HELLO WORLD『レイヤー・ゼロ』   作:坂本太郎

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Another Worldで出て来た、黒沢ともよさんがCVを務める、ヤタを連れて帰った名も無き茶髪の女性を勘解由小路三鈴と無理矢理解釈をして物語を作っています。
矛盾点があるのはご了承ください。


第三話:創造主の目覚め

絶望に押し潰されそうになっていたその時、病室のドアが乱暴に開かれた。

肩で息をしながら飛び込んできた一人の女性は、カプセルの中で眠る直実と、そのカプセルの横で泣いている瑠璃の顔を交互に見比べ、息を呑んだ。

 

「……ルリ……リン……?」

 

その声は、震えていた。

瑠璃もまた、涙で滲む視界の先にいる女性を見て、信じられない思いでその名をつぶやく。

 

「三鈴……ちゃん……?」

 

勘解由小路三鈴。

高校時代、同じ図書委員として静かな放課後を共に過ごした親友。引っ込み思案だった瑠璃を休日にデパートへ連れ出し、「ルリリンには絶対にこういうのが似合うから!」と、少し大胆なへそ出しの服を笑ってプレゼントしてくれた、あの明るくて優しい彼女だった。

 

だが今、三鈴の顔からかつての笑顔は消え失せている。

彼女の手には、古びたペット用のケージが握られていた。中には、年老いた一匹の黒猫『ヤタ』が、見知らぬ場所に怯えたように小さく身を丸めている。

 

「どうして……ルリリンが目を覚ましたのに、どうして堅書くんがこんな目に……!」

 

三鈴はケージを抱きしめたまま、その場に崩れ落ちた。

 

「私ね、大学で堅書くんと再会したの……。でも、彼はもう高校の時の堅書くんじゃなかった。狂ったように機械とデータにしか向かっていなかった。ヤタを拾った雨の日も、彼はどこか遠くを見ていて……目の前にいる誰のことも、私のことすら見ようとしなかった」

 

瑠璃は俯き、血が滲むほど唇を噛み締める。

 

「ルリリンが目を覚ましてくれて、本当に嬉しいよ……! でも、でもね……堅書くんの青春も、未来も、誰かを愛するはずだった時間も……全部、ルリリンを助けるためだけに使い潰されちゃったんだよ……!」

 

ケージの中のヤタが、三鈴の嗚咽に合わせるように悲しげに鳴いた。

三鈴の涙ながらの叫びが、瑠璃の胸を鋭く抉る。

痛いほど伝わってきた。三鈴が、大学時代にどれほど直実の不器用な優しさに惹かれ、そしてどれほど彼の孤独な背中を見て傷ついてきたのか。

私の親友も、私を助けてくれた彼も、私が全員不幸にしてしまったのだ。

 

「……ごめんなさい、三鈴ちゃん……ごめんなさい……」

 

瑠璃は、三鈴に向けて深く頭を下げ、絞り出すように呟いた。

だが、直実を見つめる彼女の目の奥には、すでに絶望とは違う、別の感情が宿り始めていた。

 

(直実くん。君は、自分のすべてを投げ打って私を助けてくれた。三鈴ちゃんの優しさも振り切って、世界を欺き、自分の体を壊してまで、私をこの現実に連れ戻してくれた)

 

瑠璃はゆっくりと立ち上がった。

泣き崩れる親友の姿を瞳に焼き付け、そして、直実の寝顔を真っ直ぐに見下ろす。とめどなく流れる涙の奥で、彼女の心に、静かで、しかし狂気にも似た途方もない決意の炎が灯っていた。

 

(直実くんが私のために世界を壊したのなら、今度は私が、世界を書き換える)

 

彼が残したアルタラ。彼が残したプログラム。

彼が私を救うために見せたその「狂気」を、今度は私が引き継ぐ。

 

「絶対に……今度は私が、直実くんを連れ戻すから。やってやりましょう」

 

誰に聞かせるでもなく、瑠璃は静かに、しかし絶対の確信を持って言い放った。

愛する人を救うためなら、私も喜んで悪魔になろう。かつて堅書直実が背負った十字架を、今度は一行瑠璃が背負う番だった。

 

この日、月面の静かな病室で、一人の少女は「世界の創造主」へと生まれ変わった。

ここから始まるのは、彼女が紡ぐ、最愛の彼を救うための、史上最も壮大で狂おしい「仮想世界(ハロー・ワールド)」の構築劇である。

 

(完結)




本編『レイヤー・ゼロ』を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

本作は、映画『HELLO WORLD』という巨大な世界の裏側で、誰にも知られず、しかし誰よりも激しく命を燃やした二人の創造主の物語です。十六歳の落雷事故から十年という空白の時、堅書直実が背負った孤独と、一行瑠璃が真実を知った瞬間の絶望と決意。その「境界線」に横たわる、痛々しいまでの愛の軌跡を書き留めたいと考え、筆を執りました。

本作を構築するにあたって、勘解由小路三鈴という、直実にとって特別な存在を登場させました。
実を申しますと、執筆現在、私はまだ『HELLO WORLD if -勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする-』を読んでおりません。彼女が直実に対して抱いていた想いや、あの大学時代の日々の真実を、今の私はまだ完全には咀嚼できていない状態です。

ゆえに、この物語は今の私が見える限りの情景で構成されています。
今後、原作である『if』を読了した暁には、三鈴という人物の魂の深淵に触れ、彼女の視点や心情をより繊細に投影した「三鈴の物語」として、この第三話を再構築するかもしれません。彼女の失恋の痛みをより深く理解したとき、瑠璃との対峙は、さらなる冷酷さと美しい悲劇を纏うことになるでしょう。

物語とは生き物であり、読者がその真実を知るたびに、過去の記録さえも書き換える力を持つ。まさに『アルタラ』のように。

直実と瑠璃、そして三鈴。彼らの魂が、あなたの胸の中で今も静かに鳴り響いていることを願って。

二〇二六年六月 筆者
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