【本編完結】炎上論点スタンプラリー【TOZ】   作:Moa

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水の天族、無限ループを発動させる

導師スレイに、ユトは問うた。

 

ユト「導師になった時点で、伴侶や子を持つ未来を失う可能性について、貴方はどの程度まで自覚していましたか」

スレイ「……え?」

ミクリオ「ユト」

ユト「はい」

ミクリオ「今、その聞き方をする必要があるのか」

ユト「あります。導師という役割が、世界を救う力であると同時に、ひとりの人間の未来を削るものなら、確認されるべきです」

ロゼ「言い方が硬いんだよなあ」

スレイ「伴侶とか子供とかあんまり考えたことなかったかな」

ユト「考える前に、選択肢から外れていた?」

スレイ「……そうかも」

ミクリオ「スレイ」

スレイ「でも、導師になるって決めた時は、人と天族が一緒に暮らせる世界を作りたいって思ったんだ。自分がどうなるかより、それが先だった」

ユト「はい。貴方らしいです」

スレイ「褒めてる?」

ユト「褒めています。ですが、危ういとも思っています」

 

***

 

作中で「導師は家庭を持てない」と先代導師ミケルから語られている。

同一世界観のベルセリアでも、当時の導師アルトリウスは「世界の為に家庭を捨てた男」だった。

 

家庭を持てないというのは結構なデメリットで、物語によっては葛藤の中心に置いてもいいテーマのはずだ。

なのにスレイはそこを悲観視していない。

 

「世界を救うために、自分の人生を諦めるのか」

「誰かと結ばれる未来を捨てるのか」

「子を持たないまま、人間としての時間を終えるのか」

「旅を続けることは、定住する幸せを放棄することなのか」

 

そんな事を、スレイはおそらく考えていない。

 

「ミクリオがいるから」でそのデメリットを踏み倒している。

 

もちろん、スレイ本人はそんな言い方をしない。

「踏み倒した」なんて思っていない。

ただ、家庭という将来像を失う前から、別の将来像を持っていただけだ。

 

ミクリオと遺跡を巡る。

それが、スレイにとっては普通に想像できる未来だった。

 

***

 

ミクリオ「スレイが特定の女性と定住する想像はできないな……」

ユト「はい、私もそう思います」

スレイ「オレ、ミクリオと遺跡めぐりする未来ならすぐ想像できるけど、結婚して家にいる未来はあんまり分からないな」

ユト「つまり、想像可能な将来の中心にミクリオさんがいるのですね」

スレイ「うん」

ユト「では、人生設計上の最優先同行者は既に決定していると」

ミクリオ「……ユト?」

スレイ「最優先同行者ってかっこいいな」

ロゼ「そこ気に入るんだ」

 

***

 

TOZ原作では長い間ぼかされていたミクリオの加護だが、今回TOZ-R設定資料集で判明した。

 

「良縁に恵まれる」

 

良い。

 

すごくいい。

ミクリオらしい。

派手に運命を捻じ曲げるというより、必要な出会いに巡り合わせてくれる感じがある。

 

スレイの旅を考えると、確かにそうかもしれない。

アリーシャと出会う。

ライラと出会う。

ロゼと出会う。

エドナ、デゼル、ザビーダ、セルゲイ、いろんな人と出会う。

スレイは良い縁に恵まれている。

 

ユトは……悪い縁ではない。

ないのだが、ユトがいなくても世界は救えたと思う。

 

どちらかといえば、ユトにとってスレイが良縁だった。

 

 

「良縁に恵まれる」ミクリオの加護は、スレイの旅路を支えるものだったのか。

 

いい設定だな。

と思った。

 

戦闘中に攻撃力が上がるとか、敵の弱点を見抜くとか、そういう派手な加護ではない。

でもミクリオはそれでいい。

彼は前に出て運命を殴り倒すタイプではなく、隣にいて、必要な時に言葉を差し出すタイプだから。

 

良縁に恵まれる。

それは、誰かを強制的に救う力ではない。

ただ、孤独な道を歩く者が、完全な孤独にならないようにする力だ。

 

いいじゃん。

優しいじゃん。

ミクリオじゃん。

 

でも、気づいてしまった。

 

待って。

 

スレイにとっての最初の良縁って、誰?

 

いや、まあ、ジイジやイズチの天族たちもいる。

それはそう。

それはそうなんだけど。

 

物語の中心にある、スレイの人生を形作った縁。

導師になる前のスレイを知っている相手。

世界中の遺跡を巡る夢を一緒に抱いた相手。

スレイが未来を想像するとき、当たり前みたいに隣にいる相手。

 

……ミクリオでは?

 

***

 

ユト「確認します。良縁とは、恋愛関係に限定される言葉ではありませんね」

ミクリオ「当然だ」

ユト「友情、師弟関係、旅の同行者、契約相手、恩人、あるいは人生の選択に影響を与える人物。すべて良縁に含まれる可能性があります」

ロゼ「急に辞書みたいになった」

ユト「定義の確認は重要です」

スレイ「じゃあ、オレにとってミクリオは良縁だな」

ミクリオ「スレイ」

スレイ「違うのか?」

ミクリオ「違わないが……」

ユト「否定しないのですね」

 

***

 

待って。

 

ミクリオの加護が「良縁に恵まれる」だとして。

その加護がスレイに働いているとして。

スレイにとっての最大級の良縁がミクリオだとしたら。

 

それは、ミクリオの加護がスレイをミクリオ自身との縁に恵ませている、ということにならないか?

 

待って。

 

自分で自分との縁を補強してない?

 

いや違う。

違うのか?

加護はミクリオ本人の意思そのものではなく、天族としての願いのようなものだ。

 

どちらかというと、「人間が天族を想えば、その人間に対して自動的に発動する」という挙動に近い。

加護は、本人の善意や意図どおりにだけ働くとは限らない。

デゼルやサイモンの例を思うと、なおさらそうだ。

 

だからミクリオが意図してスレイを自分に縛っているわけではない。

 

ミクリオはたぶん、自分の加護をそういうものとして考えていない。

スレイを自分に結びつける力だなんて、絶対に思っていない。

もしそんな言い方をされたら、真っ先に否定すると思う。

 

「僕はスレイを縛りたいわけじゃない」

 

たぶん、そう言う。

それは本当だ。

ミクリオはスレイを縛りたいわけではない。

 

それは分かる。

 

分かるが。

 

結果として、スレイは良縁に恵まれる。

その良縁の中心にミクリオがいる。

ミクリオとの縁が強いから、スレイはさらに良い縁に恵まれる。

良い縁に恵まれたスレイは、ミクリオとの夢をより強く支えられる。

その夢がまた、ミクリオとの縁を補強する。

 

……循環してない?

 

これ、循環してない?

 

ミクリオの加護

スレイが良縁に恵まれる

スレイにとっての良縁筆頭がミクリオ

ミクリオとの縁が強化される

ミクリオがスレイの傍にいる意味が強くなる

ミクリオの加護の意味がさらに重くなる

 

やめろ。

 

良縁の永久機関を作るな。

 

***

 

しかもここに、真名の話が乗る。

 

契約以外で真名を教えることは、命懸けの友情、あるいは愛の告白。

そしてスレイは、契約前からミクリオの真名を知っている。

 

ルズローシヴ=レレイ。

執行者ミクリオ。

 

かっこいい。

 

しかしここで一度、冷静になりたい。

ミクリオは自分で「執行者」という言葉を選んだのだろうか。

 

ベルセリアでは、アイゼンが自分の真名を知ったのは妹のおかげだと語っている。

だとすれば真名とは本人が辞書を引いて命名するものではなく、絆を結んだ相手によって読み取られるものなのかもしれない。

 

もしそうなら。

スレイは、ミクリオが自分で言葉にする前から、ミクリオの本質を知っていたことになる。

 

やめろ。

良縁どころの話ではない。

 

 

そして、この「良縁」は設定資料集の文章だけで完結していない。

ゲーム中のミクリオの能力まで振り返ると、さらに逃げ場がなくなる。

 

ゼスティリアには属性ごとのマップアクションがある。

 

水属性は『霊霧の衣』。敵から身を隠すという効果がある。

 

原作の水属性ダンジョンではこれを使用してパズルを攻略していくのだが、この操作感とか当たり判定、使用時に走れないなどの仕様で少し使いづらかった気がする。

 

この能力はミクリオが修行して覚えたらしい。

 

だが、よくよく考えてほしい。

 

天族であるミクリオが、「姿を隠す」能力を必要とするだろうか?

 

普通の人間には、ミクリオは見えない。

ならばミクリオが姿を隠す必要は本来ない。

 

見つかる可能性があるとすれば、それは憑魔や天族、あるいは天族を認識できる人間に対してだ。

つまり霊霧の衣とは、ミクリオ自身の不可視性を補強する力ではない。

 

人間を保護するための能力だった可能性がある。

 

ミクリオは、もともと見えない。

だから「隠れる」必要がない。

 

けれど、スレイは違う。

スレイは人間だ。

見える。

触れられる。

呼び止められる。

敵に見つかる。

 

だから、ミクリオが「姿を隠す」術を覚える意味が生まれる。

 

自分が隠れるためではない。

隣にいる人間を、同じ霧の中へ入れるためではないか。

 

 

そこにさらに、導師になったスレイが伴侶や子を持つ未来を失う可能性がある、という話が乗る。

でもスレイは「家庭を持つ想像をしたことがない」「ミクリオと遺跡巡りする未来ならすぐ想像できる」と言う。

 

やめろ。

 

さらにそこへ、ミクリオの加護が「良縁に恵まれる」だと判明する。

 

やめろって言ってるだろ。

 

これ、ミクリオがヒロインかどうかとか、そういう雑な話ではない。

もっと根本的に、スレイの人生設計における中心的な縁がミクリオであることが、設定側から補強されてしまっている。

 

恋愛でなくてもいい。

家族でなくてもいい。

相棒でも、親友でも、旅の同行者でもいい。

どの言葉を選んでも、スレイの未来を想像した時、そこにミクリオがいる事実だけは動かない。

 

 

ユトがいたら絶対言う。

 

「つまり、ミクリオさんの加護によって、スレイさんは良縁に恵まれる」

「そしてスレイさんにとって、ミクリオさんとの縁は極めて良質なものです」

「結果として、ミクリオさんの加護は、スレイさんとミクリオさんの関係性を補強している可能性があります」

 

やめろ。

終わりです。

 

 

ミクリオの加護、字面だけなら優しい祝福だった。

でもスレイとミクリオの文脈に置いた瞬間、急に自己参照型の巨大感情装置になる。

 

良縁に恵まれる。

 

なんて綺麗な言葉なんだろう。

 

なんて逃げ場のない言葉なんだろう。

 

ユト「良縁であることと、恋愛関係であることは違います」

 

分かってる。まさか私も本気で原作が恋愛だと解釈しているわけではない。

 

分かってるけど、今それを言うな。

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