炎上論点スタンプラリー【TOZ】   作:Moa

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-10~-9:イズチとカムラン

ゼンライに連れられて現れたユトを、スレイは目を輝かせて見た。

「本当にミクリオが見えるのか?」

「はい」

「声も聞こえる?」

「聞こえます」

 

「触れる?」

「はい」

スレイは振り返った。

 

「すごいぞ、ミクリオ! オレ以外にもお前と話せる人間がいた!」

「僕を珍しい生き物みたいに言うな」

 

ミクリオは喜ぶより先に、ユトを警戒していた。

「どうして僕たちの名前を知っているんだ?」

「ゼンライさんから確認しました」

嘘ではない。

未来で知っていたことを、現在のゼンライから改めて確認した。

 

「二人の状態を確認するために来ました」

「状態?」

「健康状態、生活環境及び危険行動の頻度です」

「危険行動なんてしてないぞ」

「昨日、二人だけで遺跡へ入りましたね」

 

スレイとミクリオが同時にゼンライを見た。

「何も言っておらんぞ」

「入口付近に二人分の足跡がありました。片方は途中で滑っています」

ミクリオがスレイを見る。

「だから走るなって言っただろ」

「転んでない! ちょっと滑っただけだ!」

「同じだよ!」

 

元気に育っている。

 

***

 

二人は当然、ユトを遺跡へ誘う。

 

ユトは了承するが、鞄から次々と道具を取り出す。

 

ロープ、方位を確認する道具、傷薬、水、非常食、帰路を示すための印、助けを呼ぶための笛、探索予定経路を記した紙……。

 

「どうして遊びに行くだけなのに、こんなに荷物があるんだ?」

「遭難する予定がないことは、遭難しない根拠にはなりません」

「遭難なんてしないよ」

「遭難した者の多くも、出発時には同様に考えていた可能性があります」

ミクリオが紙を覗き込む。

 

「帰還予定時刻まで書いてある……」

「この時刻を過ぎても帰らなかった場合、ゼンライさんが捜索を開始します」

 

「ユトって、いつもこうなのか?」

ユイが内側から答える。

――いつもこうだよ。

二人には聞こえない。

「概ね、このように行動しています」

 

そして実際に遺跡へ入ると、ユトは術式を起動した。

ユトが印を置くと、遺跡の入口まで淡い青色の線が伸びた。

「これは?」

「帰還経路です。途中で切断された場合は赤く変わります」

「赤くなったら?」

「先へ進まず、戻ります」

 

ユトは二人の先頭には立たない。

危険を全部取り除き、二人を後ろからついてこさせるのではなく、スレイとミクリオに道を選ばせる。

間違えたら指摘する。

落ちそうなら響筆で支える。

しかし、自分たちで戻れる失敗までは奪わない。

 

「こっちだ!」

「待て、スレイ。床の模様が途中で変わってる」

「罠か?」

「可能性があります」

 

ユトは響筆を振るった。

何も起こらない。

 

スレイが首を傾げた数秒後、前方の床だけが沈み、天井から石が落ちた。直前に書かれた術式が障壁となり、三人の手前で止める。

 

「すごい!」

「今の、どうやったんだ?」

「床が沈んだ場合に発動するよう、術式を設置しました」

「じゃあ、罠があるって分かってたのか?」

「いいえ」

「分からないのに術を置いたの?」

「分からないため、置きました」

 

二人は顔を見合わせた。

 

この人はすごい。

だが、少し変だ。

 

***

 

「ミクリオさんは元気に育っています」

謎の少年の第一声に、ミューズは身構えた。

 

「……誰、ですか」

「ユトと申します」

「どうして、その名前を」

「未来でお会いしました」

「未来……?」

「ミクリオさんは、現在イズチでゼンライさん及びスレイさんと暮らしています。健康状態に大きな問題はありません。遺跡に関心があり、スレイさんと頻繁に競争しています」

「待ってください」

「はい」

「あの子は……生きているのですか」

「はい。そのことを最初にお伝えする必要があると判断しました」

 

「……あなたは、あの子に会ったのですね」

「はい」

「ミクリオは私のことを知っていますか」

「いいえ。今後、知らせる方法を検討します」

 

「ミューズさんは穢れを押しとどめるために誓約を作ったそうですが、その正式な文面について教えていただけますか」

「……『息子と二度と会わない』」

「記録しました。ご協力ありがとうございます」

 

「続いて、可能な範囲でカムランの穢れを浄化します」

ユト一人で到底どうにかなる量ではなかったが、ミューズの負担は減った。

ユトはミューズ本人も浄化した。憑魔化に至るほどの穢れではなかったが、念のためである。

 

ユトは去っていった。不思議な少年だった。

 

***

 

ミューズとは、何者だったのか。

 

ミクリオの母親である。

カムランから漏れ出す穢れを押しとどめるため、「息子と二度と会わない」という誓約を自らに課している。

原作では、ミクリオを息子だと知らないまま、彼の目の前で命を落とした。

 

そこでユトはまず、息子の無事を知らせた。

第一声で「ユトと申します」でもなく、「ミューズさんですね」でもなく、全てをすっ飛ばして「ミクリオさんは元気に育っています」だったので、ミューズは困惑した。

この少年は何者か。何故自分とミクリオの関係を知っているのか。

疑問は尽きなかった。

 

だが、ユトにとって、それらへの説明は最優先ではなかった。

 

ミューズは長年、息子の生死すら知らないまま、カムランの穢れを押しとどめ続けている。

ならば最初に伝えるべきなのは、自分の名前でも、未来から来た経緯でもない。

息子が生きていることだった。

元気に育っていることだった。

 

そのうえで、現在の封印状態を確認し、誓約の正式な文面を記録し、可能な範囲で穢れを浄化する。

ユトにとって、今回の訪問目的はそれで完了していた。

 

なお、ミューズにとっては何一つ完了していなかった。

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