自分がヨーギラス、メーがプロトーガ、ラミアがヒスイニューラを迎え入れた今回の課外授業は、新たなメンバーを加えた猛特訓という形で幕を閉じた。ハクバビレッジで過ごした短期間のひと時は、自分達を更に成長させる特別な機会になったものだ。
ジムへ挑むにはパーティーの練度が足りないと判断した自分とメーは、その挑戦を次回に延期する。ラミアも就活のためにバッジを手に入れておきたいという考えがあり、自分達との練磨に励んでいた。三人はハクバビレッジにしばらくのお別れを告げてバスに乗り込むと、複数の交通手段を使ってナガノシティに帰ってきた。また学園での再会を約束してチームを解散すると、自分はリオルとヨーギラスの二匹と過ごす穏やかな日常に戻った。特にヨーギラスは連峰の世界しか知らなかったため、ナガノシティという大都会に静かなカルチャーショックを受けている様子だった。
翌日になり、学園生活が再び始まる。ダートじてんしゃを走らせてアップルアカデミーに登校すると、クラスには既にラミアとメーの二人が来ていた。二人と挨拶してから冒険の感想を交わし合い、鳴り響くチャイムを合図にして着席する。そして担任のアラマキが朝礼を行い、皆が提出したレポートについて簡単な感想を伝えると、アラマキは授業のために教室を後にした。
一時限目は生物という科目であり、入学してから初めて受ける教科だった。学園生活にもだいぶ慣れてきた皆がそれぞれ余裕を持った談笑に耽る中、不意にがらがらと開かれた扉の方へと視線を投げ掛けていく。
そこから入ってきたのは、教師と思われる魅惑的な女性だった。167cmほどの背丈である彼女は、胸元まで伸ばしたもみあげが印象的である
「はぁ~い、授業が始まるわよ~。みんな準備をしてちょうだ~い」
狙ったような流し目は
主に男子の諸君が素直に従っていく中で、授業開始のチャイムが鳴り響いた。教師の女性は教壇で分厚いファイルをトントン整えながら、改まった調子で艶やかに喋り出す。
「はい、授業を始めま~す。まずは自己紹介から。わたしの名前は“レダ”。この学園では生物の授業を担当しているから、今後ともよ・ろ・し・く。学園の外ではカルイザワシティのジムリーダーをやっているから、ジム巡りをしている人達はいずれわたしと会うことになるかも? 何なら、既にわたしのポケモンジムへ遊びに来てくれた顔ぶれもいるわね」
レダと名乗る女性教師がそれを言うと、クラスメートである男の一人が熱烈な様子で反応を示していく。
「ハイハイハイッ!! 課外授業でレダ
「ウフフ、ありがと~。デートは考えておくわね~。よくレダ先生、略してレダ
レダは自覚した色気で微笑してから、切り替えるように授業へ取り掛かった。
ポケモンの生態について詳しく説明する彼女の授業は、事前の雰囲気とは相反して至って真面目に進行した。教科書を片手に、チョークで黒板に美麗な字を記す彼女の姿は教師そのもの。一方で大人の女性という側面も非常に強く、自分は度々と
心なしか、いつもより時間の流れが早く感じられた授業。終了のチャイムを合図にしてレダは持ち物をまとめると、彼女は艶やかに笑い掛けながら次の授業も出席するよう言及し、誘惑するような眼差しと共に颯爽と教室を出て行った。
時間が少し経ち、お昼時となったアップルアカデミー。自分はリオルを繰り出し、ラミアとキラーメ、メーとミズゴロウといったいつもの面子と食堂へ向かう道中の中庭にて、ふとメーがおもむろにそれを口に出してくる。
「てかさ、生物のレダ
自分が図星をつかれたような気分を抱いていく傍ら、ラミアが呆れたような目を向けながら返答した。
「どーしたんですか急に」
「なんかさ、男子からすごいウケそうな先生だったくね?」
「まー、あんだけの立派なモノを持ってれば人気くらい出るんじゃないですか??」
「アタシも今からあんな風になれっかな? こう、ボン! ボン! ボン! みたいな!」
「全部ボンってなってどーするんですか。大体あーいうヒトは色々と苦労するんじゃないですかー?? そーですよね?? カンキさん??」
「え?」
突然のキラーパスに驚く自分。高速で振り返るこちらへと、ラミアもまた視線を投げ掛けている。
「生物の授業を受けるカンキさんの横顔、いつもより真剣に見えましたけど??」
「え、えぇー……? そうかな……?」
「そーですよー。何だかいつもより目に力が入っているよーに感じました。やっぱりせんせーの魅力って偉大ですねー」
「は、初めての生物の授業だったから、それで集中の度合いが違ったのかも?」
「ホントですかねー?? リオルはどー思います??」
ラミアのパスを聞き、自分は恐る恐ると足元のリオルへと向いていく。
案の定、彼女はじっとりとした眼差しを向けていた。怒りや恐れではなく、こちらに何かを問い掛けるような、冷めた視線。その色は呆れるよりも失望に近く、リオルはただただ目元に陰りを落として見つめていた。
どうしてこんなことになってしまったのか。自分は弁明しようと慌てながらこの場に相応しい返しを探していく。しかし謎の焦りから言葉に詰まってしまうと、リオルは一層と訝しげな眼差しでこちらを見遣ってきたものだ。
動揺するこちらの様子に、メーは大爆笑していた。腹を抱えながら笑う彼女の手前で焦燥だけが募りに募る自分。今からでもリオルの信頼を取り戻せるのか。というか、別に信頼を失うことはしていないはずなのに。頭の中でぐるぐる回る様々な思考で錯乱していると、ラミアが前方を向くと共に「あっ」と声を出して立ち止まった。
自分とメーも、ラミアに続いて視線を投げ掛ける。すると、前方から歩いてくる一人の女性――ファイルを手に持つレダが艶やかに微笑みながらこちらに歩み寄ってきたのだ。
「あらぁ、こんにちは。可愛いオンナのコ達に囲まれて楽しそうねぇ、カンキくん?」
名前を呼ばれた自分は、思わず声を出して驚いた。そんなこちらの反応をレダは艶めかしい笑みで面白げに眺めてくると、続けて意外なセリフを口にし始める。
「カイムから話を聞いているわよぉ? あなた達、ハクバビレッジで色々とあったみたいじゃない?」
「え? カイムさんから?」
「えぇ、そう。ジムリーダー繋がりで彼と面識があるのよ。そこでカイムから、あなた達の活躍を聞いたわ。彼が他人について話すことなんて滅多にないから、彼の話は印象的だったの」
そう言い、レダは一歩踏み出してこちらに急接近してくる。
魅惑的な素振りで、覗き込むように顔を近付けてくるレダの仕草。彼女の振る舞いに自分が赤面しながら仰け反ると、レダは悪戯に微笑みながら言葉を口にしてきた。
「イイオトコ。ウブなところがまた愛らしいわぁ。教師と生徒の関係じゃなかったら、わたしの方からアプローチしてたかも。ウフフ、ちょっと期待させちゃったかしら? そういう素直なところも可愛いわねぇ~。尚更と気になっちゃうかも。でも、残念。今はお目付け役の厳しい監視があるから、また今度、二人でゆっくりとお話しでもしましょう?」
レダは会話の最中にリオルをチラッと見る。その挑発的な視線にリオルがイラッとした様子で睨みを利かせるが、レダは余裕な表情をニヤリと浮かべてからこちらの胸元に手を添えてくる。
人差し指を立て、胸元を焦らすようになぞってくる。その手つきや仕草、表情や存在すべてに自分が圧倒されていると、レダはフッと微笑してから通り抜けるように立ち去った。
横でメーが「わぉ、肉食系~」と呟いていく傍らで、リオルが取り返すよう早急にこちらの足元にくっ付いてくる。彼女の訴え掛けで我に返った自分はその頭を撫でていくのだが、今もその心にはレダという女性の存在が残り続けていた。