ハクバビレッジでのひと騒動を終え、自分達はホテルでゆっくりと身体を休めた。翌日になり、天気も良好。ハクバビレッジにしては珍しい快晴が上空に広がる中、ホテルの外に出るなりメーがそれを提案してきたものだ。
「ねぇねぇ! 今日は時空の歪みが起きた場所を探検してみてもいい?」
メーの提案に、ラミアが不安な様子で反応を示していく。
「また懲りずに修行ですか?? もーカイムさんに嫌味を言われたくないんですけど??」
「違う違う! 今回は修行じゃなくて探検! 野生のポケモンと戦いに行くわけじゃないから!」
「じゃー、何をするためにわざわざ行くんですか??」
「なんかさ、お宝とかありそうじゃね? 滅多に起こらない現象が近くで起きたんならさ、もっとじっくり近くで見てみたくない?」
「メーさんのよーなヒトを、世間は怖いもの知らずって言うんでしょーねー。カイムさんの言葉をお借りすれば、無謀、でしょーか」
「ちょこっとだけ! ちょこ~っとだけだから! ほら、昨日も行ったことある場所だから! 前みたいに全く知らない所ってわけじゃないから!」
「ハイハイ、ちょっとだけですからねー。カンキさんもそれでイイですか??」
自分は適当に相槌するラミアの呆れ顔と向かい合いながら、苦笑しつつ了解した。こちらの返答を聞いたメーは無邪気に喜び、勝気な調子で駆け出していく。
本日の予定が決まった一同は、昨日も赴いた時空の歪み跡地へと向かった。道は険しかったものの、既知である分の気軽さがメンタル的な助けになった。快晴のため雪は全く降っておらず、視界も良好で遭難の心配もない。野生ポケモンとの遭遇もなく、自分達は呆気なく昨日の戦場に辿り着いたものだ。
時空の歪みによる痕跡は、降り積もった雪によって大体が消えていた。相変わらず時空間から飛ばされてきた古代の柱や近未来の破片が落ちているものの、それらは雪が積もるにつれて連峰と同化するだろう。到着した目的地にメーはミズゴロウと共に駆け出すと、周辺の物品を漁って宝探しを始めた。
自分とリオル、ラミアとキラーメも適当に散策していく。そう遠くない場所には湖があるらしく、快晴の青空を鏡のように映し出すその景色を自分は眺めていた。ラミアも暇を持て余した様子でこちらに歩み寄り、他愛ない話をしながらメーを待ち続ける。
メーはメーで、宝探しに熱中していた。しばらくして自分らは彼女へと近付き、進捗を訊ね掛けていく。
「メー? どうかな。なんか良いのあった?」
「う~~~ん、分かんない! アタシには見分けがつかないなぁ~……」
「そもそものハナシですけど、メーさんは何を探しにココに来たんですか??」
「なんかお金になりそうなものがあったらいいなって!」
「ただの火事場ドロボウじゃないですか」
「それだけじゃなくて、ほら、あれ。古代とか未来とかから色んなものが飛んでくるんでしょ? なら、ポケモンの化石とか未来の便利な道具とかあったら、今後の冒険で役に立つかな~って思ったんだよね~!」
「なら、メーさんの期待は大ハズレだと思いますよー」
「え~? なんで~?」
「“先客”がいらっしゃったみたいですから、目ぼしいモノは全部持ってかれてるかもしれないです」
ラミアは付近の地面を指差していく。そこは積もりに積もった雪の景色が広がっていたものだが、目を凝らしてよく見てみると自分達以外の足跡も確認できた。足跡は人間の靴からポケモンの肉球まで多種多様であり、その膨大な数や広い範囲から、明らかに強盗団を迎え撃った自分達以外のものであることが推測できる。
「コチラで時空の歪みが起こったという情報が、ネットに出回ったんでしょーねー。ウチらがココで戦闘した後に、大勢の人々やポケモンがやってきたんだと思います」
「えーーー!!! じゃあ価値がありそうな物は全部持ってかれちゃったってこと!?」
「そー考えてもイイと思いますよ??」
「クソ~! お宝取られた~! アタシのものだったのに~!」
「別にメーさんのモノじゃないですけどね」
「細かいことはいいんだって! あーん、残念~~~……! 一攫千金も狙えたかもしれないのに~~~……」
「結局はおカネ目的じゃないですか。もー諦めて、さっさとハクバビレッジに戻りませんか??」
ラミアの催促に、メーはどこか煮え切らない様相を見せていく。
「じゃあ、じゃあ……! あっち! あっちの湖を見に行きたい! もしかしたら、時空の歪みで飛んできた何かが湖の中に落ちてるかも!」
「で、それをミズゴロウに取ってきてもらうってコトですか?? メーさんってこーいう時だけは頭回りますよねー。その思考力を普段から活かせないんですか??」
「アタシは本気を出したら賢くなるの! とにかくまだ可能性はあるから、あっちだけ見に行きたい! というか行く! アタシのお宝は誰にも取らせない! 行くよ、ミズゴロウ!」
そう言って、メーはミズゴロウと共に湖の方へと駆け出していく。自分とリオルが呆然と眺めていく中で、ラミアは呆れた様子で歩き出しながら彼女の後をついていった。
自分とラミアがメーを無理やり説得しなかったのは、きっと穏やかな気候で過ごしやすい状況だったからかもしれない。これがいつも通りの吹雪だったら、引っ張ってでもメーをハクバビレッジに連れ戻したことだろう。
自分達が湖に到着すると、メーは茂みに身を隠していた。彼女の様子に疑問を持っていると、直にも背後の気配に気が付いたメーは「しーっ!」とジェスチャーを送り、急ぎで屈むよう手で促してくる。
自分とラミアは目を合わせてから、メーの言う通りに屈んで近付いた。リオルとキラーメも物音を立てないよう慎重に移動する中、メーは茂み越しから湖を見遣りつつ喋り出してくる。
「チョーヤバいんだけど! これ、最高にキテんじゃね?!」
「今度はどーしたんですかー?? またなんかあったんですかー??」
「え、ガチでヤバいんだって! 二人とも、“あれ”見てよ! “あれ”!」
自分とラミアは、メーが指差す方へと視線を投げ掛ける。
鏡のような湖の
奮闘する様子は、思わず応援したくなってしまう。自分は今も頑張って湖を目指すポケモンを眺めていると、ラミアは驚いた表情で言葉を口にしてきた。
「プロトーガじゃないですか!! 化石の復元で発見されるポケモンが、どーしてこんなトコロにいるんですか!!」
「あれ、時空の歪みで飛ばされてきたんだって! じゃなければ古代のポケモンが野生でいるわけないし!」
二人の会話を聞いていた自分が、「いや、もしかしたら誰かが逃がした個体の可能性もある」と呟いていく。するとメーはやる気に満ちた調子でその返答を行ってきた。
「じゃあ、アタシがゲットしちゃってもいいってことっしょ!」
メーは身を屈めた姿勢でプロトーガに近付き始めた。気配を消し、音を立てないよう細心の注意を払って移動するメー。彼女の隠密は非常に上手く、湖を必死に目指すプロトーガはその存在に気付かなかった。
段々と距離を詰めると、メーはモンスターボールを取り出していく。それから投擲の構えを取りながら位置を調整し、ボールが届く範囲まで迫ると瞬間、彼女はボールを思い切り投げ付けた。
モンスターボールは綺麗な山なりを描き、プロトーガの背中に直撃した。不意をついたバックアタックにプロトーガが驚くや否や、その姿はボールに吸い込まれていく。地面に落ちたモンスターボールが揺ら揺らと左右に揺れ始めると、メーとミズゴロウは息を呑んだ様子でそれを見守った。
……カチッ。直にして音を立てたモンスターボールが静止する。捕獲が完了するとメーは大いに喜び、ミズゴロウを抱き締めながらボールの方へと駆け寄った。
自分達も茂みから出てきて、彼女の下へと歩み寄っていく。メーはモンスターボールを拾い上げるとおもむろに上空へ投げ、早速と仲間にしたプロトーガを繰り出した。
プロトーガは唖然とした表情を浮かべていた。何が起こったのか分からないといった具合だ。だが、新たな主を前にするとプロトーガはメーへと近付くためにヒレを動かし始めた。陸地を上手く移動できないプロトーガが苦戦していると、メーの方がやってきてその甲羅を撫でていく。
「やりぃ~! プロトーガ、ゲット~! 歴史の教科書で初めて写真を見た時から、ずっと欲しいって思ってたんよね~!」
合流した自分達も、プロトーガを観察する。ミズゴロウをはじめとしてリオルやキラーメがプロトーガに挨拶をしていく最中、穏やかに微笑むラミアがメーへと言葉を投げ掛けた。
「やりましたねー。もしかしてメーさんが時空の歪みで探してたモノって、プロトーガの化石だったんですか??」
「いや、まぁ、それもあるかな~? でも、見つかったらラッキー的な? 化石は見つかんなかったけど、まさか本体を見つけるなんて思ってなかった~!! マジでチョー嬉しい!! これからよろたん! プロトーガ! アタシと一緒に最強を目指してこ~!」
思わぬ出会いに恵まれた連峰の朝。メーもまた、新たな仲間を迎え入れた。