メダロット浪漫倶楽部 作:岡丸
「何もないところだが、ゆっくりしていきなさい。ささ、お茶でも如何かな」
森で出会ったウサギ型メダロットに案内されて、私たちは森の中の開けた場所へとやってきました。その場所だけは木が伐採されていて光が差し込み、残った切り株をテーブルとイスにして、私たちはくつろいでいました。
「あのぉ……」
「そうそう、私の仲間たちを紹介しよう。みんな出ておいで」
わいわいがやがや
私が瞬きをしたかと思うと、一体今までどこにいたのかと不思議に思うくらいに早く、どこからともなく三体のメダロットが集まって来ていました。
「まぁ」
「さぁ、みんな、この人に挨拶をするんだ」
ウサギ型メダロットに言われると、後から集まったメダロットたちは、お行儀良く横一列に整列しました。
「はろはろー」
「こにゃにゃちはー」
「ちゃおー」
メダロットの皆さんはぺこりとお辞儀をしながら、とても個性的な挨拶をしてくれました。
「まぁまぁ、皆さんこんにちは。あなたはイタリア語を話せるんですね!」
私は、赤くてシャープなボディをしたメダロットに話しかけました。
「ちゃおってイタリアのことばだったのかー」
「知らなかったんですか。ちなみに、あなたが今着けているそのパーツは……」
「あらごすたーのパーツ」
(きっと、イタリア好きなマスターのメダロットなんですね)
挨拶を終えると、三体のメダロットたちはわいわいと賑やかにお喋りを始めました。
「にんげんにあうなんてひさしぶりだー」
「ひさかたぶりだー」
「みつきとおかぶりだー」
(最後のはちょっと違うような)
三体のメダロットは、どの子もみんな、楽しそうにはしゃいでいましたが、なんだか少しふわふわしていて、まるで酔っぱらっているかのような印象がありました。かくいう私も、その場に雰囲気にのまれてか、頭に靄がかかったように、何か大事なことを忘れてしまったような気がしていました。
メダロットたちのお喋りに耳を傾けていると、だんだんと楽しい気分になってきました。そういえば、ここに来る前に、私は他の誰かと一緒にいたような気がするのですが、いったい誰と一緒にいたのでしょうか。
「そうだ、そろそろお腹が空く頃でしょう。ささ、遠慮なくお食べなさい」
そう言ってウサギ型メダロットがどこからともなく取り出したのは、小さな笠に細長い柄のついた小ぶりな茸でした。
「この付近の山に生えている物を参考にして作ったのだが、毒はないから心配は要らないよ」
山、茸、そういえばこの茸どこかで見覚えがあります。確か、ここに来る前に学校で調べたワライタケもこんな感じの見た目をしていたような気がします。
「あのう、これ、本当に食べて大丈夫なんでしょうか」
「はっはっはっ、あの子たちを見てご覧なさい」
先程挨拶をしてくれたメダロットたちを指して、ウサギ型メダロットは言いました。言われた通り彼らのほうを見てみると、これもいつの間にかメダロットたちは各々の手元に茸を握りしめていて、美味しそうにそれを食べていました。
そうです、メダロットが茸を食べているのです。しかし、メダロットの顔に口など付いてはいません。では、どのようにして食べているのかといえば、メダロットたちが胸の前で握った茸に頭を近づけて、こくこくと頷く様な仕草を繰り返していると、まるで齧られているかのように、だんだんと茸の笠の部分が消えてなくなっていくのです。その時に、「もぐもぐ」や「むしゃむしゃ」と、思い思いの擬音を口にすることも忘れてはなりません。そういったわけで、その様子はどこからどう見ても『食べている』としか言い表せないのです。
「不思議」
私は目の前で繰り広げられる摩訶不思議な光景に釘づけになっていました。
「はは、おかしいでしょう」
ウサギ型メダロットは苦笑交じりに言いました。
「私なんかは、娯楽といえばロボトルくらいしか思いつかない質なのだが、ここにはそうでない者もいるのでね。人間のすることを参考にしてみたんだが、メダロットが食事をするというのは、やはり変だったかな」
そう語るウサギ型メダロットの背中は、私の目には何故だか少し寂しげに映りました。どうしてそんな風に見えたのでしょうか。メダロットには、顔に表情があるわけでもないのにです。
外国人を両親に持つ私は、日常の中で、唐突に孤独を感じる場面がありました。あの時の私は、人間社会で生きているメダロットたちの背中に、そんな自分の姿を重ねて見ていたのかもしれません。
「いいえ。おかしいだとか、変だとか、そういったものではないんです。なんて言えばいいんでしょうか。知らなかったことに出会うドキドキと、知らなかったことが解るワクワクした気持ち……」
この気持ちを表す言葉はないかしら、そう考えたときに、私の頭の中に、親しい友人たちの顔が浮かんできました。
「……ああ、そうです! なんだか私とても浪漫を感じるんです!!」
ウサギ型メダロットは、私の顔を真っ直ぐに見つめると、何か得心がいったように、大きく頷きました。
「浪漫か、いい言葉だ」
ウサギ型メダロットは、茸を頬張っているメダロットたちの方へ向き直しました。つられて私もそちらに顔を向けます。そこには、楽しそうに笑いながら、よもやま話に花を咲かせているメダロットたちの姿がありました。
「誰でも、メダロットとはかくあるべきという確信を持って日々を過ごしている。それは人間もメダロットも同じだ。だが、悲しいことにその確信の大元を作っているのは、我々メダロット本人ではなく君たち人間である場合が多いのだ。そんな確信の中に、君のような人間が浪漫を見出してくれるのであれば、この子たちも安心して元の世界に帰れるかもしれないなぁ」
アンナさん……アンナさん……
「あれ、誰かが私を呼んでる」
頭の中に小さく籠るような声が聞こえてきました。声に引っ張られるかのように身体の自由が利かなくなり、だんだんと景色が色を失い暗くなっていきます。
ウサギ型メダロットは静かに私の方を見つめていました。
「そろそろ目覚めの時間のようだ」
私は、今が現実なのか、それとも夢の中なのか、わからなくなっていました。
「あなたはどうするんですか」
薄れていく意識の中で、私は、ここのメダロットたちのことが気がかりでなりませんでした。
「人間と関わったことのないメダロットはいない。運が良ければまた会うこともあるだろう」
「そっか、道は通じているんですね」
視界が完全に暗転して、私は眠りに落ちるように目を閉じました。