ポケモンと俺   作:祐。

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新たな仲間

 吹雪が収まり穏やかな粉雪が舞うハクバビレッジの連峰。ひと波乱を終えた現場にはカイムと数名の村の関係者、自分やラミア、メーが集まっており、皆で安否を確認し合っていた。

 

 付近では、襲撃してきた強盗団の野生ポケモン達がボロボロの様子で座り込んでいた。ワニノコやバルキー、エレキッド。途中で加勢したアリゲイツやマリル、ブルーといった面子も観念したようにおとなしくしていたものだ。

 

 赤いマントを身に纏うヨーギラスの傍には、リオルが動向を見張るようについていた。彼女はヨーギラスの彼と意思疎通を図ると、直にもこちらへ近付いてくる。

 

「リオル? どうしたの?」

 

 自分が問い掛けると、彼女は何かを訴え掛けてきた。ヨーギラスに関係することらしい。

 

 自分とリオルの様子を見て、カイムが無感情な瞳を向けながら歩み寄ってくる。リオルがヨーギラスに関して何かを伝えようとする仕草に、彼女を眺めていたカイムは一定のトーンで言葉を発してきた。

 

「リオルはヨーギラスの解放を要求しているな。どうやら、この強盗団には何かしらの事情があるようだ。――事件は終息した。連中の実態を調査するには、絶好の機会だろう。ヨーギラスの解放を、私が許可する」

 

 カイムの判断を受け、リオルは期待に満ちた表情で頷いてからヨーギラスの下へ駆け寄った。彼女があれこれと伝えると、ヨーギラスはむくりと立ち上がり、隻眼でこちらをちらりと見てから背を向けて歩き出す。

 

 ついてこい。そういう合図に受け取れた。自分達はヨーギラスの後を追うように歩き出す。強盗団の野生ポケモン達もとぼとぼとした足取りでついてくる中、一同はそれなりの距離を移動した。

 

 吹雪は止み、雪解け水が地面に溜まる山岳地帯。切り立った断崖もあちこちに確認できる山道を暫く進むと、直にも正面に洞穴が見えてきた。

 

 ヨーギラスはこちらをちらっと向き、それから洞穴へと入っていく。自分達も暗闇に注意しながら洞穴に進行すると、間もなくして開けた空間に到着した。

 

 集団で進入してきたポケモントレーナー達の姿に、洞窟で過ごしていた野生ポケモン達が恐る恐ると視線を向けてくる。主にピチューやブビィ、ピィといったポケモン達が住み付いていたが、彼らはとても衰弱していて今にも力尽きてしまいそうだ。

 

 洞窟に蓄えられていたのは、主に食料や道具、そして時空の歪みによって飛んできたのだろう柱や円盤といった用途不明の不思議な物体の数々というもの。特に、見受けられる食料や道具の類はポケモントレーナーが冒険用に携帯する包装や用具のそれであり、彼らが外部から強奪してきた物品であることは一目瞭然だった。

 

 困窮した環境に自分達が言葉を失う中、カイムは合点がいったようにセリフを口にする。

 

「なるほど。賊は賊でも、義賊の方だったか。自然の恵みだけでは仲間達を救えないと悟り、トレーナー達から資源を強奪していた。彼らもまた必死だったのだ。生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされ、止む無く人間の領域に介入したのだろう。これは、ただの襲撃事件として扱うべきではない由々しき問題だな。今のハクバビレッジは、野生ポケモンが住むにはあまりにも環境が過酷すぎる。この事実は村への被害に留まらず、連峰の生態系にも大きな影響をもたらしかねない。この現実は、非常に深刻な事態であることを我々は思い知るべきなんだ」

 

 ヨーギラスは憂いそうな表情を浮かべながら俯いた。リオルは彼の下へと寄り添い、励ましていく。自分もこの状況で何をするべきか考えていると、カイムは無感情な瞳で洞窟の中を直視しながらそれを口にし始めた。

 

「手始めに、強盗団を含めたこの場の野生ポケモン達を村に迎え入れるとしよう」

 

 彼の言葉を耳にした村の関係者が、疑問と共に訊ね掛けていく。

 

「あの、カイムさん。それってどういうことでしょうか……?」

 

「この場にいる全ての野生ポケモンを、我々の手で捕獲する」

 

「捕獲ですか……!? しかし、奴らは人間を襲った獰猛なポケモン達なんですよ……!?」

 

「この自然環境が改善されない限り、彼らは強盗を続けるだろう。自分達が生きるためにね。であれば、だ。ひとまずの施策として、彼らが安心して暮らせる環境を我々で用意すればいい。そうすれば、彼らが人間を襲う理由も無くなる」

 

「その施策が、捕獲ですか?」

 

「彼らは捕獲されれば、人間の管理下において衣食住が手に入る。飢餓や病気、環境や天敵などに怯える必要が無くなるのだ。極度の緊張から解放され、心も穏やかになるだろう。もちろん、強盗という行為は許されざる所業だ。しかし、元を辿れば彼らの住処を奪った我々人間にも非がある。ハクバビレッジという領域を築き上げ、彼らを過酷な環境に追いやった罪。人間には人間の(ごう)があり、それは決して有耶無耶にできない。――ならば、せめてもの贖罪として我々は彼らを救済するべきだ」

 

 カイムは喋りながら数歩と踏み出すと、野生ポケモンに向かって高らかと声を上げた。

 

「私はこの地をより良く改善、そして発展させたいと考えている。その同胞として、私は君達と手を取り合いたい、共に生きていきたいと望んでいる。どうか、皆の力を貸してもらえないだろうか。今の私には、君達の力が必要だ。共にハクバビレッジで暮らしてみないか。私は……いや、我々は君達を迎え入れたい。安心して生きることができる世界を、共に築き上げようではないか」

 

 カイムの説得が洞窟内に響き渡る。反響する彼の声は無感情ながらも力強く、明確な意思を宿しているように思われた。

 

 最初に反応を示したのは、隻眼でカイムを見つめるヨーギラスだった。彼は冷徹な眼差しを向けながらも数歩と近付き、意思表示を行っていく。ヨーギラスが動き出すと、それを皮切りに周囲の野生ポケモン達が続々と近付いてきた。

 

 野生ポケモン全員が、カイムに同調した。彼は村の関係者へと振り返り、合図を送っていく。すると関係者の人々はモンスターボールを取り出し、野生ポケモン達を捕獲し始めた。

 

 野生ポケモン達が自ら望んでボールへと入っていく光景。自分がそれに見入っていると、ふと視界の隅から一つの影がこちらに近付いてきた。

 

 ……ヨーギラスだ。彼は隻眼でこちらを真っ直ぐと見つめてくる。彼の後ろからはリオルがやってきて、彼女もまた促すような瞳を向けてくる。

 

 彼らの意図を汲み取った自分は、屈むことでヨーギラスと視線を合わせながらそれを訊ね掛けていく。

 

「ヨーギラス。もし良かったら、俺と一緒に来ないか?」

 

 ヨーギラスは暫し沈黙した。どこか素直になれない様子にリオルが肘でちょっかいをかけていくと、彼は少し鬱陶しそうな表情を見せながらもこちらと目を合わせてきた。

 

 揺らぎない覚悟を感じさせる、真っ直ぐな眼差し。自分は納得するように頷くと、未使用のモンスターボールを取り出してヨーギラスに呼び掛けた。

 

「ありがとう。ヨーギラスが仲間になってくれると、とても心強いよ。これからよろしく!」

 

 自分はヨーギラスの額にモンスターボールをコツンと当てた。

 

 フタが開き、ヨーギラスは中に吸い込まれていく。そのまま掌の上でボールが数回と揺れると、程なくしてボールはカチッと音を立てながら静止した。

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