時空の歪みによって荒々しき爪痕が刻まれた雪原。ハクバビレッジの連峰は時空間の干渉に呼応するよう天候を悪化させ、徐々に吹雪を強めていく。霧のように広がる
味方の集団がポケモン達に指示を行い、戦場には技が飛び交い始めた。ワンリキーやニョロボンが物理技で相手を弾き飛ばし、リザードやピカチュウが特殊技で迎え撃つ。自分とラミア、メーの三人もまた相棒達に指示を送り、ハクバビレッジの陣営に加勢したものだ。
「リオル! でんこうせっか!」
「キラーメ!! げんしのちから!!」
「ミズゴロウ! マッドショット!」
キラーメとミズゴロウがワニノコ集団のみずでっぽうを打ち消し、その隙にリオルが接近して片っ端から薙ぎ倒していく。飛び掛かってきたバルキーに対してはカウンターで返り討ちにし、エレキッドの攻撃はメタルクローで競り合った。
前回の包囲網とは異なり、今回は大勢の味方がついてくれていた。強盗団の野生ポケモンもアリゲイツやマリル、ブルーといった無数の仲間が更に合流することで数を増し、この戦場は想像以上の激しい総力戦になってくる。
味方のワンリキーやニョロボンを蹴散らしてきたのは、野生のリングマだ。獰猛な牙や爪で咆哮しながら迫り来るが、次にも降り掛かった攻撃はがねのつばさによってリングマは退いていく。
光沢を放つ鎧に包まれたポケモン、エアームド。カイムの切り札がリングマに立ち塞がると、双方のぶつかり合いと共に強盗団の野生ポケモン達が一斉になだれ込んできた。
味方のリザードやピカチュウでは捌ききれず、野生ポケモンの進行を許してしまう。だがラミアのキラーメとメーのミズゴロウが加勢して特殊技を放っていくと、二匹の攻撃に合わせてリオルが突撃し、でんこうせっかとメタルクロー、フェイントとカウンターで次々と野生ポケモンを押し退けた。
エアームドも熟練の立ち回りでリングマを圧倒し、その巨体を後方に吹き飛ばしていく。強盗団の一同が次第にボロボロの有様を晒すと、間もなくして彼らの親玉が動き出した。
赤いマントを靡かせながら跳躍するヨーギラス。わざエネルギーで周囲に無数の岩を生成すると、トレーナーの集団めがけてそれを繰り出してきたものだ。味方の陣営が降り掛かる岩石を捌いていく最中、ヨーギラスは堂々と佇んで再度と無数の岩を放ってくる。
ヨーギラスの猛攻を受けて、ハクバビレッジのトレーナーは声を荒げながら周囲に忠告した。
「がんせきふうじだ!! 押し潰されないように気を付けろ!!」
冷徹な左目で対峙するヨーギラスは、再びがんせきふうじで攻撃してきた。今度はトレーナーの周囲へと繰り出された岩が雪原に落下する。降り注ぐ岩石によって視界が奪われる最中、旋回するエアームドがはがねのつばさで岩を端から破壊していくと、そこには次なる戦況が展開されていた。
ボロボロになった強盗団の野生ポケモン達が、撤退を始めていた。皆が散らばるように退避をする中で、ヨーギラスはまたしてもがんせきふうじを繰り出してくる。三回目の攻撃は味方のポケモン達によって迅速に破壊され、今度は反撃に転じていく。味方のワンリキーがヨーギラスに飛び掛かるのだが、ヨーギラスはあなをほるで避け、それは暫くと地面の中に留まり続けた。
味方がヨーギラスの奇襲に警戒する傍らで、野生ポケモンは退避を続ける。直にもヨーギラスはこちらと距離を置いた場所に現れると、遠くからトレーナーの周囲に目掛けてがんせきふうじを撃ち込み、その岩を雪原に落として遮ってきた。
ヨーギラスの行動を観察していたカイムは、直にも感心したように言葉を口にする。
「なるほど、賢明だな」
皆がカイムへと振り向く。彼は無感情の瞳をヨーギラスへ向けながら、一定のトーンで言葉を続けてきた。
「我々は一杯食わされたようだ。ヨーギラスの攻撃は、自身への陽動に過ぎない。つまり、私達の注意を引き付けている。その行動の真の目的は、仲間達が撤退する時間を稼ぐこと。彼は敢えて遅延する行動を取り、身を
ヨーギラスの目つきが変わった。より険しく、苦しげに細めた眼差し。赤いマントを靡かせてがんせきふうじを繰り出してくるのだが、それよりも先にエアームドが飛来し、はがねのつばさをヨーギラスに直撃させた。
後方へ吹き飛ぶヨーギラス。彼が顔を上げると、そこからはメタルクローを構えたリオルが急襲する。
ヨーギラスは彼女の攻撃を避け、真っ向に対峙した。ヨーギラスとリオルの双方は睨み合いでけん制する。
直にもカイムは決断を下し、周囲の味方にそれを言い渡した。
「名はカンキといったな。ヨーギラスの相手は君に任せるとしよう。我々は撤退した強盗団の野生ポケモンを追跡する。彼らの戦線復帰を阻止し、この戦いに終止符を打とうではないか」
味方の陣営は周囲に散らばり、逃げ出した野生ポケモン達を追跡する。ラミアとメーもこちらに激励を送ると、カイムの指示に従ってこの場を後にした。
吹雪が強まってきた雪原の上にて、ヨーギラスとの一騎打ちに臨む。リオルは身構え、ヨーギラスは冷徹な眼差しで佇む。相手の出方を慎重に伺う双方。走る緊張が凍てつく吹雪で凍える刹那、両者は同時に動き出した。
ヨーギラスのがんせきふうじに対して、リオルはでんこうせっかで高速の接近を図った。だが、ヨーギラスは瞬時にとっしんへと切り替えて対応する。互いの攻撃が競り合うと、ヨーギラスはリオルを跳ね除けて再びとがんせきふうじを繰り出した。
自分はリオルへと指示を出していく。
「メタルクローでがんせきふうじを破壊しろ!」
ヨーギラスから放たれた無数の岩を、リオルはメタルクローで破壊していく。それらを打ち砕いた後に前方を見遣るが、そこにヨーギラスの姿は無かった。
すかさず自分はリオルへと指示を出す。
「カウンター!!」
リオルの足元が盛り上がり、ヨーギラスが飛び出してきた。あなをほるによる奇襲がリオルに命中するものの、彼女は既に橙色のわざエネルギーを纏いカウンターの姿勢を取っていた。直感的にヨーギラスの攻撃を受け流し、返しの一撃を食らわせて相手を吹っ飛ばしていく。それから自分はリオルに追撃を命令した。
「フェイントを織り交ぜながら、でんこうせっかで接近! 近付いたらメタルクローで攻撃するんだ!」
リオルは指示通りにフェイントで左右に移動することで揺さぶりをかけながら、でんこうせっかでヨーギラスに接近した。瞬く間に距離を詰めた彼女がメタルクローを繰り出していくのだが、それがヨーギラスに命中する直前、相手は鋼鉄を纏うことでブロッキングに転じてくる。
てっぺき。ヨーギラスの技はリオルのメタルクローを何とか受け止めていく。そしてとっしんの仕返しで彼女を吹き飛ばすと、再びがんせきふうじを繰り出してきた。
攻撃対象は、トレーナーである自分だった。山なりの軌道で降り掛かってきた無数の岩石に、自分は外側へ飛び込むようにして何とか避けていく。相手の攻撃の途中、リオルはがんせきふうじを破壊するべく慌ててこちらへ振り返ってくるのだが、その隙にあなをほるで接近してきたヨーギラスの一撃を受けてしまうことで、彼女は吹っ飛ばされてしまった。雪に埋もれた自分が顔を上げて心配する最中、ヨーギラスはこちら目掛けて再びがんせきふうじを撃ち込んでくる。
今度は直撃する。人間としての運動性能に限界を感じた自分が死を悟る。今からリオルが駆け付けようとも、メタルクローだけでは壊し切れない数の岩石が降り掛かっていた。
見上げた視線の先にて山なりに落下してくる凶悪な攻撃。成す術もなく立ち尽くすことしかできずにいたこちらへと、リオルはでんこうせっかで急行する。
こちらを背にして立ち塞がり、がんせきふうじと相対する。もう直ぐにでも押し潰されるというその瞬間、リオルは左腕を構え、狙いを定める仕草の直後にも右手の掌を突き出した。
彼女の手には、波動の水色が灯っていた。突き出された右手の衝撃は前方に広がり、迫るがんせきふうじの岩を同時に全て破壊する。まるで波動を大気に乗せ、衝撃波のように波紋を拡散したかのような技だった。それを見た自分は、声を上げながら驚いたものだ。
「はっけい……!! リオル、新しいわざを覚えたんだな……!!」
彼女は冷や汗を流しながらも、こちらに振り返っては得意げな表情を見せてきた。
ヨーギラスの焦りは募り、再びがんせきふうじを繰り出してくる。だが、リオルがでんこうせっかで瞬時に距離を詰めると、そこにフェイントを織り交ぜることでヨーギラスは目に見えて動揺した。そこで構えてきたメタルクローを見た時に、ヨーギラスは攻撃が来ると確信したようで防御手段のてっぺきを繰り出す。だが、リオルはただメタルクローを見せただけで攻撃はしてこなかった。
硬直するヨーギラスが、じりじりとした様相で鋭い眼差しを向けていく。てっぺきで動けずにいた彼に対し、リオルはゆっくりと歩み寄りながら左腕を構え、狙いをしっかりと定めた後に波動を宿した右手を突き出していく。
新たに覚えたわざ『はっけい』は、かくとうタイプのわざだった。かくとうタイプであるリオルがそれを繰り出すと、威力が増加する。そして、今やてっぺきで身動きが取れなくなったヨーギラスはかくとうタイプが弱点。
鋼鉄と化したヨーギラスは静かに左目を瞑った。全てを受け入れる覚悟が、彼には決まっていたのだ。
間もなくして、リオルの前方に迸る波動の衝撃波。大気を震わす一撃は雪原の粉雪や積雪を吹き飛ばし、動けぬ相手に静かなひんしをもたらした。
……赤いマントを身に纏ったまま、仰向けで地面に倒れ込むヨーギラス。その隻眼には自身に対する不甲斐なさの色が浮かび上がっており、彼はどこか諦めた様子で暫し連峰の空を眺めていた。