は、随分と冷たい判断に聞こえた。

 

けれど今日の姿を見た後では。

 

学園へ残す方が危険だと思えてしまう。

 

ルークはもう、生徒として学ぶために学園へ通っているのではない。

 

自分の力を示し。

 

誰も自分には逆らえないのだと確かめるために、そこにいる。

 

(ユリウス様の判断は、正しかった)

 

少なくとも。

 

理屈の上では。

 

「王国の剣、か……」

 

私は窓の外へ目を向ける。

 

夜の学園は静かだった。

 

昼間、あれほどの騒ぎがあったことなど、まるで嘘のように。

 

王国の剣。

 

その言葉から、私は一人の人物を思い浮かべる。

 

レオンハルト・フォン・ルミナス大公爵。

 

アルトのお父様であり。

 

王国軍の頂点に立つ御方。

 

お父様は、レオンハルト様のことを何度もこう評していた。

 

『彼こそ、我が王国の剣だ』と。

 

レオンハルト様は、その圧倒的な力を王国のために振るう。

 

魔物や敵国の脅威から民を守り。

 

兵を率い。

 

自ら最前線へ立ち。

 

王国の平和を支えている。

 

力を持たない者を守るために。

 

自らの力を使う。

 

だからこそ、お父様はレオンハルト様を信頼し。

 

敬意を込めて、王国の剣と呼ぶのだろう。

 

一方。

 

ユリウス様もまた、ルークを王国の剣と呼んだ。

 

けれど。

 

今日のルークが振るっていた力は、誰かを守るためのものではなかった。

 

自分の主張を通すため。

 

他人を黙らせるため。

 

誰も自分には逆らえないのだと示すため。

 

ルークは、与えられた力を自分自身のために使っている。

 

「同じ王国の剣でも……随分と違うものね」

 

思わず、独り言が漏れた。

 

レオンハルト様は、王国と民を守るために振るわれる剣。

 

ルークは、王国によって研ぎ上げられながら、自分のために力を振るう剣。

 

前者は、誰かを守るために、自ら刃を向ける相手を選ぶ。

 

後者は、自分へ逆らう者全てを敵と見なす。

 

剣は、鋭く研がなければならない。

 

それは分かる。

 

けれど。

 

どれほど鋭く。

 

どれほど強い剣であっても。

 

守るべきものへ刃を向けるのなら。

 

それは本当に、王国の剣と呼べるのだろうか。

 

(ユリウス様は、ルークを王国の剣だと言った)

 

恐らく、あの方にとって大切なのは。

 

その剣が必要な時に、必要な敵を斬れるかどうかなのだろう。

 

魔王を討つ。

 

魔物を倒す。

 

王国へ迫る脅威を排除する。

 

その目的さえ果たせるのなら。

 

ルークがどのような人格を持っているかは、優先順位が低いのかもしれない。

 

けれど。

 

どれほど優れた剣でも。

 

握る者の意志に従わず。

 

自ら振るわれるようになってしまえば。

 

いつか敵だけでなく、味方や民まで傷つける。

 

そして最後には。

 

その剣を握る王国自身へ、刃を向けるかもしれない。

 

「お父様が頭を悩ませるのも、当然ね……」

 

ルークは間違いなく強い。

 

人類にとって必要な力を持っている。

 

だからこそ。

 

誰も彼を簡単には切り捨てられず。

 

誰も彼の横暴を止められない。

 

力を持つ者が、その力を何のために使うのか。

 

レオンハルト様とルーク。

 

二人を分けているものは、持っている力の大きさではない。

 

きっと。

 

守りたいものが、自分の外にあるかどうかなのだ。

 

レオンハルト様は。

 

王国を守る。

 

民を守る。

 

家族を守る。

 

そのために剣を振るう。

 

では。

 

ルークが守りたいものは、何なのだろう。

 

今のルークが守ろうとしているのは。

 

自らの誇りと。

 

勇者としての立場と。

 

誰にも屈しない自分自身だけに見える。

 

同じ王国の剣と呼ばれながら。

 

二人は、あまりにも違っていた。

 

私はもう一度、静かな夜空を見上げる。

 

レオンハルト様の背中を見て育ったアルトは。

 

もし、今以上に大きな力を手に入れたとしても。

 

決して、ルークのようにはならない。

 

不思議と、そう信じることができた。

 

アルトは昔から、自分の力をひけらかすことに興味がない。

 

誰かに認められるためではなく。

 

自分がやりたいと思ったことへ、真っ直ぐに力を使う。

 

そして。

 

本人には、その自覚がほとんどないけれど。

 

アルトがやりたいことは、いつも誰かの笑顔へ繋がっている。

 

歌も。

 

踊りも。

 

魔法も。

 

誰かを楽しませるために使われる。

 

(剣ではないけれど)

 

アルトは、レオンハルト様とは違う道を歩んでいる。

 

それでも。

 

力を自分だけのために使わないという点では、よく似ているのかもしれない。

 

「……考えても仕方がないわね」

 

小さく首を振る。

 

明日から、本格的な学園生活が始まる。

 

勇者が何を考えていようと。

 

聖女が何を信じていようと。

 

私には、王女として守らなければならないものがある。

 

王家が積み重ねてきたもの。

 

この学園で学ぶ生徒達。

 

そして――。

 

(アルトも、きっと何かに巻き込まれるでしょうし)

 

本人には、まるで自覚がないけれど。

 

アルトは昔から、妙な出来事を引き寄せる。

 

それなのに。

 

自分の興味があること以外には、とことん無頓着だ。

 

私が見ていなければ、何をしでかすか分からない。

 

「まったく……」

 

そう呟きながら。

 

自分の頬が僅かに緩んでいることに気付き、慌てて表情を引き締める。

 

今考えるべきは、アルトのことではない。

 

勇者と聖女のことだ。

 

そう自分へ言い聞かせながらも。

 

明日の教室でアルトに会えることを。

 

私は、ほんの少しだけ楽しみにしていた。

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