いじめられっ子、ダークファンタジーな世界から帰還   作:リーグロード

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過酷過ぎる世界

気がつけば、空の色が不気味に変わっていた。いや、変わったのは空の色だけじゃない。周囲からは身がすくむような猛獣の唸り声が響き渡っている。ここがどこなのか考える間もなく、近くで悲鳴が上がった。

 

「なに、何なのよぉ!!?」

 

声のする方を振り向くと、膝を抱えてうずくまる同い年くらいの女の子がいた。いや、女の子だけじゃない。右を見れば太ったおじさん、左を見れば俺と似たような怪我を負った男がいる。他にも周囲を見渡せば、俺以外に二十人ほどの人がいた。

 

「あの、もしかして貴方達も空から声が聞こえてこの世界に?」

「あ…ああ、強くしてくれるって、別の世界で第二の人生をって言われて、それで……」

 

話を聞いて回ると、ここにいるのはどうやら俺と同じ境遇の人ばかりで、女神様らしき声に返事をしたら、いつの間にかここに来てしまったらしい。

 

「なんの説明もなしに、いきなり異世界転生とか。せめてチート能力とか――」

 

周囲を圧倒し、強敵を信頼できる仲間と共に倒し、クエストで得た金で宴を開く。

そんなこれまで想像もしなかった人生を送る――そう思っていた楽観的な考えを、一瞬で吹き飛ばすような痛みが走った。

 

「――――はぁ?」

 

走馬灯を見た。痛い思い出、悔しい思い出、惨めな思い出、理不尽な思い出、総じてトラウマとも呼べる記憶が激しい痛みと共に駆け巡った。

 

「うっ――、おげぇええぇぇぇぇ!!!」

 

痛みからなのか精神的な苦痛からなのか分からないまま、俺はその場で思いきり吐いた。胃液特有の酸っぱい匂いがさらに吐き気を誘い、何度も何度も繰り返し吐き続けた。吐き疲れてようやく落ち着きを取り戻し、周囲を見渡す余裕ができたとき、異変に気づく。

 

「い…生き返った……!?」

 

みんながまるで怪物でも見るような目で俺を見ていた。訳も分からぬまま、別の方向からまた悲鳴が響く。

 

「こ…こっちの奴も生き返ったぞぉ!?」

 

生き返る?何のことだと混乱していると、自分の服がべっとり血で染まっていることに気づいた。

本当に何なんだと訳も分からずに混乱して周りにいる人達に助けを求めようとすると、一目散に距離を取る。

 

「なんでぇ……、なんで逃げるんだよぉ!!!」

「「「ひぃっ」」」

 

俺がイラついて大声を出すと、全員が怯えながら後ずさりする。

その時、一瞬……ほんの一瞬だけ、俺がちょっと偉くなったような気がした。

そう、気がしただけだった。

 

「あ、あいつだ!あいつがまた来たぞぉぉぉ!!!」

 

俺の後ろから、誰かの悲鳴のような叫び声がした。

その声が聞こえた瞬間、俺に怯えていた人達がさらに怯え始めた。

 

「――マジで、何なんだよぉぉぉ!!?」

 

俺が後ろを振り返って見ると、そこにはグロテスクとして表現のしようのない怪鳥がさっき叫んでいたであろう人の頭を貪り食っていた。

ペンギンのような嘴に、サメのようなびっしりとした鋭い歯が生えている。その嘴が人の頭を噛み砕いて、そのまま丸呑みする。そして、怪鳥は次のターゲットを俺に定めたのか、ゆっくりとこちらを向いて近づいてきた。

 

「あっ、ああぁ……、ひぃっ!?」

「――?ガァッ!!」

 

俺は恐怖のあまり腰を抜かしその場にへたり込むと、怪鳥は興味を失ったのか、そのまま羽ばたいて何処かへ消えていってしまった。

 

「――っ、なんだよ、何なんだよ!ようやく変われるって、クソみたいな人生が変わるって信じてたのによぉぉぉ!!!」

 

恐怖を通り越して、怒りが湧いてきた。そのまま地面に寝転んだまま、涙を流しまくって文句を垂れ続けた。

みっともなく、子供みたいに喚いて叫んで、小水だって痛みとか恐怖とかでもうとっくに垂れ流していた。

 

「……君、大丈夫かい?」

「………………はへぇ?」

 

さっきまで俺のことを怖がっていた人の一人が手を差し伸べてきてくれた。

なにが、どうして?なんて考えるよりも先に、ただ当たり前の人の優しさに久しぶりに触れて、痛みや恐怖が薄れていった。

だからだろうか、無意識にその人の差し伸べた手を掴み取ったのは。

 

「あっ、やっぱり、あの人も生き返ったみたいだね」

「へぇ?」

 

見てみれば、先程の怪鳥に頭を食われたであろう人が再生して蘇ったのだ。

その人は蘇った直後、先程の俺みたいにゲロを吐いて叫び散らかしていた。

 

少し時間が経ち、ひとまずは安全な場所に移ろうと誰かが提案して移動を開始する。

その移動中に、何が俺の身に起こったのか、俺達がなんで蘇ったのかを話し合った。

 

あの怪鳥は人の頭を食うのが好きなのか、初めに俺が頭から食い殺され、それを見て半狂乱に陥った奴が抵抗しようと殴りかかった瞬間、同じように食い殺されたようだ。

俺の方も、殺されて生き返るまでのことを話すと、同じように殺されて生き返った奴も同じことを口にした。

 

つまり、ここはあの怪鳥の縄張りか餌場で、俺達は多分死んでも生き返るが、生前の辛かったことが走馬灯として過ぎってしまうということだ。

 

「噓だろぉ。ここは異世界なんじゃないのかよ!?こんな場所で死んで生き返って、また殺される!?しかも、死んだら嫌なことが走馬灯として流れるって、なんの冗談だよぉ!!!」

 

太ったおじさんが涙を流しながら、叫んでいる。正直、この場にいる全員の気持の代弁とも言えるその叫びを止める者はいなかった。

しばらく進んでいくと、木々に囲まれながらも、多少広い空間を見つけられた。

そこを仮の拠点として、俺達は一度そこに腰を落ち着かせた。

しかし、やはりというか何と言うか、雰囲気が暗いのは仕方のない事だろう。それでも、どうにかしなければいけないと思い俺は会話を切り出すことにした。

 

「あの、なんでさっきは俺のこと……、その、助けてくれたんですか?」

「……なんというか、気を悪くしないで欲しいんだけど。君のみっともない姿を見て、あぁ、この人は僕と同じなんだって安心したというか、このよく分からない状況で少し落ち着いたんだよ」

 

その人は少し恥ずかしそうに、でもどこか安心したようにそう言った。

俺はその答えを聞いて嬉しくなった。だって、俺と同じようにこの人も苦しんでいたと分かったから。

だからか、俺は不幸自慢のように、ここに来るまでのいじめられていた境遇を話し始めた。

すると、その人も同じように、トイレで水を浴びせられただとか、テスト中に筆箱を隠されたとか、SNS映えすることをしなきゃ顔を蹴られたなどと、お互いの不幸自慢で不覚にも盛り上がってしまった。

 

「お前らもそうなのか……?」

「実は私も似たような境遇で……」

 

俺たちの話し合いを聞いたみんなが、次々とここに来るまでの自分の境遇を語り始めた。

そのどれもが優劣のつけられない内容で、女子高生の陰湿ないじめ、職場でのパワハラ、部活での嫌がらせ、教師の理不尽な説教と、本当にありとあらゆる不幸自慢が語られていった。

それでも、全員に共通していることはただ一つ。それは全員が被害者であり、前の世界の底辺だったことだ。

 

全員の境遇を聞き終えると、お互いのことを少しずつ知ったことで自然と会話が始まった。

そして今更ながら気づいたのだが、どうやら皆それぞれ別の世界からやって来たらしい。

 

例えば、俺を助けてくれた岸田康夫という彼は「ニッホン」という国から来たと言い、最初に悲鳴を上げてうずくまっていたナイジェル・ハートフィリアという彼女は「アリメカン」という国から来たらしい。

微妙に聞き覚えのある国だったが、そんな国名を知らないと言ったら、太ったおじさん――本名オルロ・ベルナーザさん――がパラレルワールド説を持ち出してきた。そこそこ有名な話なので、特に説明がなくてもなんとなしに理解できた。

 

「なあ、これから一体どうするよ?」

「どうするって言ったって、私たちに何ができるっていうのさ」

「そもそも、この世界は何なんだ!?あの気色の悪いデカイ鳥がうようよいる世界なら……、世界ならっ……」

 

元の世界に帰った方がマシだと、最後まで言えなかった。周りのみんなも同じ気持ちなようで、俯いて黙り込んでしまう。

 

「「「「…………」」」」

 

誰も何も言えず、気まずい沈黙が場を支配する。

そうして、幾ばくかの沈黙を破るかのように、強烈な悲鳴とも雄叫びともつかない声が響き渡った。

 

『――――GYAAAAAAAA!!!!!!』

 

木々の隙間から見える空に映る巨大な獣――怪獣クラスの影が見えた。目に映る異様な景色も、骨まで震わせる怪獣の叫び声も、なにもかもが夢であってほしいと願う。

だが、そんな願いは空しくも打ち砕かれる。

 

「なにか――くる!?」

 

俺がそう言った途端、あの巨大な怪獣の方向から、気味の悪いモンスターじみた化け物たちが木々の間をすり抜けながら一斉にこちらへ突っ込んできた。

そこからは阿鼻叫喚の地獄。散開して逃げる暇もなく、俺達は呆気なく化け物に体を食われていって死んだのだ。

 

(ああ……、そうか。ここが、本当の地獄なんだ……)

 

死によって薄れゆく意識のなか、俺は絶望と後悔のなかで、この世界の真実に気がついた。

 

 

 




ライン漫画の『死にたくなければ』を読んで衝動的に書きました。
これから先続くかどうかは知りませんが、『死にたくなければ』で再びハートが震えて、血液がヒートするような展開をまた読んだら書くかもです。
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