ユト初報は、地味だった。
いや、とても派手ではあった。
ゼスティリアリメイク。良くも悪くも話題性は充分。
ファンは動画を見て盛り上がった。
「今フィールドでスレイの後ろにエドナついてきてるけどまさか自由に選べる?」
「戦闘楽しそう」
「神依アリーシャだあ!」
「アイゼンとマオテラスが一緒に映ってるぞ、回想か? え、今喋った?」
その裏で1秒くらい、知らない男が戦闘に参加している。だが初報では、そのことに公式は一切言及しなかった。
初報PV考察班は忙しかった。
アリーシャが神依している。
アイゼンが喋っている。
フィールド同行者がロゼ固定ではなさそう。
そして、その全部の隙間に知らない男がいる。
情報量の交通事故である。
最初期のユト認知は、公式の紹介ではなく、ファンのスクショ検証から始まった。
放送終了後、SNSで一つの画像がバズった。リメイク初報のスクショの一部を赤丸で囲って。
「この男誰?」
それを踏まえたうえでよく聞くと、アリーシャ神依の後ろで「任せましたよ」と小さく声が聞こえている。既存の誰かではなさそうだ。いやマジで誰。
だが、初報時点のプレイヤー達、それどころではなかった。
大量の新要素たちの前では、新キャラの存在感は見事に霞んでいた。
名前が明らかになるまで、彼は「知らない男」とファンから呼ばれることになる。
「知らない男」は、名前が明らかになった後もちょっとミーム化した。
使い勝手が良かったので、リメイクで追加された人物全般のことを知らない男、知らない女と呼ぶようになってしまった。
ビアンカvsフローラvs知らない女vsダークライ。
いやそうはならんやろ。
ゼスティリア原作では、人間1名と天族1名のバディで戦闘パーティーを組むのが基本だった。
ところが、知らない男は明らかに人間側の枠にいる。
では人間なのか。
いや、詠唱している。
原作では、非神依状態の人間は天響術を使えないはずだ。
この時点で何かがおかしい。
まさか新キャラ1人のために戦闘システムを改修したのか。
だとしたら気合が入りすぎている。
ただし、世界観的には「人間が術を使う」こと自体は不可能ではない。
天族と契約していればいい。
具体的にはベルセリアのエレノアやマギルゥのようなパターンである。
つまり、知らない男も誰か天族と契約しているのではないか。
それなら人間枠にいながら術を使っている説明はつく。
では、その契約相手は誰なのか。
既存天族か。新天族か。
まさかサイモン……は流石にないか。
「味方なのか?」
「敵なのか?」
「一時加入か?」
「裏切るのか?」
「なんでアリーシャ神依の後ろで喋ってるんだ?」
「そもそも今の声、本当に味方側のボイスか?」
彼は何なんだ。
何のために追加された。
アリーシャ神依関連。
ロゼの補強。
アイゼン周りの補完。
スレイラジコン説の否定。
真の仲間問題。
発売前の考察勢は、各々好きな論点を一つずつユトに背負わせようとしていた。
「この男、アリーシャ救済用では?」
「ロゼ固定問題の回答では?」
「人間と天族の共存テーマを別角度からやるのでは?」
「真の仲間問題に触れるためのキャラでは?」
違った。
違わなかった。
発売後の今だから言える。言わせてくれ。
全部やるやつがあるか。
***
その後、SNSでキャラ紹介が行われた。
まずはスレイ。そしてミクリオ、アリーシャ……。
1日1人ずつ。
この時点でファンはだいたい察する。
ああ、加入順か、少なくともメインキャラの紹介順なのだろう、と。
スレイ。
ミクリオ。
アリーシャ。
ライラ。
エドナ。
ロゼ。
デゼル。
ザビーダ。
そしてザビーダが出た翌日、例の「知らない男」の詳細が発表される。
ユト
・「私は貴方の仲間にはなれません。誰の仲間にも」
・人間でありながら天響術を使える青年。高い霊応力を持ち、天族や穢れを認識できるが、その力の由来は本人にも分かっていない。導師一行と出会うが、「自分は誰の仲間にもなれない」と距離を置く。
なるほど。
ザビーダの後に紹介されるなら、終盤加入か。
デゼル離脱後、天族と人間の関係を別角度から掘るための追加キャラかな。
普通はそう思う。
しかし実際には、ユトはアリーシャの次に顔を見せる。
一時加入を経て、ロゼとデゼルの加入後ほどなく正式加入する。
紹介順と登場順が一致しない。
登場順と本加入順も一致しない。
ついでに、紹介文から想像される役割と実際の刺さり方も一致しない。
このずれは単なるサプライズではない。
ユトというキャラクターは、そもそも入力と出力のタイミングが一致しない存在である。
彼の攻撃は遅れて届く。
彼の言葉も遅れて意味を持つ。
彼の初報での配置すら、プレイヤーの予想とは違うタイミングで発動する。
ユト「最後に紹介されることと、最後に仲間になることは違います」
やかましいわ。
***
売上も遅効性だった。
「ゼスティリアのリメイクである」こと自体が警戒された可能性がある。
そりゃそうである。
ゼスティリアである。
リメイクである。
過去に炎上した作品を、よりによってリメイクするのである。
初動で様子見が発生するのは当然だった。
しかし口コミがどんどん出てきて、じわじわ伸び始める。
種族:クソゲーハンターが「普通に神ゲーで困る」とコメントしていた。
そもそもゼスティリアは炎上こそしたものの、全然クソゲーオブザイヤーに行くレベルではなかったのだが。
いや、本当に。
ゲームとして動く。
戦闘も独自性がある。
音楽も良い。
キャラも良い。
ただ、燃える場所が多すぎただけである。
それをクソゲーとは呼びたくない。
火災現場ではある。
レビューはこんな感じだった。
高評価は、
「ネタバレなしで見てほしい。新キャラ周り特に」
が多かった。
ネタバレ注意のため隠されたレビューでさえ、ユトの詳しい話をしているものは少ない。
なんでそこまで厳戒態勢敷かれてるんだよ。
お前はUNDERTALEでも都市伝説解体センターでもダンガンロンパでもないだろうが。
「TOZ-Rはかつて炎上したことから逃げなかった。新キャラクターを用いて、理由をとてもとても丁寧に解剖した。でも新キャラのバックグラウンドが丁寧で、説教臭くない」
「アリーシャが神依できるので神ゲーです」
「ベルセリアリマスターはこのための伏線だった……?」
「細かい不満点が解消されてて嬉しい」
「曲は相変わらず神」
「スレイがちゃんと主人公してる」
一方で低評価は、大体ユトに集約された。
「公式が過去の炎上を擦ってて寒い」
「ユトとかいう公式お気持ち代弁キャラが無理」
「ユトの攻撃が遅すぎる」
最後のは流石に擁護できない。
遅いという表現が適切なのかさえ分からない。
もはやラグい。
いや、FPSはちゃんと安定して出てるし、他のキャラは全く遅くないので、ユトがおかしい。
入力してから攻撃が出るまでに、プレイヤーが一回人生について考える時間がある。
3DCGが滑らかなのが腹立つ。
しかも面白いのは、高評価側もユトを褒めているはずなのに、名指しを避けがちなことだった。
「新キャラ周りが良い」
「中盤以降がすごい」
「ネタバレなしでやってほしい」
ぼかす。
とにかくぼかす。
一方、低評価は容赦なく名指しする。
「ユトが無理」
「ユトのせいで冷めた」
「ユトの攻撃が遅い」
好きな人ほど黙り、嫌いな人ほど名前を出す。
こんなにレビュー欄で扱いが割れるキャラクターも珍しい。
高評価レビューは、ユトについて語らない。
低評価レビューは、ユトについて語りすぎる。
その結果、未プレイ者から見ると「結局ユトって何なんだよ」という疑問だけが増えていく。
名前が明らかになった後も、彼はしばらく知らない男だった。
***
発売前の後半のユトについても一言。
「これで終わりです」というボイスだけ切り出されているため、考察勢からは「まさかインディグネイションか?」という説が浮上した。
「新キャラに?豪華だな」
「発売前に出すなら第一秘奥義なんじゃない?」
「第一でやるか?」
様々な憶測がはびこっていた。
実際にインディグネイションだった。実際に第一だった。
マジで? と思った。
しかしユトのインディグネイション。
終わってみれば、これほどまでにユトを表す秘奥義は他になかったと思う。
第一である意味もちゃんとあった。というより、第二の文脈が凄かった。
ユトの事情を知った後だと、詠唱の聞こえ方まで変わる。
「天光満つる処に我は在り」
普通に聞けば、術者の宣言である。
だがユトの場合、この「我」が単数に聞こえなくなってくる。
「黄泉の門開く処に汝在り」
本来なら、だいたい「お前を地獄に送ってやる」くらいの意味になるはずである。
だがユト目線だと、「生まれる前に亡くなった貴方も、間違いなくここにいます」と取れてしまう。
インディグネイションを擬人化するな。
あと一部で「ユトはカルマの逆再生」って言われてるのは何なんだ。確かにひとつになったところから始まってるし、全方位への鏡ではあるが。
ちなみに、ユトの第一秘奥義について面白いことが判明した。
検証班によると第二秘奥義より0.8秒長い。
Q. ユトの第一秘奥義ってなんで詠唱長いんですか?
A. インディグネイションだからです。
Q. インディグネイションって何なんですか?
A. アンパンチみたいなものだと考えてくだされば。
Q. 説明が雑すぎませんか?
A. 正確であることと、伝わることは違います。
Q. なんで第一秘奥義でインディグネイションを詠唱してるんですか?
A. それは本当にそう。
Q. 第二秘奥義より長いのはバグですか?
A. 仕様です。
Q. 第一秘奥義が第二秘奥義より長いことがあります?
A. あってしまったんですよねえこれが。
Q. 第一がインディグネイションなら第二秘奥義は何なんですか?
A. 自分の目で確かめてください。
***
興味深いのは、リメイク前はロゼに向きがちだったヘイトが、ほぼユトに集中していることである。
もちろん、ロゼへの批判が完全に消えたわけではない。
だが、今作では「ロゼが人を殺して穢れないのはおかしい」という疑問をユト自身が作中で取り上げ、回答まで繋げてくれた。
「それでもアリーシャと一緒に旅したかった」という問題も、終盤で解決した。
ベルセリアで明かされた設定を逆輸入した再構成も見事だった。
その結果、プレイヤーの怒りは行き場を失う。
原作の問題点は、かなり整理された。
アリーシャは救われた。
ロゼは説明された。
スレイは主人公として立ち直った。
ミクリオの苦しみも見えるようになった。
では、残った違和感はどこへ向かうのか。
ユトである。
かわいそうではある。
だが、分かる。
ユトは明らかに追加キャラクターである。
原作にはいなかった。
本来そこにいなかったはずの人物が、過去に燃えた論点を一つずつ言語化し、整理し、時に反論してくる。
これを「公式の言い訳」と受け取る人がいるのは、正直かなり分かる。
ユトの言っていることが正しいかどうかとは別の問題だ。
正しいことと、受け入れられることは違う。
またユト構文か。
ユトの面白いところは、高評価理由と低評価理由がほとんど同じところにあることだ。
彼は、原作で燃えた論点を一つずつ拾っていく。
真の仲間問題。ロゼの穢れない理由。アイゼンの扱い。
そのすべてに、何らかの形で触れてくる。
だから好きな人は言う。
「逃げなかった」と。
そして嫌いな人は言う。
「公式が炎上を擦っている」と。
どちらも、間違ってはいない。
ユトが評価される理由と、ユトが嫌われる理由は、同じ場所にある。
炎上論点スタンプラリーだから良い。
炎上論点スタンプラリーだから無理。
その二つは、切り離せない。
TOZ-Rは概ね好評だが、批判を一身に背負っているのがユトと言えるだろう。
ある意味では、ユトはリメイク版が過去の炎上と向き合うために用意した避雷針だった。
ただし、避雷針に人格と痛みを持たせてしまった。
だから私は、ユトが好きだ。
そして、ユトが嫌いだという人の気持ちも分かる。
たぶんそれこそが、TOZ-Rというリメイクが逃げなかった証拠なのだと思う。