異世界アイドル道 ~アイドルのいない世界に転生した大公爵令息、歌と笑顔で世界を救います!~   作:ちーばば

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第46話 王都ライブ前編 最初の一歩へ

王立学園へ入学してから、二週間が過ぎようとしていた。

 

新しいことを学ぶ授業。

 

初めて顔を合わせるクラスメート。

 

リリィと一緒に過ごす昼休み。

 

カイルとの、よく分からない張り合い。

 

マリウスとの気楽な会話。

 

学園で過ごす毎日は新鮮で。

 

俺の学園生活は、想像していた以上に充実していた。

 

けれど。

 

どれだけ楽しくても。

 

心の奥に、どうしても抑えられないものがある。

 

(歌いたい)

 

(ライブがしたい……!)

 

授業を受けている時も。

 

食事をしている時も。

 

眠る前ですら。

 

頭の中には、歌と踊りのことばかりが浮かんでくる。

 

屋敷にいた頃は、定期的にライブを開いていた。

 

家族。

 

メイド達。

 

騎士団の皆。

 

俺の歌を待ってくれている人達がいた。

 

けれど学園へ入学してからは、一度もライブをしていない。

 

まだ二週間。

 

たった二週間だ。

 

だというのに。

 

(もう限界だ……!)

 

俺は自室の居間で、頭を抱えていた。

 

「坊ちゃま」

 

そんな俺の正面から、エマの落ち着いた声が聞こえる。

 

「先ほどから、随分と落ち着かないご様子ですが」

 

「何かお悩みでしょうか?」

 

「歌いたい」

 

「はい?」

 

「ライブがしたい!」

 

思わず立ち上がり、両手を机へつく。

 

机の上に並べられていたティーカップが、かたんと揺れた。

 

「ライブですか?」

 

「うん!」

 

「学園へ来てから、一度もできていないんだ!」

 

「もう二週間もだよ!」

 

「まだ二週間ですよ?」

 

冷静な指摘が返ってきた。

 

「エマには分からないんだ!」

 

「この内側から溢れ出しそうな衝動が!」

 

「歌いたい!」

 

「踊りたい!」

 

「皆の笑顔が見たい!」

 

俺は胸の前で拳を握り締める。

 

「このままでは、授業中に突然歌い出してしまうかもしれない!」

 

「それはおやめください」

 

即答だった。

 

「学園内でライブを開くことも考えたんだけど……」

 

「それもお勧めいたしません」

 

「だよね」

 

自分でも分かっている。

 

学園の生徒達は、俺が氷属性と光属性の複合保持者であることを知っている。

 

銀髪に碧眼。

 

さらに、女の子と見間違えられる容姿。

 

同じ学園内でアリアとして活動すれば。

 

たとえ衣装や髪色を変えたとしても、アルトとアリアを結び付ける者が現れる可能性は高い。

 

もっとも。

 

リリィだけは別だ。

 

あいつは俺が初めてアイドルとして歌う姿を見せた相手であり。

 

アリアという名前を付けた本人でもある。

 

俺がアリアとして活動することも、ずっと応援してくれている。

 

だけど。

 

他のクラスメート達には、まだ知られるわけにはいかない。

 

アリアはあくまで、正体不明の駆け出しアイドル。

 

その方が、身分に縛られず自由に活動できる。

 

「それで、エマ」

 

俺は期待を込めて彼女を見る。

 

「お願いしていた件は、どうだった?」

 

「はい」

 

エマは手にしていた書類を机へ置いた。

 

「王都における路上での催しについて、確認してまいりました」

 

「おおっ!」

 

思わず身を乗り出す。

 

俺は学園へ入学する前から、エマへ頼んでいた。

 

王都の広場で歌や踊りを披露しても問題がないのか。

 

必要な申請はあるのか。

 

どこなら人が集まりやすく、安全に活動できるのか。

 

その全てを調べてもらっていたのだ。

 

「王都では、吟遊詩人や大道芸人による小規模な催しが認められております」

 

「ただし、人や馬車の往来を妨げないこと」

 

「火や攻撃魔法など、周囲へ危険を及ぼすものを使用しないこと」

 

「固定された舞台や、大掛かりな設備を設置しないこと」

 

「そして、事前に王都管理局の許可を得ること」

 

エマが書類を一枚ずつ示しながら説明してくれる。

 

「おひねりを受け取ることも、問題ございません」

 

「本当!?」

 

「はい」

 

「既にアリア様のお名前で申請を進めております」

 

「申請者の欄には、旅芸人一座の代表という形で、私の名前を記載いたしました」

 

「さすがエマ!」

 

仕事が早い。

 

俺が頼んだことを、期待以上の形で進めてくれている。

 

「場所につきましては、王都西部にある噴水広場がよろしいかと」

 

「商店や飲食店が多く、休日には平民や冒険者、地方から訪れた商人などが集まります」

 

「吟遊詩人が演奏することも珍しくないため、突然歌い始めても不自然には思われないでしょう」

 

なるほど。

 

貴族街からも学園からも離れている。

 

一般の人々が多い場所なら、俺の顔を知っている者と出会う可能性も低い。

 

「ただし」

 

エマの声が少しだけ厳しくなる。

 

「許可が下りたとしても、坊ちゃまお一人で向かわせることはできません」

 

「分かってるよ」

 

「私とリナも同行いたします」

 

「もちろん!」

 

「わあっ!」

 

部屋の端で話を聞いていたリナが、ぱっと表情を輝かせる。

 

「王都でライブですね!」

 

「私、頑張ります!」

 

「会場の準備も!」

 

「お客さんのご案内も!」

 

「おひねりの管理も!」

 

「それから、終わった後のお菓子の手配も!」

 

「最後は必要ありません」

 

エマが冷静に切り捨てた。

 

「ええっ!?」

 

「ライブの後は絶対にお腹が空きますよ!」

 

「坊ちゃまも空きますよね!?」

 

「うん、それは空くと思う」

 

「ですよね!」

 

「坊ちゃまを巻き込まないように」

 

「はーい」

 

返事だけは元気だった。

 

だけど。

 

(王都で、初めてのライブか)

 

まだ許可が下りたわけではない。

 

父様と母様にも、正式な許可をもらわなければならない。

 

それでも。

 

胸の高鳴りは、もう抑えられなかった。

 

 

入学して最初の週末。

 

俺は一度、ルミナス家の屋敷へ帰っていた。

 

父様と久しぶりに剣を交え。

 

母様と一緒に魔法の研究をして。

 

屋敷の皆へ学園での出来事を話した。

 

たった一週間離れていただけなのに。

 

母様は俺を抱き締めたまま、なかなか離してくれなかった。

 

そして。

 

寮へ戻る時には。

 

「アルトちゃぁぁぁん!」

 

「もう帰ってしまうのぉぉぉ!?」

 

と、門の前で泣き出した。

 

その隣では父様が。

 

「セレスティア」

 

「アルトは来週も帰ってくる」

 

と宥めていたけれど。

 

よく見ると、父様も少しだけ寂しそうだった。

 

そんな最初の週末から、さらに一週間。

 

二度目の週末を迎え。

 

授業を終えた俺は、再び実家へ帰ってきていた。

 

「アルトちゃーーん!」

 

馬車を降りた瞬間。

 

母様が物凄い勢いで駆け寄ってくる。

 

「お帰りなさい!」

 

「母様、ただいま――うぐっ!」

 

そのまま抱き締められた。

 

頬ずりまでされる。

 

「会いたかったわ!」

 

「また少し背が伸びたんじゃない?」

 

「一週間では変わらないと思います」

 

「そんなことないわ!」

 

「お母さんには分かります!」

 

本当だろうか。

 

「お帰り、アルト」

 

母様の後ろから、父様が穏やかに歩いてくる。

 

「ただいま帰りました、父様」

 

「ああ」

 

父様は微笑みながら、俺の頭を撫でた。

 

「今週も元気に過ごしていたようだな」

 

「はい!」

 

「授業も楽しいですし、新しい友達もできました」

 

「それは何よりだ」

 

父様は嬉しそうに頷く。

 

その後ろには、リズをはじめとした大勢のメイド達。

 

さらに。

 

何故か非番らしい騎士団員まで集まっていた。

 

「お帰りなさいませ、坊ちゃま!」

 

「お待ちしておりました!」

 

「学園はいかがですか!?」

 

「次のライブはいつですか!?」

 

最後。

 

本音が漏れている。

 

「皆、ただいま!」

 

声を掛けると、大きな歓声が返ってきた。

 

(帰ってきたんだな)

 

やっぱり。

 

この場所は落ち着く。

 

 

家族で夕食を楽しんだ後。

 

俺は父様と母様へ、王都でのライブについて話すことにした。

 

場所は屋敷の応接室。

 

父様と母様。

 

俺。

 

その後ろにはエマとリナが控えている。

 

エマが事前に調べた規則や、申請状況について説明してくれた。

 

「王都西部の噴水広場か」

 

父様が資料へ目を通す。

 

「確かに、あの辺りならば貴族街からも離れている」

 

「治安も悪くありません」

 

エマが答える。

 

「定期的に衛兵も巡回しております」

 

「ライブを行う時間帯も、日の高いうちを予定しております」

 

「終了後は速やかに撤収し、日没前には広場を離れます」

 

「うむ」

 

父様は静かに頷く。

 

反対されるとは思っていなかった。

 

父様も母様も、俺の夢を応援してくれている。

 

だけど。

 

そこは王国の剣と呼ばれる大公爵であり。

 

父親でもある。

 

安全に関する確認だけは、一つも妥協しなかった。

 

「アルト」

 

「はい」

 

「王都で歌いたいという、お前の気持ちは分かる」

 

「私も、お前の歌をより多くの者へ届けてほしいと思っている」

 

「ありがとうございます」

 

「だが」

 

父様の表情が真剣になる。

 

「お前がルミナス大公爵家の嫡男だと知られれば、どのような者が近づいてくるか分からない」

 

「善意を持つ者ばかりではない」

 

「それは分かっています」

 

「だから、屋敷の外ではアリアとして活動するのだな?」

 

「はい」

 

俺はしっかりと頷いた。

 

「銀色の髪は、光魔法で色を変えます」

 

正確には。

 

俺の髪そのものを染めるわけではない。

 

光の薄い膜を髪へ重ね、その表面へ別の色を映し出す。

 

前世でいう、プロジェクションマッピングのようなものだ。

 

この魔法は、幼い頃から母様と一緒に開発してきた。

 

「淡い桃色にするつもりです」

 

「まあ!」

 

母様が嬉しそうに両手を合わせる。

 

「絶対に可愛いわ!」

 

「銀髪のアルトちゃんも素敵だけれど、桃色の髪もきっと似合うもの!」

 

「以前試した時も、とっても可愛かったわ!」

 

「ですよね!」

 

俺も思わず身を乗り出す。

 

「それに、これからアリアとして活動する時は、桃色に統一しようと思っているんです」

 

「とてもいいと思うわ!」

 

母様の瞳が輝く。

 

「髪色を固定すれば、皆にも覚えてもらいやすいものね」

 

「はい!」

 

「いつか王都で、桃色の髪を見ただけでアリアだと分かってもらえるようになりたいです!」

 

「それなら、衣装も桃色と白を基本にした方がいいわね!」

 

「水色も少し入れたいです!」

 

「爽やかな曲にも合うと思います!」

 

「あら、いいわね!」

 

「髪飾りはどうする?」

 

「大きなリボンもいいですけど、今回は動きやすさを重視して――」

 

「こほん」

 

低い咳払いが聞こえた。

 

「「あっ」」

 

俺と母様の声が重なる。

 

恐る恐る視線を向けると。

 

父様が腕を組み、こちらを見つめていた。

 

「二人とも」

 

「今は、警備について話していたはずだが?」

 

「……そうでした」

 

「……そうだったわね」

 

俺と母様は揃って姿勢を正した。

 

父様は呆れたように息を吐いた。

 

だけど、その口元には僅かな笑みが浮かんでいた。

 

「それから、あの箱も使うのね?」

 

母様が尋ねる。

 

「はい」

 

俺が氷属性を持っていることは、貴族社会では既に広く知られている。

 

そのため。

 

人前で氷のスピーカーや氷のマイクをそのまま使えば、正体を疑われる可能性がある。

 

そこで以前。

 

将来、屋敷の外でライブを行うことを考え、母様と一緒にある物を作っていた。

 

「久しぶりに出番ね!」

 

母様は楽しそうに立ち上がる。

 

「ついてきて、アルトちゃん!」

 

向かった先は。

 

母様の研究室だった。

 

 

相変わらず。

 

子供を連れてきていいのか不安になる場所だった。

 

色とりどりの薬品。

 

魔物の骨。

 

怪しげな植物。

 

複雑な魔法陣。

 

部屋の隅には、かつて母様が作った測定器の残骸まで残っている。

 

腕だけになった木人形。

 

頭部が焦げた木人形。

 

下半身しか残っていない木人形。

 

(いつ見ても怖いな……)

 

俺の属性を測定した。

 

何でもわかーる君十六号。

 

あれが奇跡的に無事だっただけで。

 

十五号までは、ほぼ全滅している。

 

そんな研究室の奥。

 

白い布を掛けられた二つの大きな箱が置かれていた。

 

「これよ!」

 

母様が勢いよく布を取り払う。

 

現れたのは。

 

黒く塗られた、腰ほどの高さをした二つの木箱だった。

 

正面には、音が出そうな細かな穴。

 

側面には、いかにも魔道具らしく見える魔法陣。

 

さらに中央には、青く光る魔石まで取り付けられている。

 

見た目だけなら。

 

立派な音響用魔道具だ。

 

しかし。

 

「軽い」

 

持ち上げてみると、拍子抜けするほど軽かった。

 

「当然よ!」

 

母様が胸を張る。

 

「中には何も入っていないもの!」

 

威張ることだろうか。

 

黒い箱の背面を開く。

 

中には、何もない空間が広がっている。

 

ここへ氷のスピーカーを作り出す。

 

外から見えるのは黒い箱だけ。

 

氷属性を使用していることには気付かれない。

 

「こっちの魔石には、低級の光る魔石を使っているわ」

 

母様が側面の魔石を軽く叩く。

 

「ほんの少しだけ魔力も流れるから、調べられても完全な偽物ではないのよ!」

 

「つまり」

 

俺は黒い箱を見る。

 

「中身がないだけで、本物の魔道具ではあるんですね」

 

「その通りよ!」

 

音は出ないけれど。

 

「マイクもあるわよ」

 

母様が差し出したのは、黒く塗られた細長い筒。

 

こちらも中は空洞になっている。

 

内部へ氷のマイクを作れば、俺の声を広場中へ届けることができる。

 

「見た目は完璧ですね」

 

「でしょう?」

 

「これを作るの、大変だったんだから!」

 

木箱。

 

筒。

 

光るだけの魔石。

 

母様の技術なら、もっと簡単に作れた気もするけれど。

 

言わないでおこう。

 

「セレスティア」

 

父様が箱を確認しながら尋ねる。

 

「安全性は?」

 

「問題ないわ」

 

母様は自信を持って答えた。

 

「アルトちゃんが、中へ氷を作るだけだもの」

 

「外側の箱へ魔力を流す必要もないし、音を生み出すのはアルトちゃん自身の魔法よ」

 

そこで母様は、満面の笑みを浮かべた。

 

「だから爆発もしないわ!」

 

その説明で。

 

父様が少しだけ安心したように見えた。

 

(普段、何を爆発させているんだろう)

 

怖くて聞けなかった。

 

「装備については分かった」

 

父様が俺へ向き直る。

 

「ライブそのものは許可しよう」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ」

 

「ただし、条件がある」

 

「護衛をつける」

 

やっぱり。

 

「騎士を二人」

 

「目立たない服装で広場へ向かわせる」

 

「エマとリナにも、決してお前から離れないようにしてもらう」

 

「はい」

 

「かしこまりました」

 

エマが一礼する。

 

その隣でリナも、力強く胸を張った。

 

「坊ちゃまは私が守ります!」

 

「貴女はまず、会場で食べ物へ釣られないようにしてください」

 

「だ、大丈夫ですよ!」

 

僅かに目が泳いでいる。

 

「それから」

 

父様が真剣な表情で俺を見る。

 

「何か問題が起きた時は、ライブよりも安全を優先すること」

 

「無理に続けてはならない」

 

「分かりました」

 

「ならば、よろしい」

 

父様の表情が柔らかくなる。

 

「王都での初ライブ」

 

「頑張りなさい」

 

「はい!」

 

胸の奥から、喜びが込み上げてくる。

 

ついに。

 

俺の歌を。

 

ルミナス家の人達だけではなく、この世界の人達へ届けられる。

 

(いよいよ始まるんだ)

 

(王都での、最初の一歩が)

 

 

その日の夜。

 

騎士団の詰所では。

 

妙な緊張が走っていた。

 

机の上に置かれているのは、小さな木箱。

 

その正面には、一枚の紙が貼られている。

 

『アルト様・王都初ライブ護衛選抜』

 

木箱の中には、騎士達の名前が書かれた札が入っていた。

 

「不正はないな?」

 

「ああ」

 

「全員分、確かに入っている」

 

「団長が直接確認した」

 

「ならば問題ない」

 

非番の騎士達が、恐ろしいほど真剣な表情で木箱を囲んでいる。

 

今回の護衛は二名。

 

条件は。

 

王都の地理に詳しいこと。

 

不測の事態へ対応できる実力があること。

 

アルトの正体を決して口外しないこと。

 

そして。

 

抽選に当選すること。

 

「頼む……!」

 

「今度こそ……!」

 

「俺は屋敷のライブも三回連続で外れているんだぞ!」

 

「知るか!」

 

「俺だって四回だ!」

 

「護衛任務だぞ」

 

「遊びではない」

 

「分かっている!」

 

「命を懸けてアルト様をお守りする!」

 

「そして最前列でライブを見る!」

 

最後の一言が本音だった。

 

レオンハルトが呆れたように騎士達を見る。

 

「静かにしろ」

 

一瞬で詰所が静まり返る。

 

「これは、あくまでアルトを守るための任務だ」

 

「はい!」

 

「浮かれて任務を疎かにする者は、今後一切護衛へ選ばない」

 

「はいっ!」

 

全員の背筋が伸びた。

 

レオンハルトが木箱へ手を入れる。

 

一枚目。

 

「ハインツ」

 

「よっしゃあああああっ!!」

 

「静かにしろ!」

 

「申し訳ありません!」

 

二枚目。

 

「ロルフ」

 

「きたぁぁぁぁぁっ!!」

 

「静かにしろと言っている!」

 

「申し訳ありません!」

 

選ばれた二人は固く握手を交わす。

 

「必ず成功させよう」

 

「ああ」

 

「アルト様の王都初ライブを」

 

「我々の手で守るんだ」

 

その目には。

 

王国を守る騎士としての使命感と。

 

アルトの王都初ライブを間近で見られる喜びが、同じくらい輝いていた。

 

 

そして翌朝。

 

王都管理局から、正式な許可証が届いた。

 

『催事名――歌唱及び舞踊の披露』

 

『申請者――旅芸人一座代表、エマ』

 

『演者――アリア』

 

『開催場所――王都西部噴水広場』

 

書類を読み終え。

 

俺は思わず両手を上げた。

 

「やったぁ!」

 

「許可が下りた!」

 

「おめでとうございます、坊ちゃま」

 

エマが微笑む。

 

「やりましたね!」

 

リナも嬉しそうに跳びはねている。

 

「これで堂々とライブができます!」

 

「うん!」

 

ライブは明日。

 

歌う曲は三曲。

 

一曲目。

 

新しい場所へ踏み出すための曲。

 

『First Step』

 

二曲目。

 

ミリリンのデビュー曲。

 

『君のハートをズッキュン♡ばっきゅん!』

 

そして最後は。

 

俺が前世で何度も救われた、大切な曲。

 

『Smile again』

 

三曲とも。

 

俺がこの世界へ届けたいと思っていた歌だ。

 

広場に舞台は作らない。

 

派手な光の演出も使わない。

 

氷の舞台もない。

 

そこにあるのは。

 

歌と。

 

踊りと。

 

俺自身だけ。

 

それで。

 

見ず知らずの人達に、どこまで想いを届けられるのか。

 

期待と同じくらい、不安もあった。

 

屋敷の皆は、俺のことを知っている。

 

俺がルミナス家の子だから。

 

ずっと見守ってくれていたから。

 

俺の歌を、笑顔で受け入れてくれた。

 

リリィもそうだ。

 

俺のためにアリアという名前を考え。

 

俺がアイドルとして歩むことを、一番近くで応援してくれている。

 

だけど。

 

王都の人達は違う。

 

俺のことも。

 

アリアのことも。

 

アイドルという存在すら知らない。

 

歌っても。

 

誰も足を止めてくれないかもしれない。

 

冷たい目で見られるかもしれない。

 

最後まで聴いてくれる人が、一人もいないかもしれない。

 

それでも。

 

「アルトちゃん」

 

母様が俺の前へ膝をつく。

 

「不安?」

 

「……少しだけ」

 

正直に答えた。

 

母様は優しく微笑み、俺の頬へ手を添える。

 

「大丈夫よ」

 

「アルトちゃんが楽しんで歌えば、その気持ちはきっと誰かへ届くわ」

 

「母様」

 

「お前なら大丈夫だ」

 

父様も、俺の肩へ手を置いた。

 

「最初から全ての者へ届かなくてもいい」

 

「まずは一人」

 

「お前の歌を聴いて、笑ってくれる者がいれば」

 

「それは立派な一歩だ」

 

「……はい」

 

不思議と。

 

胸の中にあった不安が、少しだけ軽くなった。

 

最初から、大勢を笑顔にしなくてもいい。

 

まずは一人。

 

たった一人でも。

 

俺の歌を聴いて、笑顔になってくれたなら。

 

そこから始めればいい。

 

「よし!」

 

俺は勢いよく立ち上がる。

 

「やります!」

 

「王都での初ライブ!」

 

「皆を笑顔にしてきます!」

 

母様が満面の笑みを浮かべる。

 

父様も力強く頷いた。

 

「頑張れ、アルト」

 

「はい!」

 

いよいよ明日。

 

王都の片隅で。

 

この世界ではまだ誰も知らない、アイドルの歌が響き始める。

 

そして。

 

一人の少女――アリアの。

 

本当の意味での最初の一歩が、始まろうとしていた。

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