【本編完結】炎上論点スタンプラリー【TOZ】   作:Moa

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知らない男、条件を満たせない

ユトの初登場は、最序盤のハイランド貴族関連イベントだった。

 

スレイたちが、私腹を肥やす貴族と対峙している場面である。

この時点のスレイはまだ導師として駆け出しで、政治や法制度に対してはかなり手探りだ。アリーシャは王族として怒る。スレイは人として怒る。ライラは導師としての在り方を気にする。

 

そこで、知らない男が横から法律を出してくる。

 

ユト「その行為は、ハイランド王国法第○条に違反しているはずですが」

 

第一声がそれか。

 

貴族は当然、顔をしかめる。

 

貴族「……何者だ、貴様」

ユト「通りすがりの者です」

貴族「ならば黙っていろ」

ユト「通りすがりであることと、違法行為を見逃すことは同義ではありません」

 

面倒くさい。

初登場から面倒くさい。

 

この男、初対面の貴族相手に「それ違法ですよ」を真正面からぶつけるタイプである。

正しい。正しいのだが、あまりにも敵を作る立ち回りすぎる。

 

この時点では、ユトが何者なのかはまだ分からない。

人間なのに天響術らしきものを扱う。妙に落ち着いている。法に詳しい。だが、政治家でも騎士でもなさそうだ。

 

そして何より、言い方が怖い。

 

スレイ、こいつを仲間にして大丈夫なのか。

 

このイベントの面白いところは、後に仲間になるロゼが、まだただの商人の少女としてその場にいることだ。

 

ロゼ「ねえ、あの人知り合い?」

スレイ「ユトのこと? 今日会ったばかりだけど」

ロゼ「ふーん。……変な人だね」

ロゼ「いや、ああいう人ってさ。敵作りやすそうじゃん」

 

ロゼの人物を見る目が鋭すぎる。

 

この時点のロゼは、表向きは商人である。

だが、プレイヤーは後から知る。彼女は暗殺ギルド「風の骨」の頭領でもある。

 

つまりこの場面、後から見るとかなり嫌な意味を持つ。

 

ロゼはただ「変な人だね」と言っているのではない。

社会の裏側で生きてきた人間として、「ああいう正しさは敵を作る」と直感している。

 

そして実際、仲間になってからこうなる。

 

ロゼ「あんた、依頼来てたよ。殺してくれって」

ユト「そうですか」

スレイ「そうですか、じゃないだろ!」

ユト「殺されていない以上、ロゼさんは私を殺す対象ではないと判断したのでしょう」

ロゼ「まあね。面倒くさいけど悪いやつじゃなかったし」

 

ここが好きだった。

 

ユトは、自分が恨まれていることに驚かない。

殺害依頼が出ていると聞いても、あまり動揺しない。

 

なぜなら彼の中では、おそらくこう整理されている。

 

違法行為を指摘すれば、指摘された側は不利益を受ける。

不利益を受けた者が恨む可能性はある。

恨みが殺意に変わる可能性もある。

したがって、自分に殺害依頼が出ることは、想定される結果の範囲内である。

 

嫌な想定範囲だ。

 

だが、この会話で重要なのは、ユトの危機感の薄さだけではない。

ロゼが「殺さなかった」ことも重要である。

 

ロゼは暗殺者だ。

だが、誰でも殺すわけではない。

依頼が来たからといって、そのまま実行するわけでもない。

 

面倒くさい。

敵を作りやすい。

しかし、悪ではない。

 

ロゼはその線引きをしている。

 

 

この時点で、ユトとロゼの関係は少しだけ見えている。

 

ユトは、正しさで敵を作る。

ロゼは、その敵意が本当に殺すべきものかを見極める。

 

どちらも危うい。

どちらも面倒くさい。

だが、少なくともこの場面では、ロゼの方がユトを少しだけ正確に見ていた。

 

面倒くさい。

敵を作りやすい。

しかし、悪ではない。

 

ユトの第一印象として、これ以上ないくらい正確だった。

 

 

***

 

アリーシャが離脱した。

いや、リメイク版はかなり丁寧だった。

従士契約の負担も、アリーシャが国を守りたい理由も、スレイがそれを止めない理由も、原作よりずっと納得しやすい形になっていた。

それはそれとして寂しい。

 

そんなところで、ユトも離脱した。

え、君も?

しかも理由がまたユトらしい。

序盤でユトが貴族の違法行為を正面から指摘した結果、民衆の一部が証言や帳簿をユトに託していたらしい。

そして、その証言者たちが報復を受けそうになっているという知らせが入る。

ユトは言う。

「私が言葉にしたことで、危険に晒された人がいます」

重い。

いや、正しい。

正しいけど、君は本当に言葉の後始末をしに行く男なんだな。

 

「違法行為を指摘したことと、その後始末を他人に任せることは違います」

出た。

ユト構文だ。

でもここは普通にかっこいい。

スレイたちの旅とは別件だから、自分は一度離れると言って、ユトは去っていった。

この時点では、正直まだユトのことを完全には掴めていない。

面倒くさい男。

でも悪いやつではない。

助けた人間の証言を守るために単独で動ける。

仲間になったら頼りになりそうだが、同時に絶対疲れそう。

そんな印象だった。

 

***

 

しばらく後、ユトと再会した。

「スレイさん!」

向こうから駆け寄ってきた。

え?

ちょっと嬉しそうじゃない?

これまでのユトは、どこか距離を置いた人物に見えていた。

「私は貴方の仲間にはなれません。誰の仲間にも」みたいな紹介文の印象もあったので、もっと冷たいタイプかと思っていた。

でも、再会したユトは普通に嬉しそうだった。

「はい。証人の保護と記録の提出は済ませました」

再会第一声が業務報告なのはどうかと思うが、まあユトなので仕方ない。

むしろ、ちゃんと戻ってきてくれたことが嬉しかった。

 

この時、スレイはヘルダルフの影響で天族を視認できなくなる事件の直後だった。

人間からは化け物扱いされ、天族たちはすぐそばにいるのに、スレイからは見えない。

かなりつらい状況である。

そこでミクリオが言う。

スレイには人間の仲間が必要だ、と。

 

この時のユトの反応が、少し意外だった。

「スレイさんに人間の仲間が必要という事を、私に言うのですね」

声色が、ちょっと明るい。

 

たぶん、期待していた。

自分が必要とされているのかもしれない。

自分にもスレイの役に立てるのかもしれない。

天族や穢れを認識できる人間として、今のスレイを支えられるのかもしれない。

ユトは頷きながら、ミクリオの話を聞いていた。

 

ミクリオは丁寧に説明する。

スレイから天族が見えなくなる事件が起きたこと。

天族である自分たちだけでは、スレイを支えることに限界があること。

自分たちが本当にスレイと同じものを見ているのか、分からないこと。

 

ミクリオは悪くない。

本当にスレイのことを考えている。

誰よりもスレイの隣にいたからこそ、自分の声が届かなくなる恐怖を知ってしまった。

だから、人間の仲間が必要だと言った。

 

そして、最後にこう言った。

 

「スレイには、同じものを見聞きできる人間の仲間が必要なんだ」

 

その瞬間、ユトの表情が消えた。

本当に、スイッチが落ちたみたいだった。

さっきまで少し嬉しそうだったのに。

自分にできることがあるかもしれないと、ほんの少し期待していたように見えたのに。

 

「同じものを、見聞きできる……」

ユトが繰り返す。

この時点では、まだ何が起きたのか分からなかった。

 

ミクリオは別にユトを拒絶したわけではない。

むしろ誘っている。

スレイを支える人間の仲間として、ユトを見ている。

なのに、ユトだけが絶望している。

 

そして、初報で見たあの台詞が来た。

「同じものを見聞きできなければ仲間ではないというのなら」

「私は貴方の仲間にはなれません」

「誰の仲間にも」

ここで声が出た。

え、ここで言うの?

 

この台詞、紹介文だけ見た時は、孤独な新キャラの自己紹介だと思っていた。

人間なのに天響術を使える。天族や穢れが見える。だから誰にも属せない。

そういう、よくある異端者の台詞だと思っていた。

 

違った。

これは、期待した直後に折れた言葉だった。

しかもユトは、怒っているわけではない。

ミクリオを責めるわけでもない。

スレイを拒絶するわけでもない。

ただ、自分が条件を満たせないと判断している。

仲間になるかどうかを、資格審査みたいに処理している。

 

イベント後、ユトはその場に残る。

話しかけられる。

なので話しかける。

「私は条件を満たせませんので同行はできません」

もう一度話しかける。

「私は条件を満たせませんので同行はできません」

何度話しかけても同じ。

怖い。

 

いや違うんだよ。

スレイはそんな条件で誘ってないんだよ。

ミクリオも君を落としたわけじゃないんだよ。

同じものを見聞きできる、という言葉が君にどう刺さったのかは分からないけど、少なくとも今ここで誰も君を否定していないんだよ。

でも、ユトはもう閉じてしまった。

このゲーム、たまに「何回話しかけても同じ台詞しか返ってこない」こと自体を演出にしてくる。

ここは完全にそれだった。

 

***

 

さらにしばらく後、もう一度ユトと再会する。

その時には、スレイの隣にロゼがいた。

ロゼはもうスレイと一緒に旅している。

人間の仲間として。

同じものを見聞きできる相手として。

ユトはそれを見た。

 

数拍、間があった。

そして急に言った。

「いいえ、羨ましくなんてありませんよ」

「何が羨ましくないの?」

本当にそれ。

 

ユトの中で何かが進行して、その返答だけが外に出てきた。

この時点では、単に変な男に見える。

でも、さっきの勧誘失敗を見ているので、なんとなく分かってしまう。

羨ましいんだろうな。

ロゼが。

スレイの隣にいられることが。

人間の仲間として、自然に旅に加わっていることが。

あの席に座れていることが。

 

スレイはまっすぐ聞く。

「ユトも一緒に来る?」

スレイ、本当にそういうところだぞ。

条件とか資格とか、そういう話ではなく、ただ一緒に来るかと聞く。

ユトが欲しかったかもしれない言葉を、あまりにも自然に差し出す。

 

でもユトは答える。

「ですから私は条件を満たせませんので同行はできません」

ですから。

その「ですから」がつらい。

スレイはそんな条件を出していない。

でもユトの中では、もう決まっている。

自分は条件を満たせない。

だから同行できない。

羨ましくなんてない。

羨ましいと思う資格もない。

 

この辺りで、ユトのことがだんだん分からなくなってくる。

面倒くさい。

本当に面倒くさい。

でも、ただ面倒くさいだけではなさそうだ。

何かある。

「同じものを見聞きできる」という言葉に、明らかに何かある。

 

初報で一秒だけ映っていた知らない男。

法務部みたいな知らない男。

攻撃が遅い知らない男。

ここに来て、だんだん知らない男では済まなくなってきた。

 

ただ、まだ分からない。

何が彼に見えていて。

何が彼に聞こえていて。

なぜ彼は、自分だけが条件を満たせないと思っているのか。

分からないまま、ユトはまた同行しない。

そしてプレイヤーだけが、置いていかれる。

ユトの攻撃みたいに、意味だけが半拍遅れて残っている。

 

***

 

ユト加入イベントが来た。

体感、本当に長かった。

「私は条件を満たせませんので同行はできません」と繰り返し、スレイの隣にいるロゼを見て「いいえ、羨ましくなんてありませんよ」と謎の自己否定を挟んできた男が、ようやく正式に仲間になる。

 

攻撃が遅い。

自分の感情を条件文に変換する。

でも悪いやつではない。

むしろ、かなり真面目で、不器用で、面倒くさい。

 

そんなユトが、自分の中にいる「もうひとり」を認める。

ユイ。

生まれる前に亡くなった片割れであり、ユトの内側にいた天族。

ずっと聞こえていた声。

ユトがいないことにしようとしていた存在。

 

ここでようやく、ユトの「私はひとりだ」が反転する。

 

ひとりではなかった。

でも、ひとりではないことが救いだったとは限らない。

最初から一緒だったからこそ、向き合えなかった。

近すぎたから、見えなかった。

ここまででもう十分重い。

 

そして、ユトはスレイに頼む。

「スレイさん。ユイの真名を、貴方につけていただきたいのです」

スレイも少し驚くが、すぐに頷く。

「じゃあ、候補を考えておくよ」

スレイはそういう男である。

誰かの存在を認めるために名前が必要なら、ちゃんと考える。

雑に決めない。

でも、拒まない。

いいシーンだった。

 

そこでライラが口を開く。

「契約以外で真名を教えることは、命懸けの友情、あるいは愛の告白を示します」

待って。

今?

今それ説明するの?

いや、大事な設定なのは分かる。

だから、ここでライラが確認するのは正しい。

正しいのだが。

正しいのだが、今それを言うと別方向に被弾する人がいるだろ。

 

スレイとミクリオが。

幼馴染で、家族で、夢を共有していて、お互いの存在があまりにも当たり前に隣にあるふたりが。

 

重要なのは、契約前からスレイはミクリオの真名を知っていたということである。

ここで急に「契約以外で真名を教えるのは命懸けの友情、愛の告白」なんて説明が投げ込まれる。

やめろ。

ユト加入イベントだろ。

なぜスレイとミクリオが流れ弾を食らっているんだ。

 

しかもユトは言う。

「珍しく事前に説明されましたね」

やかましいわ。

ロゼも即座に突っ込む。

「珍しくって言うな」

本当にそれ。

 

でもプレイヤーはちょっと思ってしまう。

珍しく事前に説明されたな、と。

ゼスティリア、そういう重要設定を後から刺してくるところがある。

そしてTOZ-Rは、その「後から刺さる」をわざとやっている節がある。

 

ユト、お前は何なんだ。

自分のイベントで、シリーズの真名設定を再説明しながら、ついでにスレイとミクリオの関係性まで遅効性爆弾にするな。

ライラは続ける。

「ユトさん、それでも真名をスレイさんに託しますか?」

ユトは少しだけ黙る。

いつものように即答しない。

けれど、迷っているというより、言葉を選んでいるように見えた。

 

そして言う。

「スレイさんがいなければ、私は『もうひとり』を認められませんでした」

ここでかなり来る。

ユトはスレイに救われた。

ただ「仲間だ」と言われたからではない。

スレイは、ユトがいないことにしようとした存在に手を伸ばした。

ユトが認めなければ誰にも届かなかったユイを、「いる」と言える場所まで連れてきた。

だからユトは続ける。

「スレイさんになら、預けられます」

重い。

 

さらに続ける。

「名付けてほしいのです。ユイもそう言っています」

ここで一回止まった。

ユイもそう言っています。

ユトが、自分の中の声を外に出した。

 

これまでなら、聞こえないふりをしたかもしれない。

自分の都合のいい理屈で黙らせたかもしれない。

でも今は違う。

ユトは「ユイもそう言っている」と言える。

自分だけの判断ではなく、ユイの意思として言える。

それが、どれだけ大きいことなのか。

ここまでユトを見てきたプレイヤーなら分かる。

 

だから良いシーンなのだ。

本当に良いシーンなのだ。

 

なのに、同時に別のところが燃えている。

真名を託す。

命懸けの友情。

スレイとミクリオ。

やめろ。

情報の出し方が悪い。

いや、悪くない。

作劇としてはめちゃくちゃ上手い。

上手いのだが、こちらの脳が勝手に接続してしまう。

ユトのイベントで「真名を託す」意味を明示したせいで、過去のスレイとミクリオの真名文脈が遅れて爆発する。

何なんだ、この男は。

何もかも遅効性か。

 

初報では一秒しか映らない。

紹介台詞は加入前に意味が反転する。

攻撃は半拍遅れて当たる。

「任せましたよ」は後から重くなる。

そして今度は、ユトの加入イベントで真名設定が説明されたせいで、スレイとミクリオが被弾する。

 

お前はなんで、自分のイベントで他人の関係性まで遅れて殴ってくるんだ。

しかもユト本人はたぶん、そんなつもりはない。

ただ真面目に、ユイの真名をスレイに託したいだけ。

自分を救ってくれた相手に、自分たちの本質に関わる名を預けたいだけ。

だから余計にひどい。

 

ユトは、意図的に爆弾を投げているわけではない。

真面目に歩いた足跡が、なぜか全部地雷原になる。

この加入イベント、たぶん初見ではユトとユイの話として泣く。

そして少し遅れて、真名設定の説明がスレイとミクリオに刺さっていることに気づく。

 

本当に、何もかも遅れてくる。

ユトというキャラクターの本質が、ここでも出ている。

届くのが遅い。

理解が遅い。

痛みが遅い。

でも、届いた時にはもう避けられない。

 

ユト加入イベント、良かったです。

良かったけど。

なんでユトの正式加入で、スレイとミクリオの真名文脈まで燃えてるんですか。

説明してください。

 

ユト「説明されたことと、理解が追いつくことは違います」

やかましいわ。

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