セルフ三次創作のRTA風小説です
***
「TOB/Z in the World」のRTAをやっていきます。
このゲームは、原作キャラや新規作成したオリジナルキャラクターを通して、TOB/Z世界の歴史に介入できる大型没入型RPGです。
ベルベットやスレイ以外にも、ミクリオ、ロゼ、アイゼン、マギルゥなど、さまざまなキャラクターで開始時代と開始地点を選択できます。おまけで、別作品のテイルズキャラがここにいたら?のifも楽しめます。
つまり、誰をどこに置くかで、だいぶ世界の壊れ方が変わります。
今回使用するのは、既存追加キャラクター、ユトです。
既存追加キャラクターってなんだよ。
事実なので仕方ないですね。
なお、今回は設定を一部アレンジします。
時代は太古。種族は聖隷/天族。出身は天界です。
天界天族主人公+太古スタートにすると、通常の地上ルートではなく、天界から物語を始めることができます。
ここのグラフィック、かなり綺麗なんですよね。
まあ本RTAではほとんど見ません。
今回ユトを使う理由は、戦闘性能ではありません。
ユトは通常攻撃も術技も発生が遅く、敵の現在位置ではなく、少し先の位置に攻撃を置く必要があるテクニカルキャラです。
慣れれば強いです。
慣れれば。(慣れれば、とは目安として100時間程度を指します)
ただし、本RTAでは戦闘をしません。
今回のラスボスはアルトリウスでもヘルダルフでもありません。
契約書です。
重要なのは、ユトの固有スキル「確認します」です。
これは、曖昧な説明、矛盾した発言、定義が不明確な用語に対して指摘を入れることで、会話の論点を強制的に固定するスキルです。
戦闘では役に立ちません。
では始めます。
計測開始は、キャラクター選択後、天界の大広間で操作可能になった瞬間から。
タイマースタートです。
まず開始地点、天界の大広間です。
通常の天界天族ルートでは、ここで地上観測チュートリアルを受けます。地上には穢れがあり、天界の天族にとっては猛毒であること、人間と共存したい天族たちが地上へ降りようとしていること、そして天界の門をどう扱うかで評議会が割れていることが説明されます。
ここで普通のキャラなら、共存派に加わるか、保護派に加わるか、もしくは中立を選びます。
選びません。
***
天界の朝は、地上の朝とは違う。
太陽が昇るわけではない。鳥が鳴くわけでもない。風はあるが、草木を揺らすためのものではなく、空気の層そのものが静かに入れ替わるように流れている。
それでも、天界に住む者たちはそれを朝と呼んだ。
昨日と今日を区別するために。
ユトは記録庫の扉の前で足を止めた。
扉の上には、淡い金色の文字でこう書かれている。
――地上観測室。
ユトはしばらくそれを見上げていた。
見上げていた、というより、読んでいた。
一字一句、余白の幅まで。
やがて彼は腰の響筆を抜き、備えつけの修正文板に細い文字を書き込んだ。
「修正申請。現行表示『地上観測室』は実態と一致していません」
通りかかった天族が、嫌な予感がしたように足を止めた。
「ユト。また何か見つけたのか」
「はい」
「今日は評議会の資料整理だけでいい日だったはずだが」
「資料整理のため、部屋名の確認をしています」
ユトは淡々と続けた。
「この部屋で観測可能なのは、地上全域ではありません。天界門周辺、および門を通じて霊的干渉が可能な限定区域のみです。したがって『地上観測室』という表示は過大です」
「過大……」
「正確には『地上門周辺観測室』です」
「長いな」
「実態に即しています」
「利用者は分かっていると思うが」
「分かっている者だけが利用するとは限りません」
ユトは申請文の末尾に、修正案を三つ並べた。
第一案、地上門周辺観測室。
第二案、地上限定観測室。
第三案、門外環境暫定観測室。
しばらく考えて、第三案の横に小さく「暫定の根拠不明」と追記する。
「第三案は不採用です」
「自分で書いて自分で消すな」
「検討過程の記録です」
天族は額を押さえた。
天界には、戦を好む者もいれば、祈りを好む者もいる。地上に憧れる者もいれば、地上を恐れる者もいる。
ユトはそのどれでもなかった。
ただ、表示と実態がずれていると立ち止まる。
それだけの天族だった。
「昨日も似たようなことをしていなかったか」
「はい」
「昨日は何だった」
「『穢れ接触注意』の掲示です」
「あれの何が悪い」
「悪いとは言っていません。不十分です」
ユトは記録板をめくり、昨日の修正履歴を確認した。
「現行表示では、穢れへの接触が一律に危険であるように読めます。しかし確認されている危険性は、天界環境下における天族への影響です。地上環境下での影響、および人間への影響は未確認です」
「だから何と直した」
「『天界環境下における穢れ接触注意』です」
「長い」
「短くした結果、誤解が生じるなら長い方が適切です」
「お前は本当に……」
天族は言葉を探して、結局見つからなかったらしい。
代わりに、ため息だけを残して歩き去った。
ユトはそれを見送らなかった。まだ扉の表示が修正されていないからだ。
彼は響筆を軽く振る。
空中に書かれた文字はすぐには光らない。半拍遅れて白い線となり、申請板の上に沈み込む。
承認待ち。
ユトはそれを確認してから、ようやく扉を開けた。
記録庫の中には、薄い光を帯びた板が何列も並んでいる。地上の様子を映すもの、天界門の霊的圧を測るもの、評議会の発言記録を保管するもの。どれも整然と置かれているように見えて、ユトに言わせれば分類が甘かった。
「第三区分に地上降下希望者名簿が混在しています」
奥にいた係の天族が、びくりと肩を揺らした。
「おはよう、ユト」
「おはようございます。第三区分に地上降下希望者名簿が混在しています」
「挨拶の後に同じことを言わなくていい」
「未対応でしたので」
「それはあとで移すつもりだったんだ」
「では、未処理棚に置くべきです。現状では処理済み資料に見えます」
係の天族は、観念したように名簿を抱え直した。
「分かった、移す。移せばいいんだろう」
「ありがとうございます」
ユトは礼を言い、別の棚を見る。
そこには新しい札がかかっていた。
――共存の賭け準備資料。
ユトは動きを止めた。
係の天族は、名簿を抱えたまま気づかないふりをしようとした。だが、ユトが札の前で沈黙した時点で、それは無理だった。
「……それは評議会用だ」
「はい」
「まだ正式な名称ではない」
「はい」
「だから、今は触らないでくれると助かる」
「確認します」
「話聞いてたか?」
ユトは札を見た。
共存の賭け。
美しい言葉だった。
少なくとも、そう見えるように作られていた。
天族と人間が、互いに歩み寄れるかを試す。天界を守りながら、地上に未来を残す。地上へ降りたい者たちに道を与え、天界に残る者たちの恐怖も否定しない。
そういう意味の札なのだろう。
おそらく。
だが、札は札でしかない。
表示が美しいことと、実態がそれに伴うことは別だった。
ユトは資料束の一枚目をめくる。
係の天族が小さく呻いた。
「ユト、それはまだ――」
「閲覧禁止表示はありません」
「それはそうだが」
「では確認します」
彼は一行目を読んだ。
人間と天族が、穢れを乗り越え、共存し続けることができた時――
ユトの指が止まった。
「……共存し続ける」
声に出したつもりはなかった。
けれど、係の天族が困った顔をしたので、音になっていたのだろう。
ユトはもう一度読む。
共存し続ける。
まだ共存は成立していない。
成立していないものに、継続を求めている。
さらに下を見る。
失敗時の代償。
人間側、穢れによる変質。
天族側、穢れによる竜化。
ユトは目を伏せた。
怒りはなかった。
悲しみも、まだなかった。
ただ、赤字が入った。
この表示は、実態と一致していない。
「係員さん」
「……何だ」
「この資料の名称は不適切です」
「まだ正式名称ではないと言っただろう」
「正式名称でないなら、なおさら今修正すべきです」
ユトは資料を閉じた。
「これは『共存の賭け』ではありません」
記録庫の空気が、ほんの少しだけ冷えた。
係の天族は笑おうとして、失敗した。
「では、何だと言うんだ」
ユトは札を見上げた。
金色の文字は、まだ美しく光っている。
「現時点では」
彼は響筆を取り出した。
「当事者同意不明、成立前継続義務付、失敗時片側破壊型誓約案です」
「長い」
「短くするなら、不適切誓約案です」
「もっと悪くなったぞ」
「実態には近づきました」
ユトは、申請板に新しい修正依頼を書き込んだ。
その文字は半拍遅れて光り、静かに記録庫の壁へ沈んでいく。
承認待ち。
ユトはそれを確認して、資料束を抱えた。
「評議会へ行きます」
「今からか」
「はい」
「誰の味方として?」
ユトは少しだけ考えた。
共存派。
保護派。
強硬派。
地上。
天界。
どれも違った。
「表示と実態の一致のためです」
係の天族は、もう何も言わなかった。
ユトは記録庫を出た。
扉の上では、先ほどの申請が通ったらしい。
金色の文字がゆっくりと書き換わっていく。
――地上門周辺観測室。
ユトはそれを確認し、一度だけ頷いた。
正しくなった。
少なくとも、一つは。
***
ユトで話しかけると専用選択肢が出ます。
ユト「確認します」
はい、出ました。
この時点でチャートに入ります。
評議会A「地上には穢れが満ちている。あれは我ら天界の天族にとって猛毒だ」
ユト「確認します。穢れは地上においても有害なのですか」
評議会A「……いや。地上では本来、無害である」
ここ、いきなり重要です。
地上では無害。天界では猛毒。
これを初手で引き出せないと後半の契約破綻フラグが立ちません。
評議会B「だが、天界に穢れが流れ込めば我らは滅びる。ゆえに門を閉じる必要がある」
ユト「理解しました。天界を守るために門を封鎖することには合理性があります」
ここでユトは門の封鎖自体を否定しません。
共存派の味方ではないので。
コメント
「認めるんだ」
「ここで否定しないのがユト」
「天界保護は合理的」
「なおこの後死ぬ」
次に評議会中央の長老へ話しかけます。ここで誓約文の説明が入ります。
長老「地上の者たちが穢れを乗り越え、人間と天族が共存し続けることができた時、天界の門は再び開かれるであろう」
普通はここで「壮大な試練ですね」とか「人間と天族が共存できるかどうかの賭けなのですね」と進みます。
進みません。
ユト「確認します。今の文言は『共存できた時』ではなく『共存し続けることができた時』で間違いありませんか」
長老「……正確には、そうだ」
ユト「確認します。共存が成立していない段階から、共存し続ける義務が発生しているという解釈でよろしいですか」
長老「そのような解釈も、不可能ではない」
はい。
「不可能ではない」が出ました。
このゲームの契約イベントでは、「否定できない」「不可能ではない」「そうとも読める」が非常に重いです。ここで評議会側が明確に否定できないため、契約文不備フラグが立ちます。
ユト「では、共存成立前から義務違反が発生する可能性があります」
評議会C「それは地上の者たちが穢れを乗り越えるための試練である」
ユト「確認します。試練とは、達成可能性を前提としますか」
評議会C「当然だ。達成不能なものを試練とは呼ばぬ」
ユト「確認しました」
出ました。
確認しました。
ここでほぼ勝ちです。
コメント
「終わった」
「試練の定義取られた」
「天界、逃げろ」
「逃げても議事録が追ってくる」
「戦闘では役に立ちません」
ユト「共存が成立していない段階で、共存し続ける義務を課すことはできません」
ユト「また、その義務違反に対して代償が発生するなら、これは達成可能な試練ではありません」
ユト「試練ではなく、失敗を前提にした処理です」
評議会A「失敗を前提などとしていない」
ユト「確認します。では、人間が業魔化し、天族がドラゴン化する処理は何のために存在しますか」
評議会A「穢れを乗り越えられぬ者への代償だ」
ユト「地上では本来、穢れは無害なのですね」
評議会A「……そうだ」
ユト「天界の天族にとっては猛毒なのですね」
評議会A「そうだ」
ユト「天界では業魔もドラゴンも生まれないのですね」
評議会A「……」
ユト「では、この処理は地上を救うためのものではありません」
ここから目的確認に入ります。
ユト「天界を守りたいのですか、それとも人類を滅ぼしたいのですか」
評議会全体が沈黙します。
BGMも消えます。
ユト本人は煽っていません。
目的確認をしています。
ユト「天界を守るのであれば、穢れが天界へ流入しないよう門を封鎖すれば足ります」
ユト「地上に降りたい天族のみを、リスク説明と意思確認の上で降ろすことも合理的です」
ユト「しかし、地上で穢れを有害化し、人間を業魔に、天族をドラゴンにする必要はありません」
評議会B「人間は穢れを生む」
ユト「人間を滅ぼしたいならそう言ってください。検討します」
コメント
「言うな」
「検討しますじゃないんだよ」
「人類殲滅案を議題に乗せるな」
「共存派の味方じゃないの怖い」
「天界保護派の味方でもないぞ」
評議会B「そのような話ではない!」
ユト「では、共存の賭けなのですね」
評議会B「そうだ」
ユト「その場合、片方の当事者のみが開始前から致死性の代償を負うことは不適切です」
ユト「穢れの発生原因を滅ぼすのであれば、一定の合理性があります」
評議会B「……ならば」
ユト「しかし、その場合『共存できるかどうかの賭け』と呼ぶのは不適切です」
評議会B「……」
ユト「人間を滅ぼすなら、人間殲滅案として審議してください」
ユト「天界を守るなら、門の封鎖案として審議してください」
ユト「共存を試すなら、当事者同意と公平な条件を設定してください」
ユト「現行案は、いずれの目的に対しても不適切です」
ここで契約破綻フラグが二段階目に進みます。
ただし、ここだけではまだ差し戻しです。無効化までは行きません。
次に当事者同意不在を突きます。
ユト「ところで、天族の皆さんは賛成派も反対派もこの場にいるのでよしとして」
評議会A「……何の話だ」
ユト「人間はこの誓約に同意しているのでしょうか?」
評議会A「人間は穢れを生む。彼らに判断を委ねることは危険だ」
ユト「確認します。同意していないのですね」
評議会A「そうは言っていない」
ユト「では、同意した人間代表の氏名、権限、選出方法、同意範囲を提示してください」
評議会A「……」
ユト「提示できない場合、この誓約は片方の当事者不在で締結されたものとなります」
コメント
「はい無効」
「人間代表どこ?」
「天界内稟議で地上を縛るな」
「神話がコンプラで死んだ」
「ユトを会議に呼ぶな」
「呼ばなくても会議録読んでくるぞ」
評議会C「人間は当事者ではない。これは天族の誓約だ」
ユト「では、人間と天族の共存を条件とする誓約において、人間は当事者ではないのですね」
評議会C「……」
ユト「当事者ではない者との共存を、なぜ条件として設定したのですか」
ここで長老の表情が変わります。
契約破綻フラグ三段階目です。
ユト「整理します」
ユト「天界を守るためなら、門の封鎖で足ります」
ユト「地上に降りたい天族がいるなら、本人の意思確認と防護措置の上で降ろせばよいでしょう」
ユト「人間を滅ぼすなら、その目的を明示してください」
ユト「共存を望むなら、人間側の同意と公平な条件が必要です」
ユト「いずれの場合でも、業魔とドラゴンという存在を生み出し、穢れを増やし有害化する合理的な理由がありません」
ユト「この条項は削除対象です」
コメント
「条項削除対象www」
「ラスボスが条項扱い」
「ベルセリアとゼスティリアが条項削除で消える」
「世界観の根幹を不要処理って言うな」
「でも不要処理なんだよなあ」
ここでイベントが分岐します。
通常なら天界保護派と共存派の争いが激化し、誓約が強行されます。
しかしユトの場合、現行誓約の不備が議事録に残るため、強行できません。
長老「……では、どうすればよい」
ユト「共存を望む天族の意思確認を行ってください」
ユト「地上に降りる者には、穢れの危険性、帰還困難性、天界側の支援範囲を事前に説明してください」
ユト「門は天界への穢れ流入を防ぐため封鎖してください」
ユト「ただし、地上では穢れを有害化しないでください」
ユト「人間と天族の共存は、当事者同士が地上で試すべきです」
ユト「それが失敗した場合の責任を、事前に片方へ押しつけることは不適切です」
ゼンライ「……それならば」
ここでゼンライが出ます。
共存派筆頭です。
ゼンライ「それならば、儂らは地上へ降りられるのじゃな」
ユト「危険性を理解し、意思確認を行った上であれば、反対する理由はありません」
ゼンライ「人間と共に生きることも、許されるのじゃな」
ユト「許可という表現は適切ではありません。天界側が地上における人間と天族の関係を一方的に許可する権限を持つかは未確認です」
ゼンライ「……はっはっは!」
ユト「何か不明瞭な点がありましたか」
ゼンライ「いや、よい。実によい」
ここでゼンライ好感度が上がります。
別に上げなくてもクリアできますが、後世の神話イベントに影響します。
コメント
「ゼンライ爆笑」
「権限確認で好感度が上がる男」
「共存派の味方じゃないのに共存派が救われてる」
「本人は救ったつもりがない」
ここで画面が白転します。
誓約改定イベントです。
本来ならここで、地上に穢れが有害化される呪いが走ります。
人間は業魔化し、天族はドラゴン化するようになります。
ベルベット編とスレイ編の大前提ですね。
今回は発生しません。
業魔化条項、削除。
ドラゴン化条項、削除。
地上穢れ有害化処理、削除。
地上移住天族意思確認、実行。
天界門封鎖処理、実行。
共存賭け条件、公平化。
この時点でメイン悲劇ルートが消滅します。
タイマーストップ。
記録、地上未到達、契約精査完了。
コメント
「終わった」
「地上に降りてないんだが?」
「ラスボスどこ?」
「条項削除されました」
「ベルベットもスレイも知らない男」
「一番幸せなルートなのに物語が始まらない」
エンディングです。
昔々あるところに、知らない男がいました。
知らない男は、天族と人間が共存できるかどうかの賭けについて、条件の不備を指摘しました。
その結果、フェアな賭けが生まれました。
人間と天族は共存することができました。
めでたしめでたし。
……で終わると短すぎるので、後日談も見ます。
まずアバル村。
ベルベットがいます。
普通の村娘です。
姉が死ぬことも、義兄に弟を殺されることもありません。よって復讐の必要もありません。業魔にもなりません。
家族で普通に暮らしています。姉の息子がもうじき生まれそうです。名前を何にするか迷っているようです。
次にイズチ周辺。
スレイがいます。
普通の青年です。
隣には人間の幼馴染がいます。ごく普通の好奇心旺盛な男です。世界を背負う導師にはなりません。世界の為に眠ることもありません。
彼らはユトを知りません。
ユトも彼らを知りません。
ユトは地上を救いたかったわけではありません。
天界を救いたかったわけでもありません。
ベルベットやスレイに会う理由もありません。
ただ矛盾を指摘しただけです。
その結果、彼らは普通に生きています。
ゼンライの様子も見てみましょう。
ゼンライが若い天族たちに昔話をしています。
ゼンライ「かつてユトという天族がおってのう。儂らはその慧眼に救われたのじゃ」
若い天族「ユト様は、共存派の英雄だったのですか?」
ゼンライ「さてのう。あやつ自身は、そうは言わんじゃろう」
若い天族「では、天界を守った英雄ですか?」
ゼンライ「それも、あやつは否定するじゃろうな」
若い天族「では何をした方なのですか?」
ゼンライ「契約書を読んだ」
若い天族「……契約書?」
ゼンライ「うむ。そして言ったのじゃ。“この条件では、賭けになっていません”とな」
ここで画面が切り替わります。
現在のユトです。
ユト「何故、天界では穢れが猛毒になっているのかを検証する必要があります」
まだやっています。
場所依存なのか。
個体差なのか。
天界の霊素との反応なのか。
門の構造なのか。
天界天族の認識や加護領域の問題なのか。
分からないことを、分からないまま制度にしない。
それがユトです。
地上調査イベントも入ります。
ユト「地上に降りた天族達の現状を確認することが理想です。しかし、無条件に門を開放することは危険です。徹底した防護の元で、短時間のみ行うのが良いでしょう」
本来なら、他に誰もいなければユトが行くつもりでした。
しかし、行きたいと言う天族が現れます。
調査役の天族「私が行きます」
ユト「危険性は説明しました。帰還可能時間は限られます。異常が発生した場合、即時撤退します。それでも行く意思がありますか」
調査役の天族「はい」
ユト「本来であれば、提案者である私が行くべきでしょう」
調査役の天族「いいえ。私の代わりはいてもユト様の代わりはいません」
ユト「そうは思いませんが」
調査役の天族「貴方が残るから、私は行けるのです」
ユト「……説明を求めます」
調査役の天族「帰る場所を、貴方が守ってくださるからです」
少し間があります。
ユト「分かりました」
調査役の天族「行ってきます」
ユト「任せましたよ」
ここで台詞回収です。
戦闘中だと誰に何を任せているのか分からない詠唱台詞ですが、このルートでは明確に意味があります。
自分が行くべきかもしれなかった場所へ、行きたいと願った当事者を送り出す言葉です。
そして調査役が帰ってきます。
調査役の天族「思ったより平気でした!」
ユト「帰還を確認しました。意識状態、霊力循環、外傷の有無を報告してください」
調査役の天族「全部大丈夫です。少し疲れましたけど、たぶん緊張していただけです」
ユト「分かりました。不調がないようで何よりです」
これで地上短時間調査完了。
天族の地上往来自由化へ向けた研究フラグが立ちます。
後年、天族は地上と天界を自由に行き来できるようになります。
人間の天界入域については審議中です。
ユトが生きていれば、また確認します。
お疲れ様でした。
記録は地上未到達、契約精査完了、物語発生前終了です。
***
「完走おめ」
「地上未到達で完走は草」
「Any%というかBefore Any%」
「開始地点でラスボス消すな」
「戦闘回数0」
「経験値0、議事録100」
「タイマー止めるの早すぎる」
「世界救済RTA最短チャート」
「これレギュレーション通る?」
「通るんだよなあ」
「バグなしなのが一番怖い」
「仕様の穴を突いてるだけ」
「仕様というか契約書の穴」
「専用会話あるし、仕様では?」
「天界契約デバッグ%」
「Story Skip%」
「Tragedy Skip%」
「TOB/Z両方スキップするな」
「ユトを天界に置くな」
「置いたから終わった」
「戦闘では役に立ちません(世界終了)」
「確認します、強すぎる」
「会話版必中技」
「議事録に弱点属性がある世界」
「表示法違反の敵」
「共存派でも保護派でもなく表示と実態の一致派」
「誰の味方でもないのに全員救ってる」
「本人は救ったつもりがない模様」
「そういうとこだぞ」
「ユトは遅いので開始前に終わる」
「ユトは少し先を見て攻撃を置くキャラです。今回は数千年先に攻撃を置きました」
「置き技が歴史に刺さってる」
「遅延発動キャラなのに初手で終わらせるな」
「神話がコンプラで死んだ」
「契約書は読もう」
「読まれた結果がこれ」
「ゼンライ好感度上昇」
「権限確認で好感度が上がる男」
「契約書を読んだ、で世界変わるの草」
「慧眼(条項確認)」
「人類殲滅案として審議してください、じゃないんだよ」
「検討します、怖すぎる」
「天界を守りたいのですか、それとも人類を滅ぼしたいのですか」
「目的確認で神話を殺すな」
「穢れの発生原因を滅ぼす。一定の合理性があります」
「合理性を認めるな」
「この条項は削除対象です」
「ラスボスが条項扱い」
「業魔化条項、削除」
「ドラゴン化条項、削除」
「世界観の根幹を不要処理って言うな」
「でも不要処理なんだよなあ」
「普通の村娘で泣いた」
「普通の青年で泣いた」
「ベルベットが普通に暮らしてるだけで泣ける」
「スレイが眠らなくていい世界」
「ミクリオが待たなくていい世界」
「復讐しなくていいベルベット」
「導師にならなくていいスレイ」
「何も起きないことが救い」
「一番幸せなルートなのに一番物語がない」
「物語が始まらないのがハッピーエンド」
「知らない男が知られないまま終わった」
「誰にも会わないことで全員を救うな」
「これは泣く」
「泣いていいのか笑っていいのか分からん」
「ベルベットは普通の村娘」
「スレイは普通の青年」
「ユトは知らない男」
「それでいい」
「それが一番いい」
「これは英雄譚ではない」
「監査報告である」
「お疲れ様でした」
「8888888888」
***
昔々、天の上に、ひとつの門がありました。
門の向こうには地上がありました。
地上には人間がいました。
天の民の中には、人間と共に生きたいと願う者がいました。
けれど、天の民は地上を恐れていました。
地上の穢れは、天に住まう者たちにとって毒だったからです。
そこで天の民は、ひとつの賭けを作ろうとしました。
人間と天の民が、穢れを乗り越え、共に生き続けることができたなら、門を開こう。
できなければ、人間は人でなくなり、天の民は竜となる。
それは、共に生きるための賭けと呼ばれました。
その時、ひとりの天の民が言いました。
「確認します」
その男は、剣を抜きませんでした。
火も、水も、風も、地も呼びませんでした。
ただ、書かれた言葉を読みました。
そして言いました。
「これは、賭けではありません」
まだ共に生きていない者たちに、共に生き続けることを求めている。
まだ同意していない者たちに、失敗の代償を負わせようとしている。
天を守るためなら、門を閉じればよい。
人間を滅ぼすなら、そう言えばよい。
共に生きるかを試すなら、まず共に生きる者たちの声を聞くべきだ。
天の民は黙りました。
長い、長い沈黙でした。
やがて、賭けは作り直されました。
地上へ降りたい者は、自ら望んで地上へ降りました。
門は天を守るために閉じられました。
地上の穢れは、地上のものとして残されました。
人間は人間のままでした。
天の民-天族は天族のままでした。
そうして、長い時が過ぎました。
人間と天族は、少しずつ言葉を交わしました。
時には争い、時には別れ、時には手を取りました。
けれど、誰かが人でなくなることも、誰かが竜に変わることもありませんでした。
やがて、門はまた開かれました。
天族は地上へ行き、地上から帰ってきました。
帰ってきた者は笑って言いました。
「思ったより平気でした!」
門のこちら側で待っていた天族は、少しだけ目を伏せて答えました。
「分かりました。不調がないようで何よりです」
その天族の名を、ユトと言いました。
けれど、地上の人々はその名を知りません。
村の娘は、村の娘として暮らしました。
遺跡好きの青年は、遺跡好きの青年として旅をしました。
誰も、自分たちが救われたことを知りませんでした。
それでよかったのです。
これは英雄の物語ではありません。
剣を振るわず、竜を倒さず、神を討たず、世界を救おうともしなかった天族の話です。
ただ、賭けと呼ばれたものが賭けではなかったので、そう言いました。
それだけの話です。
めでたし、めでたし。
なお、当人は後年こう記録しています。
「当該誓約案は表示と実態が一致していなかったため、修正を求めました」
***
余談ですが、このイベントはユト専用ではありません。
一番安定するのがユトというだけで、条件を満たせば他のキャラクターでも発生します。
条件は大きく二つ。
ひとつは、誓約文の矛盾を見抜けること。
「共存できた時」ではなく「共存し続けること」になっている点。
共存成立前から継続義務が発生している点。
失敗時の代償が、共存の当事者そのものを破壊する点。
天界保護、地上救済、人類殲滅、共存検証のどれを目的にしても、業魔化とドラゴン化が不要処理になっている点。
ここを読めるだけの論理力が必要です。
もうひとつは、見抜いた矛盾を詰める理由があることです。
人間と天族の共存を目指す。
地上と天界の関係を正しく知りたい。
契約式の異常が気になる。
神話規模の誓約に穴があるのを面白がる。
理由は何でもいいです。
重要なのは、違和感に気づいたあと、そこで黙らないことです。
そのため、リタやリフィル、ジェイドあたりはかなり適性があります。
リタは術式や因果関係の異常として詰めます。
「待って。穢れが毒なんでしょ? だったら何で地上で穢れが増えるような条件式を組んでるのよ」
リフィル先生は教育・試練・共存倫理の観点から詰めます。
「試練とは、達成可能性があるから試練なの。解答不能な問題を与え、失敗した者に罰を与える行為は、教育ではなく虐待よ」
ジェイドは笑顔で最後まで詰めます。
正確なセリフは忘れたが、「なるほど。人間と天族が共存し続けることが条件ですか。素晴らしい理念ですね。では確認ですが、共存関係が成立する前から代償が発生しているのは、どなたの設計で?」こんな感じだったと思う。台詞が長いのでRTA向きではないという説もあるが、面白いので一度見てみてほしい。
ミクリオも理論上は可能です。
文章読解力があります。
探求心もあります。
誓約文の違和感に気づく能力も、かなり高いです。
ただし、ここに落とし穴があります。
天界天族ミクリオの場合、ひとつ足りないパラメータが存在しています。
異種族共存値です。
まさかの方面で引っかかります。
普通、ここが足りないとは思わないんですよ。
だってミクリオだぞ?
ですが、このルートのミクリオにはスレイがいません。
本編ミクリオが人間と天族の共存を信じられるのは、まず隣にスレイがいたからです。
人間と共に育ち、同じものを見聞きし、同じ夢を語った経験があるから、人間との共存が理念ではなく実感になっています。
しかし天界天族ミクリオには、その原体験がありません。
人間を研究対象として見ることはできます。
守るべき存在として扱うこともできます。
地上に興味を持つこともできます。
けれど、「人間と共に生きたい」という動機が、まだ本人の中で育っていません。
そのため、誓約文の矛盾には気づけても、そこから会議を止めるところまで踏み込む理由が弱いです。
一方で安全保障ルート、つまり「穢れが天族にとって毒なのに、なぜ地上で毒性を増やす仕組みにしているのか」という方向なら突破可能性が高まります。
スレイは逆に難しいです。
善性が強すぎるため、誓約文の悪意や不備を、まず善意に読んでしまいます。
つまり、このイベントは「頭がいいキャラなら誰でも行ける」わけではありません。
論理力。
違和感を逃がさない性格。
そして、それを会議の場で口に出す理由。
この三つが必要です。
その点、ユトはおかしいです。
論理力があります。
違和感を逃がしません。
理由は「表示と実態が一致していないため」で足ります。
なので、このイベントに関してはユトが最安定です。
コメント
「ユト専用じゃないのか」
「発生条件が思想チェックすぎる」
「論理力だけじゃ足りないのいいな」
「黙らない理由が必要」
「表示と実態が一致していないため、強すぎる」
「ミクリオ理論値ルート」
「スレイは善意に読んじゃうの分かる」
「ユト、会議適性が高すぎる」
「戦闘では役に立ちません」
天界天族ユト誓約差し止めルートは以上になります。
閲覧ありがとうございました!