ポケモンと俺   作:祐。

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銀嶺会

 学園の食堂でランチを終えた自分は、ラミアとメーの二人と共に校内の校庭を歩いていた。

 

 それぞれの相棒も待望の食事にご満悦のようで、特にリオルはご機嫌の様子を見せている。彼女が鼻歌を歌いながらトコトコ歩いているところを、三人で微笑ましく眺めていた時のことだった。

 

 何やら不良の男二人組が、こちらに向かって歩み寄ってくる。その時点で薄々と良からぬ予感を抱いていたが、直にも男達はニタニタといやらしい笑みを浮かべながら話し掛けてきたものだ。

 

「お前、メスのリオルを連れてるみたいじゃん? 周りにオンナも(はべ)らせて、良いご身分だな?」

 

「……何か御用ですか?」

 

「周囲のオンナ共に(うつつ)を抜かす飼い主を、ペットはどう思っているもんかねぇ? 優柔不断な飼い主に愛想を尽かしてんじゃねぇのかなぁ?」

 

 男達は威圧するように接近してくる。リオルも物怖じしながらもこちらの脚に縋りついてくる中、次にも彼らは語気を強めながらそれを口にしてきた。

 

「見てて可哀想だからよ、代わりにそのリオルを貰ってやるよ」

 

「仰っている言葉の意味が分かりません。お引き取りください」

 

「おいおい、つれないことを言うなよ。ペットの気持ちを考えたことあるか? リオルもおれ達といた方が絶対に楽しいからさ。……ここは素直に言う事を聞いといた方がいいぜ? じゃねぇと、何が起こるか分からねぇからな」

 

 男達は指の骨を鳴らしながら、睨みを利かせて立ち塞がってくる。自分もまた臆することなく対峙していると、直にも我慢できないと言わんばかりに横から割り込んできたメーが男達へと強く言い放った。

 

「黙って聞いてれば、意味わかんない!! リオルの気持ちを考えたことないのはアンタらの方じゃないの!?」

 

「うるっせぇよオンナ! 部外者はすっこんでろ!」

 

「アタシはリオルのズッ友だから関係者ですけど、それが何か~~~~???」

 

「だから何だってんだ! オトコに媚びてるだけのゲテモノが邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 瞬間、男の一人がメーを手で突き飛ばした。

 

 乱暴に押し退けられたメーが、ドカッと真後ろに倒れ込む。これを受けて自分が心配の声を呼び掛けていく最中、堪らずと飛び出したのは足元にいたリオルだった。

 

 メーを突き飛ばした男に向かって、でんこうせっかを繰り出したのだ。刹那の突撃を食らった男は悲鳴を上げながら後方へと吹き飛んでいく。思わぬ反撃によってもう片方の男が距離を離すと、彼はモンスターボールを取り出しながらそれを叫び上げた。

 

「こ、攻撃された!! 正当防衛だ!! 正当防衛!! いけ、ヤミカラス!! リオルとトレーナーを血祭りにしろ!!」

 

 彼のモンスターボールからはヤミカラスが出現し、同時につつくを繰り出してくる。リオルはそれを避けると、こちらの手前に戻って身構えた。

 

 間もなくして、吹き飛ばされた男も起き上がる。彼は怒りで血管を浮き出しながら「躾のなってないゴミクズが、調子に乗りやがって……! いけ! アーボ!」とポケモンを繰り出し、二人がかりでリオルと対峙してきた。

 

 倒れたメーを心配するミズゴロウと、キラーメを連れてこちらと立ち並ぶラミア。だが、彼女を手で遮って加入を阻止する。

 

「カンキさん??」

 

「これは俺の問題だ。皆を巻き込むわけにはいかない」

 

「コチラは友人を傷付けられてるんです。黙ってられるワケないじゃないですか」

 

「……分かった。くれぐれも無理はしないように」

 

 リオルと並ぶキラーメ。相手のヤミカラスとアーボも並び立ち、校庭のど真ん中でポケモンバトルが開幕する。

 

 突然の出来事に、周囲の人やポケモンが集まり出した。野次馬が無責任にも寄せてくる期待の視線を受けながら、自分達は相棒達に指示を繰り出していく。

 

「キラーメ!! げんしのちから!!」

 

「リオル! でんこうせっか!」

 

 キラーメがげんしのちからを生成する間、リオルが高速の突撃で相手方に接近する。一方で男達も必死な様子で指示を繰り出した。

 

「ヤミカラス! かぜおこし!」

 

「アーボはいやなおとでリオルの動きを止めろ!」

 

 ヤミカラスが翼を羽ばたかせて風を起こしていく傍ら、アーボは迫り来るリオルへといやなおとを放つ。その音波をリオルは軽快な動作で山なりに避けていくと、ノーマルタイプのわざエネルギーを身に纏いながらアーボへと高速の突撃を食らわせた。

 

 ヤミカラスがすぐにかぜおこしをリオルへ撃ち込むが、直後にも横から降り掛かるげんしのちからがヤミカラスを襲う。かぜおこしも打ち消して、ヤミカラスが効果抜群でよろめいていく最中、リオルはアーボとタイマンを張る。

 

「アーボ! まきつく!」

 

「リオル! カウンター!」

 

 アーボが俊敏性を活かして迫るが、アーボが攻撃を繰り出した直後にもリオルから手痛い反撃を貰う。彼女の反撃にアーボは仰け反りながらも、体勢を立て直して再び攻撃を繰り出した。

 

「どくばり!」

 

「メタルクロー!」

 

 アーボの尾がリオル目掛けて突き出された。だが、リオルのメタルクローがどくばりを完全に跳ね除け、隙を晒したアーボにリオルの攻撃がヒットする。

 

 吹き飛んだアーボが、ヤミカラスの下で倒れ込む。ヤミカラスもまた翼を広げ、メタルクローを引っ提げて接近してくるリオルへと攻撃を仕掛けていく。

 

「イカサマ!」

 

 ヤミカラスの攻撃が、リオルの攻撃と相打ちになった。僅かに競り勝ったリオルが相手を退けると、彼女は不意に跳躍してその場から姿を消す。

 

 ヤミカラスが周囲を見渡した瞬間、大きな毒のシャボンが降り掛かった。それを全身に浴びたヤミカラスは、攻撃の主へと振り向いていく。

 

 キラーメのアシッドボム。リオルが気を引いている内に遠方から攻撃を仕掛けるキラーメは、固定砲台のような役割を果たしていた。

 

「げんしのちから!!」

 

 キラーメのげんしのちからが、ヤミカラスに放たれる。アシッドボムを受けたヤミカラスは避ける間もなく、げんしのちからに埋もれた。

 

 相方が戦闘不能になる傍らで、アーボは体勢を立て直しながら着地したリオルへと接近する。

 

「アーボ! かみつく!」

 

「リオル! カウンター!」

 

 アーボの攻撃を、リオルは完全に見切っていた。放たれる物理攻撃を片っ端からカウンターで反撃し、一方的な格差を見せ付ける。それでもアーボはどくばりを繰り出すが、リオルはメタルクローで弾き返し、その一撃をお見舞いした。

 

 成す術がない。完膚なきまで叩きのめされたアーボが倒れ込む。あまりにも差がある戦闘は、こちらの完勝という形で終了した。

 

 男達はこんなはずじゃなかったと頭を抱え込んだ。自分とラミアはグータッチして、戻ってきた相棒達を迎え入れる。

 

 平穏は訪れた。自分がそれを確信して踵を返したその瞬間、どこからともなく投げ掛けられたのは浪花(なにわ)の調子で喋る青年の声音だった。

 

「なんやジブンら、大勢のギャラリー集めてえらく楽しんどるやないか」

 

 自分は声の主へと振り返った。

 

 ドシドシとした足取りで歩み寄ってきたのは、173cm程の背丈を持つ同年代の男だった。黒髪のウルフカットは野生的なボリュームを象っており、瞳孔をガンガンにかっぴらいた青色の瞳が眼前のこちらを真っ直ぐと見据えている。野獣のように生え揃った鋭利な歯で笑みを作り、今にも飛び掛かってきそうなオーラは肉食獣を想起させた。服装は立入禁止マークがプリントされた黒色のパーカーとゼラオラの模様が特徴的であるタンクトップ、チェーンが大量に取り付けられた黒色のカーゴパンツに黒色のシューズというもの。加えて、ポケモンの尻尾のような青色のアクセサリーを腰の後ろに下げているのが印象的だった。

 

 彼の傍には、電気ウナギのようなポケモンが浮遊していた。うねり続けるそれは吸盤のような口を広げ、腕や尾を靡かせている。

 

 自分が懐疑そうな目を向けていたのだろう。次にも青年はおどけるように笑いながら浪速の調子で喋り始めた。

 

「そないな目ぇ向けんといてや! ワシはケンカしに来たんやない! せやなぁ、誤解されんように自己開示でもしとこか! ワシは“オキクルミ”や! で、こいつはワシの相棒シビルドン! イカつい見た目しとるけど、こないなカオして控えめな性格なんやで! な、プリティーやろ!」

 

 オキクルミと名乗る青年は、ケラケラと満面の笑みでそれを口にした。自分が未だに警戒の色を見せていく中で、オキクルミは男達へと視線を向けながら言葉を投げ掛けていく。

 

 目元に陰りを落とし、ドスを利かせた低い声音で。

 

「ほんで、オマエらはどないな経緯でアチラさんにケンカを売ったんや? あ? 言うてみぃ」

 

「ち、違いますオキクルミさん! おれ達はただ話をしに来ただけで!」

 

「話しに来ただけでこないに殺気立つわけあらへんやろ。オマエら、“銀嶺会(ぎんれいかい)”のメンツ潰したらどないなるか、知らんわけないよな? 何なら皆さんの前でケジメでもつけるか? あぁ?」

 

「違います違います! 違いますから許してください!」

 

「ちゃいます、ちゃいます言うとるけどな、ほな何がちゃうんかとっとと言わんかいこのボケがッ!!!」

 

「ひぃぃぃ!!?」

 

 オキクルミの怒号は、周囲のギャラリーを続々と退散させた。男達も彼に怯えて縮こまる中で、オキクルミはにこやかにこちらへと振り向きながら明るい調子で言葉を掛けてくる。

 

「すんませんなぁ。ウチの者が粗相して、オタクらに迷惑をかけたみたいで。どうかこの場はワシの顔に免じて許してもらえへんやろか?」

 

「まぁ、その……俺としても、連れの者としても、彼らから受けた仕打ちは苦痛に感じたものだから、そう簡単に許せないことだけは知ってもらえるかな?」

 

「大変申し訳ございまへん。ウチの者は“躾け”ときますんで、今日のところは堪忍したってください。……おい、行くで。これ以上とワシに恥かかせんなや。銀嶺会の看板に泥ぉ塗ったこの仕打ち、どう落とし前つけてもらおうか」

 

 男達とシビルドンを連れたオキクルミは、こちらに振り返っては「ほな、また」と言って彼らをどこかへ連行した。

 

 倒れたメーを心配する、ラミアやキラーメ、リオルやミズゴロウ。その間も自分は、立ち去るオキクルミの背をじっと見送っていた。

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