あべこべ貞操逆転世界のミステリアス清楚系お兄さんの性癖がやばかった話   作:フェルナンデス

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お兄さんのパンツ

 

 

 

目が覚めた瞬間に、昨夜のことを思い出した。

 

——最悪だ。

 

私は布団の中で頭を抱えた。スマホを見ると六時十分。カーテンの隙間から春の朝日が細く差し込んでいる。

 

頭の中で昨夜見た光景が何度でも再生される。

 

タオルを、手に持ったまま。まだ巻いていなかった。

つまり——

白い肌。鎖骨のライン。細い腰。全部、全部、視界に入った。

しかも一瞬じゃなかった。脳が状況を理解するまでの数秒間、私はしっかりと、見ていた。

 

布団を頭から被った。

 

——見た。見てしまった。あの人の、全部を。

男の人の裸を見てしまうことがどれだけのことか、異性経験のない私にだって分かる。それが親戚で、今日初めてちゃんと会った人で、しかも十歳上で——

 

枕に顔を埋めて、声にならない叫びをもう一度押しつけた。

でも腹は減る。それが現実というものだった。

 

恐る恐るドアを開けると、キッチンから音がした。

包丁の音。それから、かすかに出汁の匂い。

楓さんは、いた。

今日もエプロン姿で、鍋をのぞいていた。白いシャツの袖をきっちり折り上げて、細い手首が動く。

 

「おはよう」

 

振り向きもせず言った。

 

「……お、おはようございます」

 

私は声が裏返らないように気をつけながら椅子を引いた。

 

楓さんは何も言わなかった。昨夜のことに触れる気配が、一切なかった。

 

——謝らないと。

 

「…あ、あの」

 

「うん」

 

「昨夜……本当に申し訳ありませんでした。ノックしないで開けてしまって」

 

深々と頭を下げた。

楓さんは鍋をかき混ぜながら、こちらを振り向かずに言った。

 

「別に」

 

「でも、あの、見てしまいましたし——」

 

「親戚だから気にしない」

 

それだけだった。

卵焼きを皿に移しながら、楓さんは付け加えた。

 

「それに——覚えてないかもしれないけど、昔一緒にお風呂に入ったことあるよ」

 

私は固まった。

 

「……え」

 

「蒼空が四歳くらいのとき。親戚の集まりで」

 

「そ、それは、四歳の話であって——!」

 

「同じでしょ」

 

楓は涼しい顔で、卵焼きの皿を蒼空の前に置いた。

 

…同じじゃない!絶対に同じじゃない!

 

私は耳まで赤くなりながら、味噌汁を口に運んだ。

 

卵焼きと味噌汁と、白いご飯が並んだ。

楓さんは向かいに座って、黙って箸を取る。

その所作が、朝の光の中で妙に絵になった。

細い指。きれいな爪。卵焼きをひとつ口に運ぶ横顔。

睫毛が長い、とぼんやり思った。朝なのに、整っている。乱れがない。

 

——綺麗な人だな。

 

「大学、今日から?」

 

 楓さんが言った。

 

「あ、はい。今日、入学式です」

 

「そう」

 

それだけだった。でもなぜか、それだけで十分な気がした。

 

食後、食器を洗って部屋に戻ろうとした。

楓さんが全部洗おうとしていたが、全てやってもらうのは申し訳なく、洗い物だけはさせてもらった。

 

廊下を通りかかったとき、洗面所の横にある小さなランドリースペースが目に入った。

楓さんが洗濯物を干していた。

 

シャツ、タオル、スラックス——そして。

白いブラが、一枚。

細いレースが縁に沿っていて、胸元に小さな刺繍の花が一輪ついている。

私は思わず足を止めた。

楓さんはこちらに気づかないまま、丁寧にハンガーに通している。細い指が、レースの縁を整える。

 

——あれを、毎日つけているのか。あの人が。

 

昨夜の記憶が、違う角度から蒸し返された。全裸だった。ということは昨夜は、あれを外した後だったということで——

 

「何か用?」

 

楓さんがこちらを見た。

 

「っ、な、なんでもないです!」

 

私は全力で部屋に戻った。

ドアを閉めて、床に座り込む。

 

——見るんじゃなかった。でも目に入った。でも。

 

花の刺繍が、頭から離れない。

 

 

────────────────────────────

 

 

入学式は、つつがなく終わった。

広い講堂、知らない顔ばかり、学長の長い話。隣に座った女子学生と少し話した。田辺という名前だった。同じ学部で、はきはきした話し方をする子だった。

 

式が終わって学食に向かいながら、田辺が言った。

 

「蒼空って、彼氏いたことある?」

 

いきなりすぎて蒼空は一瞬止まった。

 

「……まあ、いたよ。…いまはいないけど。いまは」

 

嘘だった。一度もいない。小学校の運動会以降、異性と手を握ったこともない。でも恥ずかしくて、正直に言えなかった。

 

「やっぱり! なんかそういう雰囲気あるもん」

 

「そう?」

 

「うん。蒼空ってイケジョじゃん。モテそう」

 

私は曖昧に笑った。モテる、かどうかは分からない。ただ、顔立ちがきつめで背が高いせいか、近寄りにくいと言われることは多かった。でも、イケジョと言われて嫌な気分はしない。

 

「私ね、大学で彼氏作りたくて」

 

田辺が声をひそめた。

 

「だから、男の子いたら紹介してよ。蒼空、目が肥えてそうだし、男の子の知り合いいっぱいいそうだし」

 

…男の子の知り合いなんて全くいない。

 

「目が肥えてるかは知らないけど」

 

「蒼空はどんな人がタイプなの?」

 

少し考えた。

 

「……清楚で、静かで、料理できる人、とか」

 

「おー、なるほど!」

 

田辺が笑った。

 

「なんかもう、その人のことが浮かんでるみたいな言い方じゃん(笑)」

 

「う、浮かんでないって!」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとに!」

 

田辺はにやにやしながら、「まあいいけど」と言った。  

 

「入学式に来てた農学部の三番目の列の子、かわいくなかった?」

 

「うーん、あんまり覚えてないな」

 

田辺に言われて入学式を思い出そうとする。でも正直、あまり頭に入っていなかった。

 

——楓さん、今ごろ何してるんだろう?

 

翻訳の仕事、と言っていた。フリーで。ということは今も家にいる。あの細い指でキーボードを打っているんだろうか。

私は首を振った。大学デビューしにきたのに。新しい友達を作りにきたのに。なんで居候先のいとこのことを考えているんだ。

 

帰り道、スマホに一件メッセージが入っていた。

楓さんからだった。

 

『夕飯、何時に帰る』

 

短い。でも、それだけで胸が跳ねた。三秒悩んで、『六時ごろです』と返した。  

既読がついて、返信はなかった。

 

 

────────────────────────────

 

 

六時ちょうどに玄関を開けると、いい匂いがした。

 

今日は何だろう?

 

「おかえり」

 

楓さんがキッチンから顔を出した。エプロン姿で、前髪が少し額にかかっている。夕方の光の中で、その輪郭が柔らかく見えた。

 

「……ただいま、です」

 

テーブルを見て、私は目を丸くした。

ホタテのクリームパスタ、カプレーゼ、コンソメスープ。  それから——テーブルの端に、細長い瓶が一本。

ラベルにキャラクターが描いてある。

 

「……シャンメリー?」

 

「入学祝い」

 

楓さんは言いながら、グラスにワインを注いだ。深い赤色が、グラスの中で揺れる。

 

「お酒飲めないだろうから」

 

「そ、そうですけど……でも、シャンメリーって、子ども用じゃないですか」

 

「子どもじゃないの?」

 

楓さんがこちらを見た。涼しい顔で。

 

「子どもじゃないです! 十八です!」

 

「未成年でしょ」

 

言い返せなかった。

むっとしながらシャンメリーを注いだ。しゅわしゅわと泡が立つ。甘い匂いがした。

楓さんはワインのグラスを持ち上げて、軽く掲げた。

 

「入学おめでとう」

 

「……ありがとうございます」

 

グラスとシャンメリーが、小さな音を立てた。

楓さんがワインを一口飲む。その仕草が、なんか、大人だった。グラスを持つ細い指。喉元をかすかに動かす横顔。

 

——大人の男性だ、この人。

 

当たり前のことを、今さら強く感じた。私はシャンメリーで、この人はワインで。それだけのことなのに、なぜか胸の奥がじわっとした。

 

しばらく黙って食べていると、楓さんが言った。

 

「今日はどうだった」

 

「あ、まあ……入学式だったので。友達はちょっとできたかな、と」

 

「そう」

 

また短い。でも否定も流しもしない。ただ聞いている、という感じがした。

パスタが美味しかった。クリームがしっかり絡んでいて、ホタテが柔らかかった。

 

「……なんで、こんなに豪華なんですか」

 

 

思わず聞いた。

楓さんは少し考えてから、言った。

 

「入学日だから」

 

それだけだった。

 

「……ありがとうございます」

 

しばらくして、楓さんがワインを一口飲んでから、何気なく言った。

 

「彼氏、できた?」

 

フォークを止めた。

 

「……え?」

 

「大学デビューだから」

 

からかっているのか、本気で聞いているのか、表情からは読めなかった。いつもの涼しい顔で、グラスを持ったまま、こちらを見ていた。

 

「で、できてないです! 今日入学式だったんですけど!」

 

「そう」

 

楓さんはそれだけ言って、視線を皿に戻した。興味を持って聞いたわけでもなさそうで、かといって完全に流したわけでもない。ただ、軽かった。

 

——軽い。

 

パスタを口に運びながら、その軽さが少しだけ、引っかかった。

彼氏ができたか、と聞く。まるで、妹に聞くような。私のことを、ひとりの女として見ていない——そういう気軽さだった。

 

——子どもだと思ってるんだ。やっぱり。

 

腹が立つわけじゃない。でも、なんというか。

 

——もう少し、ちゃんと見てほしい気もする。

 

その思考に気づいて、私は慌てて打ち消した。何を期待しているんだ私は。

 

食器を下げながら、私はそっと楓さんの横顔を盗み見た。洗い物をする横顔。細い首筋。シャツの第一ボタンを外した鎖骨のあたり。

——綺麗だな、また思った。

清楚で、色っぽくて、ミステリアスで。シャンメリーを用意してくれて、でも子ども扱いして、入学日だからと豪華なご飯を作った。

 

…一ヶ月、無事に終わるだろうか。

 

その答えは、たぶん、自分が一番よく分かっていた。

 

 

────────────────────────────

 

 

同じ頃、楓は洗い物をしながら、小さく考えていた。

 

今朝のことを、順番に思い返した。

謝りに来た。頭を下げて、耳まで赤くして。「見てしまいました」と言ったときの声が、少し震えていた。

 

——可愛かった。

 

思ってから、少し止まった。可愛い、という感想は今まで抱いたことがなかった。面白い、とか、いい反応だ、とか、そういう言葉しか使ってこなかった。

 

でも今朝のあれは——可愛かった。

昔一緒にお風呂に入ったと言ったときの、「同じじゃない!」という顔も。ランドリースペースで目が合って、全力で逃げていったのも。

 

水を止めて、タオルで手を拭いた。

この子は本当に、全部が顔に出る。隠せない。逃げる。でもたぶん、目は離していない。

窓の外の暗くなった空を見た。

 

…一ヶ月か。

 

短いかもしれない、と思った。

 

 





身体的特徴について
この世界の男性は、成長とともに胸部が敏感になります。
また、女性ではなく男性の胸から乳が分泌されるため、授乳は男性が担います。育児全般も男性の役割とされており、女性は出産のみを担当します。

下着について
男性の胸は刺激からの保護と授乳の必要性から、ブラジャーを着用します。男性用ブラはレースや刺繍など装飾性の高いデザインが一般的で、胸を美しく包み込むことを重視して作られています。一方、女性用ブラは運動時の揺れを防ぐ機能性のみを重視したシンプルなものが主流です。
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