ポケモンと俺   作:祐。

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任侠道

 戦闘終了。倒れたコリンクは目を×(バツ)にしている。リオルは徐々に緊張を解きながら自身の闘争心を少しずつ落ち着けていき、自分もまた安堵しながら今回の勝利にかつてないほどの喜びを抱いたものだ。

 

 バトルコートに走った注目の沈黙を介した後、オキクルミの部下が困惑気味に審判を下す。勝者がこちらであることを告げると、オキクルミは途端にして天を仰ぎながら大笑いして、おどけるような調子でセリフを口にした。

 

「なっはっはっは!!! ここで、そのぶっとい択を通すんか!!! ジブン、カウンターをすかされたら負けやったんやで!? わざわざカウンター撃たへんで、相手がカウンターの様子見で立ち止まった瞬間に反撃する選択肢もあったやんけ!! ジブンもその駆け引きで散々悩んどったわけやろ? コリンクが『止まるか』、『止まらないか』! せやけど、ワシはその前者の選択肢、『コリンクはカウンターを警戒して止まる』読みに全ツッパして今回勝負を張らせてもらいましたわ! 結果は、素寒貧や。あの状況でカウンター撃つ勇気、普通はあらへんわ! ジブン、見掛けに寄らず勝負師やなぁ!!」

 

 オキクルミは絶賛しながらクイックボールを取り出してコリンクを戻していく。それからどしどしとした歩調で歩み寄ってくると、彼は瞳孔をかっぴらいた表情で清々しく手を差し伸べてきた。

 

「ワシの負けや。ええ勝負やった!」

 

「こちらこそ。あんたとの戦いで、俺は何かを掴めた気がするんだ」

 

「ほなら、次の勝負がえらい楽しみやなぁ! 期待させてもらお!」

 

 自分はオキクルミと握手を交わし、互いの健闘を讃えた。

 

 ……勝敗が決まり、話が一段落したそのタイミングだった。バトルを観戦していた例の男達は、不服そうな調子でオキクルミへとその言葉を投げ掛けていく。

 

「あ、兄貴が負けるなんてありえねぇ!! まだ半分の本気だって出してねぇのに負け扱いなのは納得がいかねぇよ!!」

 

「そうだそうだ!! 兄貴には相棒のシビルドンがいる!! そいつで勝負しなきゃ勝ったことにはならねぇぞ!!」

 

 おどけた表情のオキクルミは一転し、眼光をギラつかせた鬼の形相を男達に向けながら低い声音で反応を示していく。

 

「おどれら、ええ加減にせぇよ。ワシは一対一のガチタイマンっちゅうルールを提案した。どないなポケモンを出したか、そないなもん関係あらへん。そのルールん中でバトルして決めた勝敗こそが全てや。勝ったのはカンキとリオルのお嬢ちゃん、この事実に異論は認めへん。それとも、あれか? ワシのコリンクにケチつけとるんかワレ? あぁ??」

 

「ひぃぃぃ!!! すんませんすんません!!」

 

「ただ本気の兄貴なら結果が違ったと思っただけなんす!!!」

 

「興醒めなこと言うなや。まだ躾が足りひんようやなぁ?」

 

 怯える二人にオキクルミは呆れ気味のため息をついた。それから彼は気だるげに首の骨を鳴らしながら普段通りの浪花な調子で喋り出す。

 

「いつんなっても部下の世話は手ぇ掛かるわ。ただ、バトルでナシつけたんもまた事実。今回はオタクさんの意見を汲んで、躾のやり方でも変えよか」

 

「そういうところは義理堅いんだな」

 

「当たり前やぞ、銀嶺会は仁義を掲げとる。義理人情でメシぃ食っとるさかい、スジは通すで」

 

「前から気になってたんだけど、その銀嶺会って一体なんなの?」

 

「なんやワレ、アップルアカデミーにおるのに銀嶺会を知らんのかいな!? ――ほな、ええ機会やからワシが銀嶺会に案内したる!」

 

 

 

 バトルコートを後にした自分達は、話の流れでオキクルミに校内を連れ回された。彼が率いる部下達にも囲まれた状況の中、自分に同行してくれたラミアとメーの二人に向かって小声で言葉を投げ掛けていく。

 

「ごめんね、色々と付き合わせちゃって」

 

「気にしないでください。カンキさんを一人にするのは心配でしたから」

 

「いざって時はアタシ達がいるから大丈夫! どんどん頼って!」

 

「ありがとう、二人とも」

 

 自分達が会話を交わす最中、先頭を往くオキクルミがおどけた調子で言葉を掛けてきた。

 

「そないに警戒せんでもええって! ワシはカンキとリオルのお嬢ちゃんに魅入られた、しがないファンの一人に過ぎひん! せやから、銀嶺会っちゅう組織を知ってもらいたくなってご同行を願ったわけや」

 

「その、銀嶺会って言葉から何かしらの組織であることは伝わってくるんだけど、具体的にどういうところなのかはよく知らなくて」

 

 自分の問い掛けに対して、オキクルミは浪花の調子で返答してくる。

 

「銀嶺会は、一口で言うなら“非公式のサークル”やな。仲間内で作られたほんの小さなグループがどんどん拡大していって、気付けばアップルアカデミーに本部を置いて活動し始めた由緒正しき慈善団体や」

 

「慈善……団体……?」

 

「なんやその疑わしそうな口調は」

 

「いや! 復唱しただけだよ!」

 

「そうか? ほな、続けるで。銀嶺会は『仁義』を掲げた義理人情を重んじる組織でな、主に学園内の治安維持と問題解決に力を入れとる。特に、特定の生徒や先公にバレたくない言う事情なんかを抱えた連中が、ワシらを頼る事も少なくあらへん。その際には、見返りと引き換えにワシらが問題に介入して解決に協力するんや」

 

「今のところだと、学園の中の怖い仲介役みたいなイメージだなぁ」

 

「怖い仲介役あらへん、学園の均衡を守る調整役や! 校内の治安もワシらが睨みを利かせることで一定を維持しとるし、生徒の問題にも親身になって寄り添うで。見返りは頂くけどな! これこそが、ワシら銀嶺会が掲げる仁義の姿! 弱きを助け強きを挫く任侠道や!」

 

 オキクルミが熱弁している間に、自分達は学園の隅っこに移動を終えていた。

 

 学校の関係者ですらも存在を忘れていそうな、廃墟に近しい古びた校舎。周囲の気配を察したアゴジムシが土の中へと潜っていく光景の中、オキクルミの案内で古ぼけた教室へと案内される。

 

 彼は錆びた扉を開けると、室内にいる数名の部下達へと呼び掛けた。

 

「ボスぅ!! 客人をお招きしたでぇ!! あ? ボスぅ? おるぅ?」

 

「オキクルミの兄貴、“お嬢”でしたら急用で出払っておりまして……」

 

「あん? 急用?」

 

「“キリトリ”に失敗した連中のお手本として、お嬢が直々に出向かれまして……」

 

「ボスもお節介やなぁ。せっかくワシの客人をお招きしたっちゅうのに、サプライズが台無しや。おうオマエら、客人を丁重にもてなせ。カンキはそっちの席、嬢ちゃんらはラミアとメー言うたな。ジブンらはそことそこにでも腰ぃ掛けたってや」

 

 自分達はオキクルミの言う事に従い、用意されていた席に座った。手前のテーブルにはお茶と茶菓子が運ばれてくる。オキクルミは自分らと向き合うようにドカッと座ると、脚を組みながら浪花の調子で言葉を口にし始める。

 

「改めて、ワシはオキクルミや。三人おる銀嶺会の幹部の一人として、部下の指導係を担当しとる。ジブンらの自己紹介は要らんで。こっちで調べさせてもろたからな。出身地から人間関係、家系やら所有ポケモンまで、隅々と調べ尽くしたで。ワシら銀嶺会は情報が命綱やからな。情報の売り買いなら任せとき。ワシらの得意分野や」

 

 何から何まで知られているのかもしれない。自分は若干の緊張を覚えて唾を飲み込む中、オキクルミは前のめりになりながらそれを話し始める。

 

「ワシらの紹介は以上。で、ここからが本題になるんやけどな。カンキ、ワシはオマエの事がえらく気に入った! 人間性からバトルの大胆さまで、オマエの様々な漢気にワシは惚れたんや。せやから話があるんやけど、カンキ、オマエ銀嶺会に入らへん?」

 

「俺が……銀嶺会に……?」

 

 ラミアとメーが、不安げな様子で振り向いてくる。自分も突然の提案に少しだけ動揺したが、オキクルミの目と真っ直ぐ向き合いながらその返答を行った。

 

「お誘いはすごく嬉しいんだけど、俺はたぶん銀嶺会に向いていないと思う。今の俺には仁義を考えている余裕が無いから、そんな人間が入っても皆に失礼だと思う。あと、自由に冒険してもっと広い世界を見てみたい気持ちもある。だから、ごめん。バトルのお誘いなら大歓迎だよ」

 

「誠意を感じる返事やなぁ。フラれたのに清々しい気分やわぁ。分かった! カンキの気持ちを尊重したる! 急な無茶ぶりやったのに、時間を割いてまでワシに付き合うてくれたこと感謝するで! 今日は良いバトルができた礼や、此処で好きなだけ(くつろ)いでいけばええ」

 

 おっかないオーラが漂う空間ではあったが、オキクルミの厚意に甘えて自分達は銀嶺会の拠点に居座らせてもらった。この昼休みは、普段の生活では体験できない刺激を味わえたものだ。

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