ポケモンと俺   作:祐。

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タイマンの果てに

 昼休みのアップルアカデミー。学園のバトルコートでポケモンバトルをした自分とリオルは、ラミアとキラーメ、メーとミズゴロウの面々と合流していく。

 

 今日のリオルは特に好調だった。今も戦い足りないと言わんばかりに素振りを見せていく中で、ふと浪花(なにわ)の青年から声を掛けられたものだ。

 

「ジブンのリオル、えらいごっついなぁ! お嬢さんの戦いぶりは見てて清々しいわぁ!」

 

 自分らは顔を上げて声の主へと振り向いた。そこに佇んでいたのは、数名の不良を引き連れたオキクルミの姿。

 

 彼は瞳孔がかっぴらいた青色の瞳を向け、捕食獣のような野生的オーラを醸し出しながらこちらを眺めている。その様子は堪らないといった具合に高揚しており、今にも本人が飛び出してきてバトルに参加してきそうな雰囲気だった。

 

 ラミアとメーが警戒の色を示していく傍ら、自分とリオルは彼女達を遮るようにして返答をする。

 

「オキクルミ、といったよな?」

 

「名前を憶えててくれて嬉しいわぁ! ほんま、おおきに!」

 

「リオルのことは褒めてくれてありがとう。それで、他にも何か用が?」

 

「そないにピリピリせんといて! 確かに前回はウチの者が粗相したけどな、ヤツらだって十分に反省しとる。ほれ、この通りや」

 

 そう言ってオキクルミに通されたのは、前回にも突っ掛かってきた二人の不良だった。だが、彼らに変化があるのだとすれば、その顔面には気の毒に思えるほどの青あざが増えていたことだろう。

 

 顔を腫らして、見るに堪えない有様だった。次にもオキクルミは彼らの背後で低い声を出す。

 

「おう、オマエら。オトコなら誠意を見せんかい」

 

「へ、へい!!! この度はすんませんっしたぁ!!!」

 

 二人の男が、こちらに向かって土下座を見せてきた。あまりにも急な出来事に自分らが困惑の眼差しを向けていく手前、オキクルミはおどけるように笑いながら明るい調子で言葉を投げ掛けてくる。

 

「たっぷりと躾けたさかい、もうオタクさんらに粗相はせん! “銀嶺会(ぎんれいかい)”が約束する! せやから、今回の不義理はチャラにしたってな」

 

「彼らをこんな風にしたのは……オキクルミ、あんたなのか?」

 

「ワシには部下を躾ける義務があんねん。“銀嶺会(ぎんれいかい)”の看板も背負ってるさかい、銀嶺会が掲げる『仁義』に背く連中は、身内であろうと容赦せんで」

 

「俺はここまでしろとは言わなかった。注意するにしても、限度はあるんじゃないか?」

 

 オキクルミは途端に目つきを変えてきた。柔和な態度から一転し、眼光をギラつかせる。

 

「なんやジブン、物言いたげな口調やな」

 

「俺は、あんたのやり方が正しいとは思えない。彼らを痛め付けることが、あんたにとっての仁義なのか?」

 

「オタク、名前はカンキ言うたなぁ? 出身はジョウダシティ。入学前は立派な社会人で、リオルとの出会いをキッカケにポケモントレーナーを目指すよぉなった。今住んどるアパートも、ここから近いなぁ? 親しげにしとる仲間達もおって、皆が楽しそうや。最近やと、ハクバビレッジで一騒動を起こしたみたいやないか。優等生のツラしながら、中々にヤンチャやなぁ。ギャップがあってええやないか。ジブンみたいな人間、ワシは好きやで」

 

 オキクルミは瞳孔の広がった眼差しを向け、こちらに近付いてきた。今にも(かぶ)りつかんとする鋭利な歯並びを見せながら間近まで迫ると、次にも彼はドスを利かせた低い声音で喋り出してくる。

 

「つけあがんなや。オタクに説教される筋合いはあらへん。異論があるなら続けてもええけど、後からどないな不幸が降り掛かっても知らんで? 銀嶺会をナメんなや」

 

「相手を脅して黙らせることが仁義なのか? だとしたら、それは間違ってる」

 

「いっぺん痛い目見ぃひんと解らんか。カタギに手ぇ掛けたくはあらへんけどなぁ」

 

 オキクルミはちらりと脇を見て、それから表出ろのジェスチャーよろしく右手で移動を(そそのか)しながらそれを口にした。

 

「ツラ貸せや。バトルでナシぃつけようやないか」

 

 

 

 バトルコートに移動した自分とリオルは、前方で佇むオキクルミと向かい合う。

 

 彼は無数ものクイックボールを提げながら、高らかな声音でセリフを発した。

 

「ルールは一対一のガチタイマンや! バトル終了は、どちらか一方の手持ちが戦闘不能になった時! 最後に立っていたヤツが、このケンカの勝者や!」

 

 と、オキクルミは何処からともなくキズぐすりを取り出して、こちらに投げ付けてくる。

 

「オタクのリオルは、さっきまでのバトルで疲弊しとるやろ。そいつ使って癒したれ」

 

「確かにとてもありがたいけれど、それだとあんたが不利になるだけでは?」

 

「んなの、不公平やろがい。ボロボロのヤツ一方的に痛め付けても面白ない。万全の状態で自信たっぷりなヤツを真正面から打ち負かす! それがワシの流儀や!」

 

「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうよ。ありがとう!」

 

 自分はリオルにキズぐすりを使用し、彼女のコンディションを整えた。やる気満々なリオルは更に元気いっぱいとなり、何度も素振りをしてからバトルコートに飛び出した。

 

 オキクルミは数個とあるクイックボールの一つを手に取り、それを構えていく。

 

「ええで、ボール越しから気合いを感じる! 存分に暴れたれや! コリンク!」

 

 オキクルミはボールを投げ付けると、そこからはコリンクが現れた。上半身の水色と下半身の黒色の体表を持つ四足歩行のそれは、登場と同時にいかくでリオルをけん制した。

 

 だが、彼女は動じない。せいしんりょくで動揺を防ぎ、堂々と対峙していく。直にもオキクルミの部下が審判としてバトル開始を合図すると、開幕と共に双方が攻撃を指示した。

 

「リオル! でんこうせっか!」

 

「コリンク! スパークや!」

 

 互いに飛び出した初撃は、真っ向からのぶつかり合いとなる。リオルが速度を乗せてコリンクに突撃するが、コリンクのスパークが直撃すると彼女は僅かに仰け反った。

 

 タイプ一致の攻撃は、威力が増幅する。最初の競り合いでリオルが負けると、オキクルミは絶好と言わんばかりに次なる指示を繰り出す。

 

「続けてスパークや! 押し切れコリンク!」

 

「リオル! カウンター!」

 

 コリンクの猛攻は、リオルの反撃によって一旦と収まる。リオルのカウンターを食らったコリンクは後ずさるが、オキクルミは不敵に笑みを浮かべると指示を下した。

 

「コリンク! とおぼえ!」

 

 コリンクが勇ましい雄叫びを上げると、彼は力を(みなぎ)らせた。次の攻撃に備えた相手に対して、こちらは攻めの一手を繰り出す。

 

「メタルクロー!」

 

 リオルが腕に鋼鉄を纏い、コリンクへと駆け出す。相手はその攻撃をしっかりと見切り、リオルのメタルクローを冷静に避けると反撃に転じた。

 

「スパークや! とおぼえで乗せたパワーをぶちかませ!!」

 

「来た! カウンター!」

 

 コリンクの突撃に合わせて、リオルはカウンターの姿勢を取った。

 

 タイミングは完璧。自分とリオルが確信したのも束の間、スパークを纏うコリンクは直撃の間近に足を止めることで攻撃のタイミングをずらしてきたのだ。

 

 リオルの身体から橙色のオーラが消え失せるその頃合いを見計らい、コリンクはバネのように飛び跳ねてリオルに突撃する。モロに攻撃を食らった彼女は後方へと吹き飛び、バトルコートの上を転がった。

 

「リオル!」

 

「カウンターは万能なわざやあれへんで! ハイリスクハイリターンの切り札や! そないなもんを初っ端から見せてくるっちゅうのは、考えが甘いんとちゃうか!」

 

 リオルが体勢を立て直し、自分も平静を保つべく深呼吸する。

 

 オキクルミは間違いなく、今までの相手とは違う。知識や戦術に長けており、ポケモンバトルと愚直に向かい合っている。

 

「リオル! でんこうせっか!」

 

「コリンク! ほえるや!」

 

 リオルが高速を伴ってコリンクに接近するが、コリンクのほえるを食らうと彼女は弾かれるように宙を舞った。その隙にオキクルミは指示を繰り出していく。

 

「とおぼえ! その闘争心を世界にこだませ!」

 

 コリンクはとおぼえを行い、再び攻撃を漲らせる。そして「スパークや!」というオキクルミの指示に従うと、コリンクは黄色のオーラから電撃を生み出し、威力が増したそれを纏いながらリオルへと突撃した。

 

 先程のやり取りで、カウンターが必ずしも有効ではないことを思い知らされた。オキクルミはそこで駆け引きを突き付けてきた。リオルがカウンターを繰り出すか、繰り出さないか。今、その二択を迫られている。

 

 リオルが苦戦する様子で体勢を立て直しながら、こちらの指示を待つ。彼女はこちらに全てを委ねていた。

 

 あとは、俺が判断を下すのみ――

 

「リオル! フェイント!」

 

 リオルがカウンターの姿勢を取った瞬間、コリンクは急停止して様子を伺った。しかし、繰り出されたのは異なる技。それも行動を騙り、相手の駆け引きに更なる択を迫る第三の選択肢。

 

 優先度の高い刹那の一撃がコリンクに直撃する。その衝撃を受けてスパークを解いたコリンクの隙に、リオルは絶好のチャンスを見出して駆け出す。

 

「メタルクロー!」

 

 鋼鉄の腕を振りかざしたリオルは、コリンクに数発の連撃を食らわせた。だが、はがねタイプのわざが効果今一つということもあり、決定打にはならなかった。

 

 双方が引けを取らない互角の戦い。これを受けてオキクルミは瞳孔を更に開きながら満面の笑みで声を上げる。

 

「ええやんええやん!!! ごっつアツい勝負やわ!!! ポケモンバトルしとるっちゅう実感が湧いてくるでぇ!!! ワシのボルテージもうなぎのぼりや!!! ええで、ほんならワシもこのバトル、全力で楽しませてもらうわ!!! コリンク! くさわけ!」

 

 次なる一手を聞き入れたコリンクは、緑色のオーラを纏うと共に木の葉を散らしながらリオルへ突撃する。その素早い攻撃は避けることができず、リオルは吹っ飛ばされてしまう。

 

 コリンクはくさわけを繰り出すことで、俊敏性を向上させた。ぐんぐんと湧き上がる能力はコリンクに一層もの自信をつけ、その表情は敵無しといった具合だった。

 

「これでトドメや!! コリンク、スパーク!!」

 

 とおぼえの攻撃上昇を乗せた一撃が、一段と磨きがかかった素早さで繰り出される。弾丸のような一直線を描いて特攻するコリンクを相手に、自分はカウンターを使用するかどうかの選択に迫られた。

 

 どちらの選択を選ぼうとも、次の一手で勝負は決まる。コリンクにカウンターを決めて勝利するか、カウンターをすかされて敗北するか。フェイントを織り交ぜたとしても、その行動を既に見ているオキクルミは更なる対策を用意してこちらを迎え撃つだろう。

 

 複雑に絡み合った駆け引きは、トレーナーである自分をパニックに陥れた。最善の手を選べなかった自分は、挙句の果てにリオルへと無言で問い掛ける。リオルならどちらを選ぶのか。コリンクが迫る刹那の中、自分は祈りに近しい思いで彼女に訊ね掛けた。

 

 すると、こちらの意図を“波動”で感じ取ったのだろうリオルは、ふと振り返ってくる。

 

 ニコッ。彼女は微笑んでみせた。彼女はこちらの指示に全幅の信頼を寄せてくれていた。

 

 ……相棒が自分を信じてくれているのに、自分が自分を信じられなくてどうするのか。自分の中に生じていた頭の中の迷いが、すっかりと晴れていく感覚を覚えた。気持ちは良い意味で吹っ切れ、自分は言葉通りに前を向く。こちらの変化を察知したのだろうオキクルミもまた感化されるよう笑みを零すと、こちらの答えを訊ね掛けるように力強い眼差しを向けてきた。

 

 ありがとう。堂々たる佇まいで手を伸ばした自分は、リオルへと最後の判断を指示する。

 

「カウンター!!!」

 

 リオルは橙色のオーラを纏い、カウンターの姿勢に入った。

 

 対するコリンクは、止まらない。既にその技を遂行すると決め付けていた突撃が、カウンターで待ち構えるリオルへと直撃した。スパークの勢いはカウンターの反撃に覆され、コリンクは返しの一撃であるアッパーを食らって上空に吹き飛んでいく。

 

 地面に落下して倒れ込むコリンク。リオルは未だに緊張した雰囲気で、しかしどこかスッキリもした面持ちでバトルコートに佇んでいた。

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