メダロット浪漫倶楽部 作:岡丸
おどろ山で不思議なメダロットと出会った翌日、私たち浪漫部の面々は、昼休みの部室に集まっていました。昨日の活動について話しがあると、輪太郎部長から連絡があったのです。
「放課後前に呼び出してすまないな。ところで、アンナ君、体調の方はもういいのか」
「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみませんでした」
私が頭を下げると、輪太郎部長は気にしないでいいと言って笑ってくれました。
「それで、みんなに集まってもらったのは、昨日の反省と、今日の放課後の活動についてなんだが――」
「そのことで、私からも、皆さんにお願いがあるのですが」
私は、輪太郎部長が言い終わる前に、話しを切り出しました。
「私、どうしても、昨日、山の中で会ったメダロットたちのことが気になるんです。だから、今日の放課後、また、おどろ山に行って、あの子たちを探してこようと思うんです」
輪太郎部長は、きょとんとした顔で私の話しを聞いていました。
「私のわがままだということはわかっています。でも、もし、皆さんがよろしければ、一緒についてきてもらえませんか」
輪太郎部長は、閉じたままの扇子をたんと叩くと、もしやというように口を開きました。
「昨日こと、まだアンナ君に話していないのか」
「ええ、というか、部長が勿体つけて話したがるんじゃないかなと思って、僕と灯深は、あえて黙っていたんですよ」
昨日のこととは、私が由里先生に連れられて、家に帰ったあとのことでしょうか。
「べっ、別にそんなことはないのだが、そういうことなら仕方がないな」
輪太郎部長は、まんざらでもない顔をして、こほんと咳払いを一つしました。
「昨日、あのあとに何かあったんですか」
「ああ、あったとも」
輪太郎部長は、そこまで言うと、なにか重大な発表でもするように、大きく溜を作りました。
「我々、メダロット浪漫倶楽部は、ついに、レアメダルを入手することに成功したのだ!!」
突如出てきたレアメダルという単語に、私はぽかんとしてしまいました。レアメダルといえば、それを手にしたものは世界を制するとさえいわれている、世界中のメダロットオカルトマニアが喉から手が出るほど欲しがる幻のメダルです。
「そんな大変なものを、いったいどこで手に入れたんですか」
「アンナ君の話しを聞いて、我々は推理したのだよ。この事件の真相を!」
「推理ですか!?」
輪太郎部長は、まるで推理小説に出てくる探偵のように、自信に満ちた口調で語り始めました。
「他の多くの証言と同じ体験を、マオ君とソラ君、そして、アンナ君もしていることから、今回の事件がただの噂話ではないことがわかった」
「なるほど」
輪太郎部長の芝居がかった口調に、私は、どんどん引き込まれてしまいます。
「そして、アンナ君の証言からわかったこと、それは、今回の事件が、パーツやティンペットといったメダロットの機械的な部分ではなく、意識や心といった精神的な部分に作用しているということだ」
「ほほー」
輪太郎部長の口上は、さらに熱を帯びていきます。方や私の隣では、灯深さんと大輔さんが、大人しく輪太郎部長の口上に耳を傾けています。
「メダロットの機械的な部分に影響を及ぼすことができるものは、何もメダロットだけとは限らない。だがしかし、これが、精神的な部分に影響を与えることができるものとなると、それは限られてくる」
「それは、いったい何なのでしょうか?」
食い入るようにする私を静止して、輪太郎部長は、大輔さんに目で合図を送りました。輪太郎部長が探偵なら、大輔さんは、その助手のように、これまた芝居がかった口調で答えます。
「メダフォース、ですか?」
メダフォースといえば、レアメダルが使うことができる、超能力のようなものだと噂されています。つまり、逆をいえば、メダフォースを使うことができるメダルを見つけることができたのなら、即ち、それがレアメダルであるとも言えるのです。
「話しが見えてきました! つまり、輪太郎部長たちは、私が由里先生に連れられて家に帰ったあと、メダフォースを使うことのできるメダルを見つけたんですね?」
「そういうことだ。これを見給え」
そう言って、輪太郎部長は、私に、パソコンの画面を見せてくれました。画面に映し出されていたのは、薄暗い林の中に放置されているガラクタの画像でした。随分と長い間雨風に曝されていたのだと容易に想像ができるほど、そのガラクタは色褪せてくたびれていました。ですが、素材の特徴なのか、元の形状が判別できないほどではありません。
「昨日、おどろ山で撮った写真だ」
「これは、メダロットですか?」
「ただのメダロットじゃないぞ。次は、これを見給え」
輪太郎部長が次に渡してくれたのは、『メダロットパーツカタログ』というタイトルの、カタログ雑誌でした。至る所に付箋が張ってあって、よく使いこまれているのが見て取れます。
「その本は灯深君の私物なんだが、その猫の付箋が付いている頁を開いてくれたまえ」
機能美を追求した無機質な付箋に交じって、一か所だけ、ファンシーな装いの猫さんが、本の頁から身を乗り出すようにして、こちらを見つめていました。
「あら、可愛い付箋ですね」
可愛らしい猫の付箋にほっこりして、灯深さんに笑いかけると、灯深さんは、慌てたようにかぶりを振りました。
「それは、僕のじゃなくて、部長のだよ」
「そうなんですか?」
私は、灯深さんに向けた笑顔を、そのまま輪太郎部長の方へ向けました。
「な、そんなことはどうでもいいから。それより、アンナ君、その頁のメダロットに見覚えはないかな」
指定された頁を開くと、そこにはなんと、私がおどろ山で出会ったのと同じ、ウサギ型メダロットが載っていました。
「この子です! 私がおどろ山で会ったのは!」
「もう一度、パソコンの写真を見てみ給え」
輪太郎部長に言われるがままに、再びパソコンの画面に目を向けると、最初に見たときには目に入らなかったものがいろいろと見えてきました。頭から延びた2本の耳、逆関節の脚に、童話に登場する白兎をモチーフにした懐中時計、最初にガラクタのように見えた写真は、私が探していた、あのウサギ型メダロットだったのです。
「でも、私が見たのは、この本みたいに新品のメダロットでしたよ」
「おそらく、アンナ君が見たのは、メダフォースによる幻覚だろう。アンナ君が山で気を失っている間、灯深君は、一時も君のそばを離れてはいないそうだよ」
「でも、メダフォースは、メダルがメダルに影響を与えるものではないのですか?」
「正直なところ、レアメダルやメダフォースについては、謎に包まれた部分が多い。けれども、メダフォースには、メダロッターとメダロットの友情が生み出す奇跡だとする説がある。これが事実であるならば、メダフォースがメダロットだけでなく、人間に影響を与えたとしてもおかしくはない」
まさか私が出会ったメダロットたちが幻だったなんて、私は、すぐには気持ちを整理することができませんでした。
「アンナさんが混乱してしまうのもわかるよ。今回の事件がどうして起こったのか、正直なところ、僕たちも、よくはわかっていないんだけど、それならメダフォースのせいにしとこうって感じだからね」
大輔さんの説明に、輪太郎部長は不満げな顔をしていましたが、よくはわかっていないという大輔さんの言葉が、現状を端的に表しているように思えました。
「ま、それは、後で本人に直接聞いてみれば明らかになることだ」
「本人?」
「その、写真のメダロット」
「まさか!?」
その写真に写っているのは、昨日今日放置されたとはとても思えないほど、苔に覆われてボロボロになった姿をしています。
灯深さんが、沈痛な面持ちで、深く溜息をつきました。
「どうやらそのメダロット、メダルを装着した状態であそこに放置されていたみたいなんだ。メダルにだって、僕たちと同じように人格があるっていうのに」
「それと、アンナ君の話しにあった三体のメダロットも、全員、見つけることができたぞ。三体とも、ウサギ君と同様にメダルを装着していたが、無事に外すことができた」
「よかった。みんなのことを見つけてくれたんですね! 有難うございます」
私は、そう言って、浪漫部の皆さんに頭を下げました。
「なに、このくらい大したことじゃないさ。しかし、一つ問題があってだな。ウサギ君だけ、メダルを取り外すことができなかったのだ」
「なにか問題でもあったんですか?」
画面に映ったぼろぼろの姿を見て、私は、心配がこみ上げてきました。
「そんなに心配することはないよ。ただ、パーツの劣化が激しくてね。ほら、メダルって、人間でいえば脳みたいなものだから、無理やり外すってわけにもいかないからね」
「大輔君の言う通りだ。そんなわけで、メダルの取り外し作業は、今日、街にあるメダロット研究所に持って行って頼むつもりなのだが、そのために、今日の浪漫部の活動は中止にしようと思う」
「あ、もしかして、輪太郎部長の話しって」
「うむ。良かったら、アンナ君も付き合ってもらえるかな」
こうして、私たち浪漫部は、ぼろぼろになったウサギ型メダロットを連れて、メダロット研究所へと行くことになりました。
ちなみに、他のメダルたちは、新しい持ち主を探すために、一時的にメダロット社に預けることとなりました。メダロット社に預ける前に、私たちは、彼らと会話をしてみましたが、やはり、山のなかでの出来事を覚えている子は、一人もいませんでした。けれど、その中の一人が、私たちにしてくれた挨拶は、『ciao』だったりします。