メダロット浪漫倶楽部 作:岡丸
清掃活動を始めてから少し経ったころに、私はあることに気が付きました。
「ゴミ、全然落ちていませんね」
それもそのはずです。私たち浪漫部一行は他の集団の最後尾にいたので、たとえゴミが落ちていたとしても先を行く人たちがみんな拾って行ってしまうのです。
隣を歩く灯深さんも、その手に握られている袋の中には何一つ収穫がないようでした。
「もともと学校に募集があって参加したわけでもないし、僕たちが参加して、ゴミを拾うには十分過ぎる人数が集まったのかもしれないね」
ゴミが落ちていないのならばそれに越したことはありません。とはいうものの、このままではなんだか肩透かしを食らった気分です。私は目を皿のようにして、どこかにゴミが落ちていないか注意深く辺りを見回しました。
「あっ、灯深さん灯深さん。あんなところにゴミが落ちていますよ」
私は少し興奮気味に、隣を歩いていた灯深さんの肩を叩きながら、その、ゴミの落ちている場所を指さしました。
私たちが歩いている舗装された道から外れた森の中に、その場にそぐわない人工物らしき板切れのようなものがぽつりと落ちています。
「本当だ。危ないから僕が行って拾ってくるよ」
「いえ、そういうわけにはいきません。私が見つけたんですから、自分で拾いに行きます」
そのとき、つんつんと足をつつかれて、私はメダロットたちを蚊帳の外にしていたことに気が付きました。
「灯深、恰好つけたいのはわかるが、ここは二人で拾って来ればいいじゃないか」
「私もその意見に賛成だねえ」
メダロットたちに言われて、私と灯深さんはお互いに顔を見合わせ示し合わせたかのようにくすっと笑うと、二人同時に柵を越えて森の中へと入っていきました。
柵を越えて一歩森の中に足を踏み入れると、とたんにどこか遠い世界に迷い込んでしまったような感覚に襲われました。
四方を背の高い木々に囲まれているせいでしょうか。陽と影とのコントラストが、まるで夢と現を区切る扉のように見えて、不思議の国に迷い込んでしまったような気分です。
「アンナさん?」
「ふぁい?!」
不意に声をかけられて、ついついおかしな声を出してしまいました。声をかけた灯深さんも驚いたような顔でこちらを見ています。
「なんだか、ぼーっとしているように見えたけど、大丈夫?」
「うちのマスター少々ぼけたところがあるからねぇ。まぁ、あまり気にしないでくれ。ははん」
「灯深も、考え事をしてぼーっとしていることがしょっちゅうある」
「君たちねぇ」
「あは。少し景色に見惚れていただけなので大丈夫です! さ、ゴミを拾ってみんなのところに戻りましょう」
私はゴミのそばまで行って、屈んでそれを拾おうとしました。
「おや?」
「やれやれ、いったい今度は何に見惚れているんだい」
中腰の状態で静止した私に、マオが尋ねてきました。
「何か、向こうにもゴミが落ちてる」
私たちが来た方向の反対側、森のさらに奥のほうに、やはり自然のものではなさそうな異物が落ちています。
「ここから向こうのゴミの場所まで、道のようになっているな」
「ソラもそう思うかい」
成程、よくよく注意して辺りを見回してみると、たった今ゴミを拾った場所から向こうのゴミの先まで、草が倒れて一本道のようになっています。
「本当に。ゴミに夢中で気が付きませんでした」
「そもそも、地面が見えていなけりゃゴミを見つけられなかっただろう。誰かがここを行き来しているのかもしれないねぇ」
道があるなら迷って戻れなくなるということはない、というわけで、私たちはゴミを拾うために先へと進みました。
ところが不思議なことに、ゴミを拾うとそのまた先に別のゴミが落ちているというようなことが二度三度と続いて、いつの間にか私たちは森の奥へ奥へと入り込んでいました。
「それにしても不思議だ。さっきから拾っているゴミは、どうも全てメダロットの部品のようじゃないか」
拾い集めたゴミをしげしげと見つめながら、ソラさんが呟きました。そう言われてみると、マオを組み立てるときに似たようなものがあった気がします。
「勿体ないなぁ、これ、最近発売されたばかりのRAY型のパーツだよ」
「あーるえいわい?」
「ザリガニ型メダロットの形式番号だよ」
「灯深さん、詳しいんですね」
ソラさんと同じように、マオも、ゴミ袋に入れたメダロットのパーツと思われるゴミをぼんやりと眺めていました。
「ひょっとすると、例の業者が関わっているのかもしれないねぇ」
私は、バスの中でした、メダロットを不法投棄する悪質な業者の話しを思い出しました。
「ずいぶんと遠くまで来てしまいましたね」
そろそろ私も、ゴミを拾うことより、無事に元の道に戻れるかのほうが心配になってきました。
「そろそろ部長たちのところに戻ったほうがいいかもしれないね」
この場は報告・連絡・相談が先ということで、私たちは元来た道を戻ることにしました。
それからどのくらい歩いたのでしょうか。そろそろ舗装された道に合流しても良い頃だと思うのですが、目的の道は一向に見えてはきません。それどころか、私の胸には先程から、ある一つの不安がぐるぐると渦を巻いているのでした。
「ここ、さっきも同じところを通ったような……」
私は、一瞬、しまったなと思いました。堪え切れずに口にした言葉に、まるで心臓をわしづかみにされたような不快感を覚えたのです。私たちはその場に立ち止って、ぐるりと辺りを見回しました。
「やっぱりそうか。一本道で迷いようがないと思ったんだけど、ソラは何か気づいたことはあるかい」
どうやら違和感を感じていたのは私だけではなかったようです。どういうわけか、私たちは、先程から同じ道をぐるぐると回り続けているようなのです。
「どうしてこうなったのかはわからない。ただ、なんとなく嫌な感じがする」
「マオはどう?」
「あぁ、頭の中を覗かれているような、そんな気分だ」
ソラさんとマオも、何かしらの違和感を感じているようでした。
それにしても、マオの言う、「頭の中を覗かれているような感じ」というのは、いったいどういうことなのでしょうか。もしかすると、人間には感じ取ることのできない何かを察して、それを伝えようとしていたのかもしれません。
「とにかく、早くここから抜け出ましょう灯深さん。……灯深さん?」
私が灯深さんのほうへ振り向くと、そこにあるはずの灯深さんの姿はどこにもなく、ソラさんが一人でぽつんと立っているだけです。
「嘘……」
突然の出来事に、私は狼狽してしまいました。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
メダロットが笑い出した原因を解明するためにおどろ山まで来て、道に迷った挙句に灯深さんが忽然と消えてしまって……
身体中から嫌な汗がにじみ出てくるのを感じます。灯深さんだけでなく、このままマオやソラさんまでいなくなってしまったらどうしよう。そんな考えが頭をよぎって、私はマオの手をとってぎゅうっと強く握りました。
「おやおやお嬢さん、そんなに不安そうな顔をして、一体全体どうしたというのかね」
聞こえてきたのは、子供をなだめるような穏やかで、それでいて少しおどけた雰囲気を纏った声でした。
突然降って湧いた希望のようなその声に、私は藁をも縋る想いで顔を向けました。
そこには、まるで私たちを待ちわびていたかのように、一体のウサギ型メダロットが立っていたのです。