ポケモンと俺   作:祐。

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時空の歪み

 下校する直前で教室に集められたクラスの生徒達。入室してきた担任のアラマキが教壇に上り、手に持っていた分厚いファイルを台に置きながら陽気な調子でそれを呼び掛けていく。

 

「明日から二回目の課外授業が始まるな。今後の課外授業は前回のように全校集会してから出発という形式ではなく、もう各自で自由に出発してもらうようになっているからな、学校に来ても何もないことだけは覚えておいてくれ。何なら、明日を待たずにこの後すぐ出発してもらってもいいくらいだ。一回目の課外授業で要領は掴んだだろうから、また心が躍る大冒険を存分に楽しんできてくれ! オレちゃんからは以上! 解散!」

 

 放課後を迎えるや否や、クラスメイトは続々と教室を飛び出していった。自分も高揚を抑え切れない気持ちである中、合流してきたメーが自分とラミアに確認をとってくる。

 

「場所はまたハクバビレッジでいいんよね? 時間は朝に集合でよろ~」

 

「了解。明日が楽しみだね」

 

「メーさん、くれぐれも寝坊しないよーにお願いしますよー??」

 

「分かってるって! とりま帰りにバーガーショップ寄ろ~! 英気を養わなきゃ!」

 

「ただメーさんがハンバーガー食べたいだけですよね?? まー、ウチも同行しますけど」

 

「俺もついていこうかな。美味しいものを食べて元気つけておかないとね」

 

 自分らはアップルアカデミーの近くにあるバーガーショップへ向かい、そこで相棒のポケモン達と食事をしてから解散した。自分はアパートの部屋でリオルと過ごし、課外授業を楽しみにしている彼女と共に就寝する。

 

 早朝、自分達は前回と同じ手段でナガノシティを出発した。

 目的地はハクバビレッジ。新幹線で長時間の旅を介した後に様々な交通手段で乗り換えを繰り返し、以前にも踏み入れた雄大な連峰の景色が見えてくる。

 

 ハクバビレッジを目指すバスに乗り、そこでラミアとメーの二人とスマホロトムを見ながら会話している時のことだった。今も険しい山道を走るバスがガタゴト音を立てながら走行していると、ふと、路肩に寄って急停車したのだ。その衝撃で揺られた自分達は何事かと様子を伺うと、次にもこのような車内アナウンスが流れてくる。

 

「お客様にお知らせします。進行方向に“時空の歪み”を確認いたしましたので、ただいま緊急停車をしております。ご不便をおかけしますが、お客様の安全のためご理解のほどよろしくお願いいたします」

 

 自分達は窓から外を確認すると、今まさに目指していたハクバビレッジの連峰に、ドーム状の異空間が発生している光景を目の当たりにした。

 

 つい先程までなかったそれは、稲妻のようなエネルギーを迸らせながら禍々しく渦巻いている。ハクバビレッジからそう遠くない場所で発生した現象に一同が息を吞みながら傍観していると、時空の歪みは段々と力を弱め、間もなくして消滅した。時空の歪みが消えるとバスは発車し、ハクバビレッジを目指して再び走り始めた。

 

 程なくしてハクバビレッジの駐車場に到着し、自分達はおそるおそるといった具合に降りていく。結局、あの現象は何だったのか。疑問や不安を抱きながらハクバビレッジに踏み入ると、すぐにも前方から一つの集団がこちらの視界を横切ってきた。

 

 先頭に立っていたのは、ハクバビレッジのジムリーダーであるカイム。白色のチャイナローブに身を包んだ彼の姿を見て、自分は思わず呼び掛けていく。

 

「カイムさん!」

 

「おや、これは」

 

 カイムは一定のトーンを保つ独特な調子で振り返ってきた。無感情の瞳は深い黒色を成しており、パペットのように口元のみを動かしながら言葉を続けてくる。

 

「いつぞやの御一行とお目にかかるとは、やれ適然(てきぜん)だな。君達を歓迎したい気持ちは山々だが、生憎の急用で私は連峰へ赴かなくてはならない」

 

「もしかして、先程の時空の歪みですか?」

 

「うむ、察しがいいな」

 

 と、カイムは一息おいて思考する。村の関係者と思われる集団をその場に待機させ、かと思えば彼はふとこちらに提案を投げ掛けてきた。

 

「して、君達は過酷な修行をご所望だったかな? ならば、私についてきなさい」

 

 

 

 自分達は流されるままカイムに同行した。粉雪が舞い散る整備された山道を登る最中にも、カイムはこちらに説明する。

 

「君達は時空の歪みと遭遇したことはあるかな?」

 

「いえ、ありません。ニュースやネット記事などでたまに見かけるくらいで、詳しくは特に……」

 

「ならば、君達は幸運だ。そう易々と巡りあえるものではないからな。まず時空の歪みとは、人知れず発生する突発的な現象だ。その実態は未だに解明されていないが、時空の歪みがもたらす情報は、ポケモンの生態ひいては過去や未来の文明と密接に関わるとされている」

 

「それは一体……?」

 

「古代や近未来のポケモン、道具が、時空の歪みに紛れて現代にやってくることがあるのだ」

 

 自分達は唖然とした。とても現実的には思えない話に半信半疑な面持ちでいる中、カイムは言葉を続けてくる。

 

「時空の歪みという現象自体は、度々と話題に挙がる関係で名前くらいは知っているだろうね。ここ最近だと人工島パシオで観測されたかな。他の地方で観測される事例も少なくはないし、シナノ地方でも稀に発生する。現時点で時空の歪みは時空間の乱れと定義されていて、現実世界で起こるバグのようなものという認識でいいだろう。例えば、ヒスイ地方は知っているかな? アップルアカデミーの生徒であれば、その名は耳にしたことがあるだろう。ヒスイ地方は遥か昔のシンオウ地方であり、我々には知る由もない古き時代だ。その時代のポケモンがハクバビレッジの連峰に住み着いていると言われたら、君達はどう思うかな?」

 

「信じられないと思います。スマホロトムが普及してデマの情報が簡単に出回るようになりましたから、俺の場合はまず疑ってかかります」

 

「その判断は賢明だと私は評価しよう。その上で真相を明かすとなれば、答えはイエスだ」

 

「え……!? では……」

 

「この山には、ヒスイ地方からやってきた数匹のポケモンが密かに住み着いている。少し前にも時空の歪みがここハクバビレッジで発生してね、その時にヒスイの時代から飛んできてしまったらしいんだ。所謂、タイムトラベルというやつだな。時空の歪みで飛んでくるものは決してポケモンだけではない。道具や文明の一部、更には人間までもが時空の歪みに巻き込まれ、時空間の何処かへ飛ばされてしまう。無論、我々も例外ではない。普段通りの日常を過ごしていたら突然、時空の歪みに巻き込まれて別の時空間へ飛ばされてしまうことだってあり得るだろう。おっと、これは飽くまで可能性の話だ。あまり真に受けないでくれよ」

 

 自分達は戦々恐々とした表情を見せていたに違いない。カイムはフォローするように言葉を添えてきたが、彼の無感情な様相から先のセリフを言われると、余計に不安を煽られて仕方が無かった。

 

 カイムの話を聞いている間にも、自分達は山脈の開けた雪原にやってきた。先程にも時空の歪みが発生した現場でもあるそこは、まるで嵐の後のように惨憺(さんたん)たる有様だった。

 

 迸るエネルギーに晒されて、連峰の大自然はボロボロになっている。周囲の雪には塵や破片が散らばっており、倒れた樹木や雪崩(なだれ)で崩落した岩山、引っ搔き傷のように伸びる雪の裂け目などが見受けられた。更には連峰のものとは思えない大量の紅葉や近未来的な壁板などが落ちており、おそらくこれらが別の時空間からやってきた代物なのだろうと察することができる。

 

 時空の歪みがもたらした爪痕を、ラミアとメーが驚嘆しながら眺め遣る。その傍らでカイムは数歩と踏み出してから地面に突き刺さる鋭利な破片を拾い上げ、興味深げに観察しながらそれを口にした。

 

「用途は不明でも、日常の中で活用すること自体は可能だ。それは調理で使用するかもしれないし、建設で使用するかもしれない。何かの調味料になるかもしれないし、薬にもなるかもしれない。そして、ハクバビレッジの連峰は吹雪と地形が織り成す過酷な環境で構成されている。であれば、資源は貴重だ。この好機を、“連中”は見逃すまい」

 

 と、次にも自分達の周囲には複数の野生ポケモンが現れた。ワニノコやエレキッド、バルキーといった面々は荒々しい興奮を纏いながらこちらの集団を取り囲んでくる。囲まれた人間達がモンスターボールを取り出して警戒を強めていく中、野生ポケモン達の奥からは一匹の親玉が堂々と姿を見せてくる。

 

 赤いマントを身に着けた、隻眼のヨーギラスだ。彼は冷淡な左目を向けながら佇んでいる。カイムは手に持っていた破片を捨ててスーパーボールを取り出すと、無感情な様相でそれを喋り出してきた。

 

「時空の歪みに慣れている野生の強盗団は、こうして別の時空間から湧いて出た資源を独占したいと考える。つまり、この場に現れることは想定済みだ。今回、我々が連峰に赴いた理由。それは時空の歪みでやってきた資源を釣り餌にして、野生の強盗団と遭遇するためだった。目的はそう、ハクバビレッジを脅かす悪党共を成敗するためにね」

 

 村の関係者達は、一斉にポケモンを繰り出した。ワンリキーやリザード、ニョロボンやピカチュウなど、腕っぷしに自信がある面子が待ってましたと言わんばかりに野生ポケモン達と対峙していく。

 

 自分とラミア、メーもまた空気を読むようにポケモンを繰り出した。リオルとキラーメ、ミズゴロウが雪原に立ち、味方達と共に肩を並べていく。その威圧に強盗団の野生ポケモン達は尻込みをするものの、時空の歪みによってもたらされた貴重な資源を勝ち取るべく襲い掛かってきたものだ。

 

 ハクバビレッジの連峰にて、野生の強盗団との戦いが始まる。

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