「お預かりしていたリオルは元気になりましたよ!」
ポケモンセンターのお姉さんがこちらに言葉を投げ掛けると、話し声を聞き付けたのであろう一匹のリオルが施設の奥から飛び出してきた。健気な赤い瞳を輝かせ、満面の笑みでちょこちょこと駆け寄ってくる幼い人型のそれは、こちらへ接近するなり純粋な信頼感で勢いよく飛び込んできたものだ。
意外と重量のあるリオルを受け止めた自分は、思わずよろけながらも両腕で抱え込んでいく。今もリオルが胸の中に収まるようぎゅっと抱き締めてくるその傍らで、ポケモンセンターのお姉さんは微笑ましい様子で喋り掛けてきた。
「随分と懐かれているみたいですね~。普段は好戦的なポケモンなんですけど、野生のリオルでこれほど人間に懐いた事例は、今まで無いと思いますよ~」
「そんなに珍しいことなんですか? 俺、ポケモントレーナーの免許証も持ってないくらいポケモンのことをよく知らないもので……」
「お名前は確か、“カンキ”さんでしたよね? ご年齢は?」
「22です」
「なら、これを機にポケモントレーナーデビューでも
「ポケモントレーナーかぁ……今まで仕事しかしてこなかったから、考えたことなかったな」
ポケモン。生まれた時から身近に存在していた生物だが、その生態については興味が無かった。例えるならば、よく見かける虫や名前を知っている魚のように、その存在は認知していても、それぞれに関する詳しい知識までは持たない状態。それらは当たり前のように存在しているが、実はそれらは自分が思っている以上に複雑な要素で構成されていて、未知に溢れている。
「もう22歳ですけど、今からでもポケモントレーナーになれますかね?」
「ポケモントレーナーは、10歳を過ぎていれば誰でもなれますよ! ポケモントレーナーに早いも遅いもありませんから! それに、ほら。リオルがこんなに懐いてくれたのも、何かの縁だと思いますし! あと、解析の結果、そちらのリオルは非常に珍しいメスの個体であることが分かったんですが、もしかしたら怪我していたところを助けてくれたカンキさんに惚れちゃったのかもしれませんね!」
「え!? ポケモンにもそういう感情ってあるもんなんですかね……!?」
「どうでしょうね? ポケモンは不思議な生き物ですから。ただ、こんなにも健気な性格をしたリオルなんです。ここでおさらばしちゃうのも何だか可哀想なので、せっかくのご縁ですからどうか大切にしてあげてください」
自分はこの日、人生のターニングポイントを迎えた。今まで何の関わりも持たなかった不思議な生物『ポケットモンスター』という存在が、急に他人事ではなくなったからだ。
この物語は、野生の個体であるメスのリオルに惚れられた一般成人男性が、社会人を辞めてポケモントレーナーの道を目指すお話である。