【本編完結】炎上論点スタンプラリー【TOZ】   作:Moa

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知らない男、凹めないことを謝罪する

スレイとミクリオの壮絶な出自が出た後に「凹めなくてごめんね」とロゼが言ってスレイとミクリオが謝る、という内容で荒れたシーンがある。

ユトはここにもスタンプを押していく。細かい。

 

というか、ユトの発言にされた。

 

お前、それやっていいんか?

 

かなり危険な改変である。

原作キャラクターの失言を、新キャラクターへ押しつけただけにも見える。

 

だが、困ったことにこれがユトらしいのだ。

 

仲間が傷ついている。

自分は同じほどには傷ついていない。

ならば、自分には共感性が不足しているのではないか。

不足があるなら申告し、謝罪するべきではないか。

 

ユトはずっと「自分は他人と同じものを見聞きできない」という事実に悩み続けていた人間である。倫理観を自明のものとせず、法律書から学んだ男である。したがって「共感性の不足」はユトにとって極めて深刻な問題である。

 

だから言った。

 

だが、不適切な発言であると指摘されれば取り下げる。

ユトは、そういう意味では素直な男である。

 

地雷を避ける能力はない。

踏んだ後に、何が爆発したのかを確認する能力はある。

 

***

 

ミクリオは、何も言わなかった。

スレイも俯いたまま、動かない。

二人が今まで信じてきたものを、根元から揺るがすような事実だった。

 

しばらく続いた沈黙の中で、ユトが口を開く。

「私は、お二人ほど落ち込めていません。申し訳ありません」

 

スレイが顔を上げた。

「そんなの、謝ることじゃないだろ」

 

「ですが、仲間が苦痛を感じている時、同程度の苦痛を共有できないのは、共感性に欠けているのではないかと」

 

ミクリオは小さく息を吐いた。

「同じ事実を知ったからといって、同じように傷つく必要はない」

 

「私も、そう思います」

アリーシャが静かに続けた。

「痛みの大きさを揃えることが、仲間である条件ではありません」

 

「ですが――」

ユトがなおも言葉を探そうとした時、スレイが遮った。

「ごめん。オレたちが心配かけた」

 

ミクリオも、スレイの隣で顔を上げる。

「気持ちの整理には、もう少し時間が必要だ。だが、大丈夫だ。だから安心してくれ」

 

ユトは、二人の顔を交互に見た。

「……なぜ、お二人が謝るのですか」

 

ライラが言う。

「ユトさんが先に謝ったからではありませんか?」

 

「私は、謝罪を要求したつもりはありません」

 

「意図の話ではありません、ユト様」

アリーシャの声は穏やかだった。

だが、引き下がる気のない声でもあった。

 

「今のお言葉は、お二人に『ユト様は冷たい人間ではない』と証明させる形になっていました」

 

「そのような意図は――」

 

「なかったのでしょう。それは分かっています」

 

アリーシャは一度ユトを見て、それからスレイとミクリオへ視線を移した。

 

「ですが結果として、お二人はご自身の痛みよりも、私たちを安心させることを優先しました」

 

「アリーシャ……」

スレイが何か言おうとする。

 

アリーシャは、わずかに首を横へ振った。

 

「スレイも、ミクリオも、謝る必要はありません」

 

「しかし――」

 

「今は、私たちを安心させようとしなくてよいのです」

 

その言葉に、ミクリオは目を伏せた。

 

アリーシャは、少しだけ声を柔らかくする。

「私たちは、お二人がすぐに立ち直る姿を見るために、ここにいるのではありません」

 

「悲しいのなら悲しんでください。苦しいのなら、今は苦しいままでいてください」

 

「それでも、私たちはここにいます」

 

しばらく、誰も口を開かなかった。

 

ザビーダが、その表情を横から覗き込む。

「悪気がない顔してんなあ」

 

「……はい。悪意はありませんでした」

 

「そこは疑ってねえよ」

 

ユトは少し考えた後、スレイとミクリオへ向き直った。

「理解しました。今の発言は不適切でした」

 

そして、深く頭を下げる。

「お二人に、私の感情を管理する義務はありません。先ほどの謝罪を撤回します」

 

スレイが困ったように眉を下げた。

「そこまで固く言わなくても……」

 

「いいえ。私は善意を理由に、既に傷ついているお二人へ追加の負担を発生させました」

 

「反省についても、お二人に受け止めていただく必要はありません」

 

ミクリオは、しばらくユトを見つめていた。

「……分かったなら、次から気をつけてくれ」

 

「はい」

 

それだけ答えて、ユトは黙った。

 

アリーシャが、そんなユトへ静かに告げる。

「同じだけ傷つかなくても、その人が傷ついていると知り、そばにいることはできます」

 

ユトはアリーシャを見る。

「それで、仲間と呼べるのでしょうか」

 

「私は、そう思います」

 

ユトは少しだけ俯き、やがて頷いた。

「では今は、お二人が傷ついていることを、そのまま受け入れます」

 

「それで十分です」

 

ザビーダが頭を掻いた。

「反省会まで重いんだよな、お前さんは」

 

エドナが肩をすくめる。

「でも、多少は学習したんじゃない?」

 

ロゼはスレイとミクリオへ向き直った。

「で、あたしたちはどうすればいい?」

 

ミクリオは少し考えた。

「……しばらく、ここにいてくれ」

 

「了解」

 

誰も励まさなかった。

 

誰も、大丈夫だと言わせようとはしなかった。

 

ただ、その場を離れなかった。

 

***

 

また、別のスキットでも荒れた。「人を殺してなんとも思わないなんて怪物だ」的な事を言ったロゼに、ブーメランでは? という疑問が集まったためだ。

 

これも、ユトにかかればこうである。

 

 

ロゼ「人を殺しても何とも思わないから穢れない、なんてこともあるのかな」

 

ユト「仮にそうであれば、その人物は非常に危険です」

 

ロゼ「……怪物ってこと?」

 

ユト「怪物という分類は曖昧です。感情的な制止が働かず、同様の行為を反復する可能性が高い、と申し上げています」

 

エドナ「言い換えても全然優しくなってないわよ」

 

ユト「ですが、穢れないという現象だけを根拠に、『人を殺して何とも思っていない』と断定することもできません」

 

ミクリオ「どういうことだ?」

 

ユト「罪悪感があることと、自己否定によって穢れることは同じではないからです」

 

ユト「ロゼさんは、人を殺した事実を認識しています。忘れてもいません。ですが、それを理由に、自分の信念や存在のすべてを否定してはいない」

 

ロゼ「……それ、あたしを庇ってる?」

 

ユト「事実関係を整理しています」

 

ロゼ「そこは庇ってるって言ってよ」

 

ユト「したがって、ロゼさんが穢れにくい理由を『人を殺しても平気な怪物だから』と説明するのは不適切です」

 

エドナ「最初に自分で危険人物扱いしかけたくせに」

 

ユト「仮定に対する回答です」

 

ユト「もしロゼさんが本当に何とも思っていないのであれば、私は貴方を警戒せざるを得ません。殺害に対する感情的な抑止が働かず、私も必要と判断された時点で殺害対象となる可能性があるためです」

 

ロゼ「ずいぶん直接言うね」

 

ユト「しかし、そうではないと観測しています」

 

ロゼ「……そっか」

 

ユト「はい」

 

エドナ「褒めるまでの助走が物騒すぎるのよ」

 

***

 

ロゼだけに触れるのも不公平なので、他キャラクターの原作発言で、炎上した要因となった台詞にもいくつか触れていく。

 

 

①ミクリオ「ジイジが言ってた、『同じものを見て、聞くことのできる真の仲間』だよ」

アリーシャ離脱直後にロゼを勧誘する場面で出たため、意図以上に「アリーシャは真の仲間ではない」という意味で受け取られ、作品炎上を象徴する言葉になった。

 

この発言については、ミクリオにアリーシャを仲間から排除する意図がないことを丁寧に示し、「真の」という言葉も削ることで、原作で生じた誤解は概ね解消された。

アリーシャを仲間から排除する読みを徹底的に消した上で、「スレイには、同じものを見聞きできる人間の仲間が必要だ」という言い方になっている。

 

ただし、炎上対策に成功したことと、その台詞で新たな問題が発生しないことは同じではない。

 

ユトはロゼより先にミクリオから勧誘された際、「同じものを見聞きできる仲間」という言葉に人生単位で傷つき、加入を拒絶している。

何せ生まれた時から誰とも同じものを見聞きできなかった人間である。

もちろんミクリオは知る由もない。

自分が最大級の地雷を、最大火力で踏み抜いてしまったことなんて。

 

 

②ライラ「アリーシャさんの時のように、従士の代償でお互い苦しむこともないと思いますわ」

ロゼ加入前。ライラとしてはスレイとアリーシャ双方への身体的・心理的負担を心配している。しかし配置上、アリーシャとの失敗を引き合いに出して、ロゼの優位性を説明しているように聞こえてしまった。

 

この場面は、リメイクで大きく変更された。

 

何故なら、今作ではロゼより先にユトが勧誘されるからである。

 

ユトを仲間に加えてはどうかというライラの提案に対し、ミクリオが尋ねる。

ミクリオ「スレイは大丈夫なのか?」

 

スレイの視覚障害に誰よりも早く気づき、支えたミクリオ。その心配に、ライラが答える。

 

ライラ「ユトさんほどの霊応力があれば、その負担はごく小さいはずですわ」

 

説明している内容はほぼ同じだが、アリーシャとの比較という枠組みを外している。

 

 

さて、問題となった台詞だが、多分ユトなら言う。「ロゼさんであれば、アリーシャさんとの契約時に発生した霊応力差による負荷は再発しないと推測されます」ものすごく言う。知らない男による台詞強奪事件にこれ以上向いている台詞も珍しい。

 

問題があるとしたら、ユトはまだそこにはいないということなのだが。

 

 

③スレイ「ありがとう。けど、それはアリーシャが叶える夢だよ」

終盤、アリーシャから和平会談への同行を頼まれた際の返答。台詞単体なら、アリーシャの主体性を尊重し、彼女自身の夢として託したとも読める。ただしアリーシャの立場や、それまでの別離の積み重ねから、勇気を出して同行を求めた相手をあっさり突き放したと受け取られた。

 

今作では終盤でアリーシャが旅に同行するのでこのイベント自体がなくなった。

 

これは、おそらくユトは言わない。

むしろユトなら「スレイさん、ぜひ行きませんか? スレイさんの導師としての機能は、和平交渉において極めて優秀です」となりそうだ。ここで「導師としての機能」という言葉を選んでしまうところが極めてユト。

 

 

④スレイ「思っちゃうんだよな。戦争を止めたいって。なんかオレもそんなカンジだから」

 

マルトランの死後、絶望して泣き崩れたアリーシャを励ます場面。スレイは自分も同じ願いを持っていると伝え、アリーシャを立ち上がらせようとしているので、場面単独なら悪い台詞ではない。ただ、アリーシャが孤立無援に近い状況だったため、「なんかそんな感じ」という軽さや、その後具体的な支援を申し出ない淡泊さが批判された。

 

リメイク版では、絶望して泣き崩れるアリーシャという構図そのものがなくなっている。師匠の裏切りにショックは受けつつも、それでも前を向いて進む強い女性として描かれた。そのため、この台詞が出るイベント自体も発生しない。

 

では、仮に同じ状況が残っていたとして、ユトがこの台詞を盗むかというと、おそらく盗まない。

ユトは「なんかオレもそんなカンジ」と、自分の感情を曖昧に重ねて共感を示す人物ではないからだ。

 

代わりに何か言うとすれば、

「戦争は多くの穢れを生む行為です。止めさせることには、浄化負荷の軽減という点でも合理性があります」

あたりだろう。

 

アリーシャの願いには明確に賛同している。だが、励ましにはまるでなっていない。

元の失言を回避して、別方向から場の空気を破壊している。

 

***

 

ユトはついに他人の台詞まで奪い始めた。

ただし、何でも奪うわけではない。

 

フォートン枢機卿という、浄化できない敵と対峙する場面。

最後、スレイがとどめを刺そうとすると、ロゼが代わりにそれを引き受ける。

 

そして、こう言うのだ。

 

ロゼ「スレイの仕事は生かすこと。あたしの仕事は殺すこと、でしょ?」

 

原作どおりの台詞である。

こういう格好いい台詞は、ユトは決して奪わない。

 

本来、ロゼは、人殺しをなんとも思っていないサイコパスとして描こうとしたキャラではないはずだ。

しかし、実際にそう見えたプレイヤーがいたことも否定できない。問題は、その意図と受け取られ方の間に大きな隔たりが生じたことである。

 

ロゼは「人殺しは罪……どんな理由つけても。」

と言っていたくらいには、自分の罪を認めて、そこから逃げない強さがある。

 

ユトが台詞を奪うのは、原作でプレイヤーが引っかかった台詞を再解釈するためだ。

 

ユトは、原作キャラクターの功績を奪わない。

彼らが格好よかった場面は、彼らのものだ。

 

代わりに、誤解され、炎上し、長くその人物を嫌う理由として使われてきた台詞を引き受ける。

 

そして同じ失敗を、よりユトらしい形でもう一度起こす。

今度は周囲が止め、本人が指摘を受け、何が問題だったのかを言葉にする。

 

ユトが奪うのは見せ場ではない。

ヘイトだ。

 

知らない男は、そういう奴だった。

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