炎上論点スタンプラリー【TOZ】   作:Moa

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-5:ユト、婚約を盛大に祝う

ロゼとコナン皇子の婚約が決まった。

その報告を受けたユトは、祝いの言葉より先に日付を確認した。

 

「正式な発表はいつですか」

「まだ決まってねえよ」

ブラドは怪訝そうに答えた。

「向こうは皇族だ。俺たちみたいな傭兵団とどう折り合いをつけるか、これから話し合うんだとさ」

「では、盛大な婚約披露を提案してください」

「……は?」

「皇子の婚姻です。小規模に済ませる理由がありません」

風の傭兵団の面々が、一斉にユトを見た。

旅の途中で何度か仕事を共にした少年は、冗談を言うような顔をしていなかった。

 

「何か起きると思ってるのか?」

ユトは答えなかった。

 

未来で起きたことは、現在の証拠にはならない。

コナン皇子が兄レオンを殺害することも。

その罪を風の傭兵団へ着せることも。

ブラドが死ぬことも。

ロゼが皇子を殺し、その後の人生を暗殺へ費やすことも。

 

まだ、何一つ起きていない。

 

「何も起きなかったことを確認するためにも、記録は必要です」

「相変わらず、言い方が怪しいんだよ」

「事実です」

 

ブラドはしばらくユトを見つめた。

 

やがて、提案書を受け取った。

「ロゼが最後まで嫌だって言ったら、やらねえぞ」

「当然です」

 

***

 

コナン皇子は、ユトの提案を気に入った。

「婚姻を広く民へ示し、傭兵団との融和を演出する、か」

「はい。皇子の寛容さを示す機会になります」

「寛容さ?」

「身分にこだわらず有能な者を登用し、民間の武力組織を王国の秩序へ組み込む。皇子の政治的評価にも有益です」

虚栄心の強い者へ、虚栄を捨てろと説得する必要はない。

虚栄を満たすためには、多数の証人が必要だと教えればよい。

「招待客は?」

「貴族だけでは不足します。商人、職人、軍人、周辺住民の代表も招待してください」

「ずいぶん大規模だな」

「歴史に残すのであれば、中途半端にする理由はありません」

 

コナンは笑った。

「気に入った。お前、名は?」

「ユトです」

「誰の家の者だ?」

「現在、特定の家には属していません」

「ならば私に仕えないか。こうした催しを考える才は使える」

「お断りします」

「即答か」

「長期雇用の予定がありません」

「……面白い奴だ」

ユトは頭を下げた。

 

その場で、参加者名簿へのコナン本人の署名を求めた。

警備計画書にも。

ブラドを警備責任者へ任命する書類にも。

警備担当者が王宮内へ武器を持ち込む許可証にも。

 

コナンは機嫌よく署名した。

 

***

 

祝宴当日。

ブラドは、常に誰かの目に入る場所へ配置されていた。

開始時には正門で来賓を迎えた。

鐘が一度鳴った時、会場中央で警備開始の宣言を行った。

二度目の鐘では、騎士団長と巡回状況を確認した。

三度目には、商人組合の代表から追加の照明器具を受領した。

 

いずれの出来事にも複数の証人がおり、時刻と署名が残された。

 

「なあ、ユト」

「何ですか」

「俺だけ妙に人前へ引っ張り出されてねえか?」

「警備責任者の所在が不明になることは望ましくありません」

「俺が隠れて仕事する時間まで消されてるんだが」

「副責任者へ委任してください」

「俺を働かせたいのか、働かせたくないのか分からんな」

 

「生存していただきたいと考えています」

 

ブラドが口を閉じた。

ユトは既に、次の巡回記録を確認していた。

 

「……お前、何を知ってる?」

「未来の犯罪は証明できません」

「未来?」

「言い間違いです」

「おい」

 

四度目の鐘が鳴った。

同時に、ユトが会場の床へ仕込んでいた響筆の術式が発動した。

 

祝宴会場の外周。

使用されていないはずの通路。

 

レオン皇子の控室へ通じる扉の前で、光の線が走った。

 

何者かの足首へ絡みつき、転倒させる。

金属音。

短剣が床へ落ちた。

 

「侵入者!」

 

騎士の声が響いた。

ブラドが走り出す。

 

しかし、ユトは追わなかった。

別の術式を起動する。

 

控室の扉が内側から封鎖され、外部から開けられなくなった。

さらに三つの通路で警報が鳴る。

逃走経路へ置かれた遅延術式だった。

 

「随分と、用意がいいな」

背後からコナンの声がした。

ユトは振り返った。

 

皇子は笑っている。

だが、その目は笑っていなかった。

「祝宴の警備ですから」

「レオンの部屋だけ、特別に厳重だ」

「皇位継承権を持つ方の安全確保は必要です」

「誰かが兄を狙うと知っていたように見える」

「狙われる可能性を想定しました」

 

「誰に?」

「確認中です」

ユトはコナンを見た。

「皇子も、確認に協力していただけますか」

「私が?」

「侵入者が所持していた通行許可証についてです。許可印が、皇子の執務室で使用されるものと一致する可能性があります」

一瞬だけ。

ほんの一瞬だけ、コナンの表情から余裕が消えた。

 

「偽造だろう」

「その可能性もあります。ですから、原本の管理記録と照合します」

「宴の最中にすることか?」

「証拠は時間の経過によって失われる可能性があります」

 

「私を疑っているのか」

「全員を確認しています」

「私も、風の傭兵団も同じように?」

「はい」

コナンは笑った。

「ならば、まず傭兵団を捕らえろ。兄を狙う理由なら奴らにも――」

「できません」

「何?」

「風の傭兵団全員について、犯行時刻の所在が確認されています」

ユトは記録を一枚ずつ取り出した。

「ブラドさんは会場中央。ロゼさんは東棟で来賓の案内。残る団員も、すべて複数人の前で警備任務に従事しています」

「記録など、仲間同士で書き換えられる」

「仲間同士ではありません。無関係の者同士からの所在確認です」

 

「騎士、商人、貴族、給仕及び皇子本人の署名があります」

最後の一枚を示す。

コナンが、数日前に署名した警備任命書だった。

「この警備配置を承認したのは、貴方です」

会場が静まり返った。

大勢の前で。

貴族も、騎士も、民間人もいる場所で。

コナン自身が作ったはずの筋書きから、風の傭兵団だけが切り離されていた。

 

「……お前は、何者だ」

以前と同じ問いだった。

ユトも、同じように答えた。

「祝宴の提案者です」

「それだけではないだろう」

「他に証明できる身分はありません」

「なぜ、ここまでする」

ユトは少し考えた。

 

未来を語ることはできない。

それでも、目的なら言える。

「罪を犯した者が、無関係な者へ責任を移せないようにするためです」

 

***

 

レオンは生き残った。

侵入者は捕らえられ、偽造された命令書と報酬の記録が見つかった。

調査はコナンの側近へ及び、やがて皇子本人への関与も否定できなくなった。

 

ブラドは死ななかった。

風の傭兵団も壊滅しなかった。

ロゼは、婚約者を自ら殺すことなく、その場を離れることができた。

 

祝宴が終わった夜。

ロゼは、片づけをしているユトの前へ座り込んだ。

 

「最初から、こうなるって知ってたの?」

「起きる可能性を知っていました」

「なんであたしに言わなかった」

「貴方がコナン皇子へ敵意を示せば、計画が変更される可能性があったためです」

「じゃあ、あたしのことも利用したんだ」

「はい」

 

「でも、助かった」

「はい」

「ありがと」

「今後も安全とは限りません」

「そこは普通に『どういたしまして』でいいだろ!」

 

少し離れたところで、ブラドが笑っていた。

風が吹く。

誰も死んでいない。

ユトは、その事実を確認してから、未来事故記録を開いた。

 

風の傭兵団壊滅事案。

発生回避。ブラド、ロゼ、団員及びレオン皇子の生存を確認。

ラファーガの憑魔化、デゼルの負傷についても現時点では発生せず。

ただし、本件介入により、以降の未来予測の信頼性は著しく低下する。

 

筆が止まる。

ロゼが暗殺者にならない。

ならば、前の未来で彼女が殺した者たちは生き残る。

その中には、別の誰かを害する者もいる。

助けた人数だけを数えて、成功とは判断できない。

 

それでも。

ユトは最後に一行を加えた。

 

『現時点において、救出した者を元の未来へ戻す必要はない』

 

未来は失われ始めた。

風の向きが変わったのだ。

今度は、その風がどこへ吹くのかを確認しなければならない。

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