メダロット浪漫倶楽部 作:岡丸
▼メダロット
テクノロジーが生んだ、全く新しいロボット。ティンペットと呼ばれる基本フレームに、人工知能メダルを搭載。更に様々なパーツを合体させることによって、無限の能力を引き出すことができる。
残暑を伴う柔らかな風と共に、威勢のいい運動部の掛け声が飛び込んでくる部室で、アドリアーナ・ヴィンチは、机の上に広げた原稿用紙とのにらめっこを楽しんでいた。
(やっぱり、日本に住んでいて、メダロットのことを知らないなんて人はいないよね)
暖かな風に紛れて、どこからともなく木枯らしがひゅうと迷い込んできた。だが、眉間にしわを寄せて原稿用紙と戯れている彼女が、その風の冷たさに気づくことはなかった。
(用語解説は最低限の都市伝説だけにとどめよう)
頭の中で方針が固まると、アドリアーナは、その青く澄んだ瞳を大きく輝かせた。
無垢な子供を連想させる明るい金髪を掻き上げると、一字一字に心を込めるようにして、原稿用紙に筆を運んだ。
用語解説
▼レアメダル
ごく稀に発掘される、他とは違う特殊な力を持ったメダルだと言われている。第一次メダロットブームの頃からある都市伝説。
▼メダフォース
メダルがメダルをねじ伏せる心躁術のようなものとも、メダロッターとメダロットの友情が生み出す奇跡だとも言われている。レアメダルと関連付けて語られることが多い。第二次メダロットブームの頃からある都市伝説。
皆さんはじめまして。私は、メダロット浪漫倶楽部、通称浪漫部のアドリアーナ・ヴィンチです。
突然ですが皆さん、ローマ帝国という国はご存知でしょうか? ローマ帝国といえば西洋古代最大の帝国と呼ばれ、『全ての道はローマに通ず』なんて言葉もあるくらいに栄えた国だそうです。
そんなローマ帝国に関係があるのかないのか、我らが浪漫部の部長さんには、ある口癖があります。
この事件も、部長さんのそんな口癖から全てが始まりました。
「全てのミステリーはメダロットに通ず」
そうとは知らずに買ったらしいブランド物のお洒落な眼鏡を光らせながら、岡丸輪太郎(おかまるりんたろう)部長は、マウスをかちかちやるのを止めてパソコンから顔を上げました。
長机が四角く配置された部室で、読書や宿題などで思い思いに時間を潰していた部員たちが、一斉に輪太郎部長へと顔を向けます。
皆さんは、メダルで動くロボットたちに、何らかの浪漫を感じたことはあるでしょうか?
身長わずか70cm程の小さな隣人たち、彼らにまつわる謎と不思議を解き明かしていくことが、私たちメダロット浪漫倶楽部の活動目的なのです。
「また改まって、何か面白い都市伝説でも見つけたんですか」
真っ先に質問をした泉大輔(いずみだいすけ)さんは、本を繰る手を止めて、クラスの女子が見たなら黄色い悲鳴が飛び交いそうな可愛らしい笑顔を放っています。
「ご名答! 流石は大輔君だ」
輪太郎部長は満足そうに頷くと、大輔さんの隣に顔を向けました。
「それでは、灯深君、こちらに来てこの記事を読み上げてはくれないだろうか」
「僕がですか」
指名された水流灯深(みずながれともみ)さんは戸惑うような返事をしつつも、机の上の宿題を片付けて、言われたように輪太郎部長の隣に移動しました。何と言いますか、灯深さんはすごく照れ屋さんです。
ここでちょっと、一通り部員の名前が出てきたので補足をしますと、浪漫部の正式な部員はここに出てきた四人で、二年生は輪太郎部長が一人、あとの三人は全員同じクラスの一年生になります。それと、浪漫部の顧問で私たち一年生組の担任でもある、汰木由里先生(ゆるきゆり)先生がいます。
ちなみに、正式な女子部員は私一人しかいませんが、いつも浪漫部の活動を手伝ってくれる女の子の特別部員があと二人ほどいたりします。
それでは話しを部室に戻しましょう。
「それじゃあ読みます。メダロットがキノコ中毒?」
遠慮がちな態度とは裏腹に、灯深さんはとても聞き取りやすく丁寧な声で記事を読み始めました。
灯深さんが読み上げた記事によりますと、○月×日、おどろ町にあるおどろ山にメダロットと一緒に山菜を採りに入ったAさん。
Aさんとメダロットが山に入ってからしばらくすると、Aさんのメダロットが突然に笑い出しAさんの呼びかけにも全く反応を示さなくなってしまったそうです。
困ったAさんが、ふと笑っているメダロットの足元に目を向けると、ワライタケと呼ばれる毒キノコが生えており、直感的にその場からメダロットを遠ざけたほうがいいと考えたAさんはメダロットを担いで急いで山を下りました。
山を下りたAさんが気が付くと、メダロットはいつの間にか笑いが収まっていたそうです。ところが、後になってAさんが、あの時どうして笑っていたのか本人に理由を尋ねてみても、Aさんのメダロットはよく覚えていないと答えるだけだったそうです。
こっそりキノコをほおばるメダロットの姿を想像して、私はなんだかほっこりとした気分になりました。
「それは気になりますね。Aさんが見ていないうちに、そのメダロットがキノコを食べてしまったんでしょうか?」
もちろん、メダロットには何かを頬張るための口なんてものはついてはいませんが。
「アンナ君らしい素直な発想だね。ともかく、本当のところはどういうことなのか、来週の日曜日、浪漫部のメンバーで実際に現場に行って調べてこよう思う」
私がこの浪漫部に入部してから、かれこれ一週間が過ぎようかという頃でした。
初めての活動らしい活動に、私は期待に胸が高鳴りました。
私があれやこれやと想像して期待に胸を膨らませていると、自分の定位置に戻った灯深さんが控えめに挙手をしました。
「けれど部長、校外での部活動には引率の先生が付いていなければならない決まりのはずですが」
確かに灯深さんの言う通りです。その気になれば、部活動ではなくあくまで自主的な活動としてこの事件を調べることはできるでしょう。ですが、そのようにして調べた内容を、今まさにあなたが読んでいる部誌、『浪漫倶楽部』に堂々と書くことは少々難しいかもしれません。メダロットに関する謎を解き明かすのと同時に、学校が認可した文科系部活動としてその成果を部誌にして発表することも、私たちメダロット浪漫倶楽部の活動目的の一つだったりします。
「その件に関しては心配はいらない。顧問の汰木先生にはすでに引率の承諾を取り付けてある」
輪太郎部長は得意げに答えると、愛用の扇子を広げてぱたぱたと扇ぎはじめました。満足そうな輪太郎部長に、大輔さんがにこにこしながら質問をします。
「それにしても、先生もよく引き受けてくれましたね。部員の僕が言うのもなんですけど、浪漫部の活動って何の意味があるのか分かりづらいところがあるじゃないですか」
私は参加していませんが、過去の浪漫部の活動は、UFO探しや、記憶喪失のメダロットへの取材をしていたそうです。ところで、UFOって本当に存在するのでしょうか? とても気になりますね!
大輔さんからの質問を受けた輪太郎部長は、うーんと唸ったあとに言葉を続けました。
「うむ。実を言うと、今回、汰木先生に引率してもらうにあたって一つ条件があるのだが、来週の日曜日に件の山で清掃活動のボランティアがあってだな、我々浪漫部もそれに参加することになっている。調査はボランティアが終わってからで、場所も道が舗装されている場所に限るそうだ」
「それって、部活動よりもボランティアのほうが主役になっていませんか」
「そう言うな、大輔君。生徒が山に入るのを校長がなかなか許可してくれなかったところを、汰木先生が頑張って交渉してくれたのだ」
きっと、私たちの知らないところで大変な交渉があったのでしょう。そのときのことを思い出したのか、輪太郎部長は、苦虫を潰したような顔をして深く息を吐き出しました。
「ま、そういうことだから、みんな来週の日曜日は予定を空けておいてくれ。それでは灯深君、締めの言葉を頼む」
「えっ、僕がですか」
輪太郎部長からの突然の指名に、少しばかり動揺した様子の灯深さんでしたが、すぐに気持ちを切り替えられたようで、確認をとるように私たちの顔を見回しました。
「えっと、それでは皆さん、来週はくれぐれも怪我などないよう、体調管理には気を付けていきましょう」
かくして、私たち浪漫部は、日曜日に行われる清掃活動に参加しつつ、笑うメダロットの謎を調査することとなったのです。
家に帰った私は、早速、今日の浪漫部での出来事を、メダロットのマオに話して聞かせました。
もしかすると、勘違いされている方もいるかもしれなので説明しておきますと、メダロット浪漫倶楽部は、ロボットバトル略してロボトルをその活動目的とするメダロット部とは違い、学校内でのメダロットの転送は許可されていません。
ですので、こうして自分のメダロットとおしゃべりができるのは、他の一般生徒と同じく、帰宅してからということになります。
「ふーん、笑うメダロットの謎ねぇ」
うちのマオは、いつも半笑いのような気の抜けた話し方をするのですが、最近では出会った頃と比べて、マオが何を考えているのか少しづつわかるようになってきました。ちなみに、今のマオの様子から察するに、いくらかこの謎に興味があるようです。
「でも、キノコを食べるっていうのはないでしょ。第一、メダロットには口がないしねぇ。ははん」
「えー、じゃあ、匂いを嗅いでおかしくなったっていうのはどうかな」
「……アンナは、一度キノコから離れたほうがいい」
この様子から察するに、どうやらマオは、私に対して少々呆れているようです。……って、文章にするまで気が付きませんでしたが、このときの私ってば、マオに呆れられていたんですね。ちょっとショックです。
その日は、夕飯の時間まで、マオと二人で、笑うメダロットの謎について話して過ごしました。そのあとで、夕飯に出されたキノコのスープが何故だかおかしく感じてしまった私は、顔が緩むのを堪えきれず、そんな私に吊られて、お父さんとお母さんも楽しそうに笑い、その日は、とても賑やかな食事となりました。