いじめられっ子、ダークファンタジーな世界から帰還 作:リーグロード
俺の名前はキム・テヒョン。ただのいじめられっ子だ。
「おら!イスがなんで二足歩行してんだ!!?」
「ぐふっ!!」
さっき情けない声をあげたのは俺で、そんな俺を怒鳴りつけているのはいじめっ子のチャン・ソジュンだ。
こうなった理由は単純で、登校して教室の扉を開けた俺があいつの視界に入ったから。それだけで俺は脇腹に飛び膝蹴りを食らって悶絶している。
普通なら倒れる俺を心配する場面だろうが、俺の周りは違う。倒れ込んで咳き込む俺を動画のネタにして、スマホを構え群がってくる。
そしてチャン・ソジュンは倒れている俺をイス代わりにし、周囲のスマホに向かってピースサインを送るのだ。
「ほら、見ているみんなにイスのくせに二足歩行してごめんなさいはどうした?」
「――ご、ごめんなさい」
無意味で無価値な謝罪をする間に、俺は頭を3発も叩かれた。
周りの奴らはソジュンの笑い声に同調するように、情けない俺の姿を見て一緒に笑い声をあげている。
それが悔しくて……悔しくてぇ!!どうしようもないぐらい腸が煮えくり返っているのに、俺は痛みと恐怖で泣くことしか出来ない。
「ぐすっ……!!ううぅ……!!」
「おっ、こいつイスのくせに一丁前に泣いてやがるぜ、情けねぇな!」
悔し涙を流す俺を、ソジュンはさらにいじめのネタにして笑い飛ばした。
その時、学校の始業を知らせるチャイムが鳴った。
「おーし!お前ら、席に着け」
先生が教室前の扉から入ってきた。その瞬間、俺の周りに群がっていた連中や、背中に乗っていたソジュンが降りて、それぞれ自分の席へ戻っていく。
そして残された俺はというと……。
「おい、キム!予鈴が鳴ったのが聞こえなかったのか。早く席に座れ!」
「……はい」
どう見てもいじめられていたのに、先生はそこには一切触れず、床で四つん這いになっていた俺をただ席に着けと叱った。
最初の頃は俺だって、この扱いに当然のように抗議した。けど、全然意味がなかった。協調性だの、周りの連中の遊びだの、こっちも生徒一人一人に関わっていられないだのと、煙に巻かれて終わった。
そこで俺は悟ったのだ。ここは地獄で、周りの奴らは人の皮を被った鬼か悪魔なのだと。
そうして、だらだらと授業を受けて終了を知らせるチャイムが鳴って先生が教室から出て行くと、そこから地獄の時間が再スタートする。
殴る蹴るはまだマシだった。俺の記憶で一番酷かったのは、動画のネタの為に素揚げにされた虫を未来の昆虫食だと言い張って無理矢理食わせてきたことだろう。
「いっ、嫌だぁ!!」
その時、俺を拘束していた奴の手を無理やり振りほどこうと暴れた拍子に、俺の手がそいつの口に当たってしまった。運悪く、それでそいつの口が切れて血が出たんだろう。
好き放題に暴行する理由……すなわち、正当防衛の口実を得たソジュンが、教室の後ろから巨大な三角定規を持って近づいてくる。
「おい!キムが生意気にも抵抗しやがったぞ!」
「まじ?んじゃ、もう手加減しなくて良いよな?」
「あぁ。やっちまおうぜ」
「や……やめっ!!」
俺の制止は当然聞き入れられず、ソジュンは三角定規を振りかぶった。そして、俺は咄嗟に目をつぶる。
そこから先は語るまでもないだろう。殴る蹴るの暴行をただひたすらに亀のように丸まって耐え続ける。
そのいさかいは廊下まで響いていたのだろう。教室の扉を乱暴に開けて先生が入ってくる。
「おい!一体なんの騒ぎだ!?」
「やっべぇ、……先生!テヒョン君がダジュン君を殴って血を出させました~!!」
はっ?その瞬間、俺の頭は真っ白になった。いつの間にか手に持っていた三角定規は別の奴が回収して元の場所に戻していた。
俺は混乱して、ソジュン達のやった事を先生に言う。
「ち……違います!俺は何もやってない!!こいつらがいきなり殴ってきたんだ!!」
「じゃあ、なんでテヒョンの口から血が出てるんだ?」
「そ…それは、俺が逃げようとして、それでそいつが俺を捕まえてて……」
「言い訳は後で聞く。お前はあとで職員室に来なさい」
先生は俺の言葉を遮り、テヒョンを連れて保健室へ行ってしまった。
残された俺は案の定、教室に残っていたソジュンたちからまた暴行を受けた。暴行の痕が残ったまま職員室に入っても、先生はそのことには一切触れず、俺のやったことだけを責め続けた。
本当は、あの時何があったのか全部言ってやりたかった。でも職員室に行く前に、告げ口したらどうなるかとソジュン達に脅されていた。
それでも勇気を出して話そうかと思ったが、普段の先生の怠けた対処を思い出し、きっとこうしてダラダラと説教して終わるだけだと思った。そして放課後、またソジュンたちにいじめられると考えると、怖くて何も言えなかった。
死にたい……。死んで楽になりたい……。家族は……いや、心配なんてしないだろうな。
いつも傷だらけでボロボロになって帰ってくるのに、俺なんかよりも、俺が着ている服の方を心配するような奴らだ。
「どいつもこいつも、俺の味方なんて……」
下校途中、ふと目に入った古びたビルの屋上で、俺は柵の外側から空を見上げて物思いにふけっていた。
こんな風にかっこつけてみても、いざ死のうと決めても、足はすくんで一歩も動けない。
我ながら情けないやら、死ぬ怖さやらで感情がごちゃ混ぜになって涙がボロボロと零れ落ちていく。
そんな時だった、天から神の声が――後に、悪魔のいざないだと皆で口を揃えて言う声が俺の脳内に響いたのは。
『――強くなりたいですか?』
それはまさに天女――いや、女神の声とでも言うべき優しい声だった。
その声は無条件に俺の中の警戒心というものが解かれていき、その声に夢中になっていたのだ。
『もし、この世界に絶望しているというのであれば、別の世界で第二の人生を歩んでみませんか?』
その瞬間、俺の頭の中に数々の転生ラノベの展開が駆け巡った。
これだ!と思った俺は、すぐさま声の主に返す。
幻聴でも何でもいい!この腐ったどうしようもない世界から離れられるのなら、俺をどこか別の世界に転生させてくれと!!
『――わかりました。貴方のその望みを叶えましょう』
その時の俺は間違いなく幸福だっただろう。憧れた異世界転生への切符を手に入れ、死に別れたいと願っていた世界から離れられるのだから。
けれど、その選択を後悔するまでに、1日もかからなかったことをここに記しておく。