二天閻羅王の息子に生まれたので久遠の落日を完遂したい(したくない) 作:HIDEMASA
"闇"(やみ)とは殺人拳こそ真髄を掲げる武闘派秘密結社。
闇はその派閥を大きく二つに分かれていた。
即ち武器を扱い戦場の理で生きる慈悲無き刃、武器組。
そして徒手格闘、即ち無手の誇りを持って敵対者を屠る無情の拳、無手組。
武器と無手。二大派閥は反目し合いながらも不干渉を貫いていた。
…これまでは
暗闇。
そこには一人の老人がいた。
いや。
老人と呼ぶには、その眼光はあまりにも鋭く。
巨岩のような肉体には衰えなど微塵も見えない。
長く伸びた髪。
獣の如き髭。
そして腰に帯びられた二振りの刀。
大自然と一体化したかのような雄大な気は神仏を彷彿とさせた。
男の名は――
世戯煌臥之助。
武器組最高機関『八煌断罪刃』を束ねる棟梁。二天閻羅王その人である。
その男の前に、一人の女が座していた。
若く美しい。
透き通るような白い肌を露出度の巫女装束で包んでいる。
長い黒髪。妖しいまでの美貌。
しかし、その実年齢は九十を超える。
無手組最強の集団である一影九拳。「流水」を意味する「水」の九拳、櫛灘美雲。
「……無事生まれたか」
老人の声に。
美雲はゆっくりと笑う。
「うむ。これで計画も先に進もうというもの」
二人の視線の先。
そこには、生まれたばかりの赤子とその傍に控えるように微動だにせぬ女がいる。
煌臥之助が目を細め赤子を見つめる。
「…『久遠の子計画』か」
「そうじゃ。ワシの血とヌシの血を掛け合わせ生れ出た久遠の子」
美雲が口に笑みを浮かべる。
「無手と武器。双方が手を携えるための神輿にして楔。それがこの赤子、『世戯玄雲』よ」
「ふん、そのような楔など無くとも我ら武器組は八煌断罪刃の下、統制されておる」
老人の眼からその身に秘めた莫大な気が眼光として零れ落ちる
武を極め達人を超え『超人』の領域にまで達したその男の威光に逆らう事など少なくとも闇の武器使い達には不可能なことであった。
「しかし、美雲よ。貴様の協力の御蔭で、我は漸く後継を得るやもしれん」
老人は感慨深く息を吐いた。
「…我が種は
「しかし“闇(やみ)”の最新の技術と貴様の血。その双方によって漸く我が種が芽吹いた」
「感謝する。この恩は、決して忘れぬ」
「気にするな、とは言わぬ。全ては『久遠の落日』の為」
「その達成の為に、武器組の全総力を持って当たってもらうぞ二天閻羅王よ」
…その二人のやり取りを赤子は黙って見つめている
「…………」
泣かない。
ただ、その小さな瞳だけが。
静かに二人を見上げていた。
「泣かぬの」
「肝の据わった赤子じゃ」
美雲が笑う。
しかし。
煌臥之助の眼だけは鋭かった。
「…よもやと思ったが、見えておる。」
「この赤子は。」
「……?」
「生まれた時より、既に世界が見えておる。」
――なんだここ。
――いや待て。
――え?
――赤ん坊?
(ちょっと待て!!俺、死んだよな!?)
(なんで赤ん坊になってんだ!?)
(ていうか!!)
(なんだこのジジイ!?)
(熊か!?)
(いやーーー「少し黙れ」
(…は?今こいつ俺の頭の中を読んでーーー)
煌臥之助は赤ん坊に顔を近づけ睨みつける。
そして少しだけ息を吐くと目の前の赤ん坊にだけ聞こえるよう発声をし始めた。
肺に特殊な振動を与えることで特定のものにのみ聞こえる超音波を発する、まさに人を超えた秘儀である。
『儂は永く、生きた。貴様のようにはっきりと彼岸のことを覚えた魂は稀だが居なかったわけではない』
『いずれ薄れ、消えゆく定めだろうが。これだけは言っておくぞ』
瞬間、世界中から呪われたような感覚が赤ん坊を包んだ。
『貴様の肉体は我が後継、儂の全てを継ぐ者。一片でもその邪魔をしたと判断した瞬間、消す』
『輪廻にすら還さん。よく覚えておけ』
煌臥之助は顔を上げ、少し息を吐き殺気を解いた
その瞬間、止まっていた時間が動き出したかのように赤ん坊が針で全身を刺されたかのような、あるいは燃え盛る火の中に
投げ込まれたのかのような凄惨な泣き声を放ち始めた
彼は魂で理解した。自分は地獄で産声をあげたのである。
その泣き声に眉を顰め美雲…遺伝子上の母親はその赤子の父親を見上げた。
「…何の真似じゃ?」
「良くないものが憑いていたのでな。少しばかり脅したまで」
その言葉を聞いて軽く肩をすくめ溜息を吐いた、がそういう事もあるのだろうとそれ以上の詮索を終える
美雲にとっては目の前の赤子は自身の野心の為、無手組の自分が真に武器組と手を組むための神輿であり、武術的な研究対象に過ぎなかった。
次第に泣き声に辟易としたのであろう、赤子の傍で控える闇人、一人の女に声をかけた
「静華。はよう泣き止ませよ。うるさくて敵わん」
「…はっ」
赤子の傍に控えていた女、雨宮静華は赤ん坊を素早く抱き寄せあやし始めた。
少し時間が掛ったが次第に赤ん坊の泣き声は止んでいく。
「うむ、やはり産みの親よのう。胎を借りただけじゃと思うていたが中々どうして」
煌臥之助は静華を見つめ重々しく口を開いた
「静華、良くやった。忠節褒めて遣わす。我が息子、玄雲をよくぞ産んだ」
「…ありがたき幸せ」
静華は赤子、世戯玄雲を抱いたまま深々と頭を下げた。
「貴様に乳母として我が息子の世話を命じる。必要なものは全て申すがよい」
「大任、必ずや!」
王と家臣そのもののやり取りを見つめながら美雲は目を細め口を開いた。
「わしらの玄雲を育て上げる報酬じゃ。静華、貴様に我が延年益寿法の一端を授ける」
「更に我が櫛灘流柔術の秘伝を伝授しよう。貴様の雨宮流捕手小具足術にうまく取り入れてみせよ」
静華は顔を上げ笑みを広げかけたが美雲の目が極寒の冷気を放っていることに気づき青ざめた。
「ゆめ裏切らぬことじゃ。貴様にはそれだけのものを与えるのだからのう」
「は、ははぁっ…!!」
静華は土下座に近い体勢で平伏し、そのまま微動だにしなくなった
「…実力は達人には及ばぬが、静華は先祖代々仕える我が譜代の家臣。手足も同然ぞ」
不快そうに老人は美雲を睨みつけるが意に介した様子もない
「人を真に突き動かすのは死と絶望じゃ」
「代々の忠義に加え死の恐怖と絶望を与えた。これでもう万が一にも裏切ることはなかろう」
「なにせ玄雲は無手と武器を繋ぐ“久遠の子”」
赤ん坊を覗き込む美雲の眼には一片の情愛は浮かんではいなかった。
「万が一があってはならん」
「…分かっておる。美雲よ。今この瞬間から貴様は我が同志」
「うむ、全ては《久遠の落日》その成就の為」
「非武人の世を終わらせ武人の世を創るのだ」
「…そう、人は戦の中でのみ、人でいられるのじゃ」
両者は顔を見合わせ、誰ともなく笑い声が響きいつしかそれは哄笑となった。
(…助け、助けてくれ…!!!)
(誰でもいい、だれか俺を、助けてくれぇえええ!!!)
赤子の声なき悲痛な叫びを聞き届けるものは何処にもいなかった。
(いやだ!死にたくない!!消えたくないんだ!!!)
人物紹介
世戯玄雲…
武器組の棟梁、世戯 煌臥之助と一影九拳の一人櫛灘美雲の種と卵を体外受精させて闇人の腹を借りて産ませた闇のサラブレッド。世戯 煌臥之助の後継者にして櫛灘美雲の駒。
ちいかわ…
「ヤダーッ!!」
世戯玄雲に憑依してしまったなんか小さくてかわいそうな魂。略してちいかわ
特に生前は悪いことはしてなかったけど地獄を見る。