メダロット浪漫倶楽部 作:岡丸
その時の私は、頭がふわふわして、まるで、陽だまりの中でまどろんでいるような気分でした。
(あれ、私は、今何をしてるいるんだろう。確か、浪漫部のみんなと山に来ていたと思ったのだけれど)
アンナさん……アンナさん……
(由里先生の声がする。今授業中だったかしら。授業中!? それはまずいです)
「ごめんなさい、つい眠ってしまいました!!」
私が慌てて上半身を起こすと、そこには、由里先生が大きく目を見開いて、私の顔を覗き込んでいました。近くに大輔さんとロジャーさんもいます。
「アンナさん大丈夫? 気分は悪くない?」
由里先生は、気遣うように私に尋ねてきましたが、私は、自分が何故そんなことを聞かれているのかが理解できませんでした。おそらく、呆気にとられたような表情をしていたであろう私に、大輔さんが助け舟を出してくれました。
「先生、もしかすると、アンナさん、今の状況を飲み込めていないんじゃないですか」
「そうなの? アンナさん、あなた歩いている途中で倒れて、灯深君にここまで運ばれてきたのよ」
私は自分が倒れたという話しを聞いて、少しびっくりしてしまいました。何故なら、私にはその倒れたときから今までの記憶がなかったからです。
「そうだったんですか。それで、灯深さんはどこに」
「灯深は、アンナさんをここまで連れてきたあと、林の中に置いてきたソラとマオを回収しに戻ったよ。部長とボランティンアの人も一緒だから心配は要らないと思うけど」
それからしばらくして、灯深さんと輪太郎部長がソラさんとマオを連れて戻ってきました。灯深さんの話しによれば、私が林の中で倒れた後に、ソラさんとマオも急に動かなくなってしまい、メダロッチで転送することもできなくなっていたようです。ところがどういうわけか、二人とも、林の中から舗道に連れてこられた途端に急に動き出して、何事もなかったかのように振る舞っていたのでした。
「ううむ、これは例の記事と似たような現象のようだが」
「僕も、おどろ山についていろいろと調べてみたんですが、似たような事例はいくつかあっても、ほとんどがメダロットに異常が起こる話しで、人が倒れたって話は初耳ですよ。灯深は何か気づいたことはあるかい」
「そういえば、アンナさんが倒れた場所の近くに茸が生えていた気がするけれど、あまり関係はないかもしれません」
「茸……」
茸と聞いて、私の心に何かが引っ掛かった気がしました。
「なんだいアンナ、またメダロットが茸を食べるなんて言い出すんじゃないだろうねぇ。ははん」
「!!」
マオの言葉を聞いて、私はウサギ型メダロットと出会ったことを思い出しました。
「そうなの、マオ。メダロットが茸を食べていたんだよ!」
私は、浪漫部のみんなに、私が森で体験したことを語って聞かせました。
「ふうむ、森の中に食事をするメダロットか」
「私、どうしても、あれが単なる夢だったとは思えないんです」
私の話しを聞いて考え込む部長に、私は、必至で訴えました。私が出会ったメダロットたちはみんな明るくて、でも、どこか寂しげに見えました。特に、あのウサギ型メダロットのことがどうしても気になって仕方がないのです。
「危険なことはわかっています。でも、私、もう一度あの子たちと会ってお話しがしたいんです」
勢い込む私の両肩に、由里先生の手が優しく置かれました。
「アンナさんの気持ちはわかったわ。だけど、教師としてアンナさんをこのまま放っておくわけにはいきません。今日のところは家に帰ってゆっくり休みなさい。先生も家まで付いて行ってあげるから」
私は気分も悪くはありませんでしたし、何より森の中で出会ったメダロットたちのことが気になって、とても家でゆっくりしていようなどとは思えせんでした。けれども、森の中で倒れた私を、ここまで運んできてくれた灯深さんや、心配をかけたみんなのことを思うと、これ以上わがままを言うこともできませんでした。
「わかりました。先生の仰る通り、今日は、家でおとなしくしています」
「そう、それじゃあ、私は、アンナさんを家まで送り届けてくるから、悪いけど、みんなは各自解散ということでいいかしら」
「わかりました。後のことは、部長の私に任せてください」
私は由里先生が呼んでくれたタクシーに乗ってその場を後にしました。家に帰ると、先生から連絡を受けていた母が、玄関の外で私の帰りを待っていてくれました。その日は、由里先生の言いつけ通り、自分の部屋に籠っておとなしく過ごしました。
「納得がいっていない顔だねぇ。ははん」
「私、明日の放課後になったら、また、おどろ山に行ってみようと思うの」
「ま、好きにすればいいさ」
マオが気のない返事をするのはいつものことでしたが、今日のマオは、何か考え事でもしているようでした。かくいう私も、昼間の出来事が気になって、なかなか寝付くことができませんでした。
(明日、浪漫部のみんなにも、付き合ってもらえないか頼んでみよう)
そんなことを考えていると、私は、いつの間にか、柔らかくて温かな毛布に包まれて、すやすやと夢の中へ落ちていったのでした。