メダロット浪漫倶楽部 作:岡丸
校外活動当日の朝、私たちは、待ち合わせ場所である亀山中学校の正門前に集まっていました。
「皆さん、お早うございます」
「お早う、アンナ君。うん、服装のほうは大丈夫そうだな」
「はい、言われた通りに長袖と長ズボン着用できました」
今日は山に入るうえに清掃活動もあるので、軍手持参で肌が隠れるような服装をしてくるようにと事前に言われていたのです。
「アンナさん、私服姿も似合っているね」
「有難うございます、大輔さん。普段はスカートを履くことがほとんどなので、おかしな恰好をしていないか心配だったんですけど、そう言ってもらえると嬉しいです」
「大丈夫だよアンナさん。全然おかしくなんてないよ。な、灯深」
「え? うん、よく似合ってると思うよ」
「ふふ、有難うございます。灯深さんの私服姿も良いと思いますよ」
普段、学校で顔を合わせている皆さんと、こうして外でお話をしているだけで、なんだか新鮮に感じてわくわくしてきます。
「お早う、久しぶりだな、アンナ」
灯深さんとの会話の途中に、彼の左腕から元気な挨拶が飛んできました。もちろん、灯深さんの腕が喋っているわけではありません。灯深さんが腕に巻いている、メダロットに指示を出すための腕時計型装置メダロッチ。その中に収納されている、メダルのソラさんが、メダロッチの会話機能を使って話しかけてきたのです。
私も灯深さんのメダロッチに向かって返事をします。
「お久しぶりです、ソラさん。元気にしていましたか」
「ああ、オレはいつだって元気だ」
ソラさんは灯深さんのパートナーで、とてもしゃっきりした性格のメダロットです。
「アンナさん、こんちゃーす」
「吾輩もいるである」
大輔さんのパートナーのロジャーさん、輪太郎部長のパートナーのソウスケさんも、メダロッチの中から挨拶をしてくれました。
「皆さん、お久しぶりです。マオも皆に挨拶しよう」
「よっ、しばらくぶり」
メダロットたちがメダロッチ越しの挨拶を済ませたところで、由里先生が到着しました。
「みんなお早う!」
由里先生は、休日出勤にもかかわらず、普段、学校でするのと同じように、元気で優しい声を私たちにかけてくれます。
「今日は、ボランティアに参加してくれて有難う! 本当は普通について行ってあげたかったんだけど、校長先生に、きちんとした目的もなく山に入るのは駄目だって言われちゃって……」
「そんなこと気にしないでください。もともと俺のわがままで創った浪漫部が亀山中学の正式な部活として活動できるのは、顧問である汰木先生のおかげなんですから」
大輔さんから聞いた話によると、輪太郎部長が浪漫部を立ち上げるときに、由里先生が他の先生方にいろいろと掛け合ってくれたおかげで話がうまくまとまったのだそうです。そんな汰木先生を向かえて、ついに私たち浪漫部は、目的地であるおどろ山へと向けて出発するのでした。
おどろ山は、亀山中学校から徒歩で約30分の場所にあります。私たちは、亀山中学校前からバスに乗ってそこまで向かうことにしました。生徒4人と先生1人で、バスの一番後ろの席にちょうど座れる人数です。私は、5人掛けの席の向かって右から2番目、灯深さんと由里先生の間に座りました。
バスに乗っている間、私はとても楽しい時間を過ごすことができました。由里先生からおどろ山のいろいろな話しを聞かせてくれたからです。
「おどろ山は、昔から不思議な出来事が起こると言われている山なの。私が子供のころは、山姥が出るって噂が流行っていたなぁ」
「やまんば?」
「怖ーいお婆さんの妖怪よ」
私が妖怪と聞いて思い浮かべるのは、可愛らしいキャラクターが登場するジャパニメーションなのですが、怖いという印象からはかけ離れています。
「うむ。確かに、汰木先生の言ったことも間違いではありませんが、言い伝えの中には、人に親切にする山姥というのもいるんですよ」
「詳しいね、岡丸君! 伊達に部長はやっていないってことかな」
「そんなことありませんよ。知っている人は知っていることです。なぁ、大輔君」
話しを振られて、大輔さんがいつも通りの爽やかな笑顔をこちらに向けました。
「そうですね。僕は三枚のお札の話しくらいしか知りませんでしたけど」
「う゛~」
輪太郎部長は困ったように唸ってそっぽを向いてしまいました。
山姥の他にも、ロボロボ団と名乗るコスプレ集団が出没するという話しや、数年前にキャンプ場ができたことなどを教えてもらいました。山には山の歴史があるんですね。まさに、おどろ山は一日にして成らずです。
私は、由里先生が話してくれるおどろ山の歴史を聞きながら、同時に、由里先生や輪太郎部長や灯深さんや大輔さんの子供時代を夢想しました。けれども、おどろ山と歩んだ歴史の中に、外国で育った私の姿だけがないことに、ちょっとだけ悲しくなったことはここだけの秘密です。
「そういえば、近頃おどろ山でメダロットの不法投棄をしている悪質な業者がいるみたいね」
私も似たような話しをニュース番組の特集で目にしたことがありました。大輔さんも同じも番組を見ていたらしく、不法投棄の対策など、いろいろなことを教えてくれました。
「僕なんかは古いパーツはメダロット社に下取りしてもらってるんですけど、手続きを面倒がる人や、そもそもメダロット自体をやめてしまう人もいますからね」
山の中にゴミを捨ててしまうなんて、困った人たちもいるものです。ですが、私は俄然やる気が湧いてきました。
「これは私たちが頑張って山を綺麗にしなければなりませんね!」
「次は、おどろ山前。おどろ山前に停まります」
次のバス停を知らせるアナウンスと同時に、降車ボタンのランプが一斉に赤く光りました。私たちの他にもボランティアに参加する人が乗っているのかもしれません。
「さて、一仕事といこうか」
輪太郎部長の一声を合図に、私たちは席を立ちおどろ山へと降り立ちました。
バスを降りた私たちは、近くに集まっていたボランティア参加者に合流しました。
しばらくして、代表の方の挨拶とゴミの分別方法を聞いてから、ようやく私たちは清掃活動を開始しました。
「灯深、目的地に着いたのなら身体を転送してくれ」
「わかったよソラ。メダロット転送」
灯深さんが腕に巻いたメダロッチを構えると、転送先を示す光の筋が中空へと伸びていきます。ばちばちと弾けるような音とともに、光の球に包まれてソラさんの身体である騎士型メダロットが現れました。
灯深さんはメダロッチからメダルを取り出すと、騎士型メダロットの背中にあるくぼみにメダルをはめ込み、その上にあるメダル防護用のハッチを閉じます。
カリカリカリカリカリ……
「ん、んー。やっぱり身体があるほうが落ち着くな」
ちょうど私たち人間が寝起きの身体をほぐすように、ソラさんは自身の手足を伸ばして、その感触を確かめていました。
「マオも転送するね。メダロット転送」
私たちの他にも、あちこちでボランティアに参加している人たちがメダロットを転送しています。
こうしてみると、メダロットがいかに私たちの生活に溶け込んでいるのかがうかがえます。流石はメダロット大国の日本といったところでしょうか。
「山に来たのは初めてだけど、案外楽に上れそうだねぇ」
丸石が敷き詰められた緩やかな坂道の先を見つめながらマオがつぶやきました。
「そうそう、今回僕たちが清掃活動を行う場所は、おどろ山の中でもハイキングコースになっている場所だから、この後もこんな感じの道が続くはずだよ」
持ち前のキュートな笑顔を振りまきながら、大輔さんは道端の看板を指さしました。看板には「この先ハイキングコース」と書かれています。
「流石は大輔君だ。良く調べてきているな」
「これでも浪漫部の情報収集係を目指していますから」
「おいらもマスターと一緒に調べたっすよ!」
「ロジャー君も流石である」
大輔さんが浪漫部の情報収集係なら私はなんの係りになるのでしょう。浪漫倶楽部を書いているから広報係でしょうか。
とりとめのない会話を交わしつつ、私たちは、ゴミを探しながらハイキングコースをてくてくと登っていきました。