ハクバビレッジに戻ってきた一同はチームを解散した。村の関係者達が別れ際の挨拶と共に立ち去る中、カイムは自分達の下に残り続けていく。
直にも彼は無感情な瞳を向けながら喋り出してきた。
「君達は課外授業で再びハクバビレッジに訪れたのだろう? 長旅を終えた早々から、とんだ厄介事に巻き込んでしまったものだ。まずは、我々の作戦に参加してくれた事について感謝を申し上げよう。ありがとう。君達は非常に頼もしかった。さすがは、ハクバビレッジの連峰で無謀な修行に挑んだだけはある」
カイムの言葉に、メーは気まずそうな表情をしながら「あの~、それって褒めてます?」と口にする。彼女の反応にカイムは口元のみを吊り上げる無言の微笑を見せてから、何事も無かったかのようにセリフを続けてきた。
「先の戦いにて、君達のポケモンが前回会った時よりも成長しているように見えた。君達は学園でも努力を続けているのだろうな。その意気込みや良し。引き続き研鑽を積み、各々が掲げる究極を目指すといい。私もハクバビレッジのジムリーダーとして、君達の挑戦を心から待っているぞ。では、私もこれで失礼する。さらばだ」
カイムはそれを告げると、踵を返して立ち去った。彼の背中を見送った後に一同が目を合わせると、メーが背伸びしながらこちらとラミアに言葉を投げ掛けてくる。
「いやぁ、着いてすぐにとんだハプニングに巻き込まれましたなぁ。でも非現実的な感じがして、正直ちょっと楽しかったかも?」
「メーさんはお気楽でイイですねー。ウチとしてはただただ迷惑でしたけど、結果的にカンキさんの手持ちが増えたので、まー良しとします」
「ラミア、メー、一緒に戦ってくれて本当にありがとう。普段できないような体験や頼もしい仲間ができて、すごく充実したひと時になったよ。早速ヨーギラスを呼んでみるか。出てきてくれ! リオル! ヨーギラス!」
自分がモンスターボールを投げると、二匹のポケモンが姿を現した。リオルは意気揚々とした表情をしていて、赤いマントを靡かせたヨーギラスは不愛想に視線を逸らしている。
自分はヨーギラスに向けて、紹介を兼ねた意気込みを彼に伝えていった。
「改めてよろしく、ヨーギラス。俺とメーはジム巡りを目標にしていて、日々特訓中だ。ラミアも学園生活の中で目標を探している真っ最中で、みんながみんなのペースで頑張ってる。この先だってきっと、信じられないほどの猛者と戦う機会があるかもしれないし、まだ見ぬ世界を横断する旅だってするかもしれない。俺達は冒険の真っ只中なんだ。ヨーギラスが良ければ、そんな俺達の冒険に付き合ってくれないかな? バトルをして、お話しをして、美味しいものを食べて、ゆっくり休む。俺はそれをありきたりだとは思っていない。常に新鮮で、刺激的で、とても恵まれた境遇だと思っている。何かあったら遠慮なく教えてね。俺達は仲間だから」
自分は屈み、ヨーギラスへと手を差し出した。
彼は隻眼でじっとこちらを見据え、暫しと見つめ合う。ヨーギラスもまたこちらを品定めしていたらしく、自分はお眼鏡にかなうよう一通りの説明を終えて向かい合った。
こちらの脇からは、リオルが顔を覗かせる。彼女はヨーギラスに判断を催促する冗談じみたちょっかいを出していくと、ヨーギラスは冷徹な眼差しでプイッと背きながらも、ちらりとこちらを見てはしょうがねぇなという調子でこちらに近付いてきた。
差し出していた手に、ヨーギラスの小さな手が乗せられる。自分は喜びのあまりに彼の手を握り締め、「ありがとう!」と連呼した。彼はとても迷惑そうな顔を見せていたが、一方で満更でもなさそうに全身は引いていなかったものだ。
そんな一連の様子を、ラミアとメーは微笑ましそうに眺めていた。するとメーが唐突に手を上げながらそれを提案し始めた。
「はいはい! じゃあアタシから提案なんだけど、今日はヨーギラスの歓迎会を兼ねたハクバビレッジ観光デーにしようよ!」
「特に本日は、到着してすぐ生きるか死ぬかの戦場に行ってきましたもんねー。その疲れを癒すためにも、今日は観光でもしましょーか」
「すごくいいと思う! 今日はハクバビレッジの隅々まで観光しよう! これもある意味で冒険だ!」
「満場一致! そうと決まれば、今日は特訓とか勉強とかもうなんも関係無い完全無敵なオフモードで、ハクバビレッジをひたすらに楽しむべ~!!」
今日は観光して心身を癒そうという意見が一致した一同は、おーっ! と天に腕を掲げて乗り気の歓声を上げた。目的が決まるや否や自分達はスマホロトムでハクバビレッジをくまなく検索をかけ、喫茶やレジャー施設、絶景からポケモンジムまで色々を調べては本日の日程を楽しげに相談していく。
その様子を、ヨーギラスは少し距離を置いた場所から冷徹な眼差しで眺めていたものだった。
今日という日は、特にイベントを詰め込んだ一日になったことだろう。自分達は手始めにハクバビレッジ名物の熱気球に乗り、空からの眺めを楽しんだ。これまでも歩き渡った雄大な連峰を一望する景色は壮観の一言に尽き、苦労があったからこそ感動も
リオルとヨーギラス、ラミアのキラーメ、メーのミズゴロウも搭乗しており、特にヨーギラスは目を見開いて連峰の景色を眺めていた。今まで自分達が住んでいた場所を上空から眺める機会は無かったのだろう。彼は最後まで圧倒されるように見入り、何かしらの感動を覚えている様子だった。
熱気球のひと時を終えた自分達は、連峰のパノラマを見渡せるテラス席で食事を行った。そこで頼んだカレーライスは絶品で、皆が頬を押さえながら食していく。見慣れぬ食べ物にヨーギラスが抵抗を示していく中、すぐ傍についてくれていたリオルの催促で彼は渋々と口にする。味はお気に召したようで、一口食べた後は満更でもない様子でカレーライスを完食してくれた。
そうこうしている内に時刻は夕方となり、日中の疲労が一気に圧し掛かってくる。そこで自分達は温泉に入ることにした。個室の露天風呂が用意された施設に赴くと、そこでラミアとメーの二人にリオルを預けて、一時的に分かれた。
仕切り越しの連峰が、夕暮れの黄昏に染まりゆく景観。湯けむりに包まれた空間の中、温泉に浸かる自分は隣のヨーギラスに声を掛けてみた。
「今日はどうだった? 色々とあった一日になったと思うけど、ヨーギラスはこの生活に慣れそうかな?」
彼は隻眼でこちらを真っ直ぐ見つめてくる。不愛想で素直じゃない眼差し。直にもヨーギラスはプイッとそっぽを向き、連峰の景色を眺めてから再びこちらに目を向けてきた。
……悪くない。そう言いたげな目をしているように感じられた。自分は安堵するようにリラックスしながら言葉を続けていく。
「ヨーギラスはこの先どうしたいかな。ハクバビレッジに残って、仲間達と一緒に過ごす? それとも、俺と一緒に冒険する? ヨーギラスが決めてくれていいよ。手持ちになったからといって、俺は無理やり言う事をきかせるつもりはないから」
彼は沈黙を貫いた。問い掛けの意味を訊ねているような眼差しのようにも見える。
「訊く必要はなかったかな。俺と一緒に来てくれるんだね。ありがとう。一応だけど、俺の目標はポケモンリーグに挑戦ってことになってる。担任の先生に勧められただけなんだけどね。だから、シナノ地方の各地にあるポケモンジムを回るつもりだよ。きっと、激闘の日々になると思う。ジムだけに限らず、学園にも強いポケモン達がたくさんいるからね。学校生活が始まったばかりなのに、これだけ濃密な時間を過ごしているんだ。この先はもっとすごい冒険になるよ。そんな俺達の冒険をヨーギラスが共にしてくれるなら、すごく心強いな。改めて、よろしく。一緒に頑張ろう!」
自分が微笑みかけると、ヨーギラスは素直じゃない様相で頷いてみせた。視線もちょっと逸らし、意図的に目を合わせないようにしている。でもこちらの言葉に否定の意思は見せず、彼はただただ連峰の景色を感慨深く眺め続けていた。