ハリー・ポッターと龍の終焉   作:葵野原

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ダイアゴン横丁・上

「アサヒ、手紙は持っているな?」

「もちろんさ、兄上」

 

 アサヒは何度も何度も読み返して若干くたびれた手紙を取り出す。そして手紙をほぼ見ずに読み上げていく。

 

ホグワーツ魔法魔術学校

校長 アルバス・ダンブルドア

マーリン勲章、勲一等、大魔法使い………

 

「それではなく教材リストの方だ」

「あ〜」

 

 アサヒは許可証を必要以上に丁寧にしまい、同封されていた教材リストを取り出した。こちらもくたびれているが許可証よりはマシだった。

 海雄はそれを受け取ると、これ以上くたびれないように丁寧に紙を広げ、中身を改めた。

 

「…よし、ダイアゴン横丁に行けばすべて揃うな」

「ここってイギリス魔法界の買い物場所だよね?兄上は場所、知ってるの?」

「当然だ。でないと俺がついてきた意味がない」

 

 それはそう。アサヒはそう思い、愚問だったと反省する。

 遊園地が楽しみで眠れない子どものように寝不足で、頭が回っていないようだった。昨夜、彼が眠りにつけたのは短い針が4に差し掛かる頃だった。

 海雄はアサヒの寝不足でうっすら悪い顔色を見咎めながら双子に手を差し出す。

 

「姿現しで近くまで行く。俺に捕まれ」

「直接行かないの?」

「姿現しには免許がいる。ダイアゴン横丁に入る正規の方法を知らないと困るだろう」

 

 アサヒは自分の頭が使い物にならないことを思い出し、しばらく口を噤むことを誓った。

 しかし、その誓いもすぐに忘れてしまった。なぜなら…

 

「おえ…」

 

 胃が裏返るような感覚に、アサヒは思わずえづいた。いつもならここまで気分が悪くなることもなかったかもしれない。しかし、彼は寝不足だった。

 姿現しでバラけたりはぐれたりするような致命的なアクシデントに見舞われることこそなかったが、アサヒはしばらくヨヅキに背負われて移動することになった。

 海雄は彼らの護衛を兼ねてるので両手を塞ぐわけには行かなかったし、片手で持ち上げられるアサヒのプライドを考慮してこの形に落ち着いた。

 

「体重をかけないで」

「無理…」

 

 裏路地に姿現しをした一行はちっぽけで薄汚れたパブにつく。

 

「っはー…やっと落ち着いた。もう降ろしていいよ」

 

 ハリー・ポッターの始まりと言ってもいい場所、漏れ鍋だった。憧れの物語に登場した場所に来られたという興奮で、アサヒの胸が跳ねる。グロッキーになっていたのがウソのようだ。

 海雄が2人に先導して店のなかに入り、2人もその背中を追いかける。

 

「見ない顔だな、一杯やってくかい?」

「いや、遠慮しておこう」

 

 店内はガヤガヤ大騒ぎだった。海雄は一瞬眉を顰め、パブを通り抜けようとする。

 

「ああ、ダイアゴン横丁に行くのかい?なら会えるかもしれないな…」

「誰に?」

「そりゃあ……」

 

 ディーダラス・ディグルがもったいぶるようにそこで言葉を止め、酒を口に含んだ。すると、待ちきれなくなったドリス・クロックフォードが叫ぶ。

 

「ハリー・ポッターさ!!!」

 

 その瞬間、店内が爆ぜたように沸き立った。ビールが宙を舞い、笑い声が壁を震わせる。店のボルテージは上がる一方だった。客はビールを浴びたり、かけたり、踊り出したりした。

 

 アサヒたちはそそくさと喧騒から逃れるようにパブを通り抜け、中庭に出た。ゴミ箱と雑草だけの、粗末な庭だった。

 

「ハリー・ポッターって?」

 

 ヨヅキが問いかける。

 

「イギリス魔法界の英雄…お前たちと同い年だ。しかし、英雄になった時、彼は赤子だった」

「帰ったらハリー・ポッターに書かれた本でも読もうか。本屋に置いてるだろう」

 

 ホグワーツに行く前に彼女にイギリス魔法界の常識やある程度の歴史を教えないといけないことを兄2人は今更思い出した。

 アサヒが妙にイギリス魔法界に詳しかったので忘れていたが、双子はこれまで一度もイギリス魔法界に触れてきてないのである。

 海雄はイギリス魔法界についての本の購入と、新聞の契約を決めた。

 

 

 海雄は手に数珠を巻くと、ゴミ箱の上の壁のレンガに三度触れる。

 レンガが変形していく。少し待つと、バリアフリーなアーチ型の入り口ができた。その向こうに石畳の通りが続いている。

 

「ここがダイアゴン横丁だ」

 

 映画で何度も何度もDVDが擦り切れるほど見た光景。なぜ現実にこの場所が存在しないんだと、絶望したあの日々。行きたくて堪らなかった。この場所に立ちたくて堪らなかった。─────その夢が、叶うなんて。

 現実になった夢の光景に、アサヒは感動で呼吸を忘れる。ヨヅキは海雄が先に進むのを、アサヒが呼吸を思い出すのをただ待っていた。

 目の前の光景に立ち尽くしているアサヒと通常運転のヨヅキを見て、海雄はふっと笑う。

 

 3人はアーチをくぐり抜けた。ふとヨヅキが振り返った時には、アーチはレンガ壁に戻るところだった。

 

「まずはグリンゴッツで金を下ろす。その後は必要なものを買って…時間が余ったら好きに買い物に行っていい」

 

 

 

 アサヒは四方八方を舐め回すように見ま渡しながら横丁を歩いた。雑多に行き交う人々。鍋屋に薬屋、ペットショップにスポーツ店、日本魔法界とはまた一風違った店並びだ。

 海雄は気を抜けばあらぬ方向に進もうとするアサヒの手をヨヅキに繋がせながらズンズンと歩みを進める。どこかのハグリッドには劣るものの常人より優れた体躯が持つ背中は、双子を人混みから守ってくれる頼りになる盾であった。

 

「ここがグリンゴッツ魔法銀行だ。来年からはお前たちだけでここで金を下ろし、買い物することになる。手順をしっかり見ておけ」

 

 小さな店が立ち並ぶ中、ひときわ高くそびえる真っ白な建物だった。扉の両脇には盗っ人は1人たちとも許さないという面持ちの小鬼。

 三人が入り口に進むと、中には二番目の銀色の扉があった。言葉が刻まれている。

 

見知らぬ者よ 入るがよい

欲のむくいを 知るがよい

奪うばかりで 稼がぬ者は

やがてはつけを 払うべし

おのれの物に あらざる宝

我が床下に 求めるものよ

盗人よ 気をつけよ

宝の他に 潜むものあり

 

 アサヒはそれを読んで、ミーハーな気持ちになって静かに興奮した。彼の目は先ほどからかなりガンギマリ気味であったが、とうとう口の端から唾液が垂れそうになっていた。

 ヨヅキは片割れのイカれた様子に、どうすればいいのか、そもそも何かしてあげたほうがいいのかも分からず途方に暮れていた。

 

「興奮で頭から湯気を立てちゃいそうだ…」

「そうなる前に冷やして」

 

 小鬼たちは訝しげにアサヒを見たが、扉に入っていく三人にお辞儀した。

 広々とした大理石のホール、両脇には細長いカウンター。その向こう側では数十、百…無数の小鬼が椅子に腰掛け、書き込みをしたり、コインの重さを計ったり、宝石を吟味したりしていた。台車に宝石を乗せて運ぶ小鬼、帳簿を片手にあくせく動き回る小鬼…なんともまあ、働き者の印象を見る者に与える光景であった。

 

 三人は手の空いている小鬼に声をかけた。

 

「ペンドラゴンの金庫への案内を頼みたい」

「鍵はお持ちですか?」

「ここに」

 

 海雄は黄金色の、華美な装飾が施された美しい鍵を取り出した。持ち手の中央には龍の瞳孔を模した赤い宝石が嵌め込まれており、それ自体がかなり高価に見える。ペンドラゴン家は案外見栄っ張りなようだ。

 しかし、口には出さないもののアサヒは疑問に思った。ペンドラゴン家の血を継いでいるとは言え、その名を継承しているわけではないのに、なぜその鍵を海雄が持っているのか、と。

 

 小鬼は受け取った鍵を慎重に調べてから、「確かに。承知いたしました」と言った。

 

「ゴルヌック!」

 

 小鬼は他の小鬼を呼びつけると、三人を案内するように言った。三人はゴルヌックについて、ホールから外に続く無数の扉の一つに入る。

 そこは松明で照らされた石造りの通路だった。急な傾斜が下の方に続いているが、深すぎるのか、途中で曲がっているのか、先がよく見えなかった。床には線路がついており、ゴルヌックが口笛を吹くと小さなトロッコが到着した。四人が乗り込むと────発車。

 クネクネ曲がる迷路はとんでもなくスリリングだった。左右前後上下あらゆる方向に揺さぶられる。ビュンビュン風を切って走るトロッコは、ゴルヌックが運転するまでもなく勝手に目的地に進む。

 双子はとりあえず海雄に捕まっておいた。海雄も双子の肩を抱いた。それはどこかで見たことがある、コテコテの両手に花、ハーレムの図であった。

 アサヒが海雄に問いかける。

 

「どうしてペンドラゴンの金庫なの?」

「雲霞家は閉鎖的で日本から出ることはなかった。つまり、イギリスに金庫を持っていない。そしてペンドラゴンももはや衰退し、その名を継いでいるのはご老人一人だ。そのご老人にペンドラゴンの金庫を貸してもらえないか願い出たところ、中身ももうほとんど残ってないから好きに使っていいと鍵と所有権を渡してきてな」

「その人は金庫無しで大丈夫なの?」

「わざわざグリンゴッツに金をおろしに行くのも面倒だと自宅保管してるらしい。鍵と所有権の対価にそれなりの金銭を送らせてもらったから十分生きていけるだろう」

 

 確かにご老人がこのアトラクショントロッコに乗るのは厳しいだろう。アサヒは最後のペンドラゴンが今後の暗雲に巻き込まれなかったら良いなと未来に思いを馳せた。

 

「それと、お前たちは今後ペンドラゴンを名乗ってもらう。雲霞家の者であることを隠す必要はないがな」

「どうして?」

「ペンドラゴンへの対価だ。ご老人から貰ったものは金庫、お前たちがイギリスで住むあの家、そして金庫内のものだ。それに対しての対価として、老人は後継者…とはいかずともペンドラゴンの名を自分の代で廃れさせないことを要求してきた。金銭はただ雲霞が勝手に送ったにすぎない」

 

 海雄は淡々と説明した。ペンドラゴンの名を継ぐことは、雲霞家が受け取った恩に対する礼儀でもある。雲霞家…というよりも龍は公平公正である。それ故、常に天秤が釣り合う取引を好んだ。ペンドラゴンの金庫、土地(家)、財産に対する対価にペンドラゴンを名乗るだけというのは釣り合わないので、不足分に金銭を送って埋め合わせたのだ。

 

 小さな扉の前でトロッコが止まった。ゴルヌックが鍵を差し、扉を開けた。中には金銀財宝…というわけではないが、十分な金銭が入っているように見えた。おそらく、雲霞が入れたものだろう。

 奥のほうには元から入っていたのであろう金銭とは違う、魔道具や剣、宝石などが入っていた。

 

「あの剣は…」

「ペンドラゴンの家宝だな。特に特別な魔法がかかっているわけではないが、そっしておいたほうがいい」

「ふーん…」

 

 かの有名な選定の剣があれ、ということなのだろうか。海雄は特別な魔法ほかかっていないと言ったが、アサヒはその剣になにかを毛が逆立つものを感じた。

 海雄が巾着に金を詰め込む。

 

「金貨はガリオン、銀貨がシックル、銅貨がクヌートだ。一ガリオンで十七シックル。一シックルは二十九クヌートだ。適当に払うとチップに行くから気に入らないのならしっかり覚えておけ」

 

 海雄が巾着にかなりの金を入れているにもかかわらず、巾着はこれっぽっちも膨れたりゴツゴツ変形したりしない。

 検知不可能拡大呪文だ。アサヒはいつかニュート・スキャマンダーみたいにカバンに家を作りたいと思った。

 海雄はある程度金を詰め込むと、それをアサヒに渡し、もう一つ巾着を取り出してまた金を詰め、こっちはヨヅキに渡した。

 

「1年分の金はそれで十分賄えるだろう。金庫にもホグワーツ卒業までに十分な金は入っている。無駄遣いは勧めないが、遊んでも余裕はあるだろう───よほど高価なものを買わなければな?」

 

 海雄がヨヅキを見る。彼女は欲求が薄く、物欲もあまりない。が、その分金銭にも頓着しないため稀に気に入った物があれば、どれだけ高価なものでも悩まず手に入れてしまう悪癖…思い切りの良さがあった。

 これまでに彼女が買った高価な物は美しく、純度の高い魔法石だけであったが、それが本当に高価なもので、家の者全員に浪費癖の印象を与えた。

 

「今まで貯めたお小遣いもある」

「…あとで両替しに行くか」

 

 ヨヅキは一切悪びれる気配がなかった。むしろ、またやろうという気概さえ真顔なのに感じさせた。アサヒは彼女がノクターン横丁に行かないことを願ったが、その祈りが無駄であることは自明だった。

 

 

 

 四人はトロッコに乗って地上に戻ってきた。日々トロッコを乗りこなすゴブリンと、丈夫な龍はどこかの半巨人とは違い、特に酔うことはなかった。

 アサヒもこの頃になると寝不足による体調不良も収まっており、グロッキーになることはなかった。

 

「近場から回っていくぞ。まずは制服だ」

 

 一行はマダムマルキンの洋装店─普段着から式服までの看板を見上げた。自身の瞳がペンドラゴンの鍵に嵌め込まれた瞳と重なるように、きゅうっと瞳孔が狭まるのをアサヒは感じる。三人は

 マダム・マルキンの店に入っていく。愛想のよい、ズングリとした魔女が話しかけてくる。マダム・マルキンだ。

 

「あら、可愛い坊ちゃんにお嬢ちゃん…そしてあなたはお父さん?」

 

 海雄が訂正しようと口を開いたが、マダム・マルキンは止まらない。

 

「ホグワーツの制服なら、全部ここで揃いますよ。もう二人、丈を合わせているところなの。あそこと、この踏み台に立ってちょうだいね」

 

 マダム・マルキンが指し示す方をみた瞬間、アサヒはとっさに強く舌を噛み、不自然にならない程度に息を止め、目を閉じた。

 

(ト◯・フェ◯トンとダニ◯ル・ラ◯クリフだー!!!)

 

 店の奥に立っていたのは青白い、顎のとがった男の子───ドラコ・マルフォイと小柄で痩せっぽっちな男の子───ハリー・ポッターだった。

 アサヒは叫ばなかった自分に拍手を送りたかったが、狂人に見られたくはなかったのでやめた。

 双子がハリーとドラコの両脇にある踏み台に立つと、魔女が二人出てきて、頭から黒いローブを着せかけ、丈を合わせ始めた。

 

「あの、こんにちは。あなたたちもホグワーツ?」ハリーが声をかけてくる。

「ああ。俺たちどっちもホグワーツ新入生さ」

 

 ハリーはホッとした。隣の男の子──ドラコ・マルフォイ──がハグリッドを馬鹿にし始めて、嫌になっていたからだ。

 ハリーは改めて新しく来た同級生の方に目を向けて───息を呑んだ。自身とは少し違う青の混ざった緑色の瞳、エキゾチックな顔立ちに真っ黒で光に当たるとツヤツヤと輝く髪…双子の酷く優れた容貌は見る人を緊張させた。

 

「へえ。ここの生まれじゃなさそうだけど、どこの出身だい?」今度はドラコが話しかける。

「日本…ここだと極東とでも呼ぶのかな?そこで生まれ育ったよ」

「そこには魔法学校がないのか?」

「あるけど…先祖にこっちの魔法使いが居てね。その縁で招待状が届いたのさ」

「なんて名前の魔法使い?」

「名前は知らないが…まあ、ペンドラゴン家の純血の誰かさんだな」

「ペンドラゴン?もう継承者は居ないと思っていたけれど…君たちも純血なのかい?」

「ああ、うちは純血に酷くこだわるからね…」

 

 ドラコ・マルフォイは嬉しくなる。店で最初に出会った男の子との会話はちっとも弾まなかったが、ペンドラゴンの血を継ぐ純血の少年…しかも彼の家は純血主義のようなので、きっと気が合うだろう。

 良い関係が築けそうな相手を見つけてドラコ・マルフォイの気が良くなる中、もう一人テンションが上がっている男がいた。

 アサヒである。物語の主人公と、そのライバル。主要人物二人と話せたアサヒのテンションは上がりに上がり、舌が回る回る。脳内ではファンファーレが鳴り響いていた。現実が映画を追い越す瞬間だった。

 

「君、クィディッチはやる?箒は?」

「そこそこ。箒も実家には何本かあるけど、こっちには持ってきてないな。でも、兄が学生時代クィディッチの選手で───」

 

 二人の会話が弾み、夢中で話し込む中、知らない話題に飛び込めないハリーは先ほどから静寂を保っている女の子に声をかけた。

 

「ねえ、君の名前を聞いていい?」

「ヨヅキ…雲霞ヨヅキ。でも、こっちではヨヅキ・ペンドラゴンを名乗ることになってる」

「どうして?」

「それが取引の対価だった」

「…どんな取引か聞いていい?」

「取引内容を関係者以外に言うのはダメ。でも、そんな大した取引ではない。

そして、私もあなたの要望に応えた対価を要求する。あなたの名前は?」

「あ、えっと…僕はハリー・ポッター」

 

 ハリーは、綺麗だけどこの子変な子だなと思ったが、嫌な感じはしなかった。ハリーはさらに話しかけようと思ったが、その前にマダム・マルキンが声をかけてきた。

 

「さあ、終わりましたよ、坊ちゃん」

 

 ハリーはなんて間の悪い!と思いながらもしぶしぶ踏み台から降りた。そしてまだ会話に花を咲かせている二人は放っておいて、ヨヅキに声をかける。

 

「ホグワーツで会ったらまた喋ってくれる?」

「ええ。あなたがそれを望むなら、好きに話しかけて」

「ありがとう!じゃあ、またね」

「うん、また」

 

ハリーはニコニコしながら店を出て、ハグリッドが持ってきたアイスクリームを食べた。

 

「どうした?」

「なんでもないよ」

 

 

 

 ハリーが店を出た後も、ドラコ・マルフォイとアサヒの会話は続いた。ヨヅキは話し相手が居なくなったので、また虚無を見つめる作業に戻った。海雄はそんなヨヅキに話しかける。

 

「新たな友を得たか?ヨヅキ」

「友…?……よく分からないな…少し話しただけ」

「ふむ、まだ難しいか。しかし、ホグワーツでお前は絶対に友を得るだろう」

「…そう」

 

 ヨヅキは友とは何か考えたが、前世でも今世でも自身には一切縁のないものだったので、何も分からなかった。

 

(ホグワーツに行けば…分かるのかな)

 

 初めて、ヨヅキはホグワーツに興味が湧いた。ハリー・ポッターを知らない彼女にとって、ホグワーツはマホウトコロと同じ魔法学校の一つに過ぎなかった。

 マホウトコロは彼女に友を与えることはなく、感情を与えることもなく、ただ知識のみしか与えなかった。彼女にとって魔法学校はただ、喧しい人々を避けて知識を得る場所に過ぎなかった。

 しかし、信頼に足る兄が"友を得られる"というのだ。ヨヅキはホグワーツが、マホウトコロと違うのではないかと思い始めた。

 

「さあ終わりましたよ、おチビちゃん達」

 

 全員の採寸が終わった。

 

「ねえ、君、買い物はもう終わった?」

「ここが最初の買い物さ。まだまだ終わりそうにないよ」

「そうなの?じゃあ、鍋とか、望遠鏡とかを一緒に買いに行かないかい?」

 

 ドラコが気取った話し方でアサヒを買い物に誘う。アサヒはドラコと一緒に買い物に行きたかった。しかし、兄妹がついてくるのは恥ずかしいと思った。

 アサヒが先に行ってほしいと海雄にアイコンタクトを送る。頼りになる長男様はそれを正確に読み取った。

 

「ふむ、では杖以外のその他学用品はお前が二人分買いなさい、アサヒ。俺たちは教科書を買いに行こう」

 

 海雄は制服類をアサヒとヨヅキの巾着にいれると、そのままヨヅキの手を取り外に出た。アサヒとドラコも、追いかけるようにすぐに外に出る。

 

「あ、父上!」

 

 ドラコは自身そっくりの尖った顎、プラチナブロンドの髪で、薄灰色の目を持つ男──ルシウス・マルフォイ──が店の前で立っているのを見つけ、声をかけた。

 

「ああドラコ、無事に採寸が終わったようでなにより。そして、そちらは─」

「お初にお目にかかります、Mr.マルフォイ。私はアサヒ・ペンドラゴン=ウンガ。そしてこっちは私の兄と妹です」

「カイユウ・ウンガだ」

「ヨヅキ・ペンドラゴン=ウンガと申します、Mr」

 

 三人は貴族然とした挨拶をしつつ、自然な感じで相手を見た。

 一人は映画での彼を思い返して。

 一人はイギリス貴族の中でも一番と言っていい経済力を誇るマルフォイ家として。

 一人は────胸の高鳴りを感じて。

 

「自己紹介いただき感謝する。私はマルフォイ家当主ルシウス・マルフォイだ」

 

 その灰色の瞳が、双子の特徴的な青みがかった緑の瞳───ペンドラゴンの瞳を値踏みするように映した。

 

「父上、母上はまだ杖を見ているのですか?」

「ああ、ナルシッサがお前をオリバンダーの店で待っている。彼らと買い物に行くのは構わないが、先に杖を買いに行くぞ」

「君たちもそれでいい?」

「「構わない」」

「なら俺はお前たちの学用品と教科書を買いに行っておこう」

 

 海雄はヨヅキから巾着と必要なものリストを受け取ると、隣の本屋に消えていった。四人はそれを見届けると、自分たちの目的地に歩みを進めた。

 

 移動する短い道中も、ドラコとアサヒの会話は途切れなかった。家のこと、魔法、クィディッチ、家族、好きなもの──ついさっき出会ったばかりとは思えないほど、二人の距離は自然に縮まっていく。

 そんな息子を横目に、ルシウス・マルフォイはヨヅキへと視線を向け、探るように口を開いた。

 

「君たちはペンドラゴンを名乗っているが……私の記憶では、ペンドラゴンに残ったのは年老いた男ただ一人だったはずだ」

 

 ルシウス・マルフォイは高圧的にも感じられる態度で問いかける。その声音には、貴族特有の傲慢さと、マルフォイ家らしい核心をぼかす回りくどさが滲む。

 

「私たちはペンドラゴンの血を継いでいるが、名を継いでいるわけではない。それだけの話です、Mr.マルフォイ。名乗りは便宜上に過ぎません」

 

 ヨヅキは淡々と、一切の隙を見せずに答えた。だが、アサヒが会話に夢中になってさえいなければ気づいていただろう。彼女の声に普段にはない熱──感情が乗っていたことに。

 

「ふむ……つまり、生家はペンドラゴンではないと」

「はい。私たちは尊き龍のみを愛する東洋の純血一族──雲霞家の者。ペンドラゴンは、その純粋な血に流れた“ドラゴン”が許容されたに過ぎません」

「東洋の純血か……」

 

 ルシウスの瞳がわずかに細まる。

 彼は純血主義を掲げながらも、裏ではマグルとも商売をする現実主義者だ。

 故に知っている。───濃くなりすぎた血は、いずれ淘汰される。そしてイギリスの純血は、すでに限界を迎えつつあることも。

 だからこそ、彼は興味を抱いた。“魔法生物の血”が混じるのは惜しいが、それも薄いだろう。息子の嫁に……いや、血統の刷新に使えるかもしれない。

──しかし、彼は知らない。雲霞家は龍の血以外を受け入れない。

 だからこそ、龍の血を継ぐ純血としか子をなしてこなかったことを。

──彼は知らない。龍を継ぐ純血は、国内外問わず数を減らし、

隣国との関係悪化で選択肢が“親戚か兄妹”しか残らなかったことを。

──彼は知らない。雲霞家はもはや、どこぞのスリザリンの末裔のように近親相姦に手を染めざるを得なかった異質な一族であることを。そして──今代の兄妹のうち、特に上三人──海雄、旭氷、夜沖姫は、人よりも龍の血のほうが濃い存在であることを。

 彼は、何ひとつ知らない。




おかしいな…1話でダイアゴン横丁編を終わらして次回にはホグワーツが見えていたはずなのにな…


ぜひともアンケートに応えていただけるととても嬉しいです。ついでに評価も付与していただけると犬のように喜びます。さらにアンケートにはしませんでしたが新しく読む小説を探す時間帯なんかも感想等と一緒に教えてくれるとほんと…絵に描いた豚のように喜びますんで…よろしくお願いしやす

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