炎上論点スタンプラリー【TOZ】   作:Moa

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0:ロゼから話を聞いてみよう

セキレイの羽の商隊を訪ねると、ロゼは荷物の確認をしているところだった。

 

ユトについて尋ねたスレイへ、彼女は深く考えることもなく答えた。

「恩人だよ」

 

それから、何かを思い出したように眉を寄せる。

「なんか、未来が見えてるみたいな、変なやつだった」

「未来が見える?」

スレイが聞き返す。

 

「本人は、知ってる未来と同じことが起きるとは限らない、とか言ってたけどね」

「未来を知っていたのに?」

ミクリオの問いに、ロゼは肩をすくめた。

「もう変えちゃったから、だってさ」

過去へ手を加えた時点で、その先も同じ順序で進む保証はない。

 

だからユトは、知っている未来を正解として押しつけるのではなく、起こり得る危険への対策として扱っていた。

「レオン皇子の殺害未遂事件については聞いてる?」

「いや」

「あたしたち風の傭兵団が、皇子を殺そうとしたことにされかけたんだ」

スレイの表情が強張った。

「やってないんだよな?」

「もちろん」

「なら、どうして疑われたんだ?」

「罪を被せるのに、ちょうどよかったんじゃない? 武器を持った傭兵団だし、皇子の近くにもいたから」

 

だが、告発は成立しなかった。

風の傭兵団が犯行時刻にどこにいたのか、複数の人間が証言できたからだ。

王族や貴族だけではない。料理を運んだ使用人、酒を納品した商人、警備を担当した兵士、会場の外で見物していた民衆。

互いに利害の異なる多数の目撃者が、同じ事実を証言した。

「それなら、罪を被せるのは無理だな」

「ユトもそう言ったよ。『複数の独立した目撃証言が存在するため、風の傭兵団を実行犯とすることは不可能です』って」

 

ミクリオは少し考えた。

「だが、なぜ傭兵団にそれほど多くの目撃者がいたんだ?」

「豪華な披露宴をやったから」

「披露宴?」

「そ。とにかく大勢を呼んで、盛大に祝おうって言い出したのがユト」

披露宴の会場は広く開かれ、普段なら招かれない階層の人間まで集められた。

費用はかかった。警備も、食料も、会場への移動手段も必要だった。

 

表向きは皇子を祝うための華やかな催しだった。

しかしユトは、招待客の一覧、使用人の配置、物資の搬入記録、警備の交代時刻まで、すべて書面に残していた。

「つまり、その披露宴自体が……」

ミクリオが途中で言葉を止める。

「風の傭兵団の目撃者を増やすために企画されたのか?」

「たぶんね」

「たぶん?」

「本人は、『暗殺の予防及び発生後の事実確認に有効です』としか言わなかったから」

「お祝いの披露宴を、アリバイを作るために使ったのか……」

 

スレイは感心しているようだった。

ミクリオは額へ手を当てている。

「もっと他に言い方があるだろう」

「でしょ? 変なやつだったんだよ」

ロゼは笑った。

 

豪華な宴を開いて人を集める。

普通なら、権威を示すためか、人々に喜んでもらうためだ。

ユトにも、おそらくその意図はあったのだろう。

 

ただし同時に、そこで働いた者、参加した者、偶然見かけた者のすべてを、将来の冤罪を防ぐ独立した証人として数えていた。

 

結果としてレオン皇子は生き残り、風の傭兵団も罪を着せられずに済んだ。

「もしユトがいなかったら、どうなってた?」

スレイが尋ねる。

 

ロゼの笑みが、少しだけ薄くなった。

「団長が処刑されてたらしいよ」

「らしい?」

「ユトの知ってる未来ではね」

団長を失った風の傭兵団は、暗殺を請け負う風の骨へ変わっていた。

ロゼたちが悪人を裁くために始めた道だったとしても、その始まりには、逃げ場を失った者たちの破滅があった。

ユトは、その入口を消した。

 

「それだけじゃないよ。デゼルに会わせてくれたのもユト」

「デゼル?」

ミクリオが反応する。

「風の天族。ちょっと面倒だけど、悪いやつじゃない」

「ロゼには見えるのか?」

「今はね。最初はほとんど分からなかったけど」

 

ユトはデゼルをロゼの力として与えたわけではなかった。

ロゼをデゼルの器にすると勝手に決めたわけでもない。

互いが相手の存在を知り、話し合える場所を用意しただけだった。

 

その後、共にいるかどうかは二人へ委ねた。

 

「ユトは、スレイの旅についても話してたよ」

「オレの?」

「うん。いつか二人目の導師が旅に出るって」

 

ロゼはスレイを上から下まで眺めた。

本人が本当にそこへ現れたことを、改めて確認するように。

「それで、あたしはその旅についていくこともできますし、いかないこともできます、だって」

「それだけ?」

「それだけ」

スレイは目を丸くした。

「どっちがいいとか、言わなかったのか?」

「言わなかった。ついていけば役に立てる可能性がある。いかなければ、商隊と傭兵団を守れる。どちらにも利益と危険があるから、自分で決めてくださいって」

 

「ユトは未来で、ロゼがどちらを選んだか知っていたんじゃないのか?」

ミクリオが尋ねた。

 

「知ってたみたいだよ」

「それでも、同じ選択をさせようとはしなかった?」

「今のあたしは、未来のあたしとは違うかもしれないから、だってさ」

ロゼは呆れたように笑った。

「冤罪は防ぐ。団長も助ける。デゼルにも会わせる。あたしがどこへでも行けるようにしておく」

そこで彼女は、少しだけ目を細めた。

 

「なのに、どこへ行けとは言わないんだ」

スレイは黙ってその言葉を聞いていた。

ユトは、未来を知っていた。

だからロゼが何を失い、誰と出会い、どの旅へ加わったのかも知っていた。

だが、その知識を命令には使わなかった。

失われるはずだったものを守り、選べる道を増やし、その先から手を離した。

 

「それで、ロゼはどうするんだ?」

スレイが尋ねる。

ロゼは少し考えてから、いたずらっぽく笑った。

「それを確かめるために、まずあんたたちのことを見せてもらおうかな」

「ついてくるのか?」

「まだ決めてない」

「そうか」

 

スレイは、それ以上急かさなかった。

横でミクリオが小さく息を吐く。

「アリーシャにも、同じことをしていた」

「同じこと?」

「望んだ道へ進めるように準備して、それでも、その道を選べとは言わなかった」

ロゼは頷いた。

「そ。恩人だよ」

それから、最初と同じ言葉を付け加える。

「未来が見えてるみたいな、変なやつだった」

 

アリーシャには、国に残ることも旅立つことも許した。

ロゼには、スレイへ同行することも、今の仲間たちと生きることも許した。

 

ユトは未来を変えた。

けれど、変えた未来の配役へ誰かを押し込むことはしなかった。

 

悲劇の役だけを取り除いて、その後に何を演じるかは本人へ返した。

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