炎上論点スタンプラリー【TOZ】   作:Moa

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ユト、箱を増やす

セルディアへ戻った。

第一調査拠点へ入る。

スレイは、最初に机を見た。

そして止まった。

「……ミクリオ」

「言うな」

「増えてる」

「見れば分かる」

見覚えのない木箱が、二つ。

《共存の木箱》の少し離れたところに並んでいた。

大きさはほとんど同じ。

同じ木材。

同じ金具。

側面には、それぞれ異なる試験番号。

まるで。

二人が出発する前から、そこへ置かれることが決まっていたように整然と並んでいる。

 

「お帰りなさい」

奥からユトが来た。

手には記録用紙を持っている。

「予定より少し早かったですね」

「ユト」

「はい」

ミクリオが二つの箱を指す。

「これは何だ」

「追加の誓約実験です」

「それは分かる!」

「では、どの点でしょうか」

「条件だよ!」

「分かりました」

 

ユトは一つ目へ手を置いた。

「こちらは、人間が開けられる箱です」

沈黙。

スレイがミクリオを見る。

ミクリオは目を閉じた。

「……やっぱり」

「スレイ」

「何も言ってない」

「言っただろ」

ユトは気にせず、隣の箱を示す。

「こちらは、天族が開けられる箱です」

ミクリオが額へ手を当てた。

「やっぱり両方作ってるじゃないか……」

 

「何がでしょうか」

「後で話す」

「分かりました」

そこへエドナが戻ってきた。

両手には小さな袋を持っている。

「帰ってたのね」

「エドナ」

「なに、その顔」

ミクリオが箱を指す。

「増えてる」

「増えたわね」

「知ってたのか?」

「作ってるところ見たもの」

「止めてくれ!」

「なんで?」

「……」

 

ミクリオが言葉に詰まる。

確かに。

まだ理由を説明していない。

エドナは袋を机へ置いた。

「人間用と天族用でしょ」

「そうです」

ユトが答える。

「現在までの基本試験は終了しています」

 

スレイが箱へ近づいた。

「試していい?」

「はい」

まず。

人間用。

スレイが蓋へ手を掛ける。

開いた。

「開いた」

「はい」

次に。

天族用。

手を掛ける。

動かない。

「こっちは駄目だ」

「通常状態のスレイさんでは、その結果です」

ユトが記録する。

 

ミクリオが天族用の箱を開く。

開いた。

人間用。

開かない。

「……僕は、天族判定か」

「はい」

「人間として生まれたことがあっても?」

「現在のミクリオさんについては、人間条件の成立を確認できませんでした」

スレイがミクリオを見る。

「じゃあ、昔何だったかじゃなくて、今何なのかを見てるのかな」

「その可能性があります」

ユトが答える。

「ただし、今回の結果だけでは、過去の状態を参照していないと断定することはできません」

「そうだな」

ミクリオが頷く。

そして。

止まった。

 

「……待て」

「はい」

「君、これ」

ユトを見る。

「母さんの誓約の時と同じことをしているな」

スレイも気づいた。

「あ」

「何がでしょうか」

「『息子』だよ!」

ミクリオの声が大きくなる。

「母さんが『息子と二度と会わない』と誓約していた時、君は僕を一時的に女性へ変えれば対象から外れる可能性があるって考えただろ!」

「はい」

「その時も、誓約が現在の状態を参照するのか、関係性を参照するのか調べていた」

「はい」

「今回も同じだろ!」

「確認方法としては類似しています」

「類似してるのが嫌なんだよ!」

スレイが箱を見る。

 

エドナが袋から果物を一つ取り出した。

「ワタシも今回は木箱で済むならマシだと思ったけど」

「エドナまで!」

「感覚が麻痺していますね」

ライラが奥から現れた。

「ライラまでいたのか」

「はい。ユトさんの実験を少し拝見していました」

「止める人が誰もいない……」

「危険な実験ではありませんでしたので」

「そういう問題じゃないんだ」

ミクリオは疲れたように言った。

 

***

 

「それで」

スレイが二つの箱を見る。

「これだけ?」

「いいえ」

ユトが答えた。

ミクリオが嫌な顔をする。

「まだあるのか?」

「追加条件を確認しました」

「何を?」

 

「神依です」

スレイとミクリオが同時に黙った。

「神依状態では、どっちになるのか?」

スレイが聞く。

「確認しました」

「結果は?」

「両方開きます」

沈黙。

「両方?」

「はい」

ユトは記録を出した。

 

『通常状態・ユト

人間条件――成立

天族条件――不成立』

『通常状態・天族協力者

人間条件――不成立

天族条件――成立』

『神依状態・ユト及びユーゼクス

人間条件――成立

天族条件――成立』

「開放可否と重量軽減は一致しています」

 

ミクリオが紙を読む。

「……両方の条件が、同時に成立している」

「はい」

 

「じゃあ」

スレイが言う。

「人間と天族って、誓約術式の中では絶対にどっちか一つってわけじゃない?」

「その可能性があります」

ユトは別の紙を示した。

『「人間」「天族」の二分類は、術式上相互排他的ではない可能性』

「ただし、現時点で複合判定を確認したのは神依状態のみです。一般化はできません」

ミクリオは紙を見たまま黙る。

しばらくして。

「……重要な結果だな」

「はい」

「かなり」

「はい」

「それなのに」

 

ミクリオは机を見る。

「なんでこんな重要な研究が木箱なんだ……」

「重量軽減によって条件成立を定量的に確認しやすいためです」

「説明されると正しいのが腹立つな」

エドナが果物を齧った。

「箱なら壊れても世界は困らないしね」

「はい」

「増えるけど」

「はい」

そこは否定しなかった。

 

***

 

スレイとミクリオは顔を見合わせた。

そろそろ。

本題へ入るしかなかった。

「ユト」

ミクリオが言う。

「君は天界と地上の間にある誓約を知っているな」

「はい」

即答だった。

 

ミクリオの眉が跳ねる。

「やっぱり!」

「お二人も知ったのですね」

「その言い方!」

スレイが前へ出る。

「ズイフウから聞いた」

「そうですか」

「『地上で人間と天族が共存しつづける』」

「はい」

「……知ってるんだな」

「はい」

スレイは深く息を吐いた。

 

「共存の木箱」

「はい」

「あれ、このためだった?」

「正確には、当該誓約に含まれる『共存しつづける』という語を、誓約術式がどのように解釈するのか確認するための予備実験です」

「やっぱり!」

スレイが声を上げた。

ミクリオも続ける。

 

「だから定義しなかったのか?」

「はい」

「距離も?」

「はい」

「会話も?」

「はい」

「仲の良さも?」

「はい」

「全部、この誓約を調べるため?」

「はい」

ミクリオが机へ両手をついた。

「それを先に言え!」

 

「当時は、天界の誓約について共有する段階ではないと判断していました」

「何故だ!」

「確認できていない情報が多かったためです。また、世界規模の誓約へ直接干渉する前に、小規模な術式で確認可能な事項を先に調査する方が安全です」

「それは分かる!」

「では、どの点でしょうか」

「知ってたことだよ!」

「聞かれませんでしたので」

「聞けるか!」

ミクリオの声が響いた。

ライラが苦笑する。

エドナは特に驚いていなかった。

「ユトだもの」

「その説明で済ませないでくれ」

 

***

 

スレイが、もう一つ思い出す。

「じゃあ」

「はい」

「地上でしか開かない箱も?」

「はい。当該誓約に含まれる『地上』という語を、誓約術式がどのように解釈するのか確認するための予備実験です」

「海まで持っていったのも?」

「アイゼンさんへ協力を依頼しました」

「……やっぱりそうだったんだ」

 

ミクリオが机を見る。

「その箱は?」

「ありません」

「何故?」

「アリーシャさんへお渡ししました」

今度は。

誰もすぐには反応できなかった。

「……何?」

ミクリオが聞く。

 

「アリーシャさんへ贈りました」

「なんで!?」

「アリーシャさんが、私の作ったものを希望されたためです」

「だからって世界規模の誓約を調べるための実験器具を贈るな!」

「実験は終了していました」

「終了してたらいいのか!?」

「譲渡によって既存の研究結果が失われることはありません」

「そういう問題じゃない!」

スレイが少し考えた。

「でも、アリーシャ喜んでた?」

「はい。大切にすると言っていました」

 

「じゃあいいんじゃない?」

「スレイ!」

「本人が嬉しかったなら」

「……」

ミクリオが言葉に詰まる。

「いや……それは……そうかもしれないけど……」

 

***

 

ユトは新しい紙を机へ広げた。

「お二人が既に誓約について知ったのであれば、現在の研究項目を共有できます」

「まだあるんだな」

「はい」

 

紙には、いくつかの語が並んでいた。

『地上』

『人間』

『天族』

『共存』

『しつづける』

その下。

『つながる』

『ひとつになる』

スレイが読む。

「……全部、誓約に入ってる言葉だ」

「はい」

ミクリオも紙を見る。

「『地上』『人間』『天族』『共存しつづける』は、もう調べ始めている」

「はい」

「残りは?」

「未確認事項が多いです」

 

スレイが最後の二つを指した。

「『つながる』と『ひとつになる』も?」

「はい」

「そこまで?」

「特に確認が必要だと考えています」

ユトは答える。

「『天界と地上がつながり、ひとつになる』という記述が、具体的に何を指しているのか不明です」

「……確かに」

ミクリオが眉を寄せた。

「場所がつながるのか。地脈のようなものがつながるのか。それとも別の何かなのか」

「はい」

「『ひとつになる』も」

スレイが言う。

「同じ場所になるってことなのか、それとも行き来できるようになるってことなのか、分からない」

「はい」

ユトは頷いた。

 

「『天界と地上がつながり、ひとつになる』の部分に悪意のある条件が設定されているとは、現時点では確認できません」

「でも」

スレイがユトを見る。

「安全だとも分からない」

「はい」

即答だった。

「そのため、可能な範囲で事前に定義及び挙動を確認します」

ミクリオは紙を見た。

何万年。

あまりにも長い間、多くの者が苦しんできた誓約。

それを前にユトは。

紙へ言葉を並べ、木箱を作り、一つずつ確かめている。

「……本気なんだな」

「何についてでしょうか」

「この誓約を、どうにかすることだよ」

ユトは少しだけ考えた。

「はい」

それだけだった。

 

***

 

夜。

スレイは机の上の箱を眺めていた。

一つ。

二つ。

三つ。

条件の違う木箱が並んでいる。

「オレたちが世界の真相を聞いてる間に、二つ増えたんだな」

「そうだな」

ミクリオが答える。

「帰るの、あと三日遅かったらどうなってたかな」

「考えるな」

「もっと増えてた?」

「考えるなと言ってるだろ」

その時。

机の向こうで。

ユトが木材へ線を引いた。

 

ミクリオが止まる。

「……ユト」

「はい」

「何をしている」

「次の試験器具の準備です」

「また箱か?」

「現時点では、箱を予定しています」

ミクリオが目を閉じた。

「スレイ」

「ん?」

「明日、倉庫について相談しよう」

「箱の?」

「ああ」

ユトが顔を上げる。

「倉庫ですか」

「このまま増やすなら必要だろ」

ユトは机の上を見た。

箱。

箱。

箱。

そして。

まだ何も入っていない場所。

「確かに」

少し考える。

「そろそろ、保管場所を追加した方が良いかもしれません」

その言葉をユイは、すぐ隣で聞いていた。

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