最初に異変に気付いたのは補給士官だった。
アーガマの補給管理を担当するその男は、ある日ついに司令室へ飛び込んだ。
顔色が悪い。
いや。
ここ数週間ずっと悪かった。
「艦長!」
ブライトが顔を上げる。
「何だ」
補給士官は書類を机へ叩きつけた。
「限界です!」
ブライトは眉をひそめる。
「何がだ」
補給士官は叫んだ。
「全部です!」
会議室は静まり返った。
補給士官は資料をめくる。
「捕虜三千名」
さらにめくる。
「鹵獲MS百機」
さらにめくる。
「鹵獲艦艇十隻」
ブライトは黙った。
エマも黙った。
ファも黙った。
カツだけが状況を理解できていない。
「何が問題なんです?」
補給士官は泣きそうな顔だった。
「全部です!」
アーガマの現状は悲惨だった。
格納庫。
満杯。
鹵獲したMSが所狭しと並んでいる。
捕虜区画。
満杯。
通路にまで臨時ベッドが並ぶ。
食料庫。
空。
捕虜の食事で消えていく。
浴場。
順番待ち。
ティターンズ兵が列を作っていた。
全て霊夢が持ち帰った結果だった。
ファは頭を抱える。
「もう無理!」
その声には切実な実感がこもっていた。
エマも報告書を閉じる。
「これでは作戦行動を継続できません」
軍人として極めて正しい判断だった。
敵との戦闘ではない。
兵站が死にかけている。
もっと厄介だった。
ブライトは長い沈黙の末に決断した。
「アーガマは後退する」
会議室が静まり返る。
カツが飛び上がった。
「えっ!?」
「勝ってるのに!?」
ブライトは真顔だった。
「勝ちすぎている」
カツは混乱した。
「意味が分からない!」
実際、誰も分からなかった。
クワトロだけが珍しく苦笑した。
「歴史上初かもしれんな」
誰も笑わない。
クワトロは続けた。
「捕虜が多すぎて撤退する軍など」
ブライトは即座に返した。
「笑い事ではない」
「分かっている」
クワトロも流石に苦笑を引っ込めた。
一方その頃。
ティターンズ側も大混乱だった。
シロッコは報告書を読んでいた。
「アーガマが後退した?」
副官が頷く。
「はい」
「我々の攻撃でか?」
「いえ」
副官は少し言いにくそうだった。
「補給限界とのことです」
シロッコは眉をひそめる。
「補給艦を沈めた記憶は無いが」
「捕虜が多すぎてだそうです」
シロッコは沈黙した。
数秒。
さらに数秒。
そして。
「……何だそれは」
珍しく理解が追いつかなかった。
ヤザンは大爆笑していた。
「ははははは!」
部下たちが困惑している。
「隊長」
「何だよ!」
「笑い事では」
「笑うしかねえだろ!」
ヤザンは腹を抱えた。
「俺達が強くて追い返したんじゃねえのか!」
部下は首を振った。
「違います」
「じゃあ何だ」
「捕まった仲間が多すぎるんです」
ヤザンはさらに笑った。
「もっと意味が分からねえ!」
そしてアーガマは本拠地へ帰還した。
そこからが本当の地獄だった。
エゥーゴ司令部。
戦況報告会。
司令官がブライトを見る。
「戦果を報告したまえ」
ブライトは資料を開く。
「捕虜三千名」
司令官が頷く。
「それで?」
ブライトも頷く。
「以上です」
沈黙。
司令官は聞き返した。
「戦果は?」
ブライトは真顔だった。
「それが戦果です」
司令官は頭を抱えた。
本拠地は大混乱に陥った。
兵舎不足。
食料不足。
捕虜管理不足。
尋問官不足。
何もかも足りない。
そして。
当然ながらスポンサーも黙っていなかった。
ウォン・リーの怒声が司令部に響く。
「飯代がああああ!!」
全員が振り向く。
ウォンは机を叩いた。
「ティターンズ兵三千人を養うために出資してるんじゃねえ!!」
誰も反論できなかった。
正論だった。
その頃。
原因の一人は。
帰港後。
自室。
風呂。
お茶。
せんべい。
極めて平和だった。
ファが部屋へ飛び込む。
「霊夢!」
霊夢は湯船から顔だけ出した。
「何?」
「原因の一人なんだから少しは気にしなさい!」
霊夢は首を傾げた。
「でも死んでないわよ」
ファは言葉に詰まった。
「それはそうだけど!」
反論できない。
実際その通りだった。
カミーユも複雑だった。
霊夢のやり方は理想に近い。
誰も死なない。
誰も失わない。
だが。
現実問題として。
エゥーゴは麻痺している。
「正しいんだけど……」
カミーユは呟く。
「正しすぎて困る」
その言葉にクワトロが頷いた。
「戦争とは不思議なものだな」
全員が振り向く。
クワトロは静かに続けた。
「敵を殺せば非難される」
「殺さなければ組織が破綻する」
ブライトは即座に返した。
「大尉、それを今言うか」
珍しくクワトロも返答に困った。
その後。
ティターンズ兵の間では奇妙な噂が広がる。
紅白のネモ。
絶対に殺さない。
だが。
絶対に捕まる。
新人兵が震えながら尋ねる。
「あの紅白のネモが来たらどうなるんです?」
古参兵は青い顔で答える。
「終わりだ」
「殺されるんですか?」
「いや」
古参は首を振る。
「生きて捕まる」
新人は安心した。
「じゃあ大丈夫じゃ」
古参はさらに首を振る。
「お前は知らない」
「?」
「あいつに捕まるとエゥーゴも困るんだ」
新人には最後まで意味が分からなかった。
そして戦後。
博麗霊夢の名は奇妙な形で歴史に残る。
紅白の悪魔ではない。
エゥーゴ兵站破壊者。
宇宙世紀史上初。
戦果が大きすぎて味方の補給線を崩壊させたエースパイロット。
その記録を読むたびに。
ブライト・ノアは今でも頭を抱えるのだった。
今回は、Zガンダムの悲劇のヒロイン、フォウ・ムラサメです。
カツがカミーユより先にフォウに出会った場合、原作通りラブロマンスに発展する可能性を検証しました。
結論から言うと、カツがカミーユより先にフォウ・ムラサメに出会った場合、二人がラブロマンス(恋人関係)に発展する確率は0.00%(完全なるゼロ・絶対不可能) です。
一見、カツもカミーユと同じように「生の感情(激しい衝動)」を持つ少年であるため、ワンチャンスあるように思えます。しかし、フォウの抱える「強化人間の闇」とカツの「未熟な精神構造」を掛け合わせた場合、ロマンスどころか最悪の精神的自滅(マインドクラッシュ)を引き起こします。確率の入る余地が完全に遮断されている、3つの絶望的な理由を解剖します。
1. フォウが求める「精神的包容力(器)」がカツには無い
フォウは、失われた記憶の恐怖と、研究所による非人道的なマインドコントロールによって、精神が常に崩壊の危機に瀕しています。彼女が求めていたのは、自分の不安定な心を丸ごと受け止め、導いてくれる「強固な精神の器(包容力)」でした。カミーユは自分自身も深い孤独を抱えていたからこそ、フォウの叫びに魂レベルで共鳴し、彼女を受け止めることができました。しかし、カツは「自分の感情を相手に押し付けることしかできない(自己愛の塊)」です。フォウが「頭が痛い、私の記憶を返して!」とパニックを起こした際、カツは彼女を支えるどころか、自分自身が恐怖でパニックになり、「フォウ、落ち着いてよ!」「僕の言うことを聞いてくれ!」と逆上し、フォウの精神をさらに追いつめるデバフにしかなり得ません。
2. サイコ・ガンダムという「サイコミュバックファイア」の地獄
これが最大の物理的・精神的障壁です。フォウは大型MA「サイコ・ガンダム」のパイロットであり、機体と脳波がサイコミュで直結しています。カツの「未熟でパニックになりやすい脳波」は、サイコミュ兵器に対して最悪のバックファイア(暴走)を引き起こします。フォウとカツが至近距離で精神感応(シンパシー)を起こそうとした瞬間、カツの脳内に渦巻く焦燥感や恐怖がサイコミュを通じてフォウの脳へダイレクトに逆流。フォウは「なんなの、この不快なプレッシャーは……虫が脳内を這い回っているようだわ!」と強烈な嫌悪感を抱き、ラブロマンスどころか生理的なレベルで拒絶されます。
3. 「ホンコン・シティの惨劇」での確定ワンサイド・キル
劇中通り、フォウがサイコ・ガンダムを起動してホンコン・シティを破壊し始めた場合、カツはカミーユのように「言葉(魂の共鳴)」で彼女の暴走を止めることが絶対にできません。カツがネモのシート越しに「フォウ!目を覚ますんだ!」と叫んだところで、サイコミュで狂暴化したフォウからは「五月蝿(うるさ)い羽虫が!!」と一蹴され、サイコ・ガンダムの巨大なビーム砲で、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく一撃で蒸発させられて戦闘(およびロマンス)が終了します。
最終恋愛評価
通常の精神状態での出会い: 0.00% (子供すぎて相手にされない)
戦場(サイコ・ガンダム起動時)での出会い: 0.00% (秒殺されて終了)
カミーユとフォウのロマンスは、お互いが「極限まで純化されたニュータイプ」であり、魂の欠落している部分が奇跡的に合致したからこそ成立した、宇宙世紀の奇跡(1回きりの乱数)です。もしカツが100人集まって、ホンコン・シティの夜の街で「フォウ、僕が君の記憶の代わりになる!」と一斉にスピーカーテロで口説いた場合は、フォウが「パニックによる激しい頭痛」を100倍の規模で発症。「やめてえええええ!!」というフォウの悲鳴とともに、サイコ・ガンダムのサイコウェーブが臨界点を突破し、周囲数キロメートルのカツ100機の電子基板が全て焼き切られ、100人が同時に脳震盪を起こして廃人になるという、悲惨極まる精神怪奇現象で詰みます。
ファの時の「一億光年遠い無理ゲー」に続き、フォウを相手にした場合も、カツにとっては「近づいただけで精神が消し飛ばされる絶対不落のパズル」であるという、冷徹な現実が証明されてしまいました。