和室に静寂が流れていた。
ブライト、クワトロ、シロッコ。
三人の視線が交差する。
「私には。」
霊夢はシロッコを真っ直ぐ見つめた。
「クワトロ大尉よりも、あなたの方が世界を欲しがっているように見えるけど。」
一瞬。
シロッコの笑みが止まった。
和室の空気が凍りつく。
その時だった。
襖が勢いよく開いた。
「話は聞かせてもらった!」
全員が振り返る。
そこに立っていたのは。
筋骨隆々の大男。
しかも。
一糸まとわぬ全裸。
数秒の沈黙。
そして。
「きゃああああああっ!!」
エマとファ、そしてサラの悲鳴が和室中に響き渡る。
男性陣は呆然としていた。
霊夢が真っ先に立ち上がる。
「貴方、何者なの!?」
男は堂々と胸を張った。
「私にも分からん。」
全員がずっこける。
「だが。」
「人は私を、聖(セント)マッスルと呼ぶ。」
エマは顔を真っ赤にしながらハンカチを投げつけた。
「なんでもいいから隠しなさい!」
男はハンカチを受け取り、しばらく眺める。
「なるほど。」
そう呟くと。
首に巻いた。
「そこじゃないでしょーっ!」
エマが絶叫する。
ファは両手で顔を覆い、震えていた。
聖マッスルは気にした様子もなくシロッコの前まで歩く。
シロッコは思わず後ずさった。
「な……何だ、そのおぞましい肉体は。」
聖マッスルはシロッコを一瞥する。
「世界を欲する気概は買う。」
「だが。」
「その貧相な肉体では世界を手に入れることなど出来ん。」
「私が鍛え直してやる。」
「なっ――」
言い終えるより早く。
シロッコは肩へ担ぎ上げられていた。
「離せ!」
「私は世界を動かす男だ!」
聖マッスルは真顔で答える。
「まずは大胸筋を動かせ。」
「何だと!?」
サラは呆然としていたが、すぐ我に返る。
「パプテマス様を離せ!」
「この筋肉の化け物!」
拳銃を抜き、発砲。
乾いた銃声が響く。
弾丸は聖マッスルの胸板へ命中した。
めり込む。
だが。
次の瞬間。
「ぴん!」
と音を立てて弾き返された。
「むう。」
聖マッスルがサラを睨みつける。
「何をする。」
サラは真っ青になった。
「ひいっ!」
そこへ。
「サラには手を出させない!」
カツが颯爽と割って入る。
決め顔で胸を張る。
聖マッスルはじっとカツを見る。
「なるほど。」
「勇気は買う。」
「だが。」
「その貧弱な肉体では惚れた女を振り向かせることなど出来ん。」
「君も鍛え直してやる。」
「え?」
次の瞬間。
カツも反対側の肩へ担がれていた。
「ちょっ、待って!」
ブライトがクワトロを見る。
「大尉!。」
「まさか知り合いじゃないだろうな!」
クワトロは静かに首を振る。
「……私は知らん。」
「だが。」
「なかなか興味深い男だ。」
「興味深くない!」
ブライトが即座に突っ込む。
カミーユも叫んだ。
「大尉は何言ってるんです!」
聖マッスルは二人を肩へ担いだまま出口へ向かう。
霊夢が立ちはだかる。
「待ちなさい!」
「二人をどうする気!」
聖マッスルは堂々と言った。
「心配はいらん。」
「物語に影響が出ぬよう。」
「七日後には帰してやる。」
聖マッスルは肩に担いだ二人に告げる。
「七日しかないから、最上級エクストリームコースだ。」
「死ぬかもしれんから。」
「気を引き締めていけよ。」
シロッコが暴れる。
「離せ、化け物!」
カツは必死にもがく。
「サラァァァァ!」
サラは涙目で叫んだ。
「パプテマス様ァァァァ!」
「では。」
「さらばだ。」
次の瞬間。
聖マッスルはハッチを蹴破った。
轟音。
警報。
そして。
全裸のまま宇宙空間へ飛び出していく。
ノーマルスーツも着けず。
肩にはシロッコとカツ。
「まずは宇宙遊泳からだ!」
「筋肉は宇宙でも裏切らん!」
三人はそのまま宇宙の彼方へ飛び去っていった。
その光景を外で警戒していたレコアが見上げる。
「……。」
「何……あれ。」
全裸の大男が。
シロッコとカツを担いで宇宙を泳いでいる。
レコアは放心状態。
「誰が私を呼んでるの……。」
場面は、和室へ戻る。
サラは拳を震わせた。
「おのれ、エゥーゴ!」
「やはりパプテマス様を拉致するのが目的だったのね!」
霊夢は慌てて首を振る。
「違うわよ!」
「私たちも初めて見たし!」
ブライトは額を押さえた。
「一体何だったんだ……。」
クワトロは静かに湯呑みを持ち上げる。
「……。」
「茶柱が立っている。」
ブライトは机を叩いた。
「現実逃避しないでくれ!」
霊夢は宇宙の彼方を見つめ、小さく呟いた。
「……とんでもないことになったわね。」
七日後。
本当に二人が帰ってくるかどうかは――誰も知らない。
急な本編執筆により、カツの幻想郷入りシリーズの執筆が間に合わなかったので、今回は休載させていただきます。