二天閻羅王の息子に生まれたので久遠の落日を完遂したい(したくない)   作:HIDEMASA

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研ぎ澄まされる『玄雲』/微睡む『ちいかわ』

東演武場。

 

朝靄の中、木刀を握った少年少女たちが円を作っていた。

 

断罪兵候補。

 

世戯家に仕える兵の卵であり、いずれは太刀と脇差を帯び、武器組の戦場へ投入される若者たちである。

 

その多くは十五歳前後。

 

中には既に大人顔負けの体格を持つ者もいた。

 

だが、その中心に立つ少年だけは十歳だった。

 

世戯玄雲。

 

二天閻羅王、世戯煌臥之助の嫡子。

 

身長は百五十六ほど。

 

年齢からすれば大きい。

 

だが父のような巨躯にはまだ遠い。

 

しかし手足は長く、骨格は既に将来の大柄な体躯を予感させていた。

 

腰には太刀と脇差、懐には十手。いずれも木刀、模造品であるが急所に打てば十分な殺傷力を秘めている。

 

剣士でありながら、捕手の武器を帯びている。

 

それは世戯流兵法、雨宮流捕手小具足術、そして櫛灘流柔術。

 

三つの流れを幼少より浴びて育った玄雲ならではの形であった。

 

「若様」

 

審判役の断罪兵隊長が声をかけた。

 

「本日は十五人抜きにございます」

 

「承知した」

 

玄雲の声は平坦だった。

 

そこに高揚はない。

 

緊張もない。

 

恐怖もない。

 

ただ、戦うべき相手がいる。

 

ゆえに戦う。

 

それだけだった。

 

「一人目、前へ!」

 

十五歳の少年が進み出る。

 

玄雲より頭一つ高い。

 

肩幅もある。

 

木刀を正眼に構え、息を吐く。

 

真剣ではない。しかし、当たり所が悪ければ死に、そうでなくとも骨を折るくらいか障害を負うくらいの怪我は負いかねない。

 

命を懸けてこそ実戦の腕が磨かれる。それがこの場にいる者たちの共通認識であった。

 

「参ります!」

 

「来い」

 

「始め!」

 

少年が踏み込んだ。

 

上段から袈裟。

 

速い。

 

若衆の中でも十分な速度。

 

だが、玄雲は動かなかった。

 

いや、動く必要がなかった。

 

相手が玄雲の間合いへ入った瞬間。

 

木刀が、勝手に動いた。

 

カン、と乾いた音。

 

少年の木刀が横へ滑る。

 

 流し太刀。

 

敵の攻撃を受け止めず、刀身を滑らせて力を逸らす世戯流剣術の基本である。

 

「なっ……!?」

 

少年の姿勢が崩れる。

 

玄雲は半歩入った。

 

 秋猴入り。

 

手より先に身を入れ、敵の懐を奪う五輪の書由来の兵法。

 

気づいた時には、玄雲は少年の胸元にいた。

 

右肩が触れる。

 

指先が袴の布を軽く押す。

 

 水月崩。

 

僅かな接触で重心を奪う櫛灘流柔術。

 

力は要らない。

 

相手が大きければ大きいほど、崩れた時の落差は大きい。

 

「うわっ!?」

 

少年の足が浮き、背中から畳へ落ちた。

 

「一本!」

 

周囲がざわつく。

 

「また一瞬かよ……」

 

「若様、もう十五の連中でも無理じゃないか?」

 

「馬鹿、今日は烈華さんと小夜さんも控えてるんだぞ」

 

その名が出ると、若衆たちの表情が変わった。

 

 神崎烈華。

 

 九条小夜。

 

若衆の中でも特に有望な二人。

 

断罪兵候補の筆頭格。

 

玄雲の側近でもある二人が、本日の最後に控えていた。

 

「二人目」

 

玄雲は淡々と言う。

 

感情はない。

 

彼の中で戦闘とは、喜ぶものでも、恐れるものでもなかった。

 

十歳にして緊湊へ至った弟子級上位。

 

その玄雲が持つ最大の異常性は、才能そのものではない。

 

才能だけならば、活人拳の頂点にして二天閻羅王に並ぶもう一人の最強。

 

無敵超人・風林寺隼人の孫娘、風林寺美羽。

 

そしていずれは一影九拳全ての技を引き継ぐ「一なる継承者」叶翔にも同格のものがある。

 

だが、玄雲は彼らが同年代ではまだ到達していない領域へ既に足を踏み入れていた。

 

 制空圏。

 

自身の攻撃範囲。

 

緊湊に至った弟子級が初めて意識できる、自らの間合いである。

 

そしてその領域に至った弟子級は二つのタイプに分かれる事になる。

 

心のリミッターを外し自身の潜在能力を引き出し、爆発的な気とパワーで戦う動タイプ。

 

そして、それとは正反対に心を常に静め冷静に戦局を見極め戦う静タイプ。

 

そして静タイプの武術家は、この制空圏に入った敵へ自動迎撃を行うことができる。

 

玄雲は典型的な静タイプ。それも抜群の適正を示している。

 

普通ならば迷いがある。

 

 恐怖がある。

 

 怒りがある。

 

 欲がある。

 

 だから反応は濁る。

 

だが、玄雲にはそれがなかった。

 

 完璧な空の心。

 

転生者の心が恐怖に壊れ、生き残るために作り出した、感情を持たぬ殺人剣。

 

 それが『玄雲』である。

 

恐怖しない。

 

怒らない。

 

喜ばない。

 

迷わない。

 

 ただ最善手を選び続ける。

 

その空白こそが、静の武術家としての成長を異常な速度で促していた。

 

「二人まとめて行くぞ!」

 

三人目と四人目が同時に出た。

 

 一人は突き。

 

 一人は横薙ぎ。

 

玄雲は太刀と十手を抜いた。

 

突きに対して、十手。

 

枝で木刀を絡める。

 

 白鷺返し。

 

十手で敵の武器を絡め、小手返しから投げへ繋ぐ雨宮流捕手小具足術の代表技。

 

「ぐっ!?」

 

 手首が返る。

 

少年が膝をつく。

 

もう一人の横薙ぎは、太刀で受けない。

 

 張り受け。

 

強く受けず、僅かに張って相手の太刀筋を乱し、先を取る技。

 

 張られた木刀が跳ねる。

 

玄雲は刀身を離さない。

 

 粘り太刀。

 

敵の太刀へ自分の太刀を貼り付け、相手の動きを殺す静の剣。

 

「離れな――」

 

言い終わる前に、玄雲は懐へ入っていた。

 

 漆膠詰め。

 

密着し、剣も拳も使わせぬ古流兵法。

 

肩と腰を入れ、相手の姿勢を奪う。

 

「うわあっ!」

 

 二人同時に倒れた。

 

「三本、四本!」

 

そこからは早かった。

 

  一拍子斬り。

 

敵が受ける、避ける、打つと思う前に斬る拍子。

 

  紅葉落とし。

 

敵の握りを崩し、武器を落とす技。

 

 面刺し。

 

顔面へ切先を向け、人間の本能的な仰け反りを誘う技。

 

 妖月返。

 

相手の力をそのまま返す櫛灘流柔術の投げ。

 

玄雲は技を見せびらかしているわけではない。

 

ただ、相手が来る。

 

制空圏に入る。

 

最適な技が選ばれる。

 

その結果、倒れる。

 

八人。

 

十人。

 

十二人。

 

十五歳前後の断罪兵候補たちは、次々に畳へ伏した。

 

だが、観客席代わりの縁側に座る年配の武人たちは驚いてはいなかった。

 

彼らは達人。

 

あるいは妙手。

 

ここにはそうした武人が珍しくない。

 

ここは世戯煌臥之助の領地。

 

武器組の聖地。

 

太平の世に居場所を失い、失伝を恐れた殺人剣の末裔たちが集う場所である。

 

十歳の玄雲は確かに異常な才を見せている。

 

だが、それでも彼らから見れば若木。妙手にも届かぬ弟子級であった。

 

「若様もよう育ったのう」

 

「若衆ではもう敵なしじゃな」

 

「いや、まだ二人残っておる」

 

老人の一人が顎で示す。

 

円の外。

 

腕を回しながら笑う長身の少女。

 

神崎烈華。

 

十六歳。

 

身長百七十七。

 

 動タイプ。

 

豊かな体格と豪快な気性を持ち、断罪兵の女性候補たちから憧れられている少女である。

 

「若様!」

 

烈華は太刀を担ぐように構えた。

 

「ここからが本番ですよ!」

 

その隣。

 

静かに木刀を構える黒髪の少女。

 

九条小夜。

 

十五歳。

 

 静タイプ。

 

白い肌と整った所作を持ち、世戯流の理を忠実に修める若衆筆頭の一人。

 

「若様」

 

「烈華さんだけでは危ういので、私も参ります」

 

「ちょっと小夜、それどういう意味さ?」

 

「そのままの意味です」

 

「ひどっ!」

 

若衆たちから笑いが漏れた。

 

玄雲は二人を見る。

 

「来い」

 

「はい!」

 

「参ります」

 

号令は要らなかった。

 

烈華が先に動いた。

 

「火雷!!」

 

 火雷。

 

大きく踏み込みながら全身の力を乗せて放つ烈華の袈裟斬り。

 

技術より勢い。

 

だがその勢いが凄まじい。

 

 ガキィン!!

 

玄雲の木刀が初めて大きく鳴った。

 

 

受け流しきれない。

 

体格差。

 

年齢差。

 

動タイプの爆発力。

 

玄雲の足が一歩下がる。

 

「おおっ!」

 

「烈華さんが押した!」

 

「流石!」

 

 烈華は笑う。

 

「若様! 今日は勝ちます!」

 

 だが、その瞬間。

 

背後から小夜が入っていた。

 

 水鏡。

 

最小限の動きで攻撃を避け、相手の死角へ移る静の歩法。

 

 小夜の木刀が、玄雲の首筋へ迫る。

 

玄雲は首を傾けた。

 

 紙一重。

 

避ける。

 

 だが完全ではない。

 

 黒髪が一房散った。

 

歓声が上がる。

 

「小夜さんが掠めた!」

 

「若様の髪を!」

 

 玄雲の瞳は揺れない。

 

 だが、制空圏は二人を完全には処理できていなかった。

 

 烈華の動。

 

 小夜の静。

 

 力と理。

 

 陽と陰。

 

 二つが噛み合っている。

 

前から烈華。

 

後ろから小夜。

 

玄雲は初めて守勢に回った。

 

「崩岩!」

 

 崩岩。

 

体当たりから斬り上げへ繋ぐ烈華の力技。

 

まともに受ければ十歳の身体では耐えきれない。

 

玄雲は受けない。

 

 身先入り。

 

身を先に入れ、太刀を後から通す兵法。

 

斬撃を避けながら烈華の懐へ、玄雲の身体が入る。

 

「近っ!?」

 

後は、斬撃に移るもよし、投げるもよし、崩すもよし

 

「身を先に入れ、太刀は後から来る」

 

宮本武蔵が五輪の書に記した兵法であり歩法である。

 

しかし、小夜がそれを読んでいた。

 

  張り受け。

 

軽く張って先を取る世戯流剣術の受け。

 

小夜の木刀が、玄雲の太刀を押さえる。

 

「烈華さん、今です」

 

「分かってるよ!」

 

 二人の連携。

 

玄雲は十手を抜いた。

 

 カン。

 

烈華の太刀を十手で絡める。

 

 白鷺返し。

 

武器を絡め、小手を返し、投げへ繋ぐ雨宮流の捕手技。

 

「うわっ!?」

 

烈華の手元が乱れる。

 

しかし小夜が再び入る。

 

 流し太刀。

 

敵の攻撃を滑らせ、力を逸らす世戯流剣術の防御。

 

玄雲の十手を小夜が流した。

 

「……」

 

玄雲の瞳が、僅かに細まる。

 

感情ではない。

 

評価だった。

 

二人は強い。

 

今の若衆で最も有望。

 

制空圏だけでは押し切れない。

 

ならば。

 

玄雲は一歩下がった。

 

 初めて自ら間合いを作る。

 

烈華が踏み込む。

 

小夜が脇を塞ぐ。

 

その瞬間。

 

玄雲は太刀を下げた。

 

 無念無想の打ち。

 

考えて打つのではなく、身と心が自然に打つ境地に近い技。

 

まだ完全ではない。

 

だが、空の心を持つ玄雲は、その入り口へだけは触れていた。

 

ーーー玄雲の制空圏が拡大し、そこに二人の木刀が触れた瞬間。考えるより先に体が動き出す!

 

烈華の太刀を流す。

 

小夜の張り受けに粘る。

 

 粘り太刀。

 

刀身を貼り付け、相手の太刀筋を殺す静の剣。

 

そこから一息。

 

 龍鳳連理。

 

流し太刀、もしくは粘り太刀。

 

そこから水月崩。柄打ち。投げの連携で制圧を行う。

 

玄雲を象徴する連続技である。

 

 敵からすれば、受けられたと思った瞬間には地に伏している。

 

「きゃっ!」

 

「……っ!」

 

 烈華が畳へ転がる。

 

 小夜も膝をつく。

 

 玄雲の十手が、二人の首元と手首を同時に制していた。

 

 沈黙。

 

 やがて隊長が声を上げる。

 

「十五人抜き、達成!」

 

 一拍置いて、演武場が沸いた。

 

「若様!!」

 

「若様万歳!」

 

「やっぱり若様だ!」

 

 烈華は大の字に寝転がった。

 

「あー! また負けた!」

 

 小夜は正座して、軽く息を整える。

 

「ですが、今日は一房いただきました」

 

「小夜、そういうところ地味に負けず嫌いよね」

 

「烈華さんほどではありません」

 

 玄雲は太刀と十手を納める。

 

「二人とも、強くなった」

 

 その言葉に、烈華が跳ね起きた。

 

「若様が褒めた!」

 

「小夜! 若様が褒めた!」

 

「はい。聞こえています」

 

 小夜の頬も、わずかに緩んでいた。

 

 玄雲の表情は変わらない。

 

 だが、精神の奥。

 

 かつて壊れた小さな転生者の心。

 

 彼は5年の歳月を得て徐々に10歳近くの精神にまで成長していた。

 

『やった!僕たちの勝ちだ!!』

 

『武術ってやっぱり面白いね、玄雲!』

 

 その声が表に出ることはない。

 

 けれど確かに、彼は少しずつ回復していた。

 

 『玄雲』に守られ。

 

 静華に愛され。烈華と小夜に囲まれ。

 

 壊れた心は、年月相応の子供らしさを得つつあった。

 

 その日を境に、玄雲は少しずつ屋敷の外へ出ることを許された。

 

 若衆十五人抜き。

 

 それは単なる稽古の成果ではなく、若君が一人で領内を歩くに足ると認められた証でもあった。

 

 最初は演武場の周囲。

 

 次に鍛冶場。

 

 それから市場。

 

 港。

 

 田畑。

 

 神社。

 

 山道。

 

 烈華が先導し、小夜が後ろを守り、時には静華が同行した。

 

 玄雲は見た。

 

 太刀を打つ鍛冶師。

 

 矢を削る老人。

 

 槍を振る若者。

 

 薙刀を教える女達。

 

 髪を三つ編みにしている鎖鎌を操る男。

 

 断罪兵の集団戦。

 

 妙手級の教官。

 

 さらにその奥で、達人と呼ばれる怪物たちが静かに稽古をしている。

 

 ここには武が満ちていた。

 

 それも表社会の武ではない。

 

 人を殺すための武。

 

 戦場で勝つための武。

 

 逃げる敵を討つ武。

 

 捕らえた敵を主君の前へ引きずり出す武。

 

 そして、ある日。

 

 港の高台に立った時。

 

 玄雲は初めて、世界の端を見た。

 

 海。

 

 どこまでも広がる海。

 

 その向こうに何も見えない。

 

「……ここは島だったのか」

 

『そんなこと気にしてる暇なんてなかったもんね』

 

 玄雲は地図を見る。

 

 世界地図。

 

 日本地図。

 

 海図。

 

 だが、そこにこの島の名は無かった。

 

      天断島。

 

 地図に載らぬ島。島の者たちはここをそう呼ぶ。

 

 闇の武器組が秘匿する聖地。

 

「静華」

 

 夕暮れ。

 

 世戯家の縁側。

 

 玄雲は静華へ問うた。

 

「ここは何だ」

 

 静華はしばらく黙っていた。

 

 そして、ゆっくりと口を開く。

 

「若様も、もう十歳になられました」

 

「ああ」

 

「ならば、お話し致しましょう」

 

 潮風が庭の竹を揺らす。

 

 静華は玄雲の髪を梳きながら、静かに語り始めた。

 

「まず島の成り立ちを話す前に、迂遠ですが雨宮流捕手小具足術の歴史をお話いたします」

 

「雨宮流捕手小具足術は、室町の頃に生まれた流派です」

 

「城内を守り、忍びや間者を生きたまま捕らえるための武術」

 

「十手、小太刀、組討、縄術」

 

「それらを一つにしたものです」

 

「生かすのか」

『活人拳みたいだね』

 

活人拳。即ち活人を旨とする道であり、殺人拳とは対極の思想。

いかなる状況であろうとも決して敵を殺さない、不殺の信念。その真髄は「殺されても殺さない」、自己犠牲の精神にあるとされている。

 

「はい。一見、活人の技に見えるでしょうね」

 

 静華は頷く。

 

「ですが、活人ではありません」

 

 玄雲は静華の太ももから顔を上げる。

 

「捕らえた間者は、主君の前へ引きずり出されます」

 

「全てを吐かされ」

 

「その後、生きて帰ることはまずございません」

 

「敵をその場で斬らないのは慈悲ではありません」

 

「主君のために必要だからです」

 

「ゆえに雨宮流は、殺さず逃がさぬ殺人剣」

 

 静華の声は穏やかだった。

 

 だが、その内容は冷たい。

 

「江戸の世になり、戦は消えました」

 

「表の雨宮流は城内警備や町方へ技を伝え、やがて市井に下った者達は明治に入り警察の逮捕術にも関わりました」

 

「ですが」

 

「その過程で、雨宮流は人を助ける技として扱われるようになったのです」

 

「違うのか」

 

「違います」

 

 静華ははっきりと言う。

 

「敵を生かすのは、主君のため」

 

「雨宮流の本質はそこにあります」

 

「二百年ほど前」

 

「我が祖、雨宮景之介は、本来の雨宮流が失われることを恐れました」

 

「そして闇へ入り」

 

「二天閻羅王様と出会われた」

 

「父上と」

『あの人、普通に数百年生きてるんだ…』

 

げんなりとした内からの声を聞いてるのかいないのか

 

一瞬、静華は口に笑みを浮かべ遠くを見上げる。

 

「この御方ならば、千年先まで武を残せる。雨宮景之介の言葉です」

 

「そうして実際、表の世界の雨宮流捕手小具足術は最早文献に名前を残すのみ」

 

「市井に散った分家の者達も過去に武家であったことだけを僅かに伝え後は忘れていると聞きます」

 

「ですが、若様」

 

()()()雨宮家だけではありません」

 

 静華は庭の向こう。

 

 さらにその先にある島を見た。

 

「槍術」

 

「弓術」

 

「薙刀術」

 

「鎖鎌術」

 

「甲冑組討」

 

「小太刀術」

 

「その他にもたくさん」

 

「太平の世に居場所を失い、殺人剣としての技を失うことを恐れた武人達が、二天閻羅王様の武名を求め、この島へ集いました」

 

「その子孫達が、今の島民です」

 

 玄雲は黙って聞いていた。

 

「ここは、失われた武の国」

 

「天断島」

 

「武器組の聖地」

 

「そして、殺人剣の避難所」

 

 夕日が沈む。

 

 海が赤く染まる。

 

「若様」

 

「久遠の落日とは、ただの野望ではございません」

 

「この島の者達にとっては、切実な願いなのです」

 

「武しか持たぬ者達が武人として生きる場所を取り戻すための」

 

「長い長い悲願」

 

玄雲の瞳に、夕日が映る。

 

戦いたいのではない。

 

殺したいだけでもない。

 

彼らは。

 

生きたいのだ。

 

自分達が自分達でいられる世界で。

 

「……そうか」

 

 玄雲は呟いた。

 

「太平の世に」

 

「彼らの居場所は無いのか」

 

「はい」

 

静華は静かに頷き玄雲の頭を撫でた。

 

静華とて闇の世界を生きる武人。一見、温和なように見えようともその中には修羅がある。

 

だからこそより強くなる為に忠義の為とはいえ女としての自分を犠牲にして玄雲を産みその報酬として櫛灘流柔術の教えを受けているのだ。

 

全ては未熟な自身が雨宮流捕手小具足術継承者として流派の名を汚さぬため。

 

その為にこそ、世界最高の柔術家から技術を吸収し雨宮流捕手小具足術を発展させる。

 

(ですが…)

 

自身の膝の上で微睡む少年を撫でながら静華は逡巡する。

 

このままで良いのか。自身が乳母として育てているこの少年の幸せはどこにあるのか。

 

母としての情が年々強まっていく自分自身の女としての業に静華は力なく笑うしかなかった。

 

自分がどう思い煩おうとも手の届かないところに少年の未来があるのだから。

 

そして『玄雲』も乳母の膝の上で微睡み手慰みに静華の太ももを撫でながら『自分自身』と対話を繰り返していた。

 

『でもさー、そんなの普通に暮らしてる人たちからしてみれば迷惑だよねぇ?』

 

(そうだな)

 

『でしょう?そんなことしなくても皆普通に生きてるんだよ。自分勝手だよお父さんもお母さんも』

 

(ああ、その通りだ。だが…)

 

『だけど?』

 

ーーー『玄雲』が薄く笑った。

 

喜びも楽しみも怒りもそして快楽も。自分ではなく自分が守っている『弟』のものだ。

 

ゆえに剣を大義の為に振るう動機もない。心が空っぽの『玄雲』に震わせる感情など無いのだから。

 

しかし、彼を『殺人剣』として足らしめているものがあるとするのならば。

 

(戦の絶えぬ世。それが実現するとすれば思う存分、『殺人剣(おれ)』を振るえるというものだ)

 

ーーー戦いの愉悦。血を吸う悦楽。

 

転生者が自分自身を守るために生み出した『世戯玄雲』は戦いの日々の中、ゆっくりとだが確実に最高の『殺人剣』としてその妖刀としての本性を磨いていた。

 

 

 




人物紹介
神崎烈華…
動タイプの侍。乳と尻がとてもデカイ。原作では最終決戦時にモブ断罪兵部隊長として出撃して画面外で出撃。敗戦時には殿として奮戦したものの武運拙く敗れた。

九条小夜…
静タイプの侍。乳と尻は並みだがスタイルがとても良いため相対的に大きく見える。
原作では最終決戦時にモブ断罪兵副部隊長として出撃し敗北。隊員を纏めて撤退を指示し
その後部隊長を助けるため戦場に消えた。

二人とも鎧に身を包んだ断罪兵として原作の画面外で国連軍の決死隊と戦い敗北しています。

AI君に挿絵を描いてもらいました。

【挿絵表示】


なぜ書いてもらったかというと次回以降史上最強の弟子ケンイチの二次創作らしくお風呂シーンとかサービスシーンを書くのでイメージしてもらいやすいようにです
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